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番外編 ライオネル視点(本編)

冷えた体を温めて

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俺は面会室から引き摺り出されるレモニーを見た直後、面会室のガラスを椅子で叩き割った。

強化ガラスとはいえ、今の俺には割るのはたやすい。

シャーリーンを捕らえる囚人たちを、一瞬で気絶させレモニーを追う。

目の前に外に連れ出されるレモニーと、看守に銃を向けられたキリ所長が見える。

やはり看守まで買収したか・・・!!

俺はシャーリーンと協力して、包囲を突破すると、レモニーが乗せられた船が出港するのが見えて飛び乗る。

船員たちまで向かってきたが、全員おねんねしてもらった。

船室に入ると、縛られたレモニーの肩を抱き寄せるマロマロ卿が見える。

おまけに彼女を人質にして、ナイフまで喉にあてる始末。

この野郎・・・!!
頭に血が上って、もう一切加減する気がなくなる。

ぼこぼこにしてやる・・・!!!

そう思っていたら、嵐で船が大きく揺れたした。

割れた窓からレモニーが吸い出されて、慌てて後を追う。

海に投げ出されて沈みかけた彼女を助け出し、海の上に顔を出した時は、連絡船が転覆していくのが見えた。

シャーリーンが、救命艇のようなものに乗って手を振っている。

俺は必死にレモニーを連れてそこまで泳ぎ、救命艇に引き上げた。

海水を飲んでいるのか、意識がない。

体を横にして縄を解き、口にかまされた布をはずして、海水を吐かせる。

呼吸はしているようだ。

そのまま嵐の中を雨や風に打たれながら漂流し、ようやく港らしきものが見えてきた。

そこは見知った港で、シャトラ国の港だとわかった。

「レモニー様ぁ!!」

シャーリーンが、悲痛な声を上げてレモニーをさすっている。

よく見たら、レモニーの肌の色が寒さによって変色し、唇も真っ青になっていた。

「必ず助ける!!
心配するな!」

と、俺は叫び、彼女を抱えて港に降りると、昔から何かと使っていた屋敷に飛び込んだ。

あとは時間との勝負だ。

シャーリーンには隣の部屋を使わせ、俺はレモニーを連れて部屋に入る。

俺はすぐに暖炉の火をつけて、素早く濡れた服を脱ぎ捨てた。

ガタガタ震えるレモニーの服を、なるべく目を逸らしながら剥ぎ取る。
そして乾いたタオルを取り出して体を拭くと、彼女を抱えてベットに入った。

氷のように冷えた肌を、少しでも温めようと、しっかりと抱きしめる。

死なないでくれ・・・!

それしか思わなかった。

隣の部屋で着替えたシャーリーンが、俺たちの様子を見にきて驚いていたが、すぐに医者を呼びに行かせる。

口が堅くて信頼できる、昔からの馴染みの医者がいるのだ。

彼が来るとすぐに診察させて、必ず助けてくれと懇願する。

「弱ってらっしゃいますが、大丈夫です。
それにしてもライオネル様?
よほど大切な方なのですね。」

と、その医者は言った。

「・・・!!
そんなことは、どうでもいい!
それより助けてくれ!
でなければどうなるか・・・!!」

「ちょっと、ライオネル!!
お医者様脅してどうするの!?」

と、シャーリーンが叱りつけてきた。

「いえいえ、いいんですよ。
彼のこんな姿は初めてです。
さあ、ほら、しっかり温めてあげなさい。
注射を打っておきましたので、大丈夫。
目を覚ますでしょう。」

医者はにこにこしながら帰っていった。

「本当だ・・・。
レモニー様、顔色が良くなってきた。
疲れたでしょ?
ライオネル、お世話わるよ。」

と、シャーリーンが言って手を伸ばしてきたが
、レモニーを抱え直してすぐに首を振る。

「いい。
シャーリーンも疲れただろ?
隣で休め、何があったら呼ぶから。」

「でもさ、もう大丈夫、てお医者様も言って・・・。」

「いいって。」

俺が言うとシャーリーンが目を細める。

「ライオネル?
言っておくけど、レモニー様とはまだ、ちゃんとお付き合いしてないんだからね?」

「・・・わかってる。
助けたいだけだ。」

「ふーーーーん?」

「な、なんだよ。」

「変なことしたら、許さないよ?
レモニー様は、私にも大切な人なんだから。
あんたがどれだけ強かろうと、必ず仕留めるからね。」

シャーリーンが、妙な殺気を放つ。

「覚えておくよ。」

・・・危ない危ない。

シャーリーンは、監視しているからと言わんばかりのジェスチャーをして、部屋を出て行った。

ため息をついて、腕の中のレモニーを見る。
確かに肌の色が戻ってきていた。

「でも、まだ冷たい・・・。」

言い訳のように呟くと、彼女の顔を覗き込んでそのまま撫で、

「レモニー様・・・レモニー・・・目を覚ましてくれ・・・。」

と、呼びかけた。
だが、その目は固く閉じられている。
・・・まだ、だめか・・・。

ため息をついて、しっかりと抱き締めた。

もちろん、理性は総動員しているし、変な気は起こさないようにしているさ。

この世界が乙女ゲームを基盤にしているせいか、その辺りは現実の生身の男より遥かに都合よく出来ているようだ。

こうしていると、ふ、とはるか昔も誰かにこうやっていた気がしてきた。

彼女によく似た誰か・・・。
俺はとてもその人を大切にしていた。

こんな記憶、俺のプログラムにあったか・・・?

そう思いながら気がつくと眠っていた。

そして、見知らぬ男になった夢を見る。

「・・・嘘だ!!
どういうことだ!?
なぜこんな・・・!」

俺は変わり果てた誰かの亡骸を前にして、叫び声をあげていた。
そして、黒い煙の上がる処刑台を見つめて、歓喜の声をあげる村人たちを見る。

「ご領主様、災厄は除かれました。
これで私たちの魂は、天の祝福をうけるのです。」

みんなこの上なく幸せそうで、酒を飲むやつまでいる。

処刑台に駆け寄って、もう動かなくなった誰かを無我夢中で抱きしめる。

「嫌だ・・・私は・・・、こんなことのために・・・、ここを離れたわけでは・・・。」

慟哭どうこくする俺に、一人の村人が怪訝けげんな顔をして近づいてくる。

「何をお悲しみです?
あなたが許可したではありませんか。
ほら、これはあなたのサインでしょう?」

そう言われて、一枚の紙が目の前にかざされる。

そこで、ハッと目を覚ました。


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