悪役令嬢は、犯人ではございません!

たからかた

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番外編 ライオネル視点(本編)

謁見の間

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ゆっくり目を覚ますと、俺を見つめるレモニーの顔がそこにあった。

昨夜の余韻を確認するように、片手で顔を撫でる。

レモニーは嬉しそうに微笑むと、近づき抱きついてきてくれたので、しっかりと抱きしめる。

この温もりは失うわけにはいかない。

その時隠し部屋の扉が開く音がして、ケルフェネスの咳払いが聞こえた。

・・・時間だな。

「交代です、兄上。」

ケルフェネスが上着を脱いだ半裸の状態で、早く代われと言わんばかりの視線を送ってくる。

・・・こいつ、まさかシャーリーンに手を出してないだろうな。

まさか、な。

「わかった。
言っとくが・・・。」

と、言うと、体を起こしてすごむようにケルフェネスを睨みつける。

「わかってますよ!
見ないし、触りません!」

ケルフェネスは喚いたが、こいつだけは油断がならない。

不貞腐れるケルフェネスを見ながら、ベッドの脇にある棚の中から、ヒメボレトの小瓶を取り出す。

「レモニー様、これを。
飲んだら、目を開けるなよ。」

と、言って頷くレモニーに渡して、飲み干すのを確認すると、空の瓶を受け取ってベットを離れた。

ケルフェネスが、俺といそいそと交代するのを苦々しく見守りながら、俺は素早く服を着て眼帯を結び直すと隠し部屋に潜む。

そこへタイミングよく、ミア第二王妃がずかずかと部屋の中へ踏み込んできた。

ケルフェネスは軽口を叩いてベットを離れ、ミア第二王妃は、確認するようにレモニーを覗き込む。

「ふむ。
その様子だと、どうやら本当に奴と過ごしたようだな。
ライオネルが泣くぞ?」

と、彼女は言い俺は胸を撫で下ろした。
やはり細かいところまで見ている。

ミア第二王妃は胸元から、ヒメボレトの解毒薬を取り出し、レモニーの口の中に突っ込むようにして飲ませていた。

乱暴な女だ。
父上も何が良くて妃にしたのかよくわからない。

「さっさと服を着ろ、悪女めが。
王の元できちんと裁いてもらう。
そしてカチャリナ即位の踏み台になってもらうぞ。」

と、言うミア第二王妃の声が聞こえて、侍女たちが部屋の中に入ってくる音がする。

侍女といえばとシャーリーンの方を見ると、身支度を整えて衝立の向こうから出てきた。

「時間だ。
侍女たちがレモニーに服を着せているから、支度がすみ次第、俺たちも後ろからついて行くぞ。」

と俺が小声で言うと、シャーリーンは無言で頷いて、隣にきた。

その時、ケルフェネスがよく使う香水の香りがシャーリーンの髪から微かに香って、思わず彼女を見る。

「・・・素敵な人だよね、ケルフェネス王子。
君が一番だって言ってくれた。」

シャーリーンがにこにこして、俺を見る。

・・・しまった!
あいつやっぱり!!
その台詞せりふは誰にでも言うんだよ、シャーリーン。
あいつには挨拶並みに普通の言葉なんだ。

「ごめん・・・シャーリーン。」

俺が言うと、彼女は首を振った。

「心配しなくてもわかってるよ。
本気じゃないことくらい。
だから、私もあやまっておくね。」

「ん?」

「絞め技かけて気絶させたの。
ごめんなさい。
遊ばれるのは嫌なんだもん。
ケルフェネス王子は気付いてないみたいなんだけど、ばれたら私も火刑になる?」

と、言ってシャーリーンが心配そうに見上げてくる。

俺は内心大笑いしていたが、顔には出さないでおく。

「大丈夫だ。
なんか言われたら俺に言え。」

と、言ったら彼女は安心した顔をした。

絞め技で気絶させられて未遂なんて、あいつにはいい薬だ。

最高だよ、シャーリーン。

レモニーの支度が整い、朝食をすませてから、謁見の間へと移動が開始される。

俺とシャーリーンも隠し部屋から出て、他の侍従たちに混じって後ろからついて行く。

玉座には、久しぶりに目にする王の姿があった。

俺は深呼吸して、ことの成り行きを見守る。

全員が位置についたところで、ペヤパヤ大臣が、早速レモニーとレモニカの共通点をあげていき、ミア第二王妃も援護するようにレモニカの再来だと言い放つ。

そして、王家の後継者たちの病や事故に関連づけられ、処刑しろと声を上げた。

槍を持った兵士たちがレモニーの周りを取り囲み、彼女に槍を向けて、今にも突き殺しそうだ。

「待て!!」

王が鋭く一喝した。

「お前たちが言いたいことはわかった。
不思議な共通点が多いこともわかった。」

この王の声はよく通る。
昔も今も変わっていない。

「お前たちが、レモニー・ケルを始末したい理由が、かのパム村の悲劇のレモニカ・ケリーと同じにならぬようにということが、根拠なのだろう。」

ミア第二王妃も、ペヤパヤ大臣も頷く。

「それは私も同じだ。
子供たちを一度に失うなど、耐えられるか。」

意外かもしれないが、この王は子煩悩な方だ。
母親の違う子供たちに特に序列などつけない。

それだけに、子供を傷つけるものに一切容赦がない。
俺の片目を奪った親族も、無事では済まなかったはずだ。

王は立ち上がりレモニーに近づく。

「火刑などしなくとも、ここで首を刎ねても同じこと。
本当に子供たちを殺す気なら、容赦はしない。」

そう言うと、帯剣していた剣を抜いて、レモニーの首にピタリとあててきた。

「私の目を見ろ、レモニー・ケル。
お前の言葉をまだ何も聞いていない。」

この言葉に俺は勝利を確信した。
王という立場上、広く意見を聞いてから裁可する人なのだが、本当にレモニーを魔女だと確信していたら彼女の首はもう飛んでいる。

なぜなら、この人の情報網は、恐ろしく広いからだ。

レモニーが来る前に、おおよその彼女の情報は掴んでいるはずだ。

そして俺がここにいることも、わかっているはず。

情報を掴むためなら、敵とだって仲良く床入りできるのだと、昔言われたことがあるくらいだ。

怖い父親だ。
この人は。

王の目的はレモニーではない。
おそらくこれを仕掛けたものを炙り出すための、芝居なのだ。

そうとは知らない周囲から、レモニーを吊し上げるような怨嗟の声が上がり始め、殺せ殺せと殺気が渦巻いていく。

そんな中、レモニーの澄んだ声が響いた。

「私は魔女ではありません。
偏見で決めつけられて、迷惑です。」




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