上 下
58 / 64
後編

魅入られし者は誰か

しおりを挟む
その場にいる全員が、息を呑んでヴィノガン様を見る。

「ご自身でアイスリーを殺そうとしましたね、ヴィノガン様・・・もはやあなたを、身内とは思いません。」

ファイ様が眉間にしわを寄せて、立ち昇る殺気を隠そうともしない。

「ヴィノガン・・・お前・・・。
アイシュペレサをだまして、心臓を取らせた。そして、氷の火炎を撃った・・・。」

王太后様の目が、冷たく光る。

ヴィノガン様は周りをにらみ返すと、壁のそばまで歩いていって、氷の鏡を蹴り付けた上に、火の魔法で溶かそうとした。

「無駄です、ヴィノガン様。」

私が声をかけると、彼女は振り向かずにさらに火力を上げて溶かそうとする。

それでも氷は溶けずに、自分のやったことを告白する場面が繰り返し映し出されて、彼女は雄叫びを上げた。

「わあぁぁぁぁ!氷の民ごときに、虫ケラごときに・・・潰されてたまるか!!わらわは英雄だ!
わらわこそこの国のかなめにして、真の王になるべき存在だったのだ!!」

それでも氷の鏡は溶けない。
彼女は、狭い室内で大きな火炎を魔法で生み出したので、みんなが一斉に壁際に避難し、熱さから逃れようとした。

「ヴィノガン!やめよ、見苦しい!!」

王太后様が一喝した。
ヴィノガン様が王太后様を振り返る。

「見苦しい、だと?」

「そうだ、ヴィノガン。腕の凍結の魔法すら自分で破れぬのなら、勝負は決まっている。
つまりお前は、アイスローズより弱いということだ。」

「弱い・・・?わらわが?戦場を駆け抜けて、輝かしい戦功を挙げてきたわらわが?」

ヴィノガン様は、震えながら王太后様のところに歩いてくる。

「嘘だ・・・。わらわは敵に恐れられ、味方に賛美された英雄だ・・・。なのにこんな小娘にも勝てぬと?」

「ヴィノガン・・・。お前は、アイスローズ見下みくだしすぎる。ファイと同じく、神獣の瞳を持つ存在なのだ。彼女の力に拮抗できるのは、ファイしかいないのだぞ?」

「認めぬ・・・わらわはこの氷の民に敵わぬなど、認めぬ。もう一度あの大戦を引き起こし、英雄として返り咲いてやる・・・わらわの望む居場所を作り出してやるのだ。」

そして一歩一歩私に近づいてくる。
ファイ様がすぐ私の横に駆けつけてきて、肩を抱き寄せた。

ヴィノガン様は、歩きながら空中にいくつもの火球を作り出し、全て私めがけてぶつけようとする。

すぐに隣のファイ様が、全ての火球を魔法のシールドで受け止めて無効化した。

かなり魔力を消費しているはずなのに、ヴィノガン様は、まだ余力を持って歩いてくる。

「うぅ~・・・魔神の心臓をよこせ、アイスローズ。魅入みいられし者になったかもしれぬお前が、持つべきではない。」

「嫌です。私は魅入みいられし者になってない。
そして、王太后様も、もちろん違う。」

それを聞くと、ヴィノガン様は再び頭上に巨大な火の塊を魔法で作り出した。

「なぜ、わかる!?見分けられるのは・・・。」

私は自分の影を見つめた。

「そう・・・魔神だけ。」

次の瞬間、私の影から魔神が飛び出してきた。
私とファイ様と、王家の人々以外は、驚いて部屋の端に駆け寄る。

ヴィノガン様は、発動しかけた魔法を打ち消して、自分の私兵の後ろに隠れた。

「な、なんだ!?」

その場にいる全員が、驚いていたけれど、試練を受けた王家の人々は、魔神を知っているので、そこまで驚かない。

「何故だ!!何故魔神がここにいる!?」

ヴィノガン様が怯えきって叫んだ。
私は魔神を見ながら、静かに彼女に言う。

「私や王太后様が、魅入みいられし者ではないと証明するために。」

魔神の放つ光を浴びて、王家の人々のひたいに、魔神を服従させたあかしの印が浮かび上がる。

王太后様の額にも、ファイ様たちと同じ印が浮かんでいた。

ファイ様が、私を見て微笑ほほえむと、

「アイスリーにもある。氷の試練も受けているから、二つ浮かんでる。」

と、言った。自分では見えないけど、あるならそれでいい。

私は隠れたまま出てこないヴィノガン様に、声をかけた。

「ヴィノガン様?ちゃんと見てください。
私も王太后様も、試練を終えたあかしが見えます。」

でも、彼女は出てこない。
やっぱり、彼女は・・・!
私は魔神に話しかけた。

「この中に“魅入みいられし者”はいる?」

魔神はゆっくりと、その目から赤い光の線を伸ばしていって、ヴィノガン様のいる場所を照らしていく。

彼女の周りにいた私兵たちも、赤い光のにあたるのを嫌がって避けたために、壁際まで避難していたヴィノガン様の姿が、はっきりと見えた。

魔神の光は彼女のひたいに、ピタリとあたっている。

「ううっ・・・見るな・・・見るでない!!」

ヴィノガン様は必死にひたいを隠していた。
王太后様は、王の方を向いてうなずくので、王様が貴族たちに命令した。

「ヴィノガン叔母上を、王太后様の前に連行せよ!!」

貴族たちは、慌ててヴィノガン様の両脇を抱えると、私たちの前に連れてくる。

「離せ!離せ、わらわは王太后様の妹で、王の叔母だ!!うぬらが手を触れていい存在ではない!!」

再び頭上に炎の塊を魔法で作り出して、周りに放とうとするので、私は氷の魔法で炎を凍結させて、粉々に砕いた。
往生際おうじょうぎわが悪いんだから!

「くそ!氷の民がぁ!!
覚えておけ!骨も残らぬほど燃やし尽くしてやる!!」

目をギラギラさせたヴィノガン様のひたいには、レドリシアと同じ文字が浮かび上がっている。

「王太后様・・・!これは?」

文字に気づいた周りの貴族たちが、王太后様の方を見る。

「・・・古代文字で『敗北者』と書いてある。
ヴィノガン・・・お前は“魅入みいられし者”になっていたか・・・。試練にやぶれていたのだな。」

王太后様は、悔しそうな目で彼女を見ている。
周りの人々がざわめきだして、恐れたように彼女から離れていく。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

読んでくださってありがとうございました。
お気に召したら、お気に入り登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。


※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。

文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。 父王に一番愛される姫。 ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。 優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。 しかし、彼は居なくなった。 聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。 そして、二年後。 レティシアナは、大国の王の妻となっていた。 ※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。 小説家になろうにも投稿しています。 エールありがとうございます!

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

処理中です...