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2話 聖女様のお部屋に侵入
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まばゆい光が消え目を開けるとどこぞの部屋の中だった。
三人は寝られそうな天板付きのベッドに化粧台と衣装棚、本棚と椅子とテーブルが置かれており、かなり広々としている。
濃紺のやわらかい絨毯が敷かれていて、どの調度品も細かな彫刻が施されて高級感があり、ホコリ一つない掃除の行き届いているところを見ると身分の高い女性の部屋といった所だろう。
本棚に並んだ背表紙には知らない文字が書かれているが、意味は理解できた。
化粧台には派手過ぎないが高級であることが分かる装飾品がいくつか並んでおり、置かれていた小瓶の匂いを嗅いでみるとラベンダーに近い匂いがする。
一体誰の部屋なんだ?天使は「いい感じの場所」だと言っていたが、ここで待っていればいいのだろうか?他人の家でうろうろするのもどうかと思うが、とりあえず部屋の外の様子も知りたいので扉の方へと歩いていくと話声が聞こえて来て部屋の前で止まった。
まずいどうしよう、魔法でなんとかでき・・・。
「なっ!なんだ貴様!」
思考が間に合わず扉が開き二人の女性と目が合う。
純白の法衣を纏った小柄で長い金髪に碧眼の人形の様な美しい女性、その護衛と思われる黒い軍服を着た女性は左腕が欠損していて黒髪ショートに鋭い目付きで灰色の瞳をした美女だ。腰に長剣と背中側に短剣をさしていた。
法衣の女性が両手を口に当てて恐怖の表情を見せている。
叫ばれて、兵士が来て、牢獄に入れられて、臭い飯のフルコースかな?と考えていると、
軍服女性が腰につけていた短剣に手を掛けて、こちらを睨みつけながら向かって来た。
「あの、僕は怪しいものでは無くてですね。」
焦りのあまり間抜けな事を口走ってしまったが、招かれてもいないのに部屋に侵入している時点で「怪しくないです」は無理がある。
「聖女の部屋に侵入する不届き者め!死ね!」
軍服を着た隻腕の女性が短剣を抜き放ち、こちらに突っ込んで来た。
僕自身の動体視力が強化されているおかげか、スローモーションで動きが見え、短剣が首元をかすめるが元々当てるつもりのない斬撃だった。
言葉の割に殺そうという感じではないのは聖女の部屋を血で汚す訳に行かないのだろう。
直後、上段の回し蹴りが飛んできたので慌てて防御魔法を発動した。
「オラァ!」
厳つい掛け声とともに放たれた蹴りは魔法で作り出された透明な盾に阻まれて止まり、同時にバキッという鈍い音がして彼女の足が折れてしまった。
足を振り抜く勢いの蹴りが硬質な盾で止められ、衝撃がすべて蹴り足の方に跳ね返ってしまったようだ。まともに食らっていたらこちらの頭蓋骨が粉砕しかねない威力だ。
「くっ・・魔法使いか・・アンナ時間を稼ぐから逃げて・・」
「クレア!」
「あの、話を聞いてもらえませんか?」
「近づかないで!」
法衣の女性はアンナ、護衛の女性はクレアと言うらしい。
恐怖に立ちすくんでいたはずのアンナさんがクレアさんを庇うように立ち塞がりこちらを睨みつけてくる。
気弱そうな見た目のイメージとは違い、なかなか肝が据わっているらしい。
「アンナ・・逃げてくれ・・頼む・・」
「あなた、神託の聖女にこんな狼藉を働いて許されると思っているの?」
「神託の聖女?」
「知らずにここに居ると言う事はただの盗人?」
「いえ盗人ではありませんし。あなた方に危害を加えるつもりもありません。」
「では何をしに?」
「しいて言うならば、争いを止めて、世界を救うために。」
疑いの目で見られているけども、今僕がここに居る理由はそれしかない。
神託の聖女と言うことは神様が神託を下していた相手が彼女なのかな?
神様が僕を送る事を神託で伝えていてくれたらとても助かるけど、どうなんだろう。
「神託で使徒について触れていませんでしたか?」
「確かに神託には使徒を送り出すとありました。あなたがそうだとでも?それを証明できますか?」
「とりあえずそちらの女性、クレアさんの治療をさせてもらえませんか?」
「・・・おかしな真似をしたら、衛兵を呼びます。」
聖女様がクレアさんに目配せをすると、短剣を収めてその場に屈んだ。
顔をみると汗で髪を顔に張り付かせ、短剣の柄に手をかけながらこちらを睨んでいた。正直めちゃくちゃ好みのタイプなんだけど、嫌われてしまったかなぁ。
などと考えながら、おかしな方向に曲がってしまっている右足に向けて治癒魔法を発動する。少し距離はあるが射程範囲内だ。
「治癒」
右足が淡い光に包まれ、逆再生動画のように折れた足があるべき方向に戻り癒されていく。
「なっ・・一瞬で痛みも違和感も無くなった・・」
「すごい・・こんな速度で治るなんて本当に?・・・ち、近づかないで!」
まだ疑いの目が消えていない。クレアさんは短剣から手を放してはいるが、半身で構えていた。
「まだ信じでいただけませんか?」
「魔道具を使えば、魔法の効果を高める事ができますから。小細工で私達をだまそうとしているのでしょう?」
「信じていただけ無いのでしたら人を呼んでいただいて構いません。その瞬間、私はここから立ち去りますが。」
聖女様はこちらを警戒しながらも動きを止めている。
僕が本当に神の使徒だと言う可能性を感じているのだろうが、うかつに信用していいものかどうか迷っているのかもしれない。
この世界で生活するためにも伝手が必要だし、彼女達の信用を得ておきたい所ではあるのでもうひと押し。
「では、神様から授かった力をもう少しお見せします。クレアさんの左腕は生まれた時から欠損しているのでしょうか?」
「クレアの左腕は戦争で失って剣を握れなくなってしまったと・・。しかし治癒魔法では失った部位は治らないはずです。」
「僕の魔法は魔力ではなく神様から授かった神力を使って発動しているので通常よりも効果が高い。その左腕を治せば信じていただけますか?」
「そんなことが可能なのか・・・?」
不可能だと言われていることを可能にする事で僕が神の使徒である事の証明にもなるだろうし。
「クレアさん上着を脱いでベッドに座ってください。」
「おかしな真似をすれば殺すぞ。」
短剣に手を掛けながらギロリと睨みつけてくる。怖い。
「あなたの様な美女に殺されるのは本望ですが、まだ死ぬ訳にはいかないので勘弁してください。」
「っ・・・」
軽口を叩いてみたが、思ったよりもいい反応が返ってきた。
あまり男慣れしていないのかもしれない。
クレアさんがベッドに座り、器用に片手で上着のボタンを外していく。
左腕部分が詰められた上着を脱ぐと黒いタンクトップに包まれた小ぶりな乳房が現れ、汗のにおいが漂ってきた。
っと欲情している場合ではない。
彼女の左肩に触れ治癒魔法を発動する。
「あっ・・・んっ・・・」
なんとも色っぽい声を出しているが、部位が再生するときは快感が伴うのかな?
天使の次郎君もおへおへ言ってたし・・・。
治癒魔法を発動すると左腕の切断面が淡い光に包まれていく。
「あっ・・んっ・・ああっ!!」
ずるりと粘液まみれの左腕が生えてきた。
心太が押し出されるところに似ているな。
「はぁ・・あっ・・はぁ・・」
「どうですか?動かせますか?」
「・・・・うっ・・くぅ・・」
見た感じでは筋肉もしっかりと再生されている。
出来立ての左手がピクピクと動いているが、まだ自由には動かせない様だった。
先ほどまで欠損していたのだから慣れるまで時間が掛かるのだろう。
「本当に・・あぁ神よ・・」
聖女様が跪き祈りを捧げ始めた。
「数々の御無礼を働き、本当に申し訳ございません。どのような神罰でもお与え下さい。」
クレアさんもそれに習い、跪いて許しを請うてきた。
「いえ、君も護衛としての仕事をしっかりとした結果ですし、部屋の中に知らない人物がいれば当然の対処でしょう。特に謝罪の必要はありません。僕の方こそ足を折ってしまったことを謝らねばなりません。」
と薄く開いていた扉から人が入ってきた。
「失礼します。護衛交代の時間で・・・貴様!何者だ!」
剣を抜き放ちながら入って来たのは白髪の髪と髭を蓄えた体格のいい初老の男性だった。
「待ってグレン!!説明するから!お願い剣を納めて!」
「一体何が?その男は?クレア、その腕はどうなってる?」
「ちゃんと説明するから!扉を閉めて鍵を掛けて!」
声が漏れてしまったのか部屋の外が騒がしくなり始めた。
「今は時間がありませんので説明は後でします。使徒様、見つかれば神官達に何をされるか分かりません。今はお逃げください。」
「なんだか分かりませんが、その方がよさそうですね。」
「クレアも同行させて下さい。今は再生した腕が露見するのはまずいので。クレア、使徒様をご案内して。」
「分かった。使徒様、こちらへ。」
外へ出ようと進み出た所で扉の向こうから声がかかる。
「聖女様!何事ですか!?ここを開けて下さい!」
「グレン、ドアを開けさせないように押さえて。」
「・・・了解しました。」
普通の方法では見つからずに外に出る事はできなさそうだ。
ベッドに脱ぎ捨てられていたクレアさんの上着を掴んで窓の方へ歩いていき外を眺める。
ここが何階なのか分からないが地上までは結構な高さがあり、目の前には森が広がっていて人がいる気配はない。
「クレアさんこちらへ、窓から飛んで逃げます。」
「飛ぶって・・えっ・・えぇっ!」
「クレア、使徒様の言うとおりに。」
「振り落とされないように僕にしっかりとしがみ付いてください。」
「えっえっあっ」
彼女に前から抱き着くと彼女の両腕を首に回し、両足を腰に回させてしがみ付かせる。
薄いタンクトップにつつまれた胸の感触といい香りを堪能・・・している場合じゃないな。窓を開けて窓枠に足を掛けると。
「クレア、明日例の教会へ使徒様をお連れして。」
「分かった。」
「では、行きますよ。飛翔!」
窓枠を蹴って外へと飛び出すと外はもう暗くなっていたが、月明かりが薄く辺りを照らしていた。
後ろを見ると巨大な建物が目に入り、今までいた部屋が城の一室だとわかった。
少し高度を上げると、近くにうっすらとした明かりが密集しているのが見え、城下街だと思われるその外れに向けて飛んでいく。
「ひぃいい」
「もっとしっかり抱き着いてください!胸を押し付けるように!」
「高いところは苦手なんだっ!」
「そうでしたか、少し低めに飛びますね。下をみないように目を閉じていてください。」
軽くセクハラをしながら街の外れまで到着し、地面に足をつける。
三人は寝られそうな天板付きのベッドに化粧台と衣装棚、本棚と椅子とテーブルが置かれており、かなり広々としている。
濃紺のやわらかい絨毯が敷かれていて、どの調度品も細かな彫刻が施されて高級感があり、ホコリ一つない掃除の行き届いているところを見ると身分の高い女性の部屋といった所だろう。
本棚に並んだ背表紙には知らない文字が書かれているが、意味は理解できた。
化粧台には派手過ぎないが高級であることが分かる装飾品がいくつか並んでおり、置かれていた小瓶の匂いを嗅いでみるとラベンダーに近い匂いがする。
一体誰の部屋なんだ?天使は「いい感じの場所」だと言っていたが、ここで待っていればいいのだろうか?他人の家でうろうろするのもどうかと思うが、とりあえず部屋の外の様子も知りたいので扉の方へと歩いていくと話声が聞こえて来て部屋の前で止まった。
まずいどうしよう、魔法でなんとかでき・・・。
「なっ!なんだ貴様!」
思考が間に合わず扉が開き二人の女性と目が合う。
純白の法衣を纏った小柄で長い金髪に碧眼の人形の様な美しい女性、その護衛と思われる黒い軍服を着た女性は左腕が欠損していて黒髪ショートに鋭い目付きで灰色の瞳をした美女だ。腰に長剣と背中側に短剣をさしていた。
法衣の女性が両手を口に当てて恐怖の表情を見せている。
叫ばれて、兵士が来て、牢獄に入れられて、臭い飯のフルコースかな?と考えていると、
軍服女性が腰につけていた短剣に手を掛けて、こちらを睨みつけながら向かって来た。
「あの、僕は怪しいものでは無くてですね。」
焦りのあまり間抜けな事を口走ってしまったが、招かれてもいないのに部屋に侵入している時点で「怪しくないです」は無理がある。
「聖女の部屋に侵入する不届き者め!死ね!」
軍服を着た隻腕の女性が短剣を抜き放ち、こちらに突っ込んで来た。
僕自身の動体視力が強化されているおかげか、スローモーションで動きが見え、短剣が首元をかすめるが元々当てるつもりのない斬撃だった。
言葉の割に殺そうという感じではないのは聖女の部屋を血で汚す訳に行かないのだろう。
直後、上段の回し蹴りが飛んできたので慌てて防御魔法を発動した。
「オラァ!」
厳つい掛け声とともに放たれた蹴りは魔法で作り出された透明な盾に阻まれて止まり、同時にバキッという鈍い音がして彼女の足が折れてしまった。
足を振り抜く勢いの蹴りが硬質な盾で止められ、衝撃がすべて蹴り足の方に跳ね返ってしまったようだ。まともに食らっていたらこちらの頭蓋骨が粉砕しかねない威力だ。
「くっ・・魔法使いか・・アンナ時間を稼ぐから逃げて・・」
「クレア!」
「あの、話を聞いてもらえませんか?」
「近づかないで!」
法衣の女性はアンナ、護衛の女性はクレアと言うらしい。
恐怖に立ちすくんでいたはずのアンナさんがクレアさんを庇うように立ち塞がりこちらを睨みつけてくる。
気弱そうな見た目のイメージとは違い、なかなか肝が据わっているらしい。
「アンナ・・逃げてくれ・・頼む・・」
「あなた、神託の聖女にこんな狼藉を働いて許されると思っているの?」
「神託の聖女?」
「知らずにここに居ると言う事はただの盗人?」
「いえ盗人ではありませんし。あなた方に危害を加えるつもりもありません。」
「では何をしに?」
「しいて言うならば、争いを止めて、世界を救うために。」
疑いの目で見られているけども、今僕がここに居る理由はそれしかない。
神託の聖女と言うことは神様が神託を下していた相手が彼女なのかな?
神様が僕を送る事を神託で伝えていてくれたらとても助かるけど、どうなんだろう。
「神託で使徒について触れていませんでしたか?」
「確かに神託には使徒を送り出すとありました。あなたがそうだとでも?それを証明できますか?」
「とりあえずそちらの女性、クレアさんの治療をさせてもらえませんか?」
「・・・おかしな真似をしたら、衛兵を呼びます。」
聖女様がクレアさんに目配せをすると、短剣を収めてその場に屈んだ。
顔をみると汗で髪を顔に張り付かせ、短剣の柄に手をかけながらこちらを睨んでいた。正直めちゃくちゃ好みのタイプなんだけど、嫌われてしまったかなぁ。
などと考えながら、おかしな方向に曲がってしまっている右足に向けて治癒魔法を発動する。少し距離はあるが射程範囲内だ。
「治癒」
右足が淡い光に包まれ、逆再生動画のように折れた足があるべき方向に戻り癒されていく。
「なっ・・一瞬で痛みも違和感も無くなった・・」
「すごい・・こんな速度で治るなんて本当に?・・・ち、近づかないで!」
まだ疑いの目が消えていない。クレアさんは短剣から手を放してはいるが、半身で構えていた。
「まだ信じでいただけませんか?」
「魔道具を使えば、魔法の効果を高める事ができますから。小細工で私達をだまそうとしているのでしょう?」
「信じていただけ無いのでしたら人を呼んでいただいて構いません。その瞬間、私はここから立ち去りますが。」
聖女様はこちらを警戒しながらも動きを止めている。
僕が本当に神の使徒だと言う可能性を感じているのだろうが、うかつに信用していいものかどうか迷っているのかもしれない。
この世界で生活するためにも伝手が必要だし、彼女達の信用を得ておきたい所ではあるのでもうひと押し。
「では、神様から授かった力をもう少しお見せします。クレアさんの左腕は生まれた時から欠損しているのでしょうか?」
「クレアの左腕は戦争で失って剣を握れなくなってしまったと・・。しかし治癒魔法では失った部位は治らないはずです。」
「僕の魔法は魔力ではなく神様から授かった神力を使って発動しているので通常よりも効果が高い。その左腕を治せば信じていただけますか?」
「そんなことが可能なのか・・・?」
不可能だと言われていることを可能にする事で僕が神の使徒である事の証明にもなるだろうし。
「クレアさん上着を脱いでベッドに座ってください。」
「おかしな真似をすれば殺すぞ。」
短剣に手を掛けながらギロリと睨みつけてくる。怖い。
「あなたの様な美女に殺されるのは本望ですが、まだ死ぬ訳にはいかないので勘弁してください。」
「っ・・・」
軽口を叩いてみたが、思ったよりもいい反応が返ってきた。
あまり男慣れしていないのかもしれない。
クレアさんがベッドに座り、器用に片手で上着のボタンを外していく。
左腕部分が詰められた上着を脱ぐと黒いタンクトップに包まれた小ぶりな乳房が現れ、汗のにおいが漂ってきた。
っと欲情している場合ではない。
彼女の左肩に触れ治癒魔法を発動する。
「あっ・・・んっ・・・」
なんとも色っぽい声を出しているが、部位が再生するときは快感が伴うのかな?
天使の次郎君もおへおへ言ってたし・・・。
治癒魔法を発動すると左腕の切断面が淡い光に包まれていく。
「あっ・・んっ・・ああっ!!」
ずるりと粘液まみれの左腕が生えてきた。
心太が押し出されるところに似ているな。
「はぁ・・あっ・・はぁ・・」
「どうですか?動かせますか?」
「・・・・うっ・・くぅ・・」
見た感じでは筋肉もしっかりと再生されている。
出来立ての左手がピクピクと動いているが、まだ自由には動かせない様だった。
先ほどまで欠損していたのだから慣れるまで時間が掛かるのだろう。
「本当に・・あぁ神よ・・」
聖女様が跪き祈りを捧げ始めた。
「数々の御無礼を働き、本当に申し訳ございません。どのような神罰でもお与え下さい。」
クレアさんもそれに習い、跪いて許しを請うてきた。
「いえ、君も護衛としての仕事をしっかりとした結果ですし、部屋の中に知らない人物がいれば当然の対処でしょう。特に謝罪の必要はありません。僕の方こそ足を折ってしまったことを謝らねばなりません。」
と薄く開いていた扉から人が入ってきた。
「失礼します。護衛交代の時間で・・・貴様!何者だ!」
剣を抜き放ちながら入って来たのは白髪の髪と髭を蓄えた体格のいい初老の男性だった。
「待ってグレン!!説明するから!お願い剣を納めて!」
「一体何が?その男は?クレア、その腕はどうなってる?」
「ちゃんと説明するから!扉を閉めて鍵を掛けて!」
声が漏れてしまったのか部屋の外が騒がしくなり始めた。
「今は時間がありませんので説明は後でします。使徒様、見つかれば神官達に何をされるか分かりません。今はお逃げください。」
「なんだか分かりませんが、その方がよさそうですね。」
「クレアも同行させて下さい。今は再生した腕が露見するのはまずいので。クレア、使徒様をご案内して。」
「分かった。使徒様、こちらへ。」
外へ出ようと進み出た所で扉の向こうから声がかかる。
「聖女様!何事ですか!?ここを開けて下さい!」
「グレン、ドアを開けさせないように押さえて。」
「・・・了解しました。」
普通の方法では見つからずに外に出る事はできなさそうだ。
ベッドに脱ぎ捨てられていたクレアさんの上着を掴んで窓の方へ歩いていき外を眺める。
ここが何階なのか分からないが地上までは結構な高さがあり、目の前には森が広がっていて人がいる気配はない。
「クレアさんこちらへ、窓から飛んで逃げます。」
「飛ぶって・・えっ・・えぇっ!」
「クレア、使徒様の言うとおりに。」
「振り落とされないように僕にしっかりとしがみ付いてください。」
「えっえっあっ」
彼女に前から抱き着くと彼女の両腕を首に回し、両足を腰に回させてしがみ付かせる。
薄いタンクトップにつつまれた胸の感触といい香りを堪能・・・している場合じゃないな。窓を開けて窓枠に足を掛けると。
「クレア、明日例の教会へ使徒様をお連れして。」
「分かった。」
「では、行きますよ。飛翔!」
窓枠を蹴って外へと飛び出すと外はもう暗くなっていたが、月明かりが薄く辺りを照らしていた。
後ろを見ると巨大な建物が目に入り、今までいた部屋が城の一室だとわかった。
少し高度を上げると、近くにうっすらとした明かりが密集しているのが見え、城下街だと思われるその外れに向けて飛んでいく。
「ひぃいい」
「もっとしっかり抱き着いてください!胸を押し付けるように!」
「高いところは苦手なんだっ!」
「そうでしたか、少し低めに飛びますね。下をみないように目を閉じていてください。」
軽くセクハラをしながら街の外れまで到着し、地面に足をつける。
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