[R-18]あの部屋

まお

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40.写真

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朔が目を覚ますと、そこには見知らぬ光景が広がっていた。目の前に広がる高めの天井と白い壁。自分の部屋では無かった。窓から差し込む光から夜が明けたことが分かる。

目を開けているのに視界が霞んでいた。頭もぼーっとして身体を動かさなくても全身の倦怠感を感じた。
背中には柔らかくて暖かい感触がある。視界を下へずらすと身体を覆うように毛布がかかっていた。ここがベッドの上だということを理解するまでに時間はかからなかった。

朔はベッドから起き上がろうと手をつこうとするが、片方の手を動かすと自ずともう片方も一緒についてきた。不思議に思い今度は毛布の中の自分の腕に視線を向けると、両手は身体の前で手錠で拘束されていた。それを目にしてやっと状況を把握した。
ここは柏木の家だということを。

朔はまどろみから一気に覚めて覚醒した意識で慌てて辺りを見回す。右に視線を向けると、監禁されていたクローゼットが見えた。そして左側に視線を移し、朔は思わず息を飲んだ。

そこには同じベッドで眠る柏木の姿があった。
驚きと恐怖が支配し、全身に一気に緊張が走る。警戒から朔は動きを止めて柏木の様子を固唾を飲んで窺っていたが、規則正しい小さな寝息が聞こえてきて、眠っていることが確認できると少し身体の緊張が解けた。

朔は眠る柏木を戸惑いながらも黙って眺めた。
やはり寝てても柏木はその整った顔立ちが際立っていた。そして起きている時に比べ雰囲気が幾分か穏やかに感じた。


(…やっぱり……似てる…な)

穏やかな雰囲気が加わると拓先生によく似ていた。そんなことをぼんやり考えていると、ふと意識を飛ばす直前の事を思い出す。

柏木に拓先生と比較するなと啖呵を切ったこと、柏木が明らかに怒っていたこと、その後どんな酷い目に遭うのか危惧していたことを思い出し再び視線を柏木から自身の身体へと移した。拘束されている両手で毛布を持ち上げて全身を確認する。

服はやはり着せてもらえていなかったが、見える範囲では特に意識を失くす前と変わりは無いように見えた。薄くなった蚯蚓脹れや、針を貫通させられそうになって腫れた乳首もそのままで、それを上書きするような傷や痕などは見られなかった。そして全身を観察していてもう1つ気付いたのは、足の拘束だった。両手の拘束は後ろから前へと変わったが、両足も同じく手錠で拘束されていた。

朔は拘束された身体をゆっくり動かしてみる。布が擦れる音が響きベッドのスプリングが小さく軋む。身体を動かしてみても特に新しく痛む箇所は無かったし、身体の不快感も無かった。
朔は自分の身体の安全を確認できた安心感と何もされなかった疑問が沸いた。


(…あんなに怒っていたのになんで何もされなかったんだ…?俺の意識が無かったからか…。…しかも…同じベッドって…。後始末されてるのは…ベッドが汚れるからってこと…だよな?)

気が利くような対応を柏木から受けて朔は違和感しか無かった。その分この男が起きたらどんな仕打ちをされるのかという恐怖は大きくなった。
朔はそのままそっと柏木に視線を向ける。
柏木自身も相当疲れていたのか起きる気配は無かった。

朔はベッドの上から下を覗く。高さは50センチ程度で落ちてもそんなにダメージは無さそうだった。今柏木が眠りについている間に逃げ出すことが出来るのでは無いかと僅かな期待を抱く。


(柏木が寝ているうちに…ここから…っ)

朔は少しづつ、柏木を起こさないように静かにベッドの端へと進む。そして拘束された足をベッドの外へ出しフローリングに足をつけそのままベッドから上半身も抜け出し、床の上に這いつくばるような体勢をとった。足は拘束されている為歩くより芋虫のように這う方がうまく移動出来た。

ゆっくり音を出さないように朔は部屋のドアの方へと向かった。出口である部屋のドアしか視界に入らない状況は、逆に後ろの柏木の様子が分からないという事でもあり、ジワジワ責められるような恐怖を感じた。変な汗が背中や手のひらに滲むのは、恐怖からなのか体調不良からなのかを朔に考えている余裕は無かった。

朔は全裸で拘束されたまま一心不乱に出口を目指す。ドアの前まで辿り着くと、ドアに手を這わせ身体を何とか持ち上げる。上半身をドア伝いに持ち上げドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、激しい目眩と頭痛が襲ってきた。


「ッ…」

酷い目眩と頭が割れるような痛みに朔は顔を顰めドアにもたれ掛かるようにしながら動きを一旦止めた。思い返せばこの3日間まともに食事を取っていないどころか、先程風呂場でほぼ胃液とはいえ吐いてしまい朔は低栄養状態だった。

暫くドアに凭れながら深呼吸を繰り返すと目眩は徐々に治まってきた。最後の力を振り絞るか如くドアに身体を預けながら立ち上がりドアを引くが開かなかった。焦りが募るがすぐにドアノブの上に室内から施錠できる鍵を見つけそれを解錠しドアノブを引いた瞬間、朔は身体のバランスを崩し床に倒れてこんでしまった。その時ドアの横にあった柏木の勉強机に反射的に手をかけ机の上の書類やら本等が一緒に床へと散らばる。

ドサッガタンッと机の上の物が床に落ちる音と朔が床に倒れる音が静かな部屋に大きく響き渡った。
朔は床に倒れ込んだまま、緊張で身体が強ばった。今の音できっと柏木は起きてしまったに違いない。どんな報復を受けるのか、どう言い訳しようか…そんなことばかり頭の中を駆け巡る。おそるおそる朔はベッドの方に視線を向けた。ベッドの上には人が寝ている毛布の盛り上がりが見えた。暫くそちらに視線を向けていたがそれは微動だにしなかった。


(起きてない…のか?)

朔は暫く様子を窺ったが柏木に動きが無かったため、もう一度部屋のドアの方へと向き直る。今度は這いつくばったまま少し開いたドアの隙間に手をかけドアを引こうとした瞬間、机の上から落ちて散らばった床の上の一つの物に視線が向いた。

それは裏返ったまま落ちていた写真立ての様だった。逃げることを優先していた筈なのに、その写真立てがどうしても目について仕方が無かった。人のプライバシーでもあるし放っておくに越したことはないのに、あの柏木がわざわざ部屋に飾っておく写真が何なのか、朔は気になってしまった。朔はその写真立てに吸い寄せられるかのように手を伸ばす。

ゆっくり裏返った写真立てを指で起こし表面の収納されている写真を覗き込んだ。

朔の手が止まる。

その写真立てに飾られている写真は、入学式と書かれた立て看板を挟んで、学ランを着た少し幼さの残る柏木と、その横で微笑む拓人の2人で写る写真だった。

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