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後日談 

いきなりの求婚(シャーリーン視点)

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『ソキ・サキ』になって欲しい。

そんな手紙を、ケルフェネス王子から受け取ったのは、ライオネルがレモニー様の婚約者として認められて、このケル家のバタバタがようやくひと段落した時だった。

・・・どういうこと?

私は、茶畑でレモニー様と一緒に泥んこになっている、ライオネルのところへ相談に行った。

ちょうど、木の木陰で二人は休憩していて、私はランチを運ぶついでに、ライオネルに質問した。

「ケルフェネス王子に『ソキ・サキ』になってと、言われたの。
どういう意味かわかる?」

それを聞いて、ライオネルは手に持ったサンドイッチを落としかけた。

「あいつがシャーリーンに?」

目がまん丸になったライオネルに、私の方が不安になる。

「うん、『ソキ・サキ』なんて聞いたことないよ。
何か悪いことなの?」

私は、詰め寄った。

「『ソキ・サキ』は、シャトラ国の王族が王宮の外に囲う妃のことだ。
これは国外の女性にも認められているが、なれるのは一人だけ。
つまり、あいつはシャーリーンに求婚してるんだよ。」

「え・・・。」

私は思考停止を起こした。

「シ、シャーリーン!
紅茶がこぼれてる!」

レモニー様に言われて、ティーポットを傾けたまま、固まっていたことに気づいた。

「す、すみません!」

いいながら、顔が熱くなってくる。

なんで?
なんでよ?

この間キスしたから?

私は絞め技かけて、気絶させた女なのよ!?

「ケルフェネス王子は、シャーリーンが好きなのね。」

と、レモニー様がしみじみという。

いや・・・多分、本命はあなたでしょ、と言いたいけど、ライオネルの前では言えない。

「シャーリーン、大切なのは君の気持ちだ。
『ソキ・サキ』は、妃の一人になること。
それでも、王宮内の王妃たちより格下の妃だし、子供は後継者になれるけど、産まれたら王宮の乳母に預けて教育を任せないといけない。
王宮内の煩わしさに囚われない代わりに、そんな決まりがあるんだよ。」

と、ライオネルが言った。

え、子供と離れる?
そんな・・・家族がバラバラじゃん!

私は家族一緒がいい。

離れるなんて嫌だよ。

今でも、定期的に家に帰って家族の顔見てるもん。

「おそらく、シャーリーンが王宮内の闘争を嫌うのをわかっているから『ソキ・サキ』にしようとしているんだろう。
嫌なら嫌と断れ。
俺が言ってやることもできる。」

と、ライオネルが言ってくれる。
嫌・・・て、色々話聞いていると嫌なことの方が多い気もするけど、それより、

「私・・・なんで?
ケルフェネス王子は本気なの?
やっぱり遊ばれてるの?」

両手で顔を覆う。

あの人の言葉には嘘が多い。
甘い言葉も、気さくな態度も、ただ一夜を共にしたいだけの、手段に過ぎない。

そんな彼はこれからもたくさん妃を迎えるだろうし、国の美女たち全てと関係を持っていると聞けば、心穏やかではいられない。

でも、すごい美形で所作も美しくて、キスもすごく素敵。

迫られると、本気になりそうで怖い。

「ライオネル、言ってたじゃん。
あいつは、やめた方がいい。
愛されたいと思ったら、辛いだけだって・・・。
私が思うような愛し方は、きっとしてくれない・・・。」

それに、まだ私はベクトリアルを完全に忘れたわけじゃない。
忙しさの中に身を置いているから、考えずに済んでいるだけなのに。

でも、ならどうして嫌と言えないんだろう。

これだけはっきりしているのに、嫌とか嫌いという言葉が出てこない。

心のどこかで、ケルフェネス王子が私を選んでくれたことを喜んでいるのも確かだ。

「手紙、読んでくれた?」

私が頭を抱えていると、急に後ろから話しかけられて、思わず飛び上がる。

そこにはなぜか、ケルフェネス王子が来ていた。

「な、なんで?」

「んー?
返事を聞きに来たの。
兄上ご無沙汰してます。
レモニー様、私の鞘になっていただけます?」

と、ケルフェネス王子は言いながらレモニー様の手に、優雅な仕草でキスをしている。

「お前、シャーリーンに『ソキ・サキ』になって欲しいと言ったらしいな。」

ライオネルが、ケルフェネス王子を見つめている。

「ええ。」

ケルフェネス王子はそういうと、こちらを見てにっこり笑った。

「どういうつもりだ?」

「どういう意味ですか?」

「シャーリーンを本気で好きになったのか?
彼女は、大勢のうちの一人なんて耐えられないぞ。
ましてや家族がバラバラになりやすい『ソキ・サキ』は、彼女が一番望まないことだ。」

「私と彼女の問題に、兄上は口を挟まないでください。
受けるのも断るのも彼女が決めることです。」

「それはそうだが、シャーリーンは大切な俺たちの仲間だ。
彼女が少しでもいい道を選べるように、お前の本音を知っておきたい。」

「本音・・・ねぇ。」

と、言ってケルフェネス王子は、ちらりとレモニー様を見る。

やっぱり本命はレモニー様なんじゃん。
手に入らないから、私を選んでるだけなんじゃないか・・・。

嫉妬のようなどす黒い感情が湧いてくる。
ベクトリアルもこの人も、私以外が好きなんじゃない。


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