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(4-A) 2072年、マニラ~東京

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忍が初めて陽と出会ったのは、マニラの売春宿だった。忍は、米軍との共同軍事訓練のために、フィリピンに3カ月間派遣されることになった。ミロは藤永研究所と「ヨーバリンダ・テクノロジー」が共同開発を進めている兵器の試験に参加するために、同行できなかった。忍は、そもそも米国人とのハーフで日本語と同様に英語が堪能だったし、屈強な海兵隊員にもまったく見劣りしないほど身体が大きい。米軍の他の将校たちとしばしば夜の街へ繰り出すようになるまでに、さほど時間はかからなかった。
そのクラブへ通うようになるとすぐに、忍は、一人の美しい若い女が働いていることに気づいた。彼女は、フィリピン人には見えない。その女も忍の存在を意識していることに、忍は気づいていた。ある金曜日の夜にそのクラブのドアを押すと、彼女はすぐに忍に微笑みかけた。
「いらっしゃい。日本人でしょ?」
と初めて忍に話しかけた。流暢な日本語だ。忍はうなずく。忍は既に何件かのバーをはしごして、酔いを感じていた。その女は、肌は浅黒かったが、顔立ちは明らかにフィリピン人とは異なり、東アジア人のそれだった。忍はバーに寄りかかって、飲み物を二人分注文した。忍の周囲では、他の将校たちが既に売春婦と今夜の交渉を始めている。
「What’s your name?」
と忍が尋ねると、
「ヨウ。太陽の『陽』と書くの」
と、女は日本語で答えた。
「日本人?」
と忍が尋ねると、陽は首を振った。
「私の母は日本人。でも私の国籍はフィリピンよ。父親はわからない。でも私の肌の色からすると、南アジアの人だったのね、きっと。」
と日本語で答えた。彼女のしゃべり方は、無学な売春婦のものではない。きちんとした教育を受けていることがわかる。売春宿にいる女たちとは、明らかに違う。妖艶なほほえみを浮かべ、陽は身体を近づけてきた。陽の身体からは、とてつもなく良い匂いがする。忍は、すさまじい欲望が体の奥から駆け上がってくるのを感じた。
その夜、忍は陽と寝た。忍は、当時日本に恋人がいたのでフィリピンに派遣されて以来、誰とも寝ていなかった。積もり積もった忍の性欲が、陽にこれまでかとぶつけられることになった。陽は、まるで忍のために作られたような女だった。
忍は、陽に連れられて場末の安宿に入ると、すぐに彼女を裸にして押し開いた。前戯をする余裕がないほどに、狂おしい欲望が体中を駆け巡っていた。陽に口づけすると、まるでお互いの境界線が溶けていくような感覚に陥った。そのまま忍は陽の中に突き入れた。売春婦との性交でコンドームを使うのを忘れるほど、忍は我を忘れていた。陽の中は既に十分に潤っており、豊かな湿った音を立てて忍を受け入れた。陽はため息とともに深い喜びの声を上げた。その夜、忍と陽は、一晩中お互いの身体を貪り合った。陽は、忍よりも経験が豊富だったから、さまざまな方法で忍を快楽に導いた。忍の若い性欲は、疲れるということを知らなかった。
昼近くなって、ようやく二人は浅い眠りについた。ベッドサイドに放置された忍の携帯には、日本の恋人から何度も着信が入っていた。
土曜日の午後も遅くなって、二人は目を覚ました。陽はシャワーを浴びると、手早く衣類を身に着けて化粧をし、今夜もバーに立つという。忍は、後ろから陽を抱きしめると再び彼女を組み敷いた。さらに数時間をかけて、二人は愛し合った。エアコンの外機が大きな唸り声を立てている。外が暗くなる頃、忍は陽を請け出すことを決めていた。陽は、数万ドルの借金のカタに、そのクラブに売られた売春婦だった。陽の母親はアッパーミドル階級の日本人だが、ヘロインから抜け出すことができず財政的に破綻し、まだ高校生だった娘の陽を売った。忍にとって、数万ドルはキャンディーバーを買う程度の金額だったから、陽の借金を一括で返済した。信託投資預金に預けられた父親の遺産は自動的に増え続けていた。
陽もヘロイン中毒になっていたので、忍は陽を軍のリハビリセンターに連れて行き、今後の世話を保証すると伝えた。ただし、陽が母親と今後一切の連絡を絶つことが条件だ。陽はすべて受け入れた。
1か月後、坂本忍は19歳で中尉の任官を受け、18歳の陽を連れて帰国した。

忍は、自分が父親と同じようなことをしているとわかっていたが、陽を思う気持ちを変えることはできなかった。父親が母を見初めたときの年齢より忍はずっと若かったし、何よりも彼はまだ誰とも結婚していなかった。
しかし、父の本妻の実家である坂本家では、既に忍の妻となる女性を決めていたらしく、陽の件については、激しく反対された。「売春婦好きなのは、血を争えない」とまで言われた。このとき、意外にも忍の味方をしてくれたのは、本妻である雅子だった。
「あなたが、心に決めた人と過ごしなさい」と雅子は言った。この本妻の口添えがなければ、忍が陽を傍に置くことは不可能だっただろう。
そのとき、雅子が実は父を深く愛していたことを、忍は初めて知った。

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