悪役令嬢は、犯人ではございません!

たからかた

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後日談 

仮面の下の素顔(シャーリーン視点)

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しばらくそうしていると、そこへケルフェネス王子が来た。

う・・・まだ答えは決めてないのに。

「いきなりのことで、ごめんね。」

と、言ってこちらを見ないで隣に座る。

「どうして、私なんです?」

私は腕で目を覆って質問した。

どうせ、耳に聞こえのいい返事しかないんだろうな。

「君は私の嘘に、真っ向から立ち向かおうとするから。
そして、その先にある私を見ようとしてくれるから・・・。」

と、彼はそんなことを言った。

・・・あれ?
どうしたの?
あなたも中の人が変わったの?

私は、目から腕を少しずらして彼を見た。

「私の嘘はあの王宮の中では必須だ。
本音は弱味になり、弱味は奸臣の付け入る隙になる。
・・・でも、そのうち嘘しか言えなくなった。
気がつくと、私の周りは本当のものがなくなっていった。
兄上が居なくなって、この気持ちを共有できる存在すらなくして、孤独になった。」

ケルフェネス王子は、淡々と話す。

「寂しいの?」

私は聞いた。

「お金持ちで、権力があって、あんなに大きなお城に住んで、綺麗なお姉さんたちに囲まれて。
食べ物にも困らない。
それに家族もいるんでしょ?」

「いるよ。
両親と妹に弟。
たまにしか顔を合わせないし、そう・・・一番仲がいいのは、兄上だったな。
歳も近かったし、なんでも話し合えた。
本音でぶつかり合える唯一の家族。
それももう・・・。」

ケルフェネス王子の声が小さくなる。
私は起き上がると、ケルフェネス王子の方を見つめた。

「本当のあなたを見てくれる人が、欲しいんだね。」

「・・・。」

「じゃ、友達でよくない?
妃である必要なんてないよね?」

「・・・。」

「私があなたにはっきり返事できないのはさ、愛されてる確信が持てないからなの。
私は・・・おもちゃ扱いなんて受けたくないから。
ちゃんと私と・・・夫婦になってくれる人と結ばれたいの。」

「・・・ごめん。」

「そうだよね、あなたが愛したのはレモニー様だもん。
私なんかじゃ・・・。」

言いながら、また目に涙が溢れてくる。
・・・もう止まってよ!!

「実は、愛し方が・・・わからない。」

ケルフェネス王子がこちらを見て、その手で私の涙を拭ってくれる。

「レモニー様には愛されたいと思うよ。
でも、愛したいと思わないんだ・・・。
そんな私が、シャーリーン、君のことは愛したいんだよ・・・。
そう思った時、やり方がわからないことに気づいたんだ。」

ケルフェネス王子が、見たこともない表情を見せる。
なんで、そんな悲しそうな顔するの?
まるで迷子のような顔をしているよ。

「君に好意はある。
あとは伝えるだけなのに、どうしたらいいのか、わからなくなった。
君を落とすための点を打ちにきたのに、そのための言葉をたくさん考えたのにさ。
どう言えば、君に気に入られるかは次々と浮かぶのに・・・。
それは、嘘の言葉ばかり。
君が嫌いな嘘の・・・。」

そこまで聞いて、気がついたら私は自分からケルフェネス王子にキスしてたんだ。

自然と体が動いてさ。
理屈じゃないのよね・・・。

そのまま彼を押し倒してさ、唇を離して言ってやったの。

「考えすぎなんだよ!
もう!!
仕方ないなあ。
私が教えてあげる。
ちゃんと教えるよ。
人の愛し方。
だから怖がらないで・・・ケルフェネス。」

そう言ったら、彼は少し驚いたあと、にっこり笑ってくれた。

その顔はいつもの作り笑いじゃない。

多分彼本来の笑顔。

これを見たのは、家族以外ならきっと、私だけ・・・。

「君が好きだ・・・シャーリーン。」

ケルフェネス王子が、両手で私の顔を包んで優しく言ってくれた。

「・・・やればできるじゃん。」

私はそう言って二人で笑い合う。

そのままいっぱいキスしたよ。

抱きしめ合ってさ、たくさん好き、て言い合ったよ。

誰も見てないからいいじゃん?

本当の好きもいいもんだよ?

そこから先?

・・・聞かないで。

「私だけを愛しては・・・もらえないよね?」

ケルフェネス王子の腕の中で、私はそう質問した。

「・・・立場上は無理だ。
勢力のバランスを保つために、複数の妃を娶らないといけないから。
後継者を確実に確保するためにも、一人というのは・・・。」

「困ったわ。
正直に言って、嫉妬しないわけにいかないもん。
全員薙ぎ倒しそう。」

「はは、君ならやりかねないな。」

「・・・あなたも同じ相手は飽きるよね。
でも、前に言ったよね?
ひたむきな愛を得たかったら、その人を守らないといけない、て。
放置して都合よく愛だけ得ようとしたら、失うよ。」

「しまった。
先に言われたな。」

「その程度の誠意なら、ソキ・サキどころかこれ以上何にもあげないよ?
私が好きだと言った言葉も、なかったことにするんだから。」

「もらったものは返さない。」

「ケルフェネス・・・!」

「シャーリーン、私に人の愛し方を教えてくれるんだろ?」

「・・・うん。」

「私はその点は覚えが悪い。
矯正には、相当時間が、かかる。
他人に実践できるようになるまで、先生には教えを乞わないとな。
多分一生かかる。」

「・・・!」

「それまでずっと、個別指導がいるよ、先生・・・。
他人が入る隙なんて、ないくらいにさ。」

「そ、そういう時は、大事にするよ、と言いなさい!!」

「嘘の言葉は嫌でしょ、先生。」

「もぅ、ひねくれた生徒ね!
困った点をあちこちに打って、変な線ばかり引いてきたわね?」

「腕がなるでしょ?
先生。」

「・・・やったろうじゃん。
覚悟なさい。」

そう言って、絞め技をかけるふりをすると、ケルフェネスはふざけて気絶してみせる。

それからまた、たくさん笑ったの。
この人と、こんなふうに笑え合えるなんてね。

こんな温かい面をちゃんと持ってるんだな、ケルフェネスも。

ひねくれてるけど。

それからね、私はケルフェネス王子と一緒にシャトラ国に行くことにしたんだ。

レモニー様にはもう、ライオネルがいてくれる。

『ソキ・サキ』もいいけどさ、離れ離れはやっぱり嫌だよ。

でも!
何かあったら駆けつける約束を、レモニー様としたんだ。

その時は、誰にも邪魔なんてさせない!

シャトラ国に行ったら行ったで、そりゃ色々あったよ。

ケルフェネスの婚約者には、いびられたりしたし、いろんな汚い策略やら何やらあるからさ、ライオネルやケルフェネス王子が、擦れるのもわかるね!

でもね、私は今日もちゃんとケルフェネスに愛されてるよ。

寵愛が集中すると、危ないんですよー?とか、他の妃に言われたりするけどね、

「羨ましかったら、あんたもやってみな!!」

と、ガチンコ勝負してるの。
そこまで自信があるなら、ネチネチ裏攻撃してこないで、堂々とやりあうの!

カッコつけて取り入れるほど、ケルフェネスは甘くないんだよ?

そのうち、妃が一人去り二人去りして、第一皇太子妃になっちゃった。

侍女たち?

そりゃ相変わらずケルフェネスのところに来てるよ?

でも、私がいるので、そのまま帰ってる。

お疲れ様ー。

こんなことは、このシャトラ国始まって以来のことらしいわ。

後にも先にも、歴史上たった一人寵愛を受ける奇跡の妃と呼ばれるようになるんだよ。

ケルフェネスも、私が嫉妬の矛先をうまくかわせるように、ちゃんと守ってくれてる。

今の王にできなくても、自分はできる、て。

人生、わかんないもんだね!

後継者?
それは、が、がんばるよ。

今日もいいお天気。
レモニー様、私は幸せですよ!
そう言いながら、隣で眠るケルフェネスを起こす。

「おはよう、ケルフェネス。」
「おはよう、シャーリーン。」

ケルフェネスの嘘は、簡単に全部はなくならない。
でも、私はすぐに見抜くの。
本当のこの人を知っているのは、私だけ。

私だけなんだ。


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。











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