悪役令嬢は、犯人ではございません!

たからかた

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番外編 ライオネル視点(本編)

遅まきの告白

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レモニーがレモニカの日記の入ったカラクリ箱を見事に開いて、中身を確認していると、そこにこの家を管理している領主ベクトリアル・ダナンが現れた。

ライオネラ・ダナンの子孫で、日記を取り出したレモニーに興味津々のようだ。

彼も加えてレモニカの日記を読み、あの日の惨劇が迫る恐怖を文字を通して感じる。

・・・頭の中で、レモニカに対する懺悔の声が聞こえてきた。

俺の頭が狂ったのでなければ、俺はやはりライオネラの生まれ変わりかもしれない。

日記を読んだレモニーが、レモニカに引きずられるようにあの日の気持ちを語りだしたので、慌てて肩を掴んで正気に戻す。

そんな俺たちに、ベクトリアル・ダナンが領主の手記を読ませてやると言って屋敷に招いてくれた。

そこに着いた途端、今度は俺の方が懐かしさを感じていた。

一つ一つに思い出があり、領主の部屋に入った時は、レモニカに跪いてプロポーズしたことも思い出した。

そこまで大切にしていたのに、何があった・・・?

ライオネラの手記を開くと、奴らの罠にかかりサインを処刑執行書に写しとられたとある。

・・・なんだって?

当然その時のことは覚えていない。

だが奴らの狙い通りライオネラはこの村を離れ、その隙にレモニカは処刑された。

助命のための一筆が仇になったのは確かだ。

ベクトリアル・ダナンが当時から使われている普通紙と、複写用の紙を出してくれたので比較してみる。

書いた感じとしては、やはり複写用の紙に気づかないことはおかしい。

焦っていたことを考慮しても、気づきそうなものだ。

そこで俺は彼が王家出身であることを思い出し、後継者全員が同じ筆跡になる訓練を受けていることをみんなに告げた。

当時の処刑執行書とライオネラのサインを重ねて、窓に張り付けて透かしみるとサインがずれている。

これからわかることは、書いたのは別人でかつ王家の誰かだということ。

ますます、仕組まれた処刑であったことが濃厚になってきた。

・・・本当に気づかなかったのか?
あんた。

俺の中のライオネラに語りかける。

もちろん答えてはもらえないが。

そんな時、当時の皇太子パティスンが、ハーブティーを飲みに足しげく通い、レモニカに好意を持って迫っていたという記述がレモニカの日記に書いてあった。

たしかにその話はよく言われる。

兄弟でレモニカを奪い合ったと。

そしてパティスンが媚薬のヒメボレトを紅茶に仕込んで、レモニカに飲ませたとの話が出た時、俺は嫌な予感がした。

ケルフェネス・・・あいつならやるな。

「ハーブティーに皇太子・・・か。
レモニー様もケルフェネス王子には気をつけてくださいよ?」

日記を読んでいたシャーリーンが、レモニーを見上げて忠告している。

「え、なんで彼の話が出てくるの?」

「もぅー、ケルフェネス王子は、絶対レモニー様に気があります、て!
ライオネルがいなかったら、あのまま迫られてますよ。」

「またまた、そんな。
彼には婚約者がいるじゃない。
それに、ライオネルの大事な弟だし。」

「甘いですね、レモニー様。
あの時、ライオネルとケルフェネス王子の間に火花が散ってたの見てましたか?
まあ、ケルフェネス王子は薬を盛るとか、そんな卑怯なことは、しないでしょうけど。」

レモニーは呑気に、シャーリーンに振られた話を否定したが、俺はレモニーに解毒薬を渡した。

シャトラ国の王族は、ヒメボレトという媚薬を解毒薬と対にして必ず持ち歩く。

・・・理由は聞くな。

レモニーは解毒薬をしまって、しばらく思考したあと、最初は見ようともしなかったライオネラの肖像画の前に進み出てそっと触れていた。

「ずっと誤解してた・・・。
ごめんなさい。」

と、レモニーは言っている。

ライオネラ、よかったな。
少なくともレモニカの生まれ変わりのレモニーは、あんたが裏切ったわけではないということを、理解したようだ。

俺がそう思っていると、

「魔女、レモニーがここにいると聞いた!
すぐに引き渡せ!!」

と、声がする。

ベクトリアルが慌てて窓に駆け寄り、

「王室警備隊!?
地方警察ではなくなぜ中央の彼等がここに?」

と、叫んだ。

王室警備隊だと!?
王族の警護を司る彼らがレモニーを捕まえに?

つまり、ケルフェネス以外の王族が動いたのか!?

ベクトリアルが抜け道を開いてくれて、俺たちはそこから交易都市カチャガチャへ向けて走った。

出口へと辿り着いて、俺が先に外を確認する。

・・・問題なさそうだ。

だがレモニーが突然、自分は捕まると言い出した。

「ライカが教えてきた。
ライオネル、あなたならわかるわね?
これは強制的なイベントよ。
避けられない。」

そう言われて、うなじの毛がざわ!と逆立つのがわかった。

管理者としてやっていた経験から、彼女が言いたいことは理解できる。

この世界が、制作者の手を離れて異世界化してるとは言え、元々設定してあったイベントが消えるわけではない。

避けては通れない道であることもわかる。

だが何もしなければ、彼女をこのまま失うかもしれないのだ。

即死のイベントではないにしろ、手を打たなければ。

考えを巡らす俺の前に、レモニーがやってくる。

「私は、私は必ず生きて帰る。
また、あなたに会いたいから。
ライオネル、私はあなたが・・・。」

と、言うレモニーを俺は夢中で抱きしめた。

・・・待て、俺から言うよ。

「イベントの強制力に、どのキャラクターも抗えない。
それは骨身に染みて知っている。
だから、今は受け入れるしかないこともわかる。

だが、忘れないでくれ。
俺がなぜ他の王子たちと違い、ヒロインたちの攻略対象から外れているのか。

レモニー。
俺は君が好きだからだ。
君以外の女性にそう言いたくないからだ。」

これまで心の奥底に秘めて、言えなかった言葉を、ようやく彼女の耳に届ける。

かつてプログラムされていたからではなく、ヒロインだから魅了されたとかでもなく、ただ、心から愛しいと思える存在。

それがレモニーだ。













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