悪役令嬢は、犯人ではございません!

たからかた

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権力欲だけの女性

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ミア第二王妃は、茶葉を目の前にして、手が震えていた。

そこへ、侍従に捕らえられたまま、引きずられるようにペヤパヤ大臣が戻ってくる。

「お、王妃様・・・!」

ガタガタ震えて、涙目になっているわ。

「早くしろ、ミア。」

王は眉一つ動かさずに、二人を見ている。

ミア第二王妃は、材料を前にして、器からそれぞれ茶葉やフレーバーを取り出して、目の前の器に入れていく。

あ・・・ニセバラ蟲。

ミア第二王妃は、ニセバラ蟲はほんの少量だけ取り、よく混ぜ合わせて、ティーポットに入れると、お湯を注ごうとした。

そんな少量で済ませようなんて・・・!
パティスンの手記に挟まっていたあの茶葉には、大量に入っていたのに!!

思わず、私が声をかけようとした時だった。

「待て。」

王が声をかけた。

「その小さな緑色の粒はなんだ?」

「・・・ニセバラ蟲といいます。」

「蟲?虫なのか?」

「いいえ。
薔薇の香りをつけるフレーバーです。
葉の裏に実を着ける、珍しい植物の果実なのです。
見た目が虫のようにみえるため、ニセバラ蟲と言われます。」

淡々と説明するミア第二王妃に、王はそれ以上追求しない。

そこまでお茶に詳しくないと、わからないものよね。

「レモニー・ケル。」

王が私にいきなり声をかけてきた。

「は、はい。」

「お前は茶葉に詳しいそうだな。」

「はい。」

「ニセバラ蟲を入れるのは普通なのか?」

王が確信を突いてきたわ。
勘が鋭い人なんだ。

「いいえ。」

私が言うと、周囲がざわめき出す。

「それはなぜだ。
人体に害があるのか?」

王がさらに追求してくる。

「いいえ、そうではありません。
ニセバラ蟲は、それ単体では何も危険はなく、普通に薔薇のフレーバーとして使えます。

でも、カゲリナ草という虫除けの草と、とても相性が悪く、体内で混ざれば猛毒化するので、知っている人は使いません。」

「なに、カゲリナ草?
よく、野外活動する時の羽織などに織り込まれているあれか?」

「はい。カゲリナ草の成分は、皮膚から吸収されやすく、それは触れる肌面積が広ければ広いほど早くたくさん吸収されます。

もちろん、それだけなら問題ありませんが、今回のように相性の悪いニセバラ蟲を口にしないように、気をつけないと危ないんです。」

「ということは、肌着にカゲリナ草が入っていれば・・・。」

「ニセバラ蟲入りのお茶を飲むことは、命取りです。」

バキバキ!!!

私の言葉に、ものすごい音がした。

ミア第二王妃が、ガラスの器を砕く音。

そしてゆっくりと私の方を振り返った。

その顔がとても怖い。

「レモニー・ケル・・・。
やはりお前は、生かしておくべきではなかった。

レモニカの時のやり方にこだわってしまったのが、一番の失敗だ・・・。」

ミア第二王妃の言葉に、玉座の王が、

「・・・それは認めたということか?
ミア。」

と、言った。

ミア第二王妃は、頷いた。

「くくくく・・・。
もう一度、権力の座に返り咲けると思ったのにな。
残念だ。」

「もう一度?」

私が言うと、ミア第二王妃は、ニヤリと笑った。

「もう、気づいているのではないかえ?
私が誰なのか。」

私は、思わず睨みつける。

「ダリア第三王妃・・・!」

レモニカを無残な死に追いやった中心人物。

ライオネラの弟や妹を奪った人・・・!!

「なぜ?
なんのために?」

私が言うと、

「権力のため。」

と、彼女は一言で言い切った。

「そのために、レモニカは死なないといけなかったの!?
ライオネラの弟や妹たちも、みんな?」

私がさらに尋ねると、

「当たり前だ。
邪魔をするからだ。」

と、ミア第二王妃が言った。

「そんなことで?」

「野望の邪魔になるものを、うまく排除しただけだ。
権力はここまでしないと手に入らない。
私は少なくともそうやって一度は、摂政の座についた。
あの心地よさ、もはや忘れられぬ。」

「あなたの治世は、ろくなものじゃなかったみたいじゃない!」

「ふん。
いちいち文句ばかりの民など、気にしていられるか。
私がどうしたいかこそ重要だというのに、それはできぬと反発ばかり。

息子が死んだら、その座を降りろと、すぐ引きずり降ろされた。

おかしいだろ?
私の玉座だというのに。」

それを聞いていた王が立ち上がった。

「誰の玉座だと?
民草が反発ばかり?
それはお前に統治能力がないからだ。」

ミア第二王妃は、王を真正面から睨みつけた。

「言わせておけば!
お前ら王族とて、血筋だけではないか!
名君ばかりではなかったくせに、ほざくな!」

「名君ばかりではないことは認める。
だが、そういうお前の治世は随分と、荒れていたのではないか?
ダリア第三王妃。
お前は奪うことばかりに長けた、簒奪者に過ぎない。
自分がどうしたいかこそ重要?
そこに民はいたのか?
みんなの暮らしは?」

「弱者は従うだけでいい。
上に座るものの意思を、実現するために下がいる。」

「それは、凡人の理屈に過ぎない。
凡人の理屈しか持てないものは、権力者になっても周りが迷惑なだけだ。」

 「・・・偉そうに、お前もそうだろう。」

「王は所詮神輿で担がれているだけ。
担ぎ手を無視して勝手にやれば、神輿が落ちるだけだ。
その担ぎ手たちを支えるさらに下、その下、下・・・。
この国にいる民の、一番下にいる者のその下になって支え、統治できるのが権力者だ。
この国が他国と違い、餓死者も貧民もいないのは、お前も良く知っているだろう。」

「王が民に仕えてきたから、とでも言うつもりか!?」

「その通りだ。
その一生を民の使いっ走りとして、あらゆる権力を行使する。」

「は!この王宮内は常に権力闘争激しく、血塗られた歴史があるぞ。
弱者を巻き込めず、強者ばかり血を流す構造が際立っている。
これも他の国にはない愚かさだ!」

「結構な話ではないか。
強者同士が直接食い合い、均衡を保つことで強者になり得なかったものたちが犠牲にならずに済む。
元々強者は、弱者の気持ちを理解することができぬのだからな。」

王はそういうと、ミア第二王妃、いやダリア第三王妃の側に歩いてきた。

「・・・先の王の子供たちを全滅させ、今また私の子供たちを殺し、権力を得ようとしたミア第二王妃。
レモニーではなくお前を刑に処さねばならん。」

ミア第二王妃は、王に言われて、不敵に微笑んだ。

「今回はしてやられた。
先の王は私の言いなりにできたのに、お前は私に溺れることはなかった。
手玉にとれなくて残念だ。」

そう言って、ミア第二王妃は何かを取り出して床に投げつけた。

ものすごい煙が立ち上り、一瞬で謁見の間全体に広がっていく。 

何にも見えない!
煙幕!?

私たちが煙にむせていると、誰かに腕を掴まれた。

「来い、レモニー・ケル。
お前だけでも道連れにしてやる!」

ミア第二王妃の声が耳元でして、すごい力で引きずられていくことになった。





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