76 / 76
後日談
この世界はこれからもそこにある
しおりを挟む「私たち、どういう縁なんだろうね。
それが分かれば、いつでも来れる気がするな。」
と、ライカが言った。
「私がこの世界に転生する前の、直近の前世は橘檸檬と言う日本人女性なんです。
知ってる人ですか?」
私が尋ねると、
「ううん、ごめんなさい。
知らない。」
と、ライカが言う。
違うか・・・。
この世界に転生したのは、あの婚約パレードの日。
どうしてだろうか。
ゲームの始めからではなく、あんな途中から。
そう言えば私が橘檸檬だった頃は、かつてのこのゲームの制作スタッフでレモニーのキャラクターデザイン担当者。
体を壊して欧州から日本に戻り、このゲームの出来の確認も兼ねてプレイしていたと、クランシーは言ってた。
ゲームスタッフとしての私の記憶は曖昧だけど、裏シナリオの存在も知らなかったくらいだから、そんなに長く制作に携わってないんだろうな。
でも、ヒロインのアバターパーツも、いくつかデザインした覚えがある。
確か一組だけ、お気に入りの組み合わせを作り出して、それが採用されていたから、自分がプレイする時は、それを使っていた気がするわ。
あれは、どうしたんだっけ。
誰かにあげた?
プレイヤー同士が出会う場は、恋愛ゲームの中ではほとんどない。
あれ?
そういえば、アバターの魅力数値をあげやすくする、レベルアップポイント制というものがあって、お友達申請をして承認されると、自分がヒロインとして適切な行動をしたり、セリフを言ったりすると、そのうちの10%が相手にも入る仕組みがあったな。
そして、それは、もうこのゲームをやめるとき、それまで貯めたポイントやアバターを任意のお友達に譲ることもできる。
まさか・・・。
「ライカ、あの婚約パレードのシーンに入る前に、かつてお友達申請して、承認してもらった相手からポイントやアバターを貰いませんでした?」
と、私が尋ねると、ライカはハッとしたように体を起こした。
「もらった・・・。
もう辞める、て人がいて・・・!
病気で続けられないから、どうぞ、てコメントが・・・。」
「それはいつ頃?」
「ティモシー王子と、街ごと焼き殺されようとした、あのシーンを終えた頃。
婚約パレードに入る前に・・・!
私、それからしばらく仕事が忙しくてアクセス出来なくて、久しぶりにやった時に、あなたが来たの・・・。」
「その時のアバターは、まだ取ってる?」
「ある・・・あるよ!!
顔のパーツや、ドレスや靴や装飾品は変えてるけど、この元になる体や髪の色は凄くいいから、そのまま使ってる。
レベルアップポイントもちゃんと加点させてもらった。」
「もしかしたら、それを使ってくれているから、私はあなたのゲームに宿ったのかもしれません。
つまり、そのアバターがこの世界とあなたをつないでいるのかも。」
「!!」
「もしかして、橘檸檬にもらったアバター全てを装着すれば、自由に出入りできるかもしれません。」
「待って・・・待って今変える!!」
ライカの姿が変わり始める。
やがて、目の前には、見覚えのあるパーツを組み合わせた、ヒロインのアバターが現れた。
今度は、私が涙を流した。
「そう・・・思い出した・・・。
これです。
この姿で、最後のアクセスを終えて、あなたに全て譲ったんです・・・。
それから、入院したんでした。
私・・・死んだらこの世界に生まれ変わりたいと願ってたから・・・。
この世界でなら、彼に・・・ライオネラにまた会えるとレモニカが教えてくれていたのかもしれない・・・。」
「レモニー・・・。」
「ライカ、この姿のままこのシナリオを一旦終えましょう。」
「え!?」
「完結後そのまま保存して、再度アクセスしてみて。」
「『新しく始める』しか、選べないよ?」
「その姿のまま『続きから始める』を選択してみて。
多分次の後日談の配信まで、任意に出入り出来るはず。」
「・・・。
わかった。」
私たちは、船を港に向けて進ませて、エンディングを迎えた。
ライオネルと馬車に乗ったあたりで、エンディング曲が流れ始める。
私はライオネルに伝えて、馬車を途中から船に向かって引き返させてもらった。
確信があるわけではないんだけど・・・。
これまでライカは、アバターのパーツを一部しか使ってなかったから、一度接続を切るとダメだったと思うんだよね。
でも、全てを檸檬の使用していたものに変えれば、きっと!
ライカのアバターは、ティモシー王子と共にまだ、港にいる。
抜け殻のアバターは、反応でわかるの。
あまり積極的に動かず、質疑応答もなんとなく固くなる。
「ライカ様?」
恐る恐る声をかけてみる。
「レモニー様、ご機嫌よう。」
・・・これは抜け殻のアバターの最初の反応だ。
間違えたかしら・・・。
「・・・なんてね、レモニー?」
俯きかけた私の顔を、ライカのアバターが覗き込む。
「え!?
まさか!!」
「やったよ!
すごい!普通にアクセスできた!
このアバター、すごいね!」
ライカが嬉しそうにはしゃぐ。
「アクセスした後で、グレードアップしたアバターに取り替えればいつも通りだよ。
出入りの時だけ、檸檬さんのアバターにすればいいみたい。」
「やったねー!!」
お互い手を取り合って喜ぶ私たちを、周りの人たちは奇異な目で見ている。
「さっきから何してるの?ライカ。」
と、ティモシー王子。
「大体わかるけど、周りはついていけない会話だよ、レモニー。」
と、ライオネル。
「ご、ごめんなさい。」
私たちは二人で謝った。
「ふふ、でも、嬉しい。
このアクセスは、プレイヤーというより、キャラクターの一人になったみたい。
シナリオのない世界はこんなふうに見えるんだね。」
ライカは嬉しそうにこちらをみる。
「次の後日談配信までこんな感じてアクセスしてくださいね、ライカ様。」
と、私が言うと、ライカは激しく頷いた。
「嬉しい・・・、いつでもみんなに会える。」
そのまま、ライカはティモシー王子に抱きついた。
「変なライカ。
いつでもそばにいるのに。」
ティモシー王子も、優しくライカを抱き締めている。
私もライオネルのそばに行って、抱き締め合った。
望む相手と幸せになれる世界。
それが恋愛ゲームの世界。
この『僕の隣は君がいい』のゲームの世界は、かつて不幸な人生の終わり方を迎えてしまった女性が、生まれ変わって幸せになれるよう願って作り出されたものだった。
それが本物の魂が宿る奇跡を起こし、本当に異世界となって今ここに存在している。
プレイヤーライカだけが、アクセスできるこの世界。
おそらくゲームの配信が終わっても、この世界は永遠に存在し続けると思うわ。
私は今日もこの世界で、ライオネルたちと愛し合い、助け合って暮らしている。
これからも、ずっとね。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
長文を読んでくださって、ありがとうございました。
これにてこの物語は完結です。
お気に召したら、お気に入り登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。
次回作は、『人身御供の乙女は、放り込まれた鬼の世界で、超絶美形の鬼の長に溺愛されて人生が変わりました』です。現在公開中です。
※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。
0
お気に入りに追加
88
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました
toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。
一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。
主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。
完結済。ハッピーエンドです。
8/2からは閑話を書けたときに追加します。
ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。
12/9の9時の投稿で一応完結と致します。
更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。
ありがとうございました!
侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています
猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。
しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。
本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。
盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。
公爵閣下に嫁いだら、「お前を愛することはない。その代わり好きにしろ」と言われたので好き勝手にさせていただきます
柴野
恋愛
伯爵令嬢エメリィ・フォンストは、親に売られるようにして公爵閣下に嫁いだ。
社交界では悪女と名高かったものの、それは全て妹の仕業で実はいわゆるドアマットヒロインなエメリィ。これでようやく幸せになると思っていたのに、彼女は夫となる人に「お前を愛することはない。代わりに好きにしろ」と言われたので、言われた通り好き勝手にすることにした――。
※本編&後日談ともに完結済み。ハッピーエンドです。
※主人公がめちゃくちゃ腹黒になりますので要注意!
※小説家になろう、カクヨムにも重複投稿しています。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
ひねくれ師匠と偽りの恋人
紗雪ロカ@失格聖女コミカライズ
恋愛
「お前、これから異性の体液を摂取し続けなければ死ぬぞ」
異世界に落とされた少女ニチカは『魔女』と名乗る男の言葉に絶望する。
体液。つまり涙、唾液、血液、もしくは――いや、キスでお願いします。
そんなこんなで元の世界に戻るため、彼と契約を結び手がかりを求め旅に出ることにする。だが、この師匠と言うのが俺様というか傲慢というかドSと言うか…今日も振り回されっぱなしです。
ツッコミ系女子高生と、ひねくれ師匠のじれじれラブファンタジー
基本ラブコメですが背後に注意だったりシリアスだったりします。ご注意ください
イラスト:八色いんこ様
この話は小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿しています。
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ゲームそのものに転生だなんて新しい!面白いですね。続きが楽しみです
いつもありがとうございます。
プレイヤーと元プレイヤーが相談し合いながら進めるという話は、面白いのではないかと思い、この作品を書きました。
気に入っていただけて嬉しいです。