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後編
レドリシアとファイの過去
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「え・・・ファイ様、フラれたのですか?」
私が驚いて聞くと、バーニスお義姉様はハッとなって口に手を添える。
そして俯きながらゆっくり手を下ろすと、
「そう。ちょうど風の国ウィンディ国の皇太子がこの国に留学しててさ、彼を誘惑して一緒に出て行っちゃった。ファイはひどく落ち込んだの。」
なんて人!
そんなことをして、昨日はあんな笑顔でファイ様や私に挨拶してたんだ!
いえ、その前から皇太子の宮に出入りしてたと言ってた。
どれほど、面の皮が厚い人なんだろう。
ファイ様、そんな人と付き合ってたのね。
彼の黒歴史を知ってしまったわ。
「ファイは落ち込んでいたけど、またあなたとの婚約の話が復活して回復していったの。この氷の宮を建てて明るくなったのよ。」
バーニスお義姉様が、部屋の中を見回しながら話してくれた。
この氷の宮は王宮の敷地の中でも、一番涼しいところに造られている。
調度品も、ブリザードゥ国から取り寄せたものが置いてあって、私が寂しくないようにちゃんと考えられていた。
「これから、あの子をお願いね。
本当に心からアイスローズちゃんのこと、大好きなのよ。
そして神獣の瞳を持つ者にしか、わからない孤独をわかってあげて。」
バーニスお義姉様は、そう言ってにっこり笑った。
神獣の瞳を持つ者・・・か。
私も確かにフローズリーによって封印されたものが解けてからは、魔力が強くなったのはわかる。
それに、魔力をいつも以上に高めようとすると、ある一点でものすごく怖くなるの。
この先に突き抜けると、自分はきちんと力を制御できるのかと不安になる。
でも、それだけ。
他には何も変わってない。
周りから見たら、万能に見えてるらしいから、変に期待される息苦しさはなんとなくわかる。
私はバーニスお義姉様に頭を下げると、
「わかりました。
私もファイが大好きです。
彼とはずっと、隣で手を繋ぐと約束してるんです。」
と言うと、お義姉様は目をパチリと見開いた。
「え、アイスローズちゃん、呼び捨てなんだ?」
「あ・・・その、これは、彼がそうして・・・と。
すみません、お義姉様と話す時は『様』をつけないと、非礼ですね。」
「ううん、驚いてるだけ。
あの子は、今までの恋人たちにも絶対に呼び捨てさせなかったから。
ふふ、やっぱり本命は特別ね。」
バーニスお義姉様にからかうように言われて、顔が真っ赤になる。
私は慌ててもう一度お辞儀をすると、彼女の侍女と一緒に外に出た。
宮の外の兵士は、私たちにあまり注意を払わず、通してくれたの。
皇太子の宮の前を抜けて、バーニスお義姉様の侍女と別れると、王太后様の宮に足を踏み入れる。
ここは初めて来た。とても豪華な建物だわ。
ファイ様が、事前に私が通ることを衛兵に伝えていたらしく、すんなりと通された。
感心していると、中庭を挟んだ廊下の向かい側に私を待つファイ様と、ちょうど彼と鉢合わせたレドリシアが見えた。
なぜここに?
私はダイヤモンドダストを入れた籠を抱えて、急いで中庭に出る階段を降りると、こっそり二人の近くに隠れる。
レドリシアはファイ様に挨拶をして、
「ファイバーン皇太子殿下も、王太后様にご挨拶を?」
甘ったるい猫撫で声で話す。
スノウティといい、この人といい、なぜそんな声なの・・・。
「そうだ。
それにアイスリーの火の試練のことで、きっぱり抗議したい。
そっちこそ、ここに何の用だ?」
「私はヴィノガン様との、打ち合わせがありましたの。
それで、殿下?アイスリー様は火の試練はお受けにならないの?」
「アイスローズ皇太子妃殿下と呼べ。
彼女に火の試練の必要はない。
大体、お前こそ父上を飛び越えて、ヴィノガン様と何を打ち合わせた?」
「それは、ヴィノガン様に直接お尋ねください。
それより、殿下は私が恋しくなったりしませんの?」
胸の大きく開いたドレスを着ているから、昨日よりも露骨に誘っている。
「べつに恋しくない。
アイスリーがいるから。」
「あら・・・そんなに違うのかしら。」
意味深に胸の辺りに手をやって、上目遣いしてる。
何よ、頭にくる!!
あーもう、魔法で凍らせてやろうかしら!
「アイスリーの方がいい。
お前とはもう、終わっている。
いや、終わらせたのはそっちだったか。」
ファイ様は、視線をすぐに外して、そっぽを向く。
レドリシアは、一瞬言葉に詰まってため息をついた。
「は!まだあの時のことを恨んでますの?
でも、私はこうして戻ってきたのです。
それは殿下を愛してるからですわ。
お人柄もその美しい神獣の瞳も・・・。」
「時間が惜しい。
失礼する。」
ファイ様が彼女に背を向けたので、レドリシアは頬を膨らませて、その背中に叫ぶ。
「昔、私を『アイスリー様の代わり』として、扱ったのはあなたですわ!
どれほど悔しかったか・・・!」
代わり・・・。
ファイ様、昨夜言ってた。
彼女は私と似た髪の色、同じ香水でそれだけだった、と。
言われたファイ様は、チラリとレドリシアを冷たい目で見た。
彼のこんな怖い顔、初めて見る。
「私の好意をいいことに、私腹を肥やして好き勝手にふるまったのは誰だった?」
彼に言われたレドリシアは、長い髪を片手ですいっと後ろに撫でると、
「本物の愛をくださらないんですもの。
心の痛みを、沢山のお金で癒すしかなくて。
殿下も私を彼女の代わりとして扱う罪悪感から、黙認していただけでしょ?」
と、言い放った。
この二人・・・て、本当にこんなドロドロした関係だった・・・の?
レドリシアは、ファイ様の背中に駆け寄ると、ピタッとくっついた。
「私をまた愛してくだされば、全て丸く収まりますわ。アイスリー様も悪いようにはしませんから。」
こ、こ、こいつ、もう、許さない!
本当に凍らせてやるんだから!
カッとなった私は、彼女を凍らせようと魔力を籠める。
その時、ファイ様の静かな声がした。
「風の国の皇太子はどうしたんだ?
彼は私ほど気前がよくなかったんだろ?」
レドリシアの動きがピタリ止まり、体をゆっくり離すと目を細めて彼を見る。
「確かに大したお金にはなりませんでしたわ。
人間、愛情より罪悪感から手放すお金の方が、巨額で後腐れがないと知りましたの。」
突然醒めたような声色に変わって、彼女のその豹変ぶりに驚く。
ほとんど詐欺師なんじゃない?この人・・・。
ファイ様、彼女のために相当いろんなこと揉み消してたんじゃないのかしら。
彼は、冷たい瞳からいつもの温かみのある瞳に戻ると、
「私も、高すぎる授業料で女性の怖い一面を知ったよ。もうお前に未練はない。さよなら、レドリシア。」
と、言って肩をすくめる。
レドリシアは、肩透かしされたような顔で彼を見上げた。
「・・・変わりましたね、殿下。
私が知っているあなたと少し違う。
芯がぶれなくなったというか、迷いを見せなくなりましたね。」
「・・・。」
ファイ様は無言で応えようとしない。
私の知らない過去の彼。
レドリシアしか知らないと思うと、とても寂しくなってくる。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
読んでくださってありがとうございました。
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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
私が驚いて聞くと、バーニスお義姉様はハッとなって口に手を添える。
そして俯きながらゆっくり手を下ろすと、
「そう。ちょうど風の国ウィンディ国の皇太子がこの国に留学しててさ、彼を誘惑して一緒に出て行っちゃった。ファイはひどく落ち込んだの。」
なんて人!
そんなことをして、昨日はあんな笑顔でファイ様や私に挨拶してたんだ!
いえ、その前から皇太子の宮に出入りしてたと言ってた。
どれほど、面の皮が厚い人なんだろう。
ファイ様、そんな人と付き合ってたのね。
彼の黒歴史を知ってしまったわ。
「ファイは落ち込んでいたけど、またあなたとの婚約の話が復活して回復していったの。この氷の宮を建てて明るくなったのよ。」
バーニスお義姉様が、部屋の中を見回しながら話してくれた。
この氷の宮は王宮の敷地の中でも、一番涼しいところに造られている。
調度品も、ブリザードゥ国から取り寄せたものが置いてあって、私が寂しくないようにちゃんと考えられていた。
「これから、あの子をお願いね。
本当に心からアイスローズちゃんのこと、大好きなのよ。
そして神獣の瞳を持つ者にしか、わからない孤独をわかってあげて。」
バーニスお義姉様は、そう言ってにっこり笑った。
神獣の瞳を持つ者・・・か。
私も確かにフローズリーによって封印されたものが解けてからは、魔力が強くなったのはわかる。
それに、魔力をいつも以上に高めようとすると、ある一点でものすごく怖くなるの。
この先に突き抜けると、自分はきちんと力を制御できるのかと不安になる。
でも、それだけ。
他には何も変わってない。
周りから見たら、万能に見えてるらしいから、変に期待される息苦しさはなんとなくわかる。
私はバーニスお義姉様に頭を下げると、
「わかりました。
私もファイが大好きです。
彼とはずっと、隣で手を繋ぐと約束してるんです。」
と言うと、お義姉様は目をパチリと見開いた。
「え、アイスローズちゃん、呼び捨てなんだ?」
「あ・・・その、これは、彼がそうして・・・と。
すみません、お義姉様と話す時は『様』をつけないと、非礼ですね。」
「ううん、驚いてるだけ。
あの子は、今までの恋人たちにも絶対に呼び捨てさせなかったから。
ふふ、やっぱり本命は特別ね。」
バーニスお義姉様にからかうように言われて、顔が真っ赤になる。
私は慌ててもう一度お辞儀をすると、彼女の侍女と一緒に外に出た。
宮の外の兵士は、私たちにあまり注意を払わず、通してくれたの。
皇太子の宮の前を抜けて、バーニスお義姉様の侍女と別れると、王太后様の宮に足を踏み入れる。
ここは初めて来た。とても豪華な建物だわ。
ファイ様が、事前に私が通ることを衛兵に伝えていたらしく、すんなりと通された。
感心していると、中庭を挟んだ廊下の向かい側に私を待つファイ様と、ちょうど彼と鉢合わせたレドリシアが見えた。
なぜここに?
私はダイヤモンドダストを入れた籠を抱えて、急いで中庭に出る階段を降りると、こっそり二人の近くに隠れる。
レドリシアはファイ様に挨拶をして、
「ファイバーン皇太子殿下も、王太后様にご挨拶を?」
甘ったるい猫撫で声で話す。
スノウティといい、この人といい、なぜそんな声なの・・・。
「そうだ。
それにアイスリーの火の試練のことで、きっぱり抗議したい。
そっちこそ、ここに何の用だ?」
「私はヴィノガン様との、打ち合わせがありましたの。
それで、殿下?アイスリー様は火の試練はお受けにならないの?」
「アイスローズ皇太子妃殿下と呼べ。
彼女に火の試練の必要はない。
大体、お前こそ父上を飛び越えて、ヴィノガン様と何を打ち合わせた?」
「それは、ヴィノガン様に直接お尋ねください。
それより、殿下は私が恋しくなったりしませんの?」
胸の大きく開いたドレスを着ているから、昨日よりも露骨に誘っている。
「べつに恋しくない。
アイスリーがいるから。」
「あら・・・そんなに違うのかしら。」
意味深に胸の辺りに手をやって、上目遣いしてる。
何よ、頭にくる!!
あーもう、魔法で凍らせてやろうかしら!
「アイスリーの方がいい。
お前とはもう、終わっている。
いや、終わらせたのはそっちだったか。」
ファイ様は、視線をすぐに外して、そっぽを向く。
レドリシアは、一瞬言葉に詰まってため息をついた。
「は!まだあの時のことを恨んでますの?
でも、私はこうして戻ってきたのです。
それは殿下を愛してるからですわ。
お人柄もその美しい神獣の瞳も・・・。」
「時間が惜しい。
失礼する。」
ファイ様が彼女に背を向けたので、レドリシアは頬を膨らませて、その背中に叫ぶ。
「昔、私を『アイスリー様の代わり』として、扱ったのはあなたですわ!
どれほど悔しかったか・・・!」
代わり・・・。
ファイ様、昨夜言ってた。
彼女は私と似た髪の色、同じ香水でそれだけだった、と。
言われたファイ様は、チラリとレドリシアを冷たい目で見た。
彼のこんな怖い顔、初めて見る。
「私の好意をいいことに、私腹を肥やして好き勝手にふるまったのは誰だった?」
彼に言われたレドリシアは、長い髪を片手ですいっと後ろに撫でると、
「本物の愛をくださらないんですもの。
心の痛みを、沢山のお金で癒すしかなくて。
殿下も私を彼女の代わりとして扱う罪悪感から、黙認していただけでしょ?」
と、言い放った。
この二人・・・て、本当にこんなドロドロした関係だった・・・の?
レドリシアは、ファイ様の背中に駆け寄ると、ピタッとくっついた。
「私をまた愛してくだされば、全て丸く収まりますわ。アイスリー様も悪いようにはしませんから。」
こ、こ、こいつ、もう、許さない!
本当に凍らせてやるんだから!
カッとなった私は、彼女を凍らせようと魔力を籠める。
その時、ファイ様の静かな声がした。
「風の国の皇太子はどうしたんだ?
彼は私ほど気前がよくなかったんだろ?」
レドリシアの動きがピタリ止まり、体をゆっくり離すと目を細めて彼を見る。
「確かに大したお金にはなりませんでしたわ。
人間、愛情より罪悪感から手放すお金の方が、巨額で後腐れがないと知りましたの。」
突然醒めたような声色に変わって、彼女のその豹変ぶりに驚く。
ほとんど詐欺師なんじゃない?この人・・・。
ファイ様、彼女のために相当いろんなこと揉み消してたんじゃないのかしら。
彼は、冷たい瞳からいつもの温かみのある瞳に戻ると、
「私も、高すぎる授業料で女性の怖い一面を知ったよ。もうお前に未練はない。さよなら、レドリシア。」
と、言って肩をすくめる。
レドリシアは、肩透かしされたような顔で彼を見上げた。
「・・・変わりましたね、殿下。
私が知っているあなたと少し違う。
芯がぶれなくなったというか、迷いを見せなくなりましたね。」
「・・・。」
ファイ様は無言で応えようとしない。
私の知らない過去の彼。
レドリシアしか知らないと思うと、とても寂しくなってくる。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
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