[R-18]あの部屋

まお

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86.意味

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約束した土曜日、拓人ははじめを自宅へ招いた。
土曜は両親も夜まで帰って来なく、弟の柏木も習い事で帰りは夕方になる日だった。家には誰もいないことを把握したうえで拓人は朔を招き入れた。


約束をしてからの数日間。ずっと理性と本能が攻防を続けていた。自分が何をしたいのか、何を望んでいるのか、迷走する自分をどこか第三者的に見ていた。
そうすることで思考の中だけでも当事者として混乱から逃れることが出来るような気がした。

でも一つだけ、拓人にとって確実に言えることがあった。

拓人にとって朔は唯一無二で最も大切な存在になっていた。こんなに夢中になることも、こんなに欲しいと思うことも今までの人生で一度も無かった。結論や目的を見出すことも出来ないまま、ただ迷い考え答えが出ないまま土曜日を迎えた。


「おじゃましまーす。…って、先生大丈夫?体調悪い…?」

「いらっしゃい。…ちょっと寝不足かも。でも元気だよ」

昼過ぎに自宅へ訪れる朔を拓人は精一杯の笑顔で出迎える。

ただ朔にはすぐに見抜かれたようで、笑顔で答える拓人の顔を心配そうに見上げる朔に、改めて朔には本当の嘘偽りの無い自分自身を受け入れて貰えることと、愛おしさを再確認した。心配そうな朔の頭を撫でてから、そのまま朔を部屋に上げた。

朔が拓人の部屋に来るのは初めてでは無い。だから、拓人はいつもと違う朔の様子にもすぐに気が付いた。


「…どうしたの?そんな所に立ったままで。座れば?」

飲み物を用意してから部屋へ向かうと、先に部屋に入っていた朔は部屋の隅の方で立ち尽くしていた。


「い、ま座ろうと…思ってたとこ」

どこかぎこちなく、部屋の床の上に朔は正座して座った。


「…床だと痛いからこっち座りな」

「うん」

緊張した面持ちで拓人の勉強机の椅子に腰をかける朔。いつも見せないそんな様子を観察しながら冷静な頭の中の拓人が自身を叱責する。

こんな状態の朔に、望まないこと、朔を傷つけることはするべきでない。何をそんなに焦っている?

そう頭の中の問いかけに、拓人は何も返せなかった。

拓人は朔を求める気持ちと比例し、朔の全てを自分の物にしたいというドロドロとしたどす黒い欲望も大きくなっていた。身も心も朔を自分だけのものに…

ただ、いつもと明らかに様子の違う強ばる朔を目の前にすると、気持ちは少し落ち着き心の中のどす黒い思いを抑えることが出来そうだった。やっぱり朔のことが大切だと、朔を傷つけないことが1番重要なことだと、自分の中でやっと答えが見い出せた。


「朔」

部屋のソファに腰掛けていた拓人は、少し離れた机の椅子に座る朔に声をかける。呼びかけられた朔は大袈裟な程びくっと身体を飛び跳ねさせた。


「わっ…、なに?」

「…何か食べたいお菓子とかある?今家に無いから買ってくるよ。今日は朔の好きなことしよう。キャッチボールとゲームと、あと何がしたい?」

あまりに緊張する朔に申し訳なさを感じ、拓人は朔といつも通り過ごすことにしようと、意識して朔の緊張を解くように自然な笑顔を心がけ拓人は優しく問いかけた。


「………お菓子いらない。…ゲームする」

朔ははじめ呆気に取られたような表情をしていたが、その後は小さく拓人の問いかけに答えた。

その後は普通に、いつも通りに拓人は朔に接していた。そのつもりだったが、朔は終始少し険しい表情のままだった。


「楽しくない?」

なかなかいつも通りの朔の様子に戻らないことに、拓人も心配になり声をかける。


「楽しいよ」

朔は表情をあまり変えずに、拓人に視線を向けながらもどこかぎこちなくそう返す。


「……俺、朔に無理させるようなことする気はないから。そんなに警戒しなくて大丈夫だよ。一緒にいるだけで幸せだよ」

ぎこちないままの朔に、拓人は弁明するようにそう伝えた。


「無理…してないよ。俺はしてない」

朔は拓人の言葉に先よりも強い視線を返しはっきりと強い口調で答えた。


「嘘。だってずっと緊張してるし、表情だって固いし…」

「それは…だって、先生が…。今日は俺の事知りたいって…そんな風に言うから…」

「…あー、そうだ。俺、朔のことまだ知らない事あるから色々聞こうと思って。ほら、カレーの次に好きな食べ物とか。小学生の時のあだ名とか」

前回家に誘う口実として口走ったその言葉を、朔がそこまで意識していると思わず、拓人は取り繕うように言葉を並べた。


「…嘘つきは先生の方でしょ」

朔は今度こそ怒ったようにそう返した。


「…本当だよ。朔のことは全部知りたいよ」

「……俺、先生に好きって言われてから沢山考えた…。中学生になったらクラスでも付き合う人が出来たりして、付き合うってどういうことなのかな、とか…」

朔の言葉に拓人は驚きと同時に、身体が震えそうな程の喜びが湧き上がってくる。


「朔…ありがとう。ちゃんとそんなに考えてくれて」

拓人は思わず朔を抱きしめた。真剣に向き合ってくれるだけで本当に十分だと思えるくらい心が満たされた。焦っていた自分が馬鹿らしく思えてきた。


「…だから……」

抱きしめる朔の身体から伝わる鼓動がいつもより早く感じるな、と考えている拓人の耳に入ってきた朔の次の言葉に思わず拓人の思考は停止した。


「ちゃんと覚悟して来たよ。今日何するのか…」

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感想 21

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みんなの感想(21件)

あん
2024.11.11 あん

私もずっと待ってます…!

解除
hi
2024.09.26 hi

本当に続編待ってます!、!

まお
2024.11.16 まお

いつもご愛読頂きありがとうございます!
そして更新が滞ってしまい本当に申し訳ございません(;_;)纏まった時間が取れないのと細かい構成に時間がかかってなかなか更新まで辿りついていないのが現状ですが、更新する気持ちだけはずっとあります!必ず更新しますのでお待ち頂けたらと思います…!

解除
hku&
2024.07.05 hku&

読み始めて1年たった!!!!
ただのえろじゃなくてちゃんとストーリーあるのが最高です‪👍🏻 ̖́-‬
何度も読み返して続き待ってます-`🙌🏻´-

最近暑い日が続いてますので、ご自愛ください🍀

まお
2024.07.24 まお

長くご愛読頂き本当にありがとうございます!!
ここからはストーリー進行が多くなる予定ですが引き続きまた読んでもらえたら嬉しいです( ˊᵕˋ )
まずは、更新頑張ります…!笑

解除

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