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ベロジュの秘密

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「あのお顔は、正直お気の毒とは思います。
しかし、お顔が元のままだろうと、私はスノウティ様はお断りです」

ファイ様が、私たちを見ながら言った。
私は驚いてファイ様を見る。

「私は、婚約者のアイスリー様に会いにきたのです。スノウティ様ではありません。
ファイアボールも、彼女を嫌っていたし」

と、彼はさりげなく言う。
・・・顔が熱いわ。
ま、まだ、平手打ちされたところが熱を持ってるのかしら。
片手を顔にあてて、俯いてしまう。

それを聞いたミユキはクスクス笑い、

「ふふ、三度目の宮廷女官長ベロジュの挫折決定」

と、言った。
なんだかこの言い方、昔からの知り合いみたい。

「ミユキ、もしかしてベロジュをよく知ってるの?」

私が聞くと、ミユキは遠い目をした。
それから、胸元からペンダントを取り出して開いて見せる。

ベロジュに面差しの似た、二人の女性の写真が入っていた。

「一人は私の母、もう一人はその妹、つまり叔母です。二人はベロジュの娘たちです」

ミユキの言葉に、私とファイ様は顔を見合わせる。

「つまりミユキはベロジュの孫?」

 私が言うと、ミユキは頷いた。

「ベロジュは若いころ、先王の妃候補の一人でした。万全に備えて挑んだのに、僅差きんさで選ばれなかったそうです。
実は先王には既に心に決めた人がいて、ベロジュは最初から負けが決まっていました。
プライドの高い彼女は耐えられず、荒れたそうです」

「それで?」

「その無念を、ベロジュは娘たちに託しました。今の王の妃選びに備え、それは厳しく鍛えたのです。母はあまりの厳しさに発狂しかけ、唯一耐えられたのは叔母でした。
しかし、叔母もまた選ばれなかった。
王妃様が、既にアイスリー様を宿していたからです」

と、ミユキは言った。
二度目の挫折ね。
というか、そんなに心を決める女性がいたなら、最初から妃選びなんてしなければいいのに。国の恒例行事は、変更が効かないのが迷惑よね。

「それからどうなったの?」

と、私が聞くと、ミユキはペンダントを閉じる。

「叔母は別の男性と結婚しました。
その後娘を一人産んだのですが、出産後叔母は亡くなり、生まれたばかりの赤ん坊は行方不明になったそうです」

それはどういうことだろう。

「誘拐されたの?」

と、私が聞くと、ミユキは首を横に振った。

「ここから先は憶測です。
叔母が亡くなった同じ日に、王の妹コオリス様も女の子を産んだそうです。
ところがその日は、産声がいつまで待っても聞こえてこなかったとか。
それなのに、翌日は生まれたばかりの赤ん坊が、コオリス様の隣にいたそうです」

私たちの会話を聞いていたファイ様は、ミユキを見る。

「つまり、スノウティ様はすり替えられたと?」

と、彼が言う。
ミユキは暗い目をして、頷いた。

「はい、私はそう思っています。
ベロジュは当時、王宮の礼儀作法を指導する役職におり、出産経験もあるので、コオリス様のところへもよく訪れていたとか。
機会はあったでしょう」

と、ミユキは言った。
そんな・・・自分の孫を王室の王女として育てさせたの?

「王妃に選ばれないから、最初から王族として自分の孫を?」

と、私が言うと、ファイ様は顎に手を当てる。

「その頃は、ファイアストム国と和解条約が締結された節目の年のはずです。いずれ王室同士で、婚儀を執り行うことが決められたでしょう。
その主役を孫にさせることが、ベロジュのブリザードゥ王室に対する復讐だったのかもしれません」

復讐・・・。
完璧な自分たちを選ばなかった、王室に対しての復讐。
でも、婚約者に選ばれたのは、私だった。

ミユキは私の手を両手で握ってくる。

「ベロジュは私が孫だと知っても、『自分の期待に添えなかった不良品の産んだ娘』と言い放ちました。
だから、私はあなた付きの侍女になった。
あなたに戦わせるために。私はあなたを利用したのです」

それにしては、とてもよくしてもらったわ。

「ミユキ、私はあなたには感謝しかないのよ?
あなたがいなかったら、私・・・やってこれなかった」

「復讐のために、あなたを利用したのですよ?虫除けクリームもそう。いつかああなることを、想定して作ったモノです」

「それなら、もう気は済んだの?
やっぱりもう辞めたい?私の侍女・・・。
私は、ファイ様のところに嫁ぐ時も、ファイアストム国についてきてほしいの」

私がそう言った途端、ファイ様が大きく咳払いして、外を見たの。

あ、彼の顔が真っ赤になってる。
・・・!!

わ・・・わわ!
私も顔が赤くなってきた。

そんな私とファイ様を見て、ミユキがはにかんだ顔をしたの。

「ふふっ・・・あなたって人は・・・。
なんてお人好しなの。
そんなだから、つけ込まれるのに。
利用してきた相手に、感謝なんかするものじゃありません。ましてや、重用しようとするなんて」

「本当に危険な人なら、もっと狡猾に言うでしょ?正直に、利用したなんて言わないもの。
それで?ミユキには私は用済みかしら・・・。
私なんか嫌?」

と、言うと、ミユキはもたれかかっていた体を起こして私を見ると、微笑んだ。

「もう、またそうやって後ろ向きな思考に流れる。せっかくお変わりになったのに、このままでは、ファイ様に愛想尽かされますよ!
今後も私がついてないと危なっかしいですね。お供いたします」

「ありがとう、ミユキ。」

私は喜んでミユキを見つめる。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
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