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六章

穏やかな眠りの中で

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俺たちは、吟遊詩人に別れを告げて太陽の神殿へと戻った。

暗黒騎士ヴォルディバは、そのまま舞台に寝転んでいて、毛布がかけられたまま、朝まで寝かせておくらしい。

朝になったら、乱闘の代金を払わせると、店主は言う。

どうかな……こいつはまた、暴力をふるって今度こそ店を滅茶苦茶にするかもしれない。

俺は奴がゴネるとわかっていたので、先に奴の財布からお金を抜いて支払いをしておいた。

何か言われたら、俺がしたと伝えて欲しいと言って。

奴はもう、俺に暴力を振るえないからな。

太陽の神殿では、相変わらずテレクサンドラと、聖騎士ギルバートが、いい雰囲気で談笑していた。

外はもう真っ暗。
そろそろ寝ないと。

「テデュッセアは、本当に大丈夫かな……」

ケルヴィン殿下は、窓の外を見ながら、心配している。

ネプォンは、確かに手が早い野郎だけど、相手を見極めて手を出すタイプだ。

テデュッセアを口説いてはいても、ヴォルディバのように、強引なことはしないはず……多分

「テデュッセアも、ここに連れてこれたらいいのにな……」

ケルヴィン殿下は、はぁ、とため息をついた。
この人、もう夢中なんだな。

テレクサンドラは、そんな彼の近くに行って宥める。

「テデュッセアは、気の強い女性です。私よりもしっかりしていますから、心配入りませんよ、ケルヴィン殿下」

「あぁ、でも、義兄上が強引な真似をしたら……」

「その時は、気の毒なのは彼の方です」

「テレクサンドラ?」

「テデュッセアが許しもしない行為を働こうとした男性はみんな……後悔することになる」

「神通力があるから?」

「誰も……太陽の熱さに勝てない。彼女があなたに身を許したことも、滅多にないことなんですよ?ケルヴィン殿下」

「え」

「彼女が望まなければ、彼女の肌は灼熱の熱さとなり、あなたは生きているはずがないんです」

「!! では、まさか、あなたは逆に恐ろしく冷たくなる?」

「えぇ。私たちが何故、それぞれの神殿を統括できているのか、これでおわかりですか? どうか、安心してください、ケルヴィン殿下」

「あ、ああ」

「ふふ」

たおやかに微笑む乙女。
今は少し恐ろしく見える。

ケルヴィン殿下は、俺たちの視線に気づいてハッとすると、咳払いをした。

「ゴホン! と、ひとまず分かったことを踏まえて、明日に備えよう」

「はい」

とりあえず、みんな休むことになった。この部屋からは出られないから、ティトに小さくしてもらっていた寝袋を元の大きさに戻して、横になる。

俺とフィオは、魔導士ティトを挟んで、両隣になった。

「おやすみなさい、みんな。おやすみなさい、アーチロビン」

フィオはティトの寝袋ごしに俺の顔を見て、にっこりと微笑んでくる。

可愛いなぁ。

素直にそう思えた。俺の寝袋に入って来ないかな。……昨日の続きを……て、いや、待て待て!

なんてことを考えるんだ、俺は!!

みんなも、いるんだぞ?

それに、今更だけど、彼女が大聖女の道を選んだ時に、別れることになるんだ。

これ以上は……望むべきじゃない。

「おやすみ、フィオ」

そう言って、俺は目を閉じる。

「エー、イッショニ、ネナイノォ?」

いきなり、オウムのフェイルノが、大声で言った。

また、お前は! どうしてそう、余計なことを言い……!

「おうおう、若いモノはえぇのう」

魔導士ティトが、寝袋から大声でからかう。
だから、違うって!!

「アーチロビン、これを貸してやろうか。紳士のたしなみだぞ?」

「いりません、て!!」

ケルヴィン殿下が、これみよがしに茶化してくる。

なんなんだよ、みんなして!!

「フィオ、イッショニ、ネヨ」

「いいよ。おいで、フェイルノ」

あぁ! フェイルノの奴、ちゃっかりフィオの寝袋に潜り込みやがって!!

「フェイルノ! お前な……!」

「ドウブツノ、トッケン」

「やかましい! あとで覚えてろ、お前!!」

「ウラヤマシイナラ、キテミロー」

「く……! こんのぉ!」

「フィオ、アッタカーイ。ヤワラカクテ、イイキモチ」

「お前……明日は焼き鳥にしてやる!」

「コワーイ、フィオ、タスケテー」

「動物をいじめちゃダメ、アーチロビン」

いじめ……!? 俺が?
俺が悪いのかよ?

もう、いい!

俺は不貞腐れて、横になった。

隣から、魔導士ティトの笑い声が聞こえてくる。何が面白いんだよ、何が!!

「けけけ、素直にフィオのところへ行けば良かろう。アーサーなら、間違いなく潜り込んでおるわ」

「俺はじっちゃんじゃない」

「ふふ、格好つけよって」

魔導士ティトが、クスクスと笑いながら言う。
ほっといてくれよ!

「おぉ、フィオはもう寝たか。可愛らしい寝顔じゃの」

また魔導士ティトの声が聞こえて、俺は心底ガッカリする。

俺も勝手だよな、ホント。
思いの外、大きなため息が出てしまう。

「アーチロビン、お前、フィオが大聖女になるかもしれんと思って、遠慮しとるじゃろ」

「え……」

「まぁ、大聖女オベリア様は、そのつもりじゃろうな」

「オベリア様だけじゃない。周りだってフィオの実力を知れば、ほっておかないよ」

「おそらくは。じゃが、身を引くことがフィオのためだと決めつけるなよ」

「!?」

「かつて、アーサーがそうだった。ワシのためと言って、離れていった」

「ティト……じっちゃんは、ティトの師匠に頼まれたと言ってたよ」

「ふん! 別れたその日から、ワシの心はズタボロじゃった。一度精霊や魔獣との契約を切らねば危ういほどにな」

「ティト……」

「フィオに同じ想いをさせるな、アーチロビン。素質があろうとも、本人が望まねば大聖女の席はただの牢獄じゃ」

「牢獄!?」

「素質があるものを放り込むためのな」

「……」

俺は、フィオが眠る寝袋をじっと見た。彼女は、大聖女を望まないと言った。

俺が身を引くことは、彼女をみんなと一緒になって、牢獄へと繋ぐことと同じなのか?

そんなことを考えながら、俺はいつの間にか眠っていた。

「グダグダ悩んでるの? アンタ」

夢の中で俺は、日の本の龍王に会う。
また、夢を渡れたのか。

龍王は海の中を、ゆっくり泳いでいる。

「そんなことより、耳寄りの情報があるんだよ」

「んー? なぁに? ……え? 神龍酒?」

「そう。あるのか? そこに」

「あるというか……ないというか」

「はっきりしないなぁ」

「うるっさいわねぇ。この国の帝に献上する酒の名前と、同じだなぁと思ったのよ」

「帝?」

「この国で一番偉い人」

「へぇ」

「神龍酒は、この里でたまに実る金色の稲穂から作るお酒なの。本当にたまーになの」

「今年は実ったのか?」

「いいえ」

「え!」

「前にできた分は、もう献上しちゃってる」

「なんてことだ……」

「でもねぇ」

「ん?」

「祠に隠してあるトックリが一つある」

「トックリ?」

「お酒を入れる容器のこと。アタシは下戸なんだけど、里のものは私にもお神酒として奉納してくれるのよ」

「じゃ、じゃあ!!」

「実はカジカが酒豪でね、あ、カジカというのはハタキ持ってたあの娘ね」

「あの強そうな女の人?」

「そう。彼女赤ちゃんできたから、飲めなくてさ。とりあえず解禁日まで取っておく約束して、保管してるの」

「あるんじゃないか! 用意しておいてくれ」

「いいけどさ、アンタこっちに来たら一緒に謝ってよ? 約束反故にして、魔物にくれてやるんだから」

「ああ!」

「かー! 安請け合いしちゃって。怖さを知らないから……」

「お酒が好きなら、こっちのお酒を代わりに持って行くよ。ワインとかどう?」

「果実酒のこと?」

「そう」

「んー。西洋のお酒なんて手に入らない時代だから、珍しくていいかな……」

「決まりだ!」

「ふふ、アンタ、いい奴よね」
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