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後編

魔神の服従

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周りの言葉をさえぎるように、大きな声をあげて指輪の魔力の解放に意識を集中する。

怒りに任せて、周りの人たちに向けて、火の魔力を込めた指輪をかまえた。

このまま、炎で焼き尽くしてやる!!

そう思った瞬間、周りから一斉に笑い声があがった。

火を使えないわけじゃないのよ!!

私の激しい思いに、部屋の周囲の松明たいまつの火が連動するように強く燃え始めた。

その刹那せつな、心臓が一度ドクン!と、音を立てて胸を打ち、苦しさに座り込む。

・・・いけないっ、火を直接操ろうとして体にリバウンドが起きた・・・!!

脂汗あぶらあせをかいて、全身の血が凍りついたように体が冷え込む。

浅い呼吸を繰り返して、鈍った視界がようやく戻ってくると、もう一度ファイ様の魔力が込められた指輪を見つめた。

ポツリポツリと、彼と過ごした時間が、思い出される。

迎賓館で会った時も、そのあとも、彼は私を大切にしてくれた。

会うたびに好意を伝えてくれて。

人前であろうとなかろうと、私にたくさん愛情をそそいでくれた人なのに・・・。

そんな人に、実は疑っていると言えなくて、そのままにしたことで、ふくれ上がった不安。

でも、それは、彼と向き合うのを恐れたから。
自分に自信もなくて、愛してもらってるだけでありがたいのに、疑問をぶつけるなんてわざわざ嫌われることをしたくないと逃げた。

・・・そのくせ、自分は裏切られているかもしれないと、被害者意識ばかり強くなってしまって、いじけていた。

何してるのよ・・・私ったら。
これじゃ、前のウジウジした自分のままじゃない。

私の目の前で、どす黒い炎の色が、少しずつ戻っていく。

私は座り込んだまま氷の魔力の抑えを解いて、私のもう片方の手を指輪の上にかざした。

炎が指輪から吹き出してきたけれど、上にかざされた私の手を嫌がって、手を避けて炎が天井へ向けて吹き上がる。

いつも彼が作り出す、激しくも優しい炎。
目の前のファイ様が、さっきぶつけてきたあの禍々まがまがしい炎とは違う。

指輪の火が私の手を避けるのは、何度やっても同じ。私は元通り火を抑え込んだ。

こんなふうになるのは、体裁ていさいの・・・。

「こんなふうになるのは、体裁ていさいの為だ。
愛情からではない。」

目の前のファイ様が言った。
やっぱり。私が思うことを口に出してる。

ということは、このファイ様やレドリシアも本物じゃない。

つまりここにいる全員、

「みんな、私なのね。」

私が言うと、光が当たり一面に溢れて、次の瞬間そこにいるみんなが『私』の姿になった。

魔神が言っていた。
敵を間違えるな、と。

彼らを攻撃していたら、間違いなく自分に跳ね返るところだった。

「ファイを信じていいの?」

『私』たちは、一斉いっせいに尋ねてくる。

「・・・ええ。
疑うのは、『わからない』からだもの。
わからないなら、聞けばいい。
彼は、きっと答えてくれる。」

「嘘をつくかもよ?」

誤魔化ごまかして、答えないかも。」

「嫌われるかも。」

・・・自分の本当の声を、こんなふうに外から聞くなんてね。

「もし、彼がそうするなら、その程度の人だったというだけ。」

「傷つくわよ?」

「辛いわよ?」

・・・疑ってるくせに、相手が期待通りでないと傷つく。
彼の優しさや愛情に満たされながら、そこに『誠実』さと『絶対』を『当然』のように要求している。

我儘わがままで、身勝手で、どうしようもなく独善的な独占欲。
私は決して聖人君子じゃない。

「・・・過ごした時間は短いけど、彼が好き。
だからこそ、ちゃんと“知りたい”。
嫌われるのは怖いけど、“向き合う”ことを自分に課して、これからやっていきたい。」

そう言った途端、周りの『私』たちが、光の粒になって私の中に吸い込まれていき、目の前に魔神が現れた。

「グルルル・・・嫉妬しっと猜疑さいぎの炎を見事にぎょしたな。」

魔神は、誰もいなくなった部屋の一番奥に向かって腕を振った。

途端に部屋の奥に広い空間が広がり、炎が灯された篝火かがりびがたくさん宙に浮いているのが見える。

これは、もしかして、過去に試練に挑んで攻略できた人たちがつけたものでは?

魔神はその中の一つの、まだ火がついていないものを指さす。

「グルルル・・・そこから、あそこに火をともせ。その指輪の火を種火として、お前の力だけでともすのだ。」

「!!」

距離があるところにも、今までは指輪の火の勢いで届いた。
今度はそれに頼れない・・・どうしたら・・・。

あ!!ファイアボールの毛があったんだ!

ファイアストム国の神獣ファイアボールの毛に灯した火は、燃え尽きることなく、燃え続ける。

私は背嚢はいのうから、毛のたばを取り出すと、指輪の火をけた。

それをそっと私の氷の魔法で作った、氷のランプに入れて、近くの壁から長い滑り台のようなスロープを氷で作り出す。

あとは、ランプを滑らせて届いたところで、氷の魔法を解いた。

火は燃え移って、明るく周りを照らす。

「グルルル・・・なかなか良い知恵だ。
火の魔力を持たぬ氷の民よ、なんじは魔力ではなく、知恵と心で火を制していくだろう。
我はそんななんじに忠誠を誓う。最下層まで来るがいい・・・。」

魔神がひざまずくのと同時にまぶしい光が目の前を覆って、気がつくと試練の扉を抜けた最初の場所に立っていた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

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