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41.罪悪感
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朔はその写真を凝視する。
久しぶりに視覚で確認した拓先生の顔。恐怖よりも懐かしさに襲われた。その表情はいつも見ていた優しかった時の拓人の表情だった。
それと同時に失われた記憶が蘇るようなざわつきを感じ手が小さく震えた。
その拓先生の表情に目を奪われるのと同時に、朔はその隣に写る柏木にも驚きの視線を向けた。隣には今まで見た事がない心の底から楽しそうに笑う、明るい笑顔を見せた柏木が写っていた。
朔は一瞬それが柏木か疑う程、顔は一緒なのに雰囲気が今とまるで違った。2人が楽しそうに笑うその写真は、傍から見ても良い写真だった。
その写真を見つめ、朔の中に大きな感情が溢れた。
それは驚きや恐怖を大きく覆い尽くす程の「罪悪感」だった。
(柏木は…拓先生の前ではこんな笑顔を見せてたんだ…)
2人は多分仲が良かった。拓人はたまに朔に弟の話をしていた。朔と同い年の弟で、拓人は弟である柏木の事を悪く言う事は一度も無かった。弟のことを深く話す事も無かったが、一緒に何をした、どこへ行ったという話をしていた事をぼんやり思い出した。
こんな笑顔の柏木の写真を見てしまえば、柏木が拓人を酷く言うのは少なからずあの事件があったからだと朔は思わざるを得なかった。
心を許した相手にしか見せないような柏木の笑顔。その相手を奪ってしまった、朔はそんな罪悪感を抱いた。
(拓先生は帰ってこないって言ってたけど…本当にこの家に今も住んでいるのだろうか)
少し開いたドアの向こうには、拓人の部屋や家族が揃うリビングがある。ただ、開いたドアの隙間からはやはり昨日の夜と同様に生活音や生活感は感じられない。広い家だからという理由だけでは片付けられなかった。
(こんな広い家で柏木は…ずっと1人の時間を過ごしているんだ…)
朔は逃げることも忘れて色々気になり考え込んでしまう。そして柏木に対して同情の気持ちを抱いた。
朔はそのまま写真立てを戻し、もう一度思い出したように柏木の方を振り返る。やはり柏木はベッドの上で微動だにしていなかった。
計算づくで朔を追い詰めてきた柏木の隙に疑問を感じたが、本来の目的、ここから逃げることを思い出し起きてこない柏木をいい事に、朔は自分の服を先に探そうと部屋を改めて見回す。
ぱっと見た感じでは部屋に朔の制服も荷物も見当たらなかった。
(あの…クローゼットの中か……)
朔はあの忌々しい機器や淫具が収納されているクローゼットに視線を向ける。
ただそのクローゼットと現在の場所の間には先程机の上の物をぶちまけたせいでプリントや本が朔の行く手を塞ぐ障害物のように散らばったままだった。
朔はそのプリントや本に視線を向ける。分厚い本には医学部と書いてある問題集や、難しそうな数式や記号がびっしり記載されているプリント類が落ちていた。
(柏木、医学部受験するんだ。それなのにあの高校に入学したってことは…本当に俺が目的なんだ…。拓先生の部屋にも勉強の本、いっぱいあったな…)
行く手を阻まれて、さらに身体が鉛のように重く感じ始めた朔はその障害物を前に途方に暮れ、現実逃避のように逃げ出すことと全く別の事を考え始める。
そのうちまた視界が霞んできた。同時に耐え難い飢餓感と睡魔にも襲われる。
(腹減った…身体も怠い…。もう何日食べてないんだろ…。また眠くなって…きた…)
身体が生命維持の為に引き起こすような強い眠気に朔は逆らうことが出来ずまた床の上でうとうとと意識が混濁していく。
何となく、このままもう目を覚ます事が出来ないのでは無いかという漠然とした不安に襲われた。そしてその不安の影で、もしこのまま目を覚まさなければこれは贖罪になるかもしれないという考えが過ぎる。
それは拓人に対してか、柏木に対してか、誰に、何に対してかを考える事が出来ないまま、朔は落ちてくる瞼の重みに逆らうことが出来ないままゆっくり瞳を閉じた。
久しぶりに視覚で確認した拓先生の顔。恐怖よりも懐かしさに襲われた。その表情はいつも見ていた優しかった時の拓人の表情だった。
それと同時に失われた記憶が蘇るようなざわつきを感じ手が小さく震えた。
その拓先生の表情に目を奪われるのと同時に、朔はその隣に写る柏木にも驚きの視線を向けた。隣には今まで見た事がない心の底から楽しそうに笑う、明るい笑顔を見せた柏木が写っていた。
朔は一瞬それが柏木か疑う程、顔は一緒なのに雰囲気が今とまるで違った。2人が楽しそうに笑うその写真は、傍から見ても良い写真だった。
その写真を見つめ、朔の中に大きな感情が溢れた。
それは驚きや恐怖を大きく覆い尽くす程の「罪悪感」だった。
(柏木は…拓先生の前ではこんな笑顔を見せてたんだ…)
2人は多分仲が良かった。拓人はたまに朔に弟の話をしていた。朔と同い年の弟で、拓人は弟である柏木の事を悪く言う事は一度も無かった。弟のことを深く話す事も無かったが、一緒に何をした、どこへ行ったという話をしていた事をぼんやり思い出した。
こんな笑顔の柏木の写真を見てしまえば、柏木が拓人を酷く言うのは少なからずあの事件があったからだと朔は思わざるを得なかった。
心を許した相手にしか見せないような柏木の笑顔。その相手を奪ってしまった、朔はそんな罪悪感を抱いた。
(拓先生は帰ってこないって言ってたけど…本当にこの家に今も住んでいるのだろうか)
少し開いたドアの向こうには、拓人の部屋や家族が揃うリビングがある。ただ、開いたドアの隙間からはやはり昨日の夜と同様に生活音や生活感は感じられない。広い家だからという理由だけでは片付けられなかった。
(こんな広い家で柏木は…ずっと1人の時間を過ごしているんだ…)
朔は逃げることも忘れて色々気になり考え込んでしまう。そして柏木に対して同情の気持ちを抱いた。
朔はそのまま写真立てを戻し、もう一度思い出したように柏木の方を振り返る。やはり柏木はベッドの上で微動だにしていなかった。
計算づくで朔を追い詰めてきた柏木の隙に疑問を感じたが、本来の目的、ここから逃げることを思い出し起きてこない柏木をいい事に、朔は自分の服を先に探そうと部屋を改めて見回す。
ぱっと見た感じでは部屋に朔の制服も荷物も見当たらなかった。
(あの…クローゼットの中か……)
朔はあの忌々しい機器や淫具が収納されているクローゼットに視線を向ける。
ただそのクローゼットと現在の場所の間には先程机の上の物をぶちまけたせいでプリントや本が朔の行く手を塞ぐ障害物のように散らばったままだった。
朔はそのプリントや本に視線を向ける。分厚い本には医学部と書いてある問題集や、難しそうな数式や記号がびっしり記載されているプリント類が落ちていた。
(柏木、医学部受験するんだ。それなのにあの高校に入学したってことは…本当に俺が目的なんだ…。拓先生の部屋にも勉強の本、いっぱいあったな…)
行く手を阻まれて、さらに身体が鉛のように重く感じ始めた朔はその障害物を前に途方に暮れ、現実逃避のように逃げ出すことと全く別の事を考え始める。
そのうちまた視界が霞んできた。同時に耐え難い飢餓感と睡魔にも襲われる。
(腹減った…身体も怠い…。もう何日食べてないんだろ…。また眠くなって…きた…)
身体が生命維持の為に引き起こすような強い眠気に朔は逆らうことが出来ずまた床の上でうとうとと意識が混濁していく。
何となく、このままもう目を覚ます事が出来ないのでは無いかという漠然とした不安に襲われた。そしてその不安の影で、もしこのまま目を覚まさなければこれは贖罪になるかもしれないという考えが過ぎる。
それは拓人に対してか、柏木に対してか、誰に、何に対してかを考える事が出来ないまま、朔は落ちてくる瞼の重みに逆らうことが出来ないままゆっくり瞳を閉じた。
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