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後編

生還するための道標

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ファイ様と私は、ダイヤモンドダストを連れて皇太子の宮に行った。

ヴィノガン様の私兵が私をはばむから、彼しか知らない秘密の出入り口を教えてもらって、私はそこ通って入ったの。

影武者と入れ替わる時は、ここから出入りしてるんだって。

中では、事前に呼ばれていたミユキが待っていて、中で合流した私たちを奥の部屋に入れて、扉を閉めてくれる。

ファイ様は、そばにある椅子に腰掛けた。

「アイスリー、ここに来て。」

ファイ様が近くの椅子を勧めてくるので、そこに座る。
それを見届けて、ファイ様はミユキも呼んだ。

私は謁見の間のことを彼女に伝えて、ミユキはすぐにそれを理解する。

「ミユキ、氷の民は本当に火を操ることはできないのか?」

と、ファイ様が質問した。
ミユキは暫く考え込んで、私を見た。

「できないことはありませんが、氷の民は、火の魔法を直接操れば命に関わります。
ただし、種火があれば、温度調節することで動かすことは出来ると思います。」

「種火・・・温度調節・・・。」

「以前ファイ様が、フローズリーの言葉に怒って、広間の蝋燭ろうそくの炎を大きくしたことがありましたね。
アイスリー様は、氷の魔法であの火を小さくすることができました。」

ミユキに言われて、あの時のことを思い出した。
確かに、冷やす力で熱を吸い取って小さくしたんだった。

「なるほど、火の勢いを調整か・・・。
ファイアボール、出て来い。」

ファイ様は、籠の中にダイヤモンドダストと一緒に隠れていたファイアボールを呼ぶ。

彼は、かごから出てたファイアボールの長い毛を一本切り取ると、手燭てしょくの受け皿の上に置いた。

そしてその毛に、ファイ様の魔法で火をつける。

「アイスリー、ファイアボールの毛にこうしてつけた火は、尽きることなく燃え続けることができる。
これで、少し練習しよう。」

と、彼は言った。

種火・・・。
アイシュペレサも、巨大な火の魔力を封じた指輪を持っていったと言ってた。

でも、問題は、どうやって火の魔神を服従させるのか。

「火力を競うの?」

「それもあるけど、クエストは挑んだもので違う。
だから、アイスリーにどんなものがくるかは、わからない。」

「そうね、それも氷の試練と同じ。」

「アイスリー。」

ファイ様がとても真剣な目で見つめてきた。
思わず体が緊張してくる。

「火の試練でアイシュペレサは生き残った。」

「そう聞いた。
だから、私も・・・。」

「聞いてくれ。
アイシュペレサは、おそらく魔神を倒して心臓を取り出したと思う。」

「!!」

「氷の民は、火の民と違って火の魔神を倒しても死なないのだろう。
心臓を取り出せたから、禁断の魔法が撃てたんだ。」

「じゃ、魔神はもういない?
あ、でもおかしいよね、ファイたちも受けてるんだから。」

「古来から魔神は、試練を受ける者が変わるたびに生まれ、試練の場から出るまで姿を消さないそうだ。」

つまり、試練を受けるもの一人に対して、一体の魔神が必ず現れる、と。
倒そうが服従させようが、そこは関係ないのね。

「アイシュペレサは、氷の魔法を使うから、加減できずに倒したのかしら。」

私が聞くと、ファイ様は首を横に振る。

「理由もなく倒すことはないだろう。
あるとすれば、そうせざるを得ない場合だけだ。」

「魔神の心臓を取り出すため・・・。
でも、彼はその魔法を身を犠牲にしてとめたのよね?」

「そう、だから氷の火炎を撃ったのは別の人間だと思う。
アイシュペレサに魔神を倒させて、心臓を受け取ることができたもの。」

「まさか、それって!」

私は思わず立ち上がる。
ダンジョンの出口で待っていたのは・・・ヴィノガン様。

「すぐにみんなに伝えないと!」

「さっきそれも話し合ってた。
だが、今動くと王太后様の命が危険だ、というのが王の結論だ。
悔しいが、その通りだと思う。」

彼の言うことは理解できる。
動けない王太后様は、ヴィノガン様の手中にある。

ミユキは、両手を握りしめてファイ様を見た。

「全ては王太后様のご意志だと言われてきましたが、これはヴィノガン様による謀略ぼうりゃくと見えます。王太后様の威光いこうを振りかざして」

ファイ様も、ひたいに片手をあててため息をつく。

「そうだな。
諸侯を巻き込んでまで、仕掛けてくるとなると、その線が濃厚だ。
王太后様ならこんなやり方はなさらない。」

元々、王太后様は私達の結婚には賛成なさっていたと聞いたもの。

でも、話せない現状では、ヴィノガン様の言葉がそのまま王太后様の言葉として通ってしまう。

このままじゃ・・・。

「わ、私も魔神の心臓を取れと言われるの?
まだ、何も言われてないけど・・・でも、それはいつ?明日?」

「アイスリー。」

ファイ様が私の手を引いて、自分の膝の上に座らせる。

「私がついている、アイスリー。
決して一人にしない。」

「ファイ。」

私たちは名前を呼び合って、互いを抱き寄せ合う。力を合わせて、なんとかこの難局を乗り切らないと。

その様子を見て、ミユキは姿勢をただす。

「どうぞ、よろしくお願いします。
アイスリー様にもし何かあれば、この国はブリザードゥ国と再び戦うことになります。」

「ミユキ・・・。」

「アイスリー様への火の試練の強要は、国内の民は納得させられても、ブリザードゥ国を始めとする諸外国には通用しない言い訳です。
始めから、アイスリー様に火の魔力がないことはわかっていたのですから。」

ミユキの言うことは正しい。
騙すようなものだもの。

「こんな理由で開戦ともなれば、ファイアストム国の国益にならず、同盟国も離れるでしょう。」

「ミユキ、開戦なんてそんな大袈裟おおげさなこと言わないで。」

「いいえ、アイスリー様。
あなたは、ブリザードゥ国の第一王女でもあるのです。」

ミユキは厳しい姿勢を崩さない。
そう、たしかに私は国を背負って、ここにいる。

「その通りだ。今回は必ず成功させないと、私たちもこの国もダメになる。」

ファイ様は、私を見る。
私は彼の肩に片手を置いて、手燭てしょくともされた火を見つめた。

「綺麗な火。」

静かに燃える小さな火は、温かくともっている。

「私の火は決してアイスリーを傷つけない。
忘れないでくれ。」


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。


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