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決戦前夜

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もう、外は真っ暗。
何事もなくうまくいったけど、逆に怖くもある。

明日王の前で、うまく説得できなかったら・・・。

私は火刑になる。

そうなったら連れて逃げると、ライオネルは言うんだけど、そんな簡単じゃないよね。

でも、逃亡し続けるのも無理だろうな。

言葉少なになった私に、ライオネルが声をかける。

「大丈夫か?
やるべきことはやった。
あとは、明日だ。」

「うん。
そうね。
やることやったわ。」

シャーリーンは、隠し部屋の中でもう、寝息を立てている。
私は布団をかけてあげると、衝立を立ててから、ライオネルの隣に戻った。

「兄上、いいですよ。」

そこへケルフェネス王子がやってきた。

「ありがとうな、おいでレモニー様。」

手を引かれて、ケルフェネス王子と部屋を入れ替わる。

「レモニー様、明日はもう一度朝からヒメボレトを飲むんだ。
俺が解毒薬と対になっているものを持っているから。」

開口一番言われて、

「え?」

と、言った。

なんで?
せっかく解毒したのに。

「忘れたか?
あなたは今、ヒメボレトか効いている状態なんだ。
おそらく明日の朝、ミア第二王妃が解毒薬をその手で飲ませにくる。
その時に正気に戻っていることに気づかれたら、おそらく王の元へ行く前に、事故を装って葬られるかもしれない。」

と、ライオネルに真顔で言われて、すっかり忘れていたわ。

「わ、わかった。
そうよね。」

あの人、細かいところまで目がいきそうだもの。

「それと・・・。」

ライオネルがそういうと、いつものように片手で、私の顔を撫でてきた。

「あなたはケルフェネスと、あれからずっと過ごしていることになってる。
意味わかる?」

そう言われて、一瞬固まってしまった。

そ、そうか。

レモニカとパティスンは未遂とはいえ、危なくなったのよね。

150年前に起きたことを辿るために、一緒に過ごす羽目になったんだった。

「このままでは、まずい。
レモニー様。
ミア第二王妃に勘付かれる。」

ライオネルはそう言って、顔を覗き込んでくる。

「そ・・・そん、そんな・・・。」

言わんとしていることがわかって、顔がみるみる赤くなるのがわかった。

そんな私を見ながら、ライオネルはゆっくり眼帯を外す。

「ケルフェネスと過ごさせるなんて、俺がさせると思う?」

眼帯を床に落として、その手でシャツのボタンを外す。

「心底愛している人を、他の男にゆだねるなんて、冗談じゃない。」

ライオネルの声と目が、色を帯びてくる。
彼は、そのままシャツのボタンを外し終えると、素早く脱ぎ捨てた。

一歩下がると、一歩近づかれる。
私が目のやり場に困って俯くと、ライオネルは、私の顎を指先で持ち上げて、目線を合わせてくる。
隻眼の美しい瞳に射抜かれて、視線が逸らせなくなった。

「あの時、言ってくれたよな?
『続きはまた今度』、て。
それは、今?」

ライオネルは地下道で私が言った言葉を、ささやくように言った。

なんで今なのよ・・・。
あ、明日は命がけの証明をまたしないといけないのに・・・。

でも、私はライカみたいにセーブからやり直せるプレイヤーじゃない。
このライカがプレイするゲームの中に、偶然転生した魂を宿すキャラクターだわ。

失敗したら、次は多分ない。

この体は元のゲームキャラクターとしてのレモニーに返して、ライカが操作する普通のヒロインになるだろうな。

そうなったら・・・、私はライオネルとはもう会えない。

私が私ではなくなる。

こんなふうに過ごせるのはもう、別のプレイヤーなんだ・・・それが恋愛ゲーム。

ゲーム?
少なくとも私はここに生きている。
理屈はわからないけど、この気持ちは本物だ。

私はライオネルを、愛している。
他の人に譲れないのは、私も同じ。

そう思った時、自分からライオネルの首に腕を回していた。

「そう、今・・・。
でも、そんな言葉だけを理由にしたくない。
ミア第二王妃のことも、関係ない。」

私はライオネルを見つめ返す。

ライオネルは海から私を引き上げて助けてくれた時も、悪夢に怯える私に添い寝してくれた時も、ほとんど態度を変えなかった。

それは彼が大人で、経験豊富だからかもしれない。

ミア第二王妃にばれないようにという理由も、現実的に考えて生き残るためには正しい。

でも、そんな理由でこのひとときを過ごしたくない。

「私もあなたを愛してる。
だから、触れ合いたいと思うの。
経験豊富で私より遥かに大人のあなたから見たら、幼い動機かもしれないけど・・・。」

と私が言うと、ライオネルは複雑な表情になった。

「経験・・・?
大人・・・?
よしてくれ。
俺はそんなにできた人間じゃない。
理由をつけないと、あなたに触れられなかった臆病者だ。
顔に触れるのも抱きしめようとする自分を、あなたの目を見ることでとめるため。
助けるため、慰めるため。
次に会いたいから、薬のせいだから。」

と、言うとライオネルが私の腰に腕を回して、そのまま強く引き寄せてきた。

「それがないと、この腕の中で壊してしまいそうで怖かった。
今も・・・もう、理性がもたないくらいぎりぎりの状態だ。
恋しくて愛しくてたまらない。
レモニー、俺はあなたを愛している。」

至近距離で見つめ合った私たちが、言葉を交わしたのは、その夜はそれが最後だった。

もう、その後のことはよく覚えてない。
とにかく夢中で求め合ったことくらいしか。
温もりも感触も、現実世界と変わらないくらい生々しい世界なのだから。

明日もし死ぬことになっても、今この時感じている幸せを思い出せれば、怖くないかもしれない。

そう思えるくらい、たくさん触れ合えた。

どれくらい時間が流れたのか。
目を覚ますと夜が明けていた。
隣にはもう見慣れたライオネルの寝顔がある。

体はだるいけど、気持ちはとても落ち着いていた。

レモニカも、ライオネラとこういう朝を何度も迎えたのかな。

残酷な結末を迎えた彼女の気持ちも、今日少しでもわかってもらえたなら、報われるだろうか。

ライオネルが目を覚まして、いつものように片手で顔を撫でてくれる。

そのまま近づいて抱きしめ合った。

二人で微笑み合っていると、半裸のケルフェネス王子が軽く咳払いをして部屋に入ってくる。

「交代です、兄上。」

「わかった。
言っとくが・・・。」

ライオネルが体を起こして、凄むようにケルフェネス王子を睨みつけた。

「わかってますよ!
見ないし、触りません!」

ケルフェネス王子が、むくれた顔でそっぽを向く。

それを見ながら、ライオネルがベッドの脇にある棚の中から、ヒメボレトの小瓶を取り出した。

「レモニー様、これを。
飲んだら、目を開けるなよ。」

私は頷いて、中の液体を飲み干す。

空の瓶をライオネルに返して、そのまま目を閉じて横になった。

ヒメボレトの影響で、体の力が抜けて、熱くなってきた。

ライオネルが部屋から出ていく音がして、隠し部屋の方に隠れたことが、音でわかる。

代わりにケルフェネス王子が横に来て、中に入ってきたようだ。

次の瞬間、ドアが無遠慮に開かれる音がする。

「おや、ミア第二王妃、おはようございます。
ノックくらいしてくださいよ。
無粋だな。
こっち見ないでくださいね。」

ケルフェネス王子は、そう言いながらベッドから出て離れて行ったみたい。

足音が近づいてきて、ミア第二王妃の声がする。

「ふむ。
その様子だと、どうやら本当に奴と過ごしたようだな。
ライオネルが泣くぞ?」

そう言って、昨日と同じように小瓶の中の液体を無理やり口につけて強引に飲ませてくる。

だるさが取れてきて、体に力が戻ってきた。

目を開けると、ミア第二王妃が尊大な顔で見下ろしてくる。

「さっさと服を着ろ、悪女めが。
王の元できちんと裁いてもらう。
そしてカチャリナ即位の踏み台になってもらうぞ。」

私はそう言われて、絶対に負けるものかと、ミア第二王妃を見つめ返した。


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