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番外編 ライオネル視点(本編)
真偽の行方
しおりを挟む「私は魔女ではないし、王家に今起こっている数々のことにも関わりはありません。」
「ほぅ、やっと喋ったか。」
「私が発言する機会がなくて。
次から次に、他の人が喋るからです。」
「ふふ、確かに。
まるでお前の口から真実が漏れるのが、まずいかのようにな。」
王とレモニーのやり取りは見ていて、面白い。
レモニーの首にあてた剣を収める王に、周りが困惑しているのがわかる。
それから王は先の王の失敗を語り、自分は物事の点のみを見て、それが結ぶ線を見落としたりはしないと宣言した。
かつて、俺が後継者争いを避けるために王室を去るのを止めなかったのも、元々ケルフェネスを後継者に決めていた王が、俺を後押しする勢力を断念させたかったからだ。
王が強引に後継者を決めても、俺がいる限りその勢力は次の手を打とうとする。
その点を結ばせないために、王は俺を行かせたのだ。
変わってない。
この人はやはり変わってない。
王は事実の確認をし始め、俺は立ち上がってレモニーの隣に座り、彼女によって国外へ出たわけでないことを、皆の前で証言した。
王は俺を見てにやりと笑う。
・・・やはり知っていたか。
次にケルフェネスが、毒入り茶葉は人為的な工作があって行われていたことを証言した。
そして弟や妹たちの病や事故も、一人一人の言葉にレモニーが丁寧に答えていき、むしろその全てにミア第二王妃が関わっていることの方が露呈してしまった。
ミア第二王妃が、悔しそうにレモニーを睨んでいる。
「少なくとも、呪いや術の類が原因ではないことがわかった。
どれも客観的に判断できる。
と、いうか、ここまできちんと話を聞いた上での魔女騒動ではなかったのか?」
と、王は言った。
「レモニカと似た名前と境遇の女がいる、ただそれだけのことだったのでは?」
その王の言葉に皆が俯く。
そう、それだけのこと。
やたらと昔の話と関連づけて、話を盛っただけのこと。
事実ではなく、連想からくるイメージのみで決めつけただけのこと。
もしも、あの時も王が耳を貸していたら、周りが事実をちゃんと見ようとしていたら、村人の不安や不満の根本を、魔女のせいにしなかったら。
レモニカを、処刑するという話にはならなかったはずだ。
俺はレモニーの横顔を見た。
あの時の王もこんな人だったら、よかったのにな。
ミア第二王妃も、風向きが怪しいことを感じて、俺にレモニーとケルフェネスの仲を仄めかすような言葉を投げかけてくる。
残念だったな。
彼女と過ごしたのは俺だ。
「あれは芝居です、ミア第二王妃。
謁見の間に着くまでに、暗殺の危険もあったので、そう見せかけただけ。
彼女は、150年前の真実もこの場で明らかにするため、私たちと共にいるのです。」
俺がそう言うと、ミア第二王妃の顔が真っ青になる。
俺は王にパティスンの手記を見せた。
王はすぐに今回の計略を見破り、ペヤパヤ大臣にケルフェネスの肌着を着せて、ミア第二王妃にお茶を入れさせようとした。
ミア第二王妃は、のらりくらりと言い逃れしようとしたが、この作戦が一番まずかった。
「首がなくなれば、そのブレンドすらできなくなるぞ、ミア。
お前は私の妃だが、私は自分の子供たちを殺すものに容赦はしないと言ったはずだ。
これ以上時を稼ごうとするなら、カチャリナにあの肌着を着せるぞ。」
と、王は言い放ち、ミア第二王妃と睨み合う。
ミア第二王妃は王のかつての寵姫なのだが、一度敵となったら王は情には流されない。
・・・昔、俺の母親である妃を情に流されて失ってから、こうなのだそうだ。
そして王はミア第二王妃の前に、彼女が皆に隠すように準備していた茶葉のブレンドの材料を揃えてみせた。
「これはお前がペヤパヤ大臣と、こそこそ準備していたという茶葉だ。
王宮内の情報戦で、私を出し抜くには詰めが甘かったな。」
王が冷徹な眼差しで、ミア第二王妃を見ている。
父上も本領発揮だ。
敵にすると怖い人なのだ。
レモニーが少し怯えたように俺を見るので、
「怖いか?」
と、尋ねると彼女は頷く。
「あれがあの人だ。
こうなると決して追求の手を緩めない。
例え愛した相手でも。
他人なら尚更。」
「だから、私もここへ連れてきたの?
逃げられないから。」
「そうだ。
はっきりさせないと、本当に八つ裂きにされる。
例え、君が隣国の左大臣の娘だろうと、俺が愛した人だろうと関係ない。
俺ごと踏み潰してでも、君を仕留める。」
「そんな・・・。
胸が痛まないのかしら・・・。」
「痛んだとしても、それはそれなんだよ。
表に出さずに、やるべきことをやる。
そしてまた、王として人の前に立つ。
そういう人だ。」
・・・そう、そういう人だ。
昔は怖くて仕方がない人だった。
その冷酷さはどこからくるのか、その同じ口で我が子に愛を注ぐ姿は時に奇異なものに見えた。
だが・・・。
俺はレモニーの方を見た。
もし王が彼女を仕留めようとしたら、きっと俺は同じことをするだろう。
さっきもレモニーの首に剣をあてていたが、抜き方や剣の軌道だけは俺は細心の注意を払って見つめていた。
俺の手の中には、投げナイフが握られていたのだ。
いざという時は、王の首に刺してでも、彼女を守るため。
大切に思えば思うほど、それを害するものには冷酷になれる。
少なくとも、俺の中に流れるあの人の血は、ちゃんと息づいているのだ。
ミア第二王妃が、渋々みんなの前でブレンドし始めたが、ニセバラ蟲を加減して入れようとしたらしく、その動きを不審に思った王が、レモニーに、質問をしてきた。
ニセバラ蟲を入れるのは普通か?と。
レモニーはそれに答え、カゲリナ草を編み込んだ肌着を着たまま、相性の悪いニセバラ蟲の入ったお茶を飲めば死んでしまうことを指摘したのだ。
きっと150年前のあの時、レモニカがそこにいたなら、同じことを言っていたはず。
あの茶会で、誰も死なずに済んだはずだ。
ついにミア第二王妃が化けの皮を剥がれ、その恐ろしい顔を皆の前に曝け出した。
そしてなんと、彼女はダリア第三王妃でもあった。
後から聞いた話では、ニセバラ蟲は大量に服用し続けると、不老長寿の効能をもたらすらしい。
ライオネラ・・・!
レモニカ・・・!
こいつが元凶だ!!
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