[R-18]あの部屋

まお

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3.家庭教師

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結局はじめはその後2限目の授業をサボり、授業が終わった頃を見計らって教室にカバンを取りに行くと3限目からは家に帰ることにした。



日中で誰もいない家に着き部屋のベッドの上に横になりスマホを取り出す。高校生になったしバイトでもするか、とスマホからアルバイトの求人を探す。朔は中学から髪を染めていた。何度も入れたブリーチのせいで少し傷んだ毛先を指先で摘む。そんな髪を真っ黒に戻すのは面倒なため、髪型は自由なバイトがいい、と検索ボックスに希望条件を色々チェックしていった。そして検索結果に出てきたバイト一覧に上がる一つの仕事が目に入る。


──家庭教師


朔はすぐスマホ画面を消してベッドに伏せて置いた。記憶は薄れてきたとはいえ、未だに思い出すと息が詰まる感覚と嫌悪感は拭えなかった。



家庭教師。それははじめの人生が狂った原因だった。






中学に入ったばかりのちょうど3年前。
中学にあがり元は勉強が好きだったはじめのために、朔の母親は家庭教師をつけてくれた。朔は今の性格と当時の性格が全く違う。当時の朔は人見知りをしないみんなと仲良くなれるタイプ。未来に対して希望に満ち溢れてて明るく、こんなに無気力で不真面目な性格では無かった。
だから、家庭教師の先生とも朔は上手くやっていた。


今考えると、それが良くなかった。


家庭教師は、地元の有名国立大学4年生の男性教師。
いかにもな好青年で穏やかさが伝わる立たずまい、そして優しい笑顔でいつも朔を沢山褒めてくれた。朔は家庭教師の先生に褒められたくて勉強を頑張った。一人っ子の朔はこんなお兄ちゃんが欲しいな、といつも思っていた。


その家庭教師の名前は美伯拓人 みはく たくと


先生の教え方がもちろん良かったというのもあり、朔はみるみるうちに成績が上がった。それに加えて、優しくていつも褒めてくれる拓先生のことが朔は大好きだった。朔は拓先生に褒められたくて勉強を頑張った。先生は、1人っ子で普段寂しい思いをしていた朔の遊び相手にもなってくれていた。
テストでいい点が取れた時は、無理を言って一緒に対戦ゲームに付き合ってもらったり、先生の休みの日にお願いしてキャッチボールをしてもらったり、本当の兄弟かのように家庭教師の拓先生と朔は仲良くなった。



中学1年の夏、いつも通り勉強を教えいた先生の様子がいつもとちょっと違うことに朔は気づいた。先生はどこかうわの空で穏やかな表情がいつもより悲しそうに見えた。心配して声をかけた朔の目の前で、家庭教師は涙を流し静かに泣いた。いつも微笑む拓先生の初めて見る姿に朔は驚いた。でも、いつも優しい先生が弱っている姿を見て、なんとかしなきゃと思い先生がいつもやってくれてたように黙って優しく朔は拓先生の頭を撫でた。


先生は「ごめん、ありがとう…」と呟いて、朔を抱きしめた。子どもの自分には分からない、多分先生は色々我慢していることがあったんだろうと朔は思った。


その一件から、何かが崩れ落ちるように家庭教師と朔の関係が変わっていってしまった。



優しかった先生。なのに…。
家庭教師は朔に今まではしてこなかった、当時の朔には理解できないようなことをするようになった。優しく頭を撫でてくれるだけなら良かったが、拓先生はたまにキスをしてくるようになった。最初はふざけてるだけだと思っていたが、何度もされる唇同士を合わせるキスに対し中学生の朔にもさすがに男同士のキスはおかしいと認識できた。



ある日、勉強が一段落したタイミングで、家庭教師は朔を抱きしめいつも通り軽く口付けをする。


「…たく先生…やっぱり……キスはおかしいよ……」

「…ごめんね。でもキスって好きな人にするものでしょ?先生、はじめのこと好きだから…」

「でもキスって女の人とするんでしょ?」

「そう考えてる人の方が多いけど、今はそういう性別の違いとかは関係ない時代になっているんだよ。」

「…でも……。」


朔は色々言いたい事を抑えた。先生はちょっと困った顔で、でも穏やかな表情で朔を諭すように言った。


「はじめ……このことは2人だけの秘密にして欲しいんだ。できるかな?」


先生に嫌われたくない…。
そして、心のどこかで先生の特別になれたような気がして、それが少し嬉しい気持ちもあり、朔は静かに頷き、家庭教師からのキスを受け入れるようになった。



だが、行動はどんどんエスカレートしていった。
キスの次はやたら体を触ってくるようになった。朔はどうすればいいか分からずただただ、受け入れるしかなかった。家庭教師が来る日が段々憂鬱になっていった。でも、先生には会いたかった。変なことをしてくる以外は先生は先生のままで朔の憧れだった。一緒に遊んでくれたり、勉強を丁寧に教えてくれたり、いっぱい褒めてくれたり…そこは変わらないのに…。
多分、先生は辛いことがあって自分をコントロール出来なくなってるんだ、朔はそう思うことにした。大好きな先生を傷つけたく無く無下に拒否は出来なかった。



「はじめ、ここ触ると気持ちよくなれるって知ってる?」

ある日家庭教師は勉強を早く切り上げ急にそう話を切り出し、朔の下半身に触れた。


「え、先生…やだっ…」

「こわいよね、でもクラスでもそーゆう話しない?男の子は1人でここ触るんだよ」

「…そうなの?……じゃあ自分でするからいいよっ」

朔は恥ずかしくてズボン越しに自身を触る家庭教師の手を払おうとしたが、先生にその手を取られた。


「でもね、1人でやるより人にやってもらった方がもっと気持ちよくなれるんだよ。先生がやってあげる」

そう言い家庭教師は少し強く手を動かし始めた。朔は初めての感覚に戸惑い、怖くなった。


「たくせんせ!!やだっ…へん、変だよっ…!こわい…」

引こうとした腰を戻され朔は逃げることが出来ないまま刺激を受け入れるしか無かった。


「んん…はあっ…せ、んせ!ぅう……んっ」

触られどんどん成長する朔の下半身の昂り。


「はじめ…気持ちいい?」

朔は恥ずかしくて、いけないことをしている罪悪感から目に涙をためて家庭教師を見上げた。


「っやだ…先生やめてよ…」

家庭教師はハッとして我に返ったような表情をして慌てて朔を強くぎゅっと抱きしめた。


「はじめ、ごめん、ごめんね…。先生、このままだとはじめを傷つけてしまいそうだ…。はじめ、好きだよ…愛してる…。もう、この気持ち、どうすればいいかわからない…。」

朔は家庭教師に抱きしめられながら我慢出来ず涙をこぼした。


「たくせんせ…、っ好きって嬉しいけど…わかんないよ。なんでこんなことするの?…どうすればいいの?」

家庭教師は朔の涙を優しく拭ってまた抱きしめた。


「そうだよね、ごめんね。はじめを泣かせたい訳じゃないんだ…。はじめの気持ちはどう?先生のこと、好き?」



はじめの鮮明な記憶はなぜかここまでだった。この質問にどう答えたかも全く思い出せない。この後の家庭教師との記憶は断片的なものばかりで、苦しくて泣いてる記憶や自己嫌悪に陥っている記憶が所々ある。



──そして。家庭教師とのことが親にバレて拓先生が…警察に捕まった所。ここまでが朔にとっての家庭教師との記憶だった。



朔の中ではもう思い出したくないことばかりで、その影響なのか、途中の記憶も抜け落ちている。これらのことが影響して、朔のそれ以降の学生生活は荒んだものになった。中学の途中からはとにかく、勉強が嫌いになった。勉強を続けると、関連して家庭教師とのことや2人で秘密にした自己嫌悪を覚える記憶が思い出された。そのせいでまともに机に向かうのも難しくなり、勉強をしなくなった。勉強をしなくなったので行ける高校も限られ、この底辺高校に入学することになった。



全てが嫌になり勉強をしないだけではなく、朔はグレた。勉強以外に何かしていないと家庭教師とのことが思い出される。だから悪そうな友達とつるむようになり、タバコ、カツアゲ、ケンカ、なんでもやった。
朔はそうやって思い出さない為に勉強以外の様々な事に手を出し時間の穴埋めをするようになった。



ただ、勉強と同じくできないものがもう1つできた。それは女関係だった。女と性的な関係を持つことに対する嫌悪感が強くて女関係の誘いは全て断った。これもやはり、思い出され苦しく気持ち悪くなってしまうから。





そんなふうに昔の回想をしているうちに朔は眠気に襲われた。バイトはもう少し後でもいいか、そう思 いながら朔は眠りについた。


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