[R-18]あの部屋

まお

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74.目的

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基本的に上手くいかないことの方が世の中には少ない。望めば、欲すれば手に入る物の方が多かった。柏木はそんな人生を歩んでいた。

ただ、ここ最近は何かと上手くいかない。今までのやり方が通用しない。

頭を冷やす為にも朔と関わらないように避け始めると、何故か朔の方から声をかけてこようとする。何を企んでいるのか腹立たしさを感じながらも、感情的にならないように、感情を揺さぶられないようにそれら全てを無視し続けた。

極めつけは両親の帰宅だった。何ヶ月も子どもを放置しておいて突然帰ってきても心配どころか、成績や勉強への口出しばかりだった。心底鬱陶しかったが、両親はある意味「目的」への手段に無駄がない。その点だけは尊敬出来た。見習わなければいけないなと自嘲気味に柏木は自分の失態を思い浮かべていた。


柏木は両親の前では絶対に不機嫌さは出さない。常に笑顔で相手を立てるように話を進める。そうすれば機嫌が良くなることは昔から心得ている。それなのに、この日はまさかの来訪者のせいで対応した父親は終始不機嫌だった。その来訪者は、朔だった。

押し切って入学した馬鹿高校の、クラスメイト。朔が父親に何か余計なことを言ったのか、そこからの父親の不機嫌さはいつも以上だった。朔が何をしに来たのかは不明だったが、父親から告げらた来訪者の名前を聞き、柏木は怒りと同時に少し落胆している自分がいた。
朔を犯さなくなってから、朔とは口をきいていない。ただ、教室内にいる朔のことは無意識に目で追ってしまっていた。

他のクラスメイトと朔が少し打ち解けたからなのか、顔色が良く体調が良いからなのか、朔は最近ちょこちょこ笑顔を見せている。それを見ていると心臓が掴まれたような息苦しさを感じた。そんなふうに振り回される感情が腹立たしくて不快だったのに、その感情を自分で制御は出来なかった。
どうすれば感情を意思で抑えられるか、柏木は朔と距離を取っても答えが見つけられずにいた。

両親が帰ってきた日はとにかくいつもの処世術を駆使しても父の機嫌が直ることはなく、柏木は勉強前の数十分説教を受けた。それを気持ち半ばで聞きながら、拓人のことを思い出していた。これが何時間も、何ヶ月も続いても拓人は柏木の前ではいつも通りの優しい兄だった。穏やかそうに見せてかなり強かだったのかもしれない。


学校をわざわざ休みそんな胸糞の悪い週末を過ごした翌週、柏木は不快さが収まらないまま朝学校へ向かった。校門までもう少しというタイミングで目の前に立ちはだかる人物に道を塞がれた。聞こえるか聞こえないかの小さい舌打ちをしながらその人物に視線を向けると、それは朔だった。


「……」

柏木は一瞬驚きつつも、冷たい視線で朔を無言で見下ろした。


「…お…はよ。単刀直入に要件言う。お前の兄貴に会って話したい。連絡とって欲しい」

朔は柏木からの視線に一瞬、萎縮したような様子を見せつつも、すぐに意志を持った視線を柏木に返し端的に要件を伝えた。


「また兄貴に犯されたくなったの?」

「っ…違う。ちゃんと知りたいだけなんだ…。別に責めるつもりも何かしたい訳でもない。当時の話を聞きたい。もう誰かを苦しめたくないから…」

朔は後半は俯きながら小さく答えた。


「いいよ」

「本当か…!」

「でもいつも通り交換条件は必要だよ」

「え?」

柏木は普段通りを意識し、いつもの笑顔を朔に向ける。朔は分かりやすく表情を強ばらせた。


「…条件は?」

抑えようとしても少し震えてしまっている声で、それでも強い視線を変えず朔は柏木を真っ直ぐ見つめ問い返してきた。

久しぶりに朔の顔をちゃんと見た柏木は、無意識にその唇に意識が向く自分に自己嫌悪に陥った。その後ふつふつと沸いてくる苛立ちのまま、無表情で朔の腕を掴むと引きずるように来た道を戻り始めた。


「柏木!どこへ…」

柏木は数十メートル進むと、路地裏に朔を連れこみ壁に背中から押し付け顔を覗き込んだ。


「ヤラせてよ」

いつも通りの自然に作られた、嘘の笑顔。


「……っ」

朔は明らかに怯えたような様子を見せる。

数日だけ朔と距離を取っても感情はやはり自分の意思では制御出来なかった。さらに両親の突然の帰宅。勉強や拓人のこと、何をしても上手くいかないような焦燥感に、柏木は溜まったストレスを朔で発散してやろうと思った。これは、ストレスを発散する為だけ。朔はたまたま目の前にいたから使うだけ。

柏木は心の中で自分に言い聞かせて納得させるようにそう唱えた。久しぶりに朔を蹂躙すれば、あの時感じた得体の知れない感情を上書き出来るかもしれない。


「…それ…で、本当に連絡とってくれるのか…?」

朔は恐怖を感じながらもこちらの提案を飲むか迷っているような返答を返してくる。
そこまでして拓人と話をしたいのか。朔の「目的」は記憶を取り戻すことで、そのためであれば柏木に犯されることも厭わないのか。
その様子に、柏木はますます自分だけが「目的」から遠ざかっている現状に焦りと苛立ちを感じた。


「そうだね、約束は守るよ」

柏木は焦りと苛立ちを感じながらも、まだ心の中では余裕があった。朔の思い通りにはさせない自信があった。


「………。……じゃあ………」

朔は暫く俯き黙っていたが、小さくそう返答した。その表情は羞恥と屈辱に歪んでいるようにも見えた。


「…へぇー。同意で犯されるってことか。じゃあ和姦だね。和姦なら多少無理なプレイも合意の上ってことだし、野坂に何かあっても言い訳できるってことだね」

柏木は見下すように嘲笑を朔に向けながら話続けると、朔の顔から血の気が引いていくのが分かった。

酷く犯して、「あのこと」を伝えれば、きっと朔はもう柏木に話しかけてくることはない。そうすれば脅威となっている制御出来ない感情も封印することができる。そして、感情に左右されず最後に朔を手にかければ柏木の「目的」は達成される。


「…じゃあ、行こうか」

柏木はそのまま朔の腕を強く引きながら路地を突き進み学校とは反対側の駅の方へと向かった。

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