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止まらない侮辱

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晩餐会ばんさんかいには、アイスリー様が出席なさるのです。不幸の渦なんて、そんな言葉にごまかされてはいけません」

ミユキの言葉に、戸惑いながら私は彼女を見つめる。
え、ええ?
私に悪いことがよく起こる日だから、こんなことになって、ミユキまで巻き込んでるのでしょう?私は部屋にこもるべきだったのでしょう?

「んもぅ、ミユキちゃんは邪魔だなぁ~。
余計なことを言わないのぉ~」

フローズリーが、床に寝転んだまま、頬杖をついてミユキを睨みつける。

ミユキは、フローズリーを無視して私の目を見た。

「思考を停止させてはいけません!
あなたが引けば、喜ぶのは誰ですか!?
あなたはずっと、そうり込まれ・・・!」

と、ミユキが言いかけた時、スノウティがミユキをさえぎるように大声を上げる。

「使用人の分際で生意気な!!」

スノウティは、腕に抱いたダイヤモンドダストを床に降ろして、足早に近づいてきた。
そのまま手を上げ、ミユキの顔めがけて振り下ろそうとする。
私は思わず二人の間に進み出た。

咄嗟とっさにスノウティの動きが止まり、ベロジュも彼女を止めようとした手を一瞬緩める。

私はブリザードゥ国王の娘。
いくらスノウティでも、私に手を出すなんてそんなこと・・・。

誰もがきっとそう思ったと思う。
その瞬間は。

でも、そんなみんなの雰囲気を、スノウティは察したのだろう。

『できないと思ってるでしょ?』

彼女は一瞬、そう言いだけな目を私に向けた。

そして次の瞬間、

パァーン!

乾いた音を立てて、頬が打たれた。

痛いっ・・・。

勢いで顔が横に向く。
じわじわと打たれたところが痛み始め、口元に血の味がした。
スノウティの指輪が、私の口元をかすめたのだ。

私は、自分が甘かったことを悟った。
ここは密室。何をしようが他に知られることがないとわかっていれば、スノウティはこれくらい平気でするんだわ。

その瞬間、私の中で何か動いた。
越えてはいけない一線の先に、無断で踏み込まれたという不愉快さが、胸の内側を引っ掻く。

ベロジュは流石に露骨ろこつに笑ったりしなかったけど、口角の角度と、上りかける頬を抑えようとする動きで、笑いをこらえているのだとわかった。

それもすぐに消えていく。
幼い頃から見てきた私にしかわからない、一瞬の喜悦の表情。

その場にいた侍従も兵士も、一瞬凍りついた後、関わりたくないと言いたげに目を伏せている。

フローズリーだけは、床を転がりながら手を叩いて喜んでいた。

「ほっほぉ~!
さすがスノウティ様。
アイスリー様なんか目じゃない、てことですねぇ?・・・いいのかなぁ?」

嫌味なほど、嬉しそうに笑い転げている。

そんな中、ミユキだけはすぐに反応した。

「お従姉妹様といえど、許されるものではありません!」

「あら、私はあなたをぶとうとして、手をあげたのよ。それなのに突然飛びこんできたのだもの。これは事故よ」

スノウティは、痛そうに私を叩いた手をでている。

「そもそも、打たれる原因を作ったのは誰だ。
お前は黙って控えておれば良いのだ。
このことは誰も立証できぬ。わかるな?」

ベロジュは、そう言ってミユキを叱りつける。

「そうそう、だぁれも見てない、知らぁなぁい。宮廷女官長様の得意技~」

歌うように口ずさみながら、フローズリーも起き上がって、あわれむような目で私を見る。

「術中にはまりましたなぁ。
ここは宮廷女官長ベロジュ様の蜘蛛の巣の中。
この防音密室の中でどう足掻こうが、糸が絡まり闇の中へと葬られる。
美しい蝶のようなアイスリー様、ピンチですよ」

部屋を出ようにも、体が動かない。
様々な感情が起きてきて、心の中で複雑に絡まる。

「相変わらず、くすんだ瞳の色をしてますわね、アイスリー様は。
ここまでされても、言い返しもしないなんて。
ふふ、私にはかなわないのですものね?」

手を口元に添えて笑おうとするスノウティを、ベロジュが怖い顔でにらみつける。
ベロジュは近くの使用人に私を手当てをするように命じたあと、スノウティのお尻をピシリとぶった。

『もっとうまくなさらなくては』

そんな声が聞こえてきそうな、少しふざけたような打ち方だった。

「やだ・・・!ふふふ。
ふふっ・・・あははははは!!!
キャハハハハハハハハ!!!」

スノウティはついに口元に手を添えたまま、笑い始めた。
意地悪した後の彼女の笑いはいつもこう、だんだん止まらなくなる。
私たちしか知らない、タガが外れたような笑い方。

「スノウティ様」

ベロジュは低い声で言うと、スノウティの手から手袋と指輪を外して取り替えていく。

「何するの!?お気に入りのものばかりなのよ!?」

スノウティはベロジュに訴えるけど、ベロジュは咳払いをして黙らせた。スノウティの笑いも、ベロジュのにらみであっという間に止まる。
それくらいの迫力がある。

この密室には、スノウティとベロジュの息のかかった者ばかり。

外に出て騒いだところで、有耶無耶うやむやにされたあげくに、城に送り返されるだけ。
お父様もお母様も結局、口の上手いこの二人を信じることになるから。

我慢するしかない。
そもそも今日は悪いことが起きる日だもの。
ほら、もう帰ればいい。

でも、その時は胸の内側を掻きむしる何かに気を取られて、言葉が出てこなかった。

「あー、面白かったわ。
おいで、ダイヤモンドダスト」

スノウティが、床に下ろしたダイヤモンドダストを呼んでいる。

でも、何故かダイヤモンドダストはスノウティのところへ行かず、私の方をじっと見ていた。

私の中のどす黒い感情に、気付いているのではないかしら。
導火線に火がつけば爆発しそうなのに、何故かその寸前で冷える。そんな感情のせめぎ合いが、私の中で起こっていた。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。



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