悪役令嬢は、犯人ではございません!

たからかた

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再会

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「ちゃんと飲め、レモニー様。」

そこにいたのは、小瓶を拾ったライオネルだった。

突き動かされるように、思わず抱きつく。

彼の体温が感じられて、荒く熱い呼吸が止まらず、もう体の制御も効かない。

ライオネルに自分から唇を重ねて、夢中で口付けを深くしていく。

ライオネルは一瞬驚いたが、特に抵抗せずにされるがままなっていた。
そのうち私の方は力が抜けていく。
・・・溶けそうなくらい気持ちがいい・・・。

崩れる私を見て、彼は咄嗟に私の背中を支えて唇を離すと、慌てたように小瓶の薬を飲ませてくれる。

しばらくすると、狂わしいほどの熱がひいてきた。
急に恥ずかしくなってきて、ライオネルの顔がまともに見れずに、唇をおさえてうつむいてしまう。

「ご、ごめんなさい。」

思わずあやまった。

ライオネルは首を横に振る。

「・・・薬のせいだ。
気にしなくていい。」 

と、無表情で棒読みのように言われた。

・・・やっぱりライオネルは、冷静だ。
こんな時でも、乱れることがない。
慣れてるのね、きっと・・・。

そう思うと、少し寂しくもある。

でも、相手がライオネルでよかった。
ケルフェネス王子でも、自分を止められたかどうかわからないもの。

おかげで少しずつ体に力が戻り、深呼吸ができるようになってきた。

「もう、大丈夫。」

私の言葉に、ライオネルも安心したように、一度ぎゅっと抱き締めてくれる。

「見せつけてくれますねー。
静かにお願いしますよ。」

ケルフェネス王子が、からかうように言うと、

「本当に、薬を飲ませる奴があるか!」

と、言ってライオネルが私を椅子に座らせながら、ケルフェネス王子を小声で叱った。

「私ではありません。
ミア第二王妃が、薬を奪って飲ませたのです。
逆らえば怪しまれるでしょ?」

「さっさとお前がレモニー様を、彼女から引き離さないからだ。
なんのためにお前に行かせたと思ってる!」

「無茶苦茶言わないでくださいよ。
こっちだって調査中だったのに、いきなりレモニー様を追ってくれなんて。」

「王族警護を管轄する王室警備隊が動いたからだ。
王族の誰かが出張でばって来ているとわかった以上、お前でないと対応できないからな。」

「兄上が、いきなりすごい目で私を捕まえて、今すぐレモニー様が捕えられた船に理由をつけて乗れ、うまく誤魔化して薬を飲ませるフリをしてここに連れてこいとか。

その代わりお前が乗ってきた船を俺に貸して、王宮に潜伏させろとか、次から次へと命令ばっかり。
行き当たりばったりになりますよ、これでは!」

静かな兄弟喧嘩の合間に、部屋の奥からシャーリーンが侍女のドレスをまとって走り出てきた。

「レモニー様!」

そのまま抱きつかれて、すごい力で締め上げてくる。

「よかった・・・。
ミア第二王妃に、捕まったと聞いて、もう、お会いできないかと思ってました・・・。」

「シ、シャーリーン・・・くるし・・・。」

「ライオネルたらもー、地下道でレモニー様にキスされて、しばらく石みたいに動かなくなってて。

何度か揺さぶったらようやく動き出したんですよ?

そしたら、レモニー様はケルフェネス王子がうまくやらなかったら、すぐに火刑にされる、て・・・、生きた心地がしなかったです。」

「う、ご、ごめんね・・・?
え?でも、ライオネルが動かなくなった?」

気分でも悪くなったのかな・・・。

「兄上は、攻めるのは強気でも受けるのは弱いですもんね。
さぞかし頭のネジが飛んだんでしょうね。」

ケルフェネス王子は可笑しそうに笑う。

「そうですよ、レモニー様。
薬のせいとはいえ、さっきも熱烈にキスしてましたけど、ライオネルをこれ以上使い物にならなくしないでくださいね。
平然としてるように見えますけど、今ので頭のネジ全部飛んでますよ。」

「そんなふうには見えないわ。
・・・淡々と話してるし、慣れてるんでしょ?」

「いやいや、兄上は表情が固まったままですよ・・・。
いいなぁ、私もキスしてもらいたかったな。」

「ケルフェネス、歯を食いしばれ。」

「・・・レモニー様、レモニー様をここへ連れてきたのは、あの時の真相を暴くためだそうですね・・・。」

と、言ってシャーリーンがようやく腕を離してくれたので、私はライオネルを見た。

「逃げ続けたところで、今回のようにいずれ捕まえられて、処刑されてしまう。
それに、パム村の悲劇を利用した後継者の暗殺も、回避しなければならない。
王の前で全てを明らかにしなければ。」

と、ライオネルが言って、私も頷いた。

その時、

「兄上!シャーリーン!
隠れて!」

ケルフェネス王子が、何かに気づいてさっと立ち上がると、私を抱きしめて、ベッドに押し倒してきた。

次の瞬間、

「レモニー!?
いるでおじゃるか?
ここでおしゃるか!?」

と、声がした。

「マロマロ卿!
お下がりください!!」

「レモニー!
まろはここでおじゃるー!」

そして扉がガチャリと開け放された。

「おい!
開けるなと厳命したはずだ!!」

ケルフェネス王子が、鋭い声で叱りつける。

「す、すみません、行きましょう!
マロマロ卿!」

「レモニー!
結婚は慣れでおじゃる!
妻は9人もいるから、過ちは許すことばかりで、慣れているでおじゃるよ!
気にしなくていいでおじゃるー!」

そう言いながら、あ、というまに兵士に連れ去られて見えなくなっていった。

「地下牢に入れておけ!
二度とここを開けさせるな!
お前たちも絶対入ってくるなよ!!」

ケルフェネス王子が振り向いて叫ぶと、かしこまって兵士たちが扉を閉める。

扉が閉まる音がして、二人でため息をつく。

「これで既成事実ができたな。」

ケルフェネス王子が、私を見下ろしてニヤリと笑う。

「え、ええ、あの、もう・・・。」

「これでこの部屋は二度と開けられない。
明日の朝までの間に、証拠を固めるんだ。
・・・それとも、兄上たちに任せてここにいる?」

「いいえ!
あの、もう離してください。」

私が小声でもがくと、隠れていたライオネルがケルフェネス王子の襟を掴んで引き剥がした。

「離れろ、今すぐ。」

「はーい。」

ケルフェネス王子は、すぐに離れると、隠し部屋の扉を開いた。

「ここは私と兄上しか知らない隠し部屋。
その奥の扉から裏庭に出れます。
シャーリーン、レモニー様にも変装させてあげて。
じゃ、健闘を祈ります。
朝までには戻ってね、レモニー様。」

私たちは隠し部屋に入り、扉を閉める。

「レモニー様、衝立の向こうに侍女のドレスをご用意してます。」

と、シャーリーンが言うので、私は急いで着替えた。

「さて、支度ができたら、王宮の裏にある開かずの宮に行こう。」

ライオネルが侍従の格好をして、髪を結ぶ。

あ、懐かしい。

「そこには何が?」

私が尋ねると、

「噂によると、パティスン王子の手記があるそうなんだ。
パティスン王子は、王族の後継者が次々と亡くなったあのお茶会の後数日を生き抜き、ことの詳細を記した手記を、一番信頼する侍従に託してあそこに隠したらしいんだ。」

と、ライオネルが答えた。

「私が敵の黒幕なら、その侍従を締め上げるか、その開かずの宮を取り壊すか燃やすかしてでも探し出しますよ?
確か・・・150年ほど前でしょ?
パム村の悲劇、て。
もうないかもしれませんよ?」

と、シャーリーンが言った。

私はライカの手紙を開く。

『レモニー!
無事でよかった。
開かずの宮ね、今地図を見てる・・・、あ、これか。
えっとね、お、重要なキーアイテムがあるそうよ。
行ってみましょう。
いよいよ真相に近くなるかもね!』

私は手紙を閉じると、みんなで開かずの宮へと忍んでいった。


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