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番外編 ライオネル視点(本編)

愛しい女性の影

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分からないことが多いが、とにかく毒入りワインに気づかれた以上、次の手を打たなければ。

俺は自国の使節団が来ていることを知って、その部屋に毒を仕込んだワインを届ける作戦を練った。

レモニーからと印象づけるために、侍従のダニーに彼女からだといって、持って行かせる。

その計画を話すと、左大臣が立ち上がった。

「まろがダニーに渡すでおじゃる。
まろからの命令であれば、ダニーは家族に害が及ばぬよう、固く秘密を守るでおじゃる。」

と言った。

この男、相変わらず抜け目ない。

唯一手にできないのは、プレイヤーライカの心だ。

正々堂々と言う言葉は、この男の辞書にはない。

その代わり相手の弱みは的確に見抜いてくる。

このままレモニーが処刑されれば、プレイヤーライカは、エンディング後に左大臣へと嫁ぐ。
このエンディングは通常エンドと呼ばれている。
プレイヤーはエンディング後に、普通にデータを保存して次の話を新しく始められるが、この世界は実はその後も話が続いているのだ。

ヒロインには、キラキラポイントという、ヒロインとしての周囲からの好感度を示す隠れ数値があり、これが通常エンディング後は下がる仕組みだ。

何故なら左大臣の演出によって、ヒロインは輝く存在としてこの世界に君臨することができる仕組みになっているため、彼の元へいかないと普通の妃になるからだ。
ヒロインのアバターは、この状態に耐えられないようになっている。

多くのヒロインは、この構図に気付かず、そのまま通常エンドを迎えて、そのアバターはキラキラポイントが時間経過で限界まで下がり、自動的に左大臣の元へと嫁ぐようプログラムされている。

制作者側も伏せているので、プレイヤーの多くは知らないまま。

・・・いいのか、それで。

何故か俺は祈るような気持ちで、作戦を決行した。

どうか・・・気づいてほしい。



使節団の部屋には弟のケルフェネスもいて、届けられたワインを毒入りだと証明する俺に気づき、一瞬驚いたようだが、目線で黙らせる。

こいつも前と違う。
より人間に近い、いや、人間そのものの感じがする。

いや、もう俺自身が人形ではなくなっているのだ。

俺は左大臣を呼びに、部屋へ行こうと廊下を歩いていると、ケルフェネスから追われて逃走するレモニーとシャーリーンを見た。

慌てて隠れて様子を伺う。

レモニーたちは、侍女の部屋に隠れて、ケルフェネスたちは気づかずに他の場所へと走っていった。

・・・やはりあのレモニーは今までと違う。

俺は処刑の結末が変わることを予感して、左大臣を部屋に呼びに行った。

使節団の部屋で、左大臣と逃走したレモニーを見つけられずに戻ってきたケルフェネスと話していると、プレイヤーライカと、1人の侍女が入ってきた。

顔をほとんどあげないが、直感的にレモニーだとわかった。

だが、ここで見つけたことが左大臣に知られれば、処刑のルートが確定してしまう。

俺は平静を装って、プレイヤーライカのやり取りに注目していた。

予想の通り、プレイヤーライカは、レモニーが作られた悪役であること、何者かが、そうなるように動いていることを指摘してきた。

俺は期待に胸が膨らんで、プレイヤーライカから話があると言われた時は、ついに時が来たと思った。

俺の関与と、左大臣の思惑をプレイヤーライカが指摘した時、頭の中に裏シナリオの解放の承認が降りてきた。

俺は居ても立っても居られず、レモニーと思われる侍女のところへ直行し、壁に手をつき顔を覗き込む。

「やはり、レモニー様。
お探ししました。」

そう言ってレモニーの顔を間近で見た時、思わず抱きしめたくなる衝動が起きた。

やっと見つけたと、身の内で何かが騒ぐ。
遥か昔に失った誰か大切な人を・・・。

俺はその衝動を誤魔化すように、片手で彼女の顔をそっと撫でる。

手に伝わる感触は、温かくて柔らかい。
全て数値として認識されていたプログラムの世界なのに、変化して確かな温度を持ってそこに存在していることが、わかる。

みんな人形などではない。
もはや本物だ・・・。

そんな俺の突然の行為に驚いて、俺を見つめるレモニーの目を見た時、これ以上はだめだと自制することができた。

このままだと彼女を壊してしまう。

俺はプレイヤーライカとレモニーに、このゲームの仕組みと裏シナリオ突破の説明をした。

そしてついにレモニー本人から、転生してきたと言う話を聞くことができた。

制作側も俺を通して状況を把握し、プレイヤーライカに数々の特典を許可している。

やはりレモニーはライカと同じ、外の現実の世界からやってきた生身の人間。

プレイヤーと違い、転生ということは、魂だけ外からやってきて、この世界の住人となった、ということになる。

いや、魂を持つものは彼女だけではない。

すでにこのゲーム全体が異世界化しているのであれば、他のキャラクターたちも全て身の内に魂を宿す生身の人間と化しているだろう。

レモニーとの違いは、彼らの魂は外からもたらされたわけではなく、この世界の中で自身のプログラムを元に生成されたものであるという点だ。

・・・俺?
俺は・・・よくわからない。

「あなたは、もう、味方になってくれるの? ライオネル。」

ふと、レモニーから尋ねられ、俺は頷く。

・・・やっとそうなれるんだ、レモニー。

許されないことをしてきた俺だけど、これからそれを全部認めるから。

と、素直に心の中で呟く。

そして、玉座の間へと向かい、左大臣の悪事を暴く証言を繰り広げた。

俺は明らかになっていく事柄に、心が晴れ晴れとなっていくことを感じていた。

左大臣を平手打ちするレモニーには驚いたが、かつて彼女もこう言うところがあったな・・・と思い出す。

・・・彼女?
誰のことだ?

時々、見知らぬ記憶がフラッシュバックしてくる。

いや、今はどうでもいい。

王の裁可で左大臣が解任され、彼と共に牢に連れていかれることになったが、俺はレモニーが助かったことに満足していた。

再び見知らぬ記憶の中で、変わり果てた誰かを抱いて慟哭どうこくする場面が浮かぶ。

こんなふうにならずにすんだのだ。

「これでいい。
これが正しいのです。
レモニー様・・・。」

俺はレモニーに語りかける。

「そ、そんな・・・だって・・・。」

レモニーは、俺を見て何か言いたそうだ。
俺を許さなくていい。
憎んでくれて構わない。

多分俺は、昔それだけのことをあなたにしているはずだ・・・。

「私は、あなたをおとしめることに手を貸し、実行した。
あなたはたくさん覚えのないことで責められ、嫌われてきた・・・。
恨んでください。
私がそれをしたのですから。」

今の彼女に言っているのか、遥か昔に愛した女性に言っているのか・・・。

「い、行かないで・・・。」

その言葉は、かつての彼女にも言われた気がする。
あの時は、俺が離れたばかりに・・・。
あの時?
やはり思い出せない。

レモニーが泣きそうな顔になったので、抱きしめるかわりにそっと、彼女の顔を撫でる。

「さようなら、レモニー様。
お元気で。」

あなたが生きてそこにいる。
俺はそれだけで満足なんだ。

























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