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後編

バレませんように

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私たちは準備を済ませて、地上へと出るゲートを通った。

外の光がとてもまぶしく感じる。
やがて、目も慣れてきて、私たちの帰還を知らせる太鼓の音が鳴り響いた。

「レドリシア様、ご帰還ー!!」

侍従の声が聞こえてきて、今いる場所がちょうどダンジョンの入り口の裏側になっていることことがわかった。

王様たちがいる、丘の上の天幕の色が変わっている。

出口の周りには、ヴィノガン様の私兵がいて、私たちがレドリシアとサラマンダムだとわかると、武器を降ろしてヴィノガン様の方へと、引きげていった。

怖かった・・・もしアイスリーのままで出てきていたら、王太后様の名の元に捕えられていたかも。

やがて、天幕の中から王様たちが出てきて、私たちを見下ろしたので、ひざまずいて挨拶をした。

「ファイリア!!」
「姉様!」

ファイ様に変装したファイリアお義姉様ねえさまと、プロメテクスお義兄様にいさまと、アポロニお義兄様にいさまの三人が、サラマンダムに変装したファイ様が腕に抱えているファイリアお義姉様の甲冑かっちゅうの方を向いて走ってくる。

実はこれ、空の甲冑かっちゅう
フルフェイスの甲冑かっちゅうで、マントを羽織ってるから、こうして抱えていると、本当に中身が入っているように見える。

「妹に何があった!?アイスローズは!?」
「アイスリーだけ、なぜいない!?」

三人とも、憎しみを込めた目で見てくる。
えっと、レドリシアならこういう時・・・。

「ふん、あのノロマなアイスリー様なら、ダンジョンで迷子にでもなってるんでしょう。
それよりも、私の生還をお喜びくださいませ。」

腰に手を当てて、あごを少しあげ、声は高飛車に。

性悪女しょうわるおんなめ・・・!
ヴィノガン様の庇護ひごがなければ、すぐにでも追い出すのに!」

アポロニお義兄様にいさまが、語気を強めてにらむ。
プロメテクスお義兄様にいさまも、私の肩を掴んで、

「いい気になるなよ。
王家の一員になどさせぬ。
アイスローズの仇は必ず取る!」

と、おどしてきた。
こんなに思われていたんだと思うと、嬉しい。

でも、顔に出してはダメ。

私はファイ様と打ち合わせ通り、彼に掴まれた肩を振り払うようにみ合いながら、三人に見えるように、手の甲に再び浮かんだ焼印を見せる。

三人は一瞬ハッとなったけど、私が片目を素早く閉じると、ニンマリと笑って軽くうなずいた。

「お離しくださいませ!
私は未来の皇太子妃、果てはこの国の王妃になる身なのです!!」

一声大きく声を荒げて、プロメテクスお義兄様にいさまの手を振り払う。

「殿下ぁ!殿下だけは、私の味方ですわ!」

それからあのレドリシアの猫撫で声をあげながら、私はファイ様に変装したファイリアお義姉様ねえさまに抱きついた。

・・・彼女なら絶対こうするもの。

「離せ!無礼だそ!レドリシア!」

ファイリアお義姉様ねえさまも、ファイ様になりきって私の腕を解こうとするけど、力がほとんど入ってない。

わざと強くしがみつきながら、耳元で簡単に経緯を説明する。
彼は・・・いいえ、彼女は一通り聞くと、小声でつぶやいた。

「おかえり・・・アイスローズちゃん・・・。
信じて・・・いたわ・・・。」

そう言ってから、私の腕から逃れるように離れていく。

プロメテクスお義兄様にいさまは、迫真の演技で忌々しそうに手を振ると、ファイ様が変装したサラマンダムに近づき、ファイリアお義姉様ねえさま甲冑かっちゅうをゆっくり受け取る。

その間、小声で二人が素早く会話した。

「守備は。」

「アイスリーは攻略、レドリシアは敗北しました。焼印は今も消えません。
アイシス皇太子がヴィノガン様にそそのかされて何処どこかにいますので、探りを入れます。
あとはお兄様、よろしくお願いします。」

私はその間、髪を撫でつけるように整えるフリをしながら、ヴィノガン様の方をチラリと見た。

だませているかしら・・・。
特に表情に変化はない。
怪しんではいないみたい。

でも、気のせいかしら。
ヴィノガン様は、なんとなく肩で息をしている。

何度も口元をぬぐって、何か耐えているような素振りも見せていた。

何かしら。

プロメテクスお義兄様が甲冑かっちゅうを腕に抱え、アポロニお義兄様はファイ様に変装したファイリアお義姉様の肩に手を置くと、三人は王の元へ戻った。

「ファイリアを宮へ運べ!医師をよぶのだ!」

王様が命令して、侍従に囲まれたプロメテクスお義兄様が、バーニスお義姉様を伴って、宮の方へと去っていく。

よかった・・・特に問題は・・・。

「猿芝居はそれで終わりか?レドリシア。」

ヴィノガン様の声がした。
背中に嫌な汗をかきながらも、平常心を装ってヴィノガン様を見る。

な、な、何がいけなかったんだろう。
声だって変えてるのに。
ここでバレたらアイシスが危なくなる。

「芝居とはどういうことですの?」

少し声が震えてしまった。
落ち着いて・・・落ち着いて!

ヴィノガン様は輿こしにのせられて、私の近くまでやってくると、輿こしを降りてガツーン!と杖を打ち据えた。

「そなた、本当は・・・。」

彼女は杖の先で私のあごを持ち上げてくる。
どうしよう!いえ、まだわからない!!


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。


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