上 下
54 / 76
番外編 ライオネル視点(本編)

打てる手は打つ

しおりを挟む
「あの夜の約束を、覚えてる?」

レモニーは俺の腕の中で、確認するように尋ねてくる。

「『そばにいて・・・。
どこにも行かないで・・・。』

と、私は言った。

『わかった。
ずっとそばにいる・・・。』

と、あなたは言ったよね。」

と。

確かに言った。

決して離れたくないとも思った。

俺は無言で頷くと、レモニーはこれは永遠に有効な約束だと言う。

「レモニー・・・。」

俺はそうつぶやくと、胸が苦しくなってきた。
行かせたくない。
このままさらってどこかへ隠したくなる。

「生きる、て約束して。
私とまた出会って、今度こそ一緒に生きてくれる?」

レモニーのその言葉は、プロポーズのようにも思えてくる。

「・・・当たり前だ。
そのためにここにいる。」

色気のない返事だが、これは本音だ。
そう当たり前。

ライオネラと同じてつを踏まないように、俺はここにいる。

そして、あらゆる手段でレモニーが生存できる道を必ず見つけるのだ。

そのために、今は少しだけ、ほんの少しだけ離れる。

俺は腕を緩めて、レモニーを放そうとした時、レモニーの方から頬にキスをしてきた。

・・・!!!

「続きはまた今度ね!
ライオネル!!
行ってきます、シャーリーン!!」

俺はこの瞬間固まってしまった。

女性からキスされるのは、もちろん初めてではないが、実は俺はこの手の不意打ちに無茶苦茶弱い。

相手がレモニーともなると、完全にお手上げだ。

シャーリーンが、俺を相当揺さぶってたそうだが、記憶にない。

「ライオネルのバカ!動いてよ!!」
と、シャーリーンに言われて、ようやく目の焦点が合う。

「レモニー様、行っちゃった・・・。
イベント、て何?逆らえない、てなんで?」
と、シャーリーンが涙ぐみながら尋ねてくる。

説明しても、この世界の枠を疑えない彼女には、理解できないだろう。

「行こう、シャーリーン。俺に考えがある。」
と、言って外に出る。

外では人だかりができており、ペヤパヤ大臣が大声で、
「皆のもの!この者はレモニー・ケル!
現代に蘇った、レモニカ・ケリーの生まれ変わり!!王室を呪った恐ろしい魔女が再来したのだ!!」
と、叫んでいた。

捕まったか!

そう思った俺は、シャーリーンを連れて、ケルフェネスを探す。

まだあいつはいるはずだ、奴が乗ってきた船がまだそこにいるからな!!

俺はすぐにケルフェネスを見つけた。

奴の周りは、女性の人だかりが必ずできる。

彼女たちの間を縫うようにして進むと、ケルフェネスがいた。

俺は奴の腕を捕まえると、素早く耳打ちする。

「えぇ!?
何ですか?いきなり!
レモニー様を追え?
私の船を貸せ?
王宮の私の部屋に潜伏させろ?」

俺は有無を言わせず、ケルフェネスをペヤパヤ大臣たちが乗る船に送り出した。

流石さすがに皇太子を拒める王族はいない。

ケルフェネスが乗り込むのを確認して、俺はケルフェネスの船で一足早く王宮に辿り着いた。

もう来ることはないと思っていた場所。

懐かしの我が家。

俺は戻るや否や、シャーリーンを連れて人目につかない道を辿り、ケルフェネスの隠し部屋へと入っていく。

・・・昔はよくここにきた。

そして・・・俺の記憶通りなら。

隠し部屋は寝室へと繋がっていて、そのベットの下から、箱に入った侍女のドレスが何枚か出てきた。

・・・やっぱりな。
ケルフェネスの寝室に忍んでくる侍女たちのための、替えのドレスだ。

・・・理由は聞くな。
そういうことだ。

俺はシャーリーンを呼んで、ドレスを選ばせた。
レモニーがここにきたら、彼女にもこのドレスを着せて変装させないと。

俺はケルフェネスのクローゼットを開ける。

奴がお忍びで、王宮内の誰かと逢引きするときは必ず侍従の格好をして出かけるのを知っているのだ。

今回だけ借りるぞ。

「ねぇ、なんでここなの?
レモニー様は大丈夫なの?」

シャーリーンが、説明を求めてくる。

「レモニーはケルフェネスがうまくやれば大丈夫。
敵の狙いはレモニーが魔女として処刑されることだ。
おそらくパム村の悲劇を再現して、後継者候補を全滅させるための生贄にするつもりだろうから。」

「そんな・・・!」

「だが昔と違い、奴らも勝手はできない。
俺の父親、即ち王は曖昧なことが大嫌いだ。
処刑の裁可は王が下す。
王を納得させた方が、レモニーを確実に助けることができるからな。」

「も、もし、ケルフェネス王子がうまくやれなかったら・・・?」

と、シャーリーンが一番言って欲しくない核心を突いてくる。

「・・・レモニーは火刑になる。
恐らく薬物を使って、みんなの前でレモニーに王族を害させる手段にでるだろう。
この国では最も重い罪だ。
はっきりしているだけに、王もすぐ許可するはずだ。」

「そんな!!」

「そうはならない!!
絶対に!」

俺は言い聞かせるように言った。

こういう時、王室を出てしまった自分の立場が恨めしくなる。

それがなければ自分がやったのに。

いや、王室を出ていなければ、レモニーに会うことはなかった。

俺たちは祈るような気持ちで、レモニーたちを待っていた。

そこへもう一隻の船が入港してきて、ケルフェネスがレモニーを抱き抱えて降りてくるのが見える。

あいつ、うまくやったな!

ほっとしていたが、レモニーの様子がおかしい。

まるで媚薬を飲んだかのように、ケルフェネスにもたれかかっている。

まさか・・・本当に薬を飲ませたんじゃないか!?
あいつ・・・!!!

気が気ではないが、とにかくこの部屋に来るまで待つしかない。

「ケ、ケルフェネス王子、まろのレモニーをどこへ連れて行くでおじゃる?
あ、部屋に連れて行くでおじゃるか?
ま、まろの花嫁になる女でおじゃるよ!!
レモニー!!
まろはここでおじゃるよー!」

と、素っ頓狂なマロマロ卿の声が聞こえてくる。

・・・なんでお前のレモニーなんだよ。
どいつもこいつも!!




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

toyjoy11
恋愛
題名通りの内容。 一応、TSですが、主人公は元から性的思考がありませんので、問題無いと思います。 主人公、リース・マグノイア公爵令嬢は前世から寡黙な人物だった。その為、初っぱなの王子との喧嘩イベントをスルー。たった、それだけしか彼女はしていないのだが、自他共に関連する乙女ゲームや18禁ゲームのフラグがボキボキ折れまくった話。 完結済。ハッピーエンドです。 8/2からは閑話を書けたときに追加します。 ランクインさせて頂き、本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ お読み頂き本当にありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ 応援、アドバイス、感想、お気に入り、しおり登録等とても有り難いです。 12/9の9時の投稿で一応完結と致します。 更新、お待たせして申し訳ありません。後は、落ち着いたら投稿します。 ありがとうございました!

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない

エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい 最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。 でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。

そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。

しげむろ ゆうき
恋愛
 男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない  そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった 全五話 ※ホラー無し

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

処理中です...