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後編

手を繋いで、これからもずっと

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「騒がしい裁きだったな。ファイバーン、女性のトラブルはこれで最後だからな。」

王様が苦い顔をして、ファイ様を見た。
それは、私もそう願ってる。

「まったくです。我が息子ながら、あきれていますけれど。」

そう言った王妃様が、意味深に王様を流し目で見て、

「昔の誰かさんを、思い出しますわ・・・。」

と、つぶやいたの。王様が慌てて立ち上がり、審議の終了を宣言して、その場は解散になった。

それから時が流れて、最初の混乱が嘘みたいに穏やかな日々が続いている。

ヴィノガン様に協力した人たちは、皆処罰されて、特に王太后様の主治医は、厳罰に処された。

次の主治医は、なんとファイリアお義姉様ねえさま
元々博識な上に、医学を学んでいらして、普段は身分を隠して施療院なんかで働いてたんだって。

そういえば、王太后様が毒物を与えられているかもと、最初に気づいたのは彼女だった。

プロメテクスお義兄様にいさまは、ヴィノガン様が抜けた後の軍事部門を統括することに。

アポロニお義兄様にいさまは、司法長官の座についた。
レドリシアのお父様である、バドリック・モエン公爵は、娘であるレドリシアにちゃんと裁きを受けさせたら辞めるつもりだったそう。

バーニスお義姉様ねえさまは、来年のアイシスとの婚約と結婚に向けて、私にブリザードゥ国のしきたりとか、行儀作法とか、色々学びによく氷の宮に来てくれる。

レドリシア?彼女はエアーロー皇太子に保釈させて、皇太子妃になろうとしたら、風の国の王妃様から絶対ダメだと反対されたんだそう。

もう魔力もないのに、勝手に風の試練を受けようとしたり、エアーロー皇太子のお見合い相手を撃退したりと、毎日騒動を起こしてるとか。

何とかしてくれと、ファイ様に手紙が次々と送られてくる。

そして、私にも。

ミユキが、私宛の手紙を執務室まで持ってきてくれた。

「ありがとう、ミユキ。ええっと、あ、また、この人から来てる。」

「アイスリー様、エアーロー皇太子と、サラマンダムでしょ?二人とも懲りもせずに、口説いてきますものね。」

そこへファイ様もやってきて、片眉を上げると手紙を取り上げて魔法でさっと燃やした。

「あ!もう、読んでないのに。」

私が頬を膨らませると、ファイ様は涼しい顔をかたむけて笑う。

「毎回同じ内容の手紙だろ?『愛しいアイスローズ皇太子妃殿下、あなたを想うと眠れません。どうか、苦しいこの胸の内を察して、私のところへ来てください。』だったかな。」

「すごいファイ!暗記してる。」

「人妻を堂々と・・・!アイスリーもライバルばかり増やしてくれるな。」

腕を組んで機嫌の悪いファイ様の様子を見て、椅子から立ち上がると、彼の手を握った。

「ライバルなんて。誰もあなたには及ばないよ?」

「当然。全部蹴散らすからな。」

顔を見合わせて、ぷっと吹き出す。

「でも、ファイもすごいね。私に変装したミユキと間違えなかったもの。」

「まぁ、な。」

そう、私の影武者をミユキが務めることになったの。顔立ちは全然違うけど、そこはメイクで補ってる。

特に公務がない今日みたいな日から、少しずつ場数を踏んで、最後は公式な場でもその役を演じられるようにするんだとか。

「失礼致します。」

そこへ、ファイ様に変装したホムラも入ってきた。うわー、なんだか圧巻。

鏡を見てるみたい。

横に並んだホムラとミユキを見て、私が感心していると、ファイ様が二人に向かって笑顔で拍手をした。

「完璧だな。本物の恋人同士だから、二人の間に漂う雰囲気まで問題なしだ。じゃ、私たちも着替えて行ってくる。」

ホムラとミユキの顔が、さっと赤くなるのを見ながら、私たちも準備をした。

ファイ様が皇太子の衣装を取ると、下から庶民の服装が出てくる。

私もドレスを脱ぐと、町娘の服装に早変わり。

あとはファイ様が、丁寧にメイクしてくれる。
早く私も覚えないと。

「アイスリー様、お気をつけて。」

ミユキが心配そうに言うので、私は笑顔で手を振った。

「大丈夫よ。あ、ご心配ありがとうございます、アイスリー様。ふふっ。」

私はファイ様と手を繋いで、隠し扉から氷の宮を抜けると、王宮の裏にある秘密の通路を抜けて外に出た。

「わぁー。」

城下町に降りて、そこで生き生きと生活する人々が目の前にいる。

「忘れるなよ、アイスリー。今、君は町娘の『ミユキ』だ。」

ファイ様が私を見て言うので、私も頷いた。

「わかってるわ、『ホムラ』。それにしても暑いね。ファイアストム国は火の国だけど、暑すぎない?」

「昨今気温が急上昇して、確かに悩みの種だな。熱を上げる魔物でも、棲みついたかもしれない。そこは・・・まあ、アイスリー、じゃないミユキがいれば、解決だろ。」

ファイ様が少しおどけて言うので、私は袖を捲った。

「えぇ、任せて。まずは城下の皆さんにご挨拶代わりに。」

私は目を閉じて、氷の魔法で城下町一帯の気温をグッと下げた。

周りから歓声が上がって、今日は過ごしやすいとか、助かるーとか、賛美の声が聞こえてくる。

「お見事。誰がやったかも、気づかれていない。」

ファイ様が誇らしそうに見つめてくる。
私は嬉しくなって、ファイ様の腕に自分の腕を絡めた。

「ねぇ、その魔物はどこ?すぐに行きましょう!みんなを困らせてるなら、急がないと。」

「その勢いは素晴らしいけど、一つ一つステップを踏もう。まずは庶民としての振る舞いを覚えるのが先。長くいれば怪しまれるから、すぐに帰るよ。魔物はまた今度。」

「えー。」

「周りに溶け込む術を身につけて、それからよく人々の生活を見てくれ。彼らの話の中にこれからどうしていくべきかのヒントがある。」

ファイ様はそう言うと、楽しそうに人々の様子を見始めた。
王宮の人たちとはまた違う人々。

新鮮で物珍しくて、わくわくしちゃう。

「楽しいことばかりではないことは、王宮の中と変わらない。でも、この人たちがいないと国は成り立たない。もう少し慣れたら国の端々まで案内するよ。私が見てきたものを見せたい。」

ファイ様がそう言いながら歩き出すので、私たちは腕を解いて手を繋いだ。
この方が自然。

私は人々の生活を見て回りながら、少しずつ色んなことを覚えていく。

本当は一目見ただけで、全てを把握して、すぐに改善につながる提案ができることが理想だけど、とても無理。

それくらい一人一人違う。

それでも、ファイ様がいるから。この人と手を繋いで、一歩また一歩踏みしめながら歩いていくしかない。

「そうだ、幸運のキャンディは食べてきた?」

不意に彼が聞くので、私は笑顔でうなずくとこう言った。

「えぇ、いいことが、たくさん起きるわ。」

いつものおまじないは、欠かさない。



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

読んでくださってありがとうございました。
この物語はこれで完結です。

皆様にも、いいことがたくさん起きますように!!

お気に召したら、お気に入り登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。


※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

次回作は、『人身御供の乙女は、放り込まれた鬼の世界で、超絶美形の鬼の長に溺愛されて人生が変わりました』です。現在公開中です。


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