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19.登校
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2日ぶりに学校へ登校した朔は、真っ直ぐ自分の席に着くとそのまま突っ伏した。教室内の様子を──柏木を見たくなかった。
「はじめーおはよー!」
近くから声をかけられ、朔はゆっくり顔を上げる。
「まだ体調悪いのか?」
声をかけてきた哲史が朔を心配そうに見ていた。
「…眠い」
「そ、なら大丈夫か!…それは?」
哲史は朔を指さし訊ねてくる。
「…一応病み上がりだから…冷えないように…」
哲史が指さしたのは、朔が付けているネックウォーマーだった。結局一昨日付けられたキスマークと首を締められた時に付いた痣は薄くはなったものの、目立ってしまっていたため苦肉の策としてネックウォーマーを付ける事にした。
「大丈夫かー?あんま無理すんなよ!」
「…あぁ。ありがと」
朔はまた顔を伏せて自らの視界情報を遮断する。こんなことしたって意味が無いことはわかっている。でも、やはり連日の行為で余計に柏木に対する恐怖心は増してしまった。学校でどう接すればいいか、もう思い出せない。
「東海林おはよ」
まだ近くにいる哲史へ挨拶をする声を聞いて、朔の心臓は跳ね上がり顔を伏せたままぎゅっとキツく目を閉じる。
「柏木おはよー!昨日ケーキめちゃ美味かった!ありがとうなー!」
柏木が東海林のすぐ側まで来たが、朔は寝たフリを貫こうと思い顔を上げずにいた。
「それはよかった!どういたしまして。…野坂、おはよ。大丈夫?」
柏木は朔の机の横まで来て、東海林と話しながら寝ている朔の肩に優しく手を置いた。
朔はいきなり接触された驚きと、柏木に触れられた嫌悪と恐怖から勢い良く身体を起こし、その手を払い除けた。
「ッ…」
「あ、ごめん…驚かせちゃって…」
朔は柏木を睨みつけるような視線を向けていたが、隣から哲史の視線を感じ我に返る。
哲史の前では柏木とできる限り普通に接さなければいけない。
「……はよ…。きの………は、どうも…」
朔は柏木に視線を合わせないまま聞こえるか聞こえないかの小さい声で、哲史の手前ということもあり形式的な感謝の言葉を呟いた。
「どういたしまして。野坂の口にもあったかな?」
朔は、ぐっと歯を食いしばる。
「はじめなんて俺の食いかけまで奪うくらいあのモンブラン気に入ってぞ!」
朔が何か言う前に哲史が割り込んでくる。
「そっかあ、じゃあまた買ってくるね」
横から聞こえる柏木の優しい声と嫌な絡みつくような視線を感じ朔はずっと俯いたままいた。
「野坂、首どうしたの?」
柏木が白々しく心配する。朔は嫌悪感を表情に出しそうになり、何とか抑え込んで小さく答えた。
「…冷えない…ように…」
「まだ体調万全じゃないのか。心配だな…。あ、良かったらこれ飲んで」
柏木はカバンの中から取り出した瓶のドリンクを朔の机の上に置いた。
「まあ、気休めみたいなもんだけど」
柏木が朔に渡したのは栄養ドリンクだった。
「……いらない」
「気にするなよ、あげる」
朔はその小瓶を見つめながら、身体が芯から震え始めるのを止められなかった。
昨日のケーキといい、柏木から与えられる物なんて信用出来なかった。
「…ふざけるな!!いらねーよ!いるわけないだろ!!」
朔は堪らず大声で柏木に怒声をあげた。
教室内が一瞬にして静まり返る。
「……野坂…」
柏木は驚いた顔で一言朔の名前を口にする。
朔は、ハッとして周りを見渡した。
クラスメイト達も驚いた表情で朔と柏木に視線を向ける。
「え?なに?けんか?なんかあったの?」
「野坂君が一方的にキレてるっぽいけど…」
「柏木は野坂のこと気にかけただけみたいだったぞ」
「風邪引いておかしくなったのか?」
クラスメイトがひそひそ話す声が聞こえてくる。少しだけ聞こえてくる話し声からもわかるように、明らかに怒鳴った朔が「悪者」のように周りには認識されていた。
「…はじめ……」
哲史に声をかけられて朔は慌てて席を立った。
「…次休むわ…」
一言だけ哲史へ言い残し、朔は教室を後にした。
朔はそのまま教室を出て、屋上へと向かった。頭を冷やして落ち着きたかった。
ドアを開けると屋上に人は誰もいなかった。
朔はフェンス越しに景色をぼんやり眺める。
哲史の前どころかクラスメイトの前ですら取り繕うことが出来なかった。これも全て柏木の思うつぼなのだろうか、と朔は明るい青空の下、暗い気持ちでただ景色を眺めるしか出来なかった。
フェンスを掴んだ時に袖の部分が下にズレて紫色の痣が隙間からちらついた。朔は慌ててワイシャツの袖を引き上げる。
首も手首も全身のあちこちの傷もズキズキと傷んだ。
柏木から逃げる方法も状況を好転させることも何も思いつかず朔はため息を吐く。その瞬間声をかけられた。
「そこから飛び降りて楽になる?」
ゾワッと背筋が粟立つ。一番聞きたくないその声の主の方に顔を向けると、屋上の入口にその人物は立っていた。
「でも、そんなくだらない死に方はしないでね。まだまだ愛し足りないし、その後俺が責任持って殺してあげるから」
含みのある笑顔で朔の方に歩いてくる声の主、柏木から朔は視線を外せなかった。
「はじめーおはよー!」
近くから声をかけられ、朔はゆっくり顔を上げる。
「まだ体調悪いのか?」
声をかけてきた哲史が朔を心配そうに見ていた。
「…眠い」
「そ、なら大丈夫か!…それは?」
哲史は朔を指さし訊ねてくる。
「…一応病み上がりだから…冷えないように…」
哲史が指さしたのは、朔が付けているネックウォーマーだった。結局一昨日付けられたキスマークと首を締められた時に付いた痣は薄くはなったものの、目立ってしまっていたため苦肉の策としてネックウォーマーを付ける事にした。
「大丈夫かー?あんま無理すんなよ!」
「…あぁ。ありがと」
朔はまた顔を伏せて自らの視界情報を遮断する。こんなことしたって意味が無いことはわかっている。でも、やはり連日の行為で余計に柏木に対する恐怖心は増してしまった。学校でどう接すればいいか、もう思い出せない。
「東海林おはよ」
まだ近くにいる哲史へ挨拶をする声を聞いて、朔の心臓は跳ね上がり顔を伏せたままぎゅっとキツく目を閉じる。
「柏木おはよー!昨日ケーキめちゃ美味かった!ありがとうなー!」
柏木が東海林のすぐ側まで来たが、朔は寝たフリを貫こうと思い顔を上げずにいた。
「それはよかった!どういたしまして。…野坂、おはよ。大丈夫?」
柏木は朔の机の横まで来て、東海林と話しながら寝ている朔の肩に優しく手を置いた。
朔はいきなり接触された驚きと、柏木に触れられた嫌悪と恐怖から勢い良く身体を起こし、その手を払い除けた。
「ッ…」
「あ、ごめん…驚かせちゃって…」
朔は柏木を睨みつけるような視線を向けていたが、隣から哲史の視線を感じ我に返る。
哲史の前では柏木とできる限り普通に接さなければいけない。
「……はよ…。きの………は、どうも…」
朔は柏木に視線を合わせないまま聞こえるか聞こえないかの小さい声で、哲史の手前ということもあり形式的な感謝の言葉を呟いた。
「どういたしまして。野坂の口にもあったかな?」
朔は、ぐっと歯を食いしばる。
「はじめなんて俺の食いかけまで奪うくらいあのモンブラン気に入ってぞ!」
朔が何か言う前に哲史が割り込んでくる。
「そっかあ、じゃあまた買ってくるね」
横から聞こえる柏木の優しい声と嫌な絡みつくような視線を感じ朔はずっと俯いたままいた。
「野坂、首どうしたの?」
柏木が白々しく心配する。朔は嫌悪感を表情に出しそうになり、何とか抑え込んで小さく答えた。
「…冷えない…ように…」
「まだ体調万全じゃないのか。心配だな…。あ、良かったらこれ飲んで」
柏木はカバンの中から取り出した瓶のドリンクを朔の机の上に置いた。
「まあ、気休めみたいなもんだけど」
柏木が朔に渡したのは栄養ドリンクだった。
「……いらない」
「気にするなよ、あげる」
朔はその小瓶を見つめながら、身体が芯から震え始めるのを止められなかった。
昨日のケーキといい、柏木から与えられる物なんて信用出来なかった。
「…ふざけるな!!いらねーよ!いるわけないだろ!!」
朔は堪らず大声で柏木に怒声をあげた。
教室内が一瞬にして静まり返る。
「……野坂…」
柏木は驚いた顔で一言朔の名前を口にする。
朔は、ハッとして周りを見渡した。
クラスメイト達も驚いた表情で朔と柏木に視線を向ける。
「え?なに?けんか?なんかあったの?」
「野坂君が一方的にキレてるっぽいけど…」
「柏木は野坂のこと気にかけただけみたいだったぞ」
「風邪引いておかしくなったのか?」
クラスメイトがひそひそ話す声が聞こえてくる。少しだけ聞こえてくる話し声からもわかるように、明らかに怒鳴った朔が「悪者」のように周りには認識されていた。
「…はじめ……」
哲史に声をかけられて朔は慌てて席を立った。
「…次休むわ…」
一言だけ哲史へ言い残し、朔は教室を後にした。
朔はそのまま教室を出て、屋上へと向かった。頭を冷やして落ち着きたかった。
ドアを開けると屋上に人は誰もいなかった。
朔はフェンス越しに景色をぼんやり眺める。
哲史の前どころかクラスメイトの前ですら取り繕うことが出来なかった。これも全て柏木の思うつぼなのだろうか、と朔は明るい青空の下、暗い気持ちでただ景色を眺めるしか出来なかった。
フェンスを掴んだ時に袖の部分が下にズレて紫色の痣が隙間からちらついた。朔は慌ててワイシャツの袖を引き上げる。
首も手首も全身のあちこちの傷もズキズキと傷んだ。
柏木から逃げる方法も状況を好転させることも何も思いつかず朔はため息を吐く。その瞬間声をかけられた。
「そこから飛び降りて楽になる?」
ゾワッと背筋が粟立つ。一番聞きたくないその声の主の方に顔を向けると、屋上の入口にその人物は立っていた。
「でも、そんなくだらない死に方はしないでね。まだまだ愛し足りないし、その後俺が責任持って殺してあげるから」
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