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敵の手に落ちて

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私たちは、急いで抜け道を駆け抜けた。

変装もしているのに、なぜわかったんだろう。

ベクトリアルは大丈夫かな。

どれくらい走ったのか。

ゲーム、て、体力を削る戦いや、スタミナ設定とかない限り息切れしないものね。

本当に都合よくできてるわ、オリンピック選手並みに長距離走れるもの。

ようやく行き止まりが見えて、上に登る梯子が見えてきた。

ライオネルが先に上がって、手招きする。

私は暗闇の中、ライカの手紙を開くと、

『気をつけて!
危険イベントマークが出てる。
おそらくあなたが捕まるイベントがある。
今のうちに、できることをしてて!』

と、書いてある。

「ライオネル!
シャーリーン!」

私は二人を慌てて呼んだ。

二人は何事かと近づいてくる。

「逃げられない。
私はここで捕まる。」

と、伝えた。

シャーリーンが両手で口を塞ぎ、ライオネルが目を見開く。

「ライカが教えてきた。
ライオネル、あなたならわかるわね?
これは強制的なイベントよ。
避けられない。」

私が言うと、シャーリーンが肩を掴んできた。

「何をわからないことを!
いいですか!?
私が何としても道を開きますから!」

私は彼女の手に自分の手を重ねて、シャーリーンをなだめる。

「シャーリーン、あの時と同じように、この品々を預けておくわ。
ライオネルと協力して、必ずきてね。
仲間として、お願いするわ。」

そう言って、シャーリーンを抱きしめる。

「レモニー様・・・。」

シャーリーンは泣きそうな声をあげた。

私は、ライオネルを見た。

ライオネルは、眉根を寄せて口を引き結んでいる。

私はシャーリーンから離れると、ライオネルに近寄っていった。

「私は、私は必ず生きて帰る。
また、あなたに会いたいから。
ライオネル、私はあなたが・・・。」

ライオネルは、最後まで言わせずに抱き寄せてきた。

痛いほど抱きしめられて、背中に手を回すのが精一杯。

「イベントの強制力に、どのキャラクターも抗えない。
それは骨身に染みて知っている。
だから、今は受け入れるしかないこともわかる。

だが、忘れないでくれ。
俺がなぜ他の王子たちと違い、ヒロインたちの攻略対象から外れているのか。

レモニー。
俺は君が好きだからだ。
君以外の女性にそう言いたくないからだ。」

私はそれを聞いて涙が溢れてきた。

「あの夜の約束を、覚えてる?」

私は、抱き合いながら眠った夜のことを思い出して話した。


「『そばにいて・・・。
どこにも行かないで・・・。』

と、私は言った。

『わかった。
ずっとそばにいる・・・。』

と、あなたは言ったよね。」


ライオネルが無言で頷く。

「だから、その約束は永遠に有効よ。

ほらこういう時、映画もゲームも、ヒロインの相手役はヒロインを助けるために無茶して死んだりするでしょ。

そんな結末、絶対イヤ。

あなたとは、レモニカとライオネラみたいにはならないんだから。」

「レモニー・・・。」

「生きる、て約束して。
私とまた出会って、今度こそ一緒に生きてくれる?」

「・・・当たり前だ。
そのためにここにいる。」

力強くそう言われて、覚悟が決まった。

ライオネルの腕が緩んだので、私は素早く彼の頬に軽くキスをする。

「続きはまた今度ね!
ライオネル!!
行ってきます、シャーリーン!!」

私はそういうと、一人梯子を駆け上がる。

外へ出て、とにかくがむしゃらに逃げる。

走りながらライカの手紙を取り出すと、

『私はずっと一緒にいるわ、レモニー。
ずっとモニターしてる。
私たちはチームよ!
あなたは一人じゃないからね!』

と、書いてあった。

心細さが軽くなっていく。

その手紙を仕舞い込んで、走り続けようとした時、誰かに腕を掴まれた。

「これはこれは。
レモニー・ケルでございますね?
私はこの国の大臣、ペヤパヤと申します。
お会いしたかったでございます。」

あ、と言う間に、周囲を王室警備隊らしき制服を着た人々に囲まれる。

一人で来てよかったわ・・・。

警備隊は、銃をたくさん向けてきた。
下手に抵抗したら、蜂の巣にされるわ。

周囲の人々が、何事かと注目する。

「皆のもの!
この者はレモニー・ケル!
現代に蘇った、レモニカ・ケリーの生まれ変わり!!
王室を呪った恐ろしい魔女が再来したのだ!!」

と、高らかにペヤパヤ大臣が叫ぶ。

外国人と思しき人はシラけた顔で見ているが、シャトラ国の人々は、明らかに反応している。

私は手を縛られて、そのまま船に乗せられた。

船の中には、鉄のケージのような牢屋があり、その中に突き飛ばされる。

「ほほほほ。
ついに手にしたでございます。
美しい魔女、レモニー。
シャトラ国の生贄として、皆の前で火刑にしてくれる。
あの時と同じように・・・。」

ペヤパヤ大臣が、笑いながらこちらを見る。

私は真正面から、ペヤパヤ大臣を睨みつけた。

「ほほほ、燃やすには勿体ないほど、魅力的な魔女でございます。
そう、思いませぬか?
ミラ第二王妃。」

と、言いながらペヤパヤ大臣が部屋の奥を見ると、豪華なドレスに身を包んだ、美しい女性が現れた。

「本当に。
我が息子、カチャリナ即位の道を敷いてくれる、尊い犠牲者。
そなたの命は無駄にせぬゆえ、安心するが良い。」

ミラと呼ばれたその女性は、薔薇の香水の香りを振りまいているが、つけすぎなのか匂いがきつい。

「私は魔女じゃありません。
レモニカも絶対違う。
呪いの力もありません。
死んでも、他の王の後継者たちは死にませんよ?」

私が言うと、ミラ第二王妃は、白いうなじを震わせながら笑いだした。

「ほほほほー!!
無知な女よな?

先のパム村の悲劇の時、他の後継者が全滅したのが、本当に呪いだと思っているのか?
仕掛けに決まっておろうが。

レモニカもそのために死んでもらったのだ。」

私はその言葉に驚いた。

「どういうこと?
まさか・・・、わざとなの?
後継者を全滅させるために、レモニカを魔女に仕立てたの?」

ミラ第二王妃は、扇を口元に当てて微笑んだ。

「便利と思わぬか?

魔女という存在は。
不可思議なこと、不条理なこと、それを解明するには、時間や手間をかけねばならぬことを、たった一言で、丸投げできる。

魔女が、やった。
魔女のせいだ。

どれほど助けられたかわからぬ。」

「ふざけないでよ!!」

「大真面目じゃ。
だから、あの時の真相が未だに人目に晒されずにすんでいるのだから。」

ミラ第二王妃は、笑みを消して真正面から見つめてきた。


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