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後編
久しぶりの祖国
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翌日、私はファイ様とアイシスをブリザードゥ国へと送っていった。
少し離れていただけの故国が、もう懐かしい。
今回起こったことは、国王夫妻と一部の重臣たちだけの耳に入れることになった。
お父様は顔を顰めていたし、お母様は泣きそうな顔をしてたな。ファイアストム国親書と、貢物を受け取って、とりあえずこの場は収まったけど。
「火の国に嫁ぐ以上、こういう目に遭うかもしれんとは危惧していたがな。二度目はないと覚悟されよ、ファイバーン皇太子。」
お父様がファイ様に厳しい口調で言うと、彼も跪いて深々と頭を下げた。
「肝に銘じます。申し訳ございませんでした。謝罪と私の誠意の証として、どうか氷の試練を受けることをお許しください。」
周囲のみんながざわっと騒ぎだす。
お父様もお母様も驚いていたけれど、最後は許してくれて、もちろん私もついていった。
試練の扉は、彼を待っていたかのように現れて、ゆっくり開いていく。
「ファイ・・・あなたまで受けなくていいのよ?」
「いいんだ。アイスリーにだけ、過酷な思いをさせるわけにはいかないから。」
ファイ様は、私の魔力を込めた氷の指輪をチラッと見せて、笑顔で中に入っていく。
私も背嚢を背負い直すと、一緒に扉を抜けていった。
中では、彼にも私と同じ現象が起きた。ダンジョンの中を数メートル歩いた辺りで、彼の姿がふっと消えて、次の瞬間後ろから現れたの。
魔神が作り出す異空間に招かれ、そのまま進んで試練を受けて、また戻ってきたんだ。
甲冑があちこち凍っていて、本当に驚いた。
ファイ様のことだから、無事に魔神を服従させたとは思うけど。
彼は無言で私の顔に触れて、抱き締めてくるので、私はされるがままになってあげた。
「大丈夫?精神的なクエストだったんじゃない?」
「・・・あぁ。私が受けた火の試練とは大違いだ。身も心も凍りそうなクエストだった・・・。」
私は、詳細を聞きながら彼が落ち着くまでその場を動かなかった。
その後最下層まで行って、ファイ様は服従させた氷の魔神から証をもらうと、私と手を繋いでダンジョンを出た。
外で待っていたアイシスたちが、歓声を上げて迎えてくれる。
「やるじゃないか。」
お父様は、はにかんだ顔でファイ様を見つめていた。
試練を終えたファイ様を、アイシスがもてなしたいと言って連れていったので、私はお父様の執務室へと向かうことにする。
父親である国王に、アイシュペレサのことを聞いてみたいから。
「アイシュペレサ叔父上か・・・。私が生まれる前の人だな。身分の低い女性との間に生まれたがために、皇太子になれなかったと乳母に聞いた。父上はとても嫌っていたそうだ。」
お父様はそう言いながら、壁にかけられたお祖父様の肖像画を見る。
「アイシュペレサ大叔父様は、戦を終わらせようと、勇気ある行動をとったし、命懸けで氷の火炎を止めてこの国まで救ったんです。
名誉を回復して、その名を歴史に刻んでいいのでは?」
私が言うと、国王は片肘をついて私を見た。
・・・ダメかしら。
「アイシュペレサ叔父上は、この国では裏切り者扱いだ。それに、彼は恐ろしい可能性も示してしまったからな。」
「恐ろしい?」
「他属性の民は、魔神を倒しても死なず、心臓を取り出せる、と。今後お前や、ファイバーン皇太子のように魔神の試練を受けることになった時、意図的に心臓狩りをしようとする輩も出てくるかもしれん。」
「・・・!!」
「そういう連中を出てこさせないために、アイシュペレサ叔父上は敢えて試練で亡くなったと、流布させていたのだがな・・・。王太后様たち関係者が、重臣の前で明かしてしまったのなら、仕方ない。正しく伝えた方がいいかもしれんな。」
国王はため息をついて、両手の指を絡めて顎を置いた。
そんなことは考えなかったな。
私はまだまだ考え方が甘いんだ。
「き、危険性も一緒に伝えればいいのではないでしょうか。心臓を使った禁断の魔法は、一度放てば、自分達も滅びる可能性がある、と。」
私が両手を握り締めて提案すると、国王はふふふと、笑った。
「氷の火炎を目にした世代はそれでいいだろうな。問題はその後の世代だ。敵を打ち払う威力だけを見て、それが自分たちも滅ぼすかもしれんなど、その時にならんとわからんものだ。」
「そんな・・・。」
「そういう人間も多いことを、覚悟せねばならない。人の上に立つ身なら覚えておきなさい。」
言えば言うほど、空回り。
はぁ・・・。
国王は、私の頭を優しく撫でた。
「心配するな。まずは我々世代が取り組む話だ。前の世代が生きているうちに、なんとかするさ。それより、アイシスによるとお前は王家の男性陣を虜にしてるらしいな?」
いきなり言われて、顔が真っ赤になる。
アイシスったら、余計なことを!!
「あ、あの、それはからかわれてるんです。
私はそんなつもりありません!」
「ふふ、そうか?
お前はますます魅力的になったぞ?
私も鼻が高い。遅咲きのお前は、時間が経てば経つほど花開いていくはずだ。」
「で、でも、私はまだまだ。魅力的な女性たちを前にすると気後れしてしまうんです・・・。」
スノウティでも、レドリシアでも、一目で魅力と、自信に溢れた女性たちは、いくらでもいるから・・・。
国王は、目を細めて私を見た。
「心配するな。お前はこれから変わるのだ。
火の試練を成し遂げ、氷の火炎を無効化して、アイシュペレサ叔父上の力を天に還せた。
偉大なことを成し遂げたのだ。」
「お父様・・・でも、一人で全部成し遂げたわけじゃないんです。ファイ様たちみんながいたから。」
「それでいい。力を借りたい時に、貸してもらえる環境下にいることが重要なのだ。
いずれお前が力を貸すことも出てくる。助け合いながら、元気にやっていけ。」
「はい。」
私は頷くと、ファイ様と一緒にファイアストム国へと帰った。
こうやって行き来が出来ることは、昔は当たり前じゃなかったのよね。
私も頑張って両国の架け橋にならなきゃ!
そう思っていたら、ファイアストム国に、見慣れぬ一団がきていたの。
あの国旗は・・・風の国、ウィンディ国だ。
皇太子旗が、立ててある。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
少し離れていただけの故国が、もう懐かしい。
今回起こったことは、国王夫妻と一部の重臣たちだけの耳に入れることになった。
お父様は顔を顰めていたし、お母様は泣きそうな顔をしてたな。ファイアストム国親書と、貢物を受け取って、とりあえずこの場は収まったけど。
「火の国に嫁ぐ以上、こういう目に遭うかもしれんとは危惧していたがな。二度目はないと覚悟されよ、ファイバーン皇太子。」
お父様がファイ様に厳しい口調で言うと、彼も跪いて深々と頭を下げた。
「肝に銘じます。申し訳ございませんでした。謝罪と私の誠意の証として、どうか氷の試練を受けることをお許しください。」
周囲のみんながざわっと騒ぎだす。
お父様もお母様も驚いていたけれど、最後は許してくれて、もちろん私もついていった。
試練の扉は、彼を待っていたかのように現れて、ゆっくり開いていく。
「ファイ・・・あなたまで受けなくていいのよ?」
「いいんだ。アイスリーにだけ、過酷な思いをさせるわけにはいかないから。」
ファイ様は、私の魔力を込めた氷の指輪をチラッと見せて、笑顔で中に入っていく。
私も背嚢を背負い直すと、一緒に扉を抜けていった。
中では、彼にも私と同じ現象が起きた。ダンジョンの中を数メートル歩いた辺りで、彼の姿がふっと消えて、次の瞬間後ろから現れたの。
魔神が作り出す異空間に招かれ、そのまま進んで試練を受けて、また戻ってきたんだ。
甲冑があちこち凍っていて、本当に驚いた。
ファイ様のことだから、無事に魔神を服従させたとは思うけど。
彼は無言で私の顔に触れて、抱き締めてくるので、私はされるがままになってあげた。
「大丈夫?精神的なクエストだったんじゃない?」
「・・・あぁ。私が受けた火の試練とは大違いだ。身も心も凍りそうなクエストだった・・・。」
私は、詳細を聞きながら彼が落ち着くまでその場を動かなかった。
その後最下層まで行って、ファイ様は服従させた氷の魔神から証をもらうと、私と手を繋いでダンジョンを出た。
外で待っていたアイシスたちが、歓声を上げて迎えてくれる。
「やるじゃないか。」
お父様は、はにかんだ顔でファイ様を見つめていた。
試練を終えたファイ様を、アイシスがもてなしたいと言って連れていったので、私はお父様の執務室へと向かうことにする。
父親である国王に、アイシュペレサのことを聞いてみたいから。
「アイシュペレサ叔父上か・・・。私が生まれる前の人だな。身分の低い女性との間に生まれたがために、皇太子になれなかったと乳母に聞いた。父上はとても嫌っていたそうだ。」
お父様はそう言いながら、壁にかけられたお祖父様の肖像画を見る。
「アイシュペレサ大叔父様は、戦を終わらせようと、勇気ある行動をとったし、命懸けで氷の火炎を止めてこの国まで救ったんです。
名誉を回復して、その名を歴史に刻んでいいのでは?」
私が言うと、国王は片肘をついて私を見た。
・・・ダメかしら。
「アイシュペレサ叔父上は、この国では裏切り者扱いだ。それに、彼は恐ろしい可能性も示してしまったからな。」
「恐ろしい?」
「他属性の民は、魔神を倒しても死なず、心臓を取り出せる、と。今後お前や、ファイバーン皇太子のように魔神の試練を受けることになった時、意図的に心臓狩りをしようとする輩も出てくるかもしれん。」
「・・・!!」
「そういう連中を出てこさせないために、アイシュペレサ叔父上は敢えて試練で亡くなったと、流布させていたのだがな・・・。王太后様たち関係者が、重臣の前で明かしてしまったのなら、仕方ない。正しく伝えた方がいいかもしれんな。」
国王はため息をついて、両手の指を絡めて顎を置いた。
そんなことは考えなかったな。
私はまだまだ考え方が甘いんだ。
「き、危険性も一緒に伝えればいいのではないでしょうか。心臓を使った禁断の魔法は、一度放てば、自分達も滅びる可能性がある、と。」
私が両手を握り締めて提案すると、国王はふふふと、笑った。
「氷の火炎を目にした世代はそれでいいだろうな。問題はその後の世代だ。敵を打ち払う威力だけを見て、それが自分たちも滅ぼすかもしれんなど、その時にならんとわからんものだ。」
「そんな・・・。」
「そういう人間も多いことを、覚悟せねばならない。人の上に立つ身なら覚えておきなさい。」
言えば言うほど、空回り。
はぁ・・・。
国王は、私の頭を優しく撫でた。
「心配するな。まずは我々世代が取り組む話だ。前の世代が生きているうちに、なんとかするさ。それより、アイシスによるとお前は王家の男性陣を虜にしてるらしいな?」
いきなり言われて、顔が真っ赤になる。
アイシスったら、余計なことを!!
「あ、あの、それはからかわれてるんです。
私はそんなつもりありません!」
「ふふ、そうか?
お前はますます魅力的になったぞ?
私も鼻が高い。遅咲きのお前は、時間が経てば経つほど花開いていくはずだ。」
「で、でも、私はまだまだ。魅力的な女性たちを前にすると気後れしてしまうんです・・・。」
スノウティでも、レドリシアでも、一目で魅力と、自信に溢れた女性たちは、いくらでもいるから・・・。
国王は、目を細めて私を見た。
「心配するな。お前はこれから変わるのだ。
火の試練を成し遂げ、氷の火炎を無効化して、アイシュペレサ叔父上の力を天に還せた。
偉大なことを成し遂げたのだ。」
「お父様・・・でも、一人で全部成し遂げたわけじゃないんです。ファイ様たちみんながいたから。」
「それでいい。力を借りたい時に、貸してもらえる環境下にいることが重要なのだ。
いずれお前が力を貸すことも出てくる。助け合いながら、元気にやっていけ。」
「はい。」
私は頷くと、ファイ様と一緒にファイアストム国へと帰った。
こうやって行き来が出来ることは、昔は当たり前じゃなかったのよね。
私も頑張って両国の架け橋にならなきゃ!
そう思っていたら、ファイアストム国に、見慣れぬ一団がきていたの。
あの国旗は・・・風の国、ウィンディ国だ。
皇太子旗が、立ててある。
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