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六章
太陽の神殿
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太陽神殿は、ポリュンオスの東側にある。
神殿の中の巫女たちは、皆太陽の輝きがデザインされたドレスを着ていた。
ティアラを交換して、テデュッセアになりすましたテレクサンドラに、誰も気づかない。
太陽神殿の中は、太陽の彫刻で溢れていた。
テレクサンドラは、一番奥の部屋に入ると、お付きの巫女たちの方を振り向く。
「祈祷を始めます。許可するまで、祭壇の間の出入りを禁じます」
テレクサンドラがそう巫女たちに言うと、彼女たちはお辞儀をして、退室していった。
この部屋は、祈祷する部屋なのか。
目の前には、日の出から日の入りまでを、太陽のモチーフが自動的に動くことで、表現する装置がある。
うわあ……! 思わず俺は感嘆の声を漏らしそうになる。日食や、雨や曇りという空模様までモチーフが動いて表すみたいだ。
いや、日食だけじゃない。これなら月食もわかる。
月の神殿の祭壇の間も、こんな感じなのかな。
無人になると、テレクサンドラはティアラから俺たちを降ろしてくれる。
「解呪」
魔導士ティトが唱えると、俺たちは元の大きさに戻った。
「ありがとうございます、テレクサンドラ」
俺たちが頭を下げると、テレクサンドラは首を横に振る。
「いいえ、これは私たちのためでもあります。魔王はこの世界の敵なのです」
彼女は腕をさすりながら、微笑んだ。
聖騎士ギルバートが、その様子に気づいて彼女に近づく。
「テレクサンドラ? まさか、さっきヴォルディバ先輩に掴まれた腕が、痛むのですか?」
「いいえ、大したことはありません」
「見せてください……! あぁ、なんてひどい。内出血してる」
「お気になさらず」
「申し訳ございません、テレクサンドラ。無抵抗の女性に怪我を負わせるなんて、騎士としてあるまじきこと」
聖騎士ギルバートは、深々と頭を下げた。テレクサンドラは、やんわりと微笑む。
「今のお言葉で、報われた気がします。騎士も王族もなかなか謝れない人たちが多い中で、あなたはきちんと謝罪してくれる」
「本当に申し訳ない。過ちを犯すことが悪いのは当然ですが、正せるかどうかこそ、問われるものなのです。ヴォルディバ先輩には、必ず償わせます」
「誠実な方……」
テレクサンドラは、聖騎士ギルバートの手を握って、嬉しそうにしていた。
……気のせいか? いい雰囲気だな。
「ゴホン! 話を続けて良いかな? テレクサンドラ」
魔導士ティトが、割り込んでくる。
テレクサンドラと聖騎士ギルバートは、パッと離れた。
「はい、どうぞ」
「日の本へと道が繋がるのは明日。では、明日の何時に行くことになる? そして戻るまでの猶予はいかほどじゃ?」
「それが……」
テレクサンドラは、困惑したような顔になる。
「なんじゃ? どうしたのじゃ」
「この太陽神殿から、道をつなげることはできるのですが……ここから行けるのは一人だけなのです」
「なんじゃと!?」
「ここは、月の力が弱まる太陽神殿。全員をお送りすることが、できません」
「おいおい……」
「そして、時間の猶予ですが、夜明けまでとご理解ください。朝日が昇れば、道が閉ざされてしまいます」
「夜明けまで」
「はい」
日の本へ行けるのは一人だけ。時間は夜が明けるまで、か。
それならば。
「俺がいってきます」
俺は前に進み出た。他に選択肢はない。
みんなが、辛そうに俺を見る。
「また、お前にさせるのか」
「アーチロビンばかり、連戦だね」
「ワシらも、行きたいのぅ」
「私も行きたい! ティトに小さくしてもらって、くっついて行けないかしら?」
口々に騒ぐ中、フィオがテレクサンドラに向き合った。
テレクサンドラは、フィオを見て首を傾げる。
「あなたは、孤族ですね」
「はい」
「獣形になれますか?」
「もちろん」
「人の形に戻らなければ、通れるかもしれません」
「!」
ケルヴィン殿下と聖騎士ギルバートが、それを聞いてテレクサンドラに詰め寄った。
「な、なら、我々も変身できればいいのか?」
「何かの動物になればいい、と?」
「お、落ち着いてください。白狐は、魂が精霊に近い存在なので、異世界へ通る時も大きな道を開く必要がないのです」
「あ、そう……」
二人が意気消沈する。気持ちは嬉しいけど、こっちで待っていてもらわないと。
「こちらへ戻るにも、帰還を強く望む者がいた方が、帰りやすいのではないか? テレクサンドラ」
魔導士ティトが、彼女を見て確認する。
帰還を望む、か。
「はい、その通りです。絆の力は、異世界から引き戻す力となります」
と、テレクサンドラは答えてくれた。
決まりだな。
行くのは俺と、狐の形に変身したフィオ。
留まるのは、ケルヴィン殿下と、聖騎士ギルバートと、魔導士ティト。
「イク! フェイルノモ、イク!!」
フェイルノが、肩に乗ったまま騒ぐ。
「テレクサンドラ、フェイルノは?」
俺が尋ねると、テレクサンドラは、大丈夫と頷いた。フェイルノも一緒だな。
「お前たちの帰還に支障がないように、こっちで踏ん張ってやるわい。イルハートの奴が来てないのも、気になるからな」
魔導士ティトの言葉に、俺も納得だ。これまで何かと行く先々に現れていたのに、今回は来ていない。
顔の怪我といっても、あいつならすぐ治してきそうなのに。
「テデュッセアに伺いましたが、大魔導士イルハートが、アーチロビンに色仕掛けをして撃退されたとか」
テレクサンドラは、俺をなんともいえない表情で見る。
色仕掛け……ケルヴィン殿下、そんなことまで話したのかよ。
俺が目を細めて彼を見ると、ケルヴィン殿下が気まずそうに笑った。
「いや、すまん。テデュッセアに枕元で聞かれて、つい話してしまった」
「ケルヴィン殿下こそ、色仕掛けにかかってたわけじゃないですか! おまけに、俺が一晩中寝ずの番をしてる時に、自分は何してるんです!?」
「本当にすまん」
まったく!! 俺はフィオと、結局あれから進展がなかったのに!
テレクサンドラは、その様子にクスッと笑って俺を見た。
「大魔導士イルハートを退けるなんて、常人にはできません。ましてや、魔王復活が近づく今となっては、尚更です」
……ん? どういうことだ?
「テレクサンドラ? 魔王復活と、イルハートに何か関係が?」
「実は、私たちの曽祖母が、かつての大魔導士だったのです」
「えぇ!?」
魔導士ティトが、ハッとなって彼女を見る。
「もしや、先代の大魔導士ヒルダ様か?」
「えぇ、ヒルダ・レヴァンツァは、曽祖母です。本当は、あなたに継承させたがっていましたよ、魔導士ティト」
「……」
「それはさておき、曽祖母が教えてくれたことがあるのです。大魔導士が背負う暗い運命を」
「なんと!? な、なんじゃそれは!!」
「魔王が新たに生まれるのではなく、先代の転生による復活を果たした時、魔王の一部となる運命……です」
「!!」
「膨大な魔力を供給するために、体内に取り込まれ、永遠に吸い上げられ続けるとか。その代わり、魔王復活に合わせて魔力も高まるそうですよ」
「魔王の魔力供給源になるのか……」
「はい。死ぬこともできなくなり、助かるには魔王を倒すしかない。アーチロビン……あなたに彼女が付き纏うのは、あなたなら可能性があるからでしょう」
「魔王を倒す可能性?」
「ええ。助かるために、彼女も捨て身なのです」
彼女がそう言った時だ。
ガタン!
大きな音を立てて、祭壇の装置が動き出す。
太陽のモチーフの後ろにある月のモチーフに、ゆっくり影がかかり始めた。
「あぁ!!」
「ど、どうしました?テレクサンドラ」
「あ、明日の夜の月食の予告です。それもいきなり」
「月食が、何か?」
「月食だと、月の力が弱まって、異世界への道が塞がれてしまうのです!」
「ええ!?」
神殿の中の巫女たちは、皆太陽の輝きがデザインされたドレスを着ていた。
ティアラを交換して、テデュッセアになりすましたテレクサンドラに、誰も気づかない。
太陽神殿の中は、太陽の彫刻で溢れていた。
テレクサンドラは、一番奥の部屋に入ると、お付きの巫女たちの方を振り向く。
「祈祷を始めます。許可するまで、祭壇の間の出入りを禁じます」
テレクサンドラがそう巫女たちに言うと、彼女たちはお辞儀をして、退室していった。
この部屋は、祈祷する部屋なのか。
目の前には、日の出から日の入りまでを、太陽のモチーフが自動的に動くことで、表現する装置がある。
うわあ……! 思わず俺は感嘆の声を漏らしそうになる。日食や、雨や曇りという空模様までモチーフが動いて表すみたいだ。
いや、日食だけじゃない。これなら月食もわかる。
月の神殿の祭壇の間も、こんな感じなのかな。
無人になると、テレクサンドラはティアラから俺たちを降ろしてくれる。
「解呪」
魔導士ティトが唱えると、俺たちは元の大きさに戻った。
「ありがとうございます、テレクサンドラ」
俺たちが頭を下げると、テレクサンドラは首を横に振る。
「いいえ、これは私たちのためでもあります。魔王はこの世界の敵なのです」
彼女は腕をさすりながら、微笑んだ。
聖騎士ギルバートが、その様子に気づいて彼女に近づく。
「テレクサンドラ? まさか、さっきヴォルディバ先輩に掴まれた腕が、痛むのですか?」
「いいえ、大したことはありません」
「見せてください……! あぁ、なんてひどい。内出血してる」
「お気になさらず」
「申し訳ございません、テレクサンドラ。無抵抗の女性に怪我を負わせるなんて、騎士としてあるまじきこと」
聖騎士ギルバートは、深々と頭を下げた。テレクサンドラは、やんわりと微笑む。
「今のお言葉で、報われた気がします。騎士も王族もなかなか謝れない人たちが多い中で、あなたはきちんと謝罪してくれる」
「本当に申し訳ない。過ちを犯すことが悪いのは当然ですが、正せるかどうかこそ、問われるものなのです。ヴォルディバ先輩には、必ず償わせます」
「誠実な方……」
テレクサンドラは、聖騎士ギルバートの手を握って、嬉しそうにしていた。
……気のせいか? いい雰囲気だな。
「ゴホン! 話を続けて良いかな? テレクサンドラ」
魔導士ティトが、割り込んでくる。
テレクサンドラと聖騎士ギルバートは、パッと離れた。
「はい、どうぞ」
「日の本へと道が繋がるのは明日。では、明日の何時に行くことになる? そして戻るまでの猶予はいかほどじゃ?」
「それが……」
テレクサンドラは、困惑したような顔になる。
「なんじゃ? どうしたのじゃ」
「この太陽神殿から、道をつなげることはできるのですが……ここから行けるのは一人だけなのです」
「なんじゃと!?」
「ここは、月の力が弱まる太陽神殿。全員をお送りすることが、できません」
「おいおい……」
「そして、時間の猶予ですが、夜明けまでとご理解ください。朝日が昇れば、道が閉ざされてしまいます」
「夜明けまで」
「はい」
日の本へ行けるのは一人だけ。時間は夜が明けるまで、か。
それならば。
「俺がいってきます」
俺は前に進み出た。他に選択肢はない。
みんなが、辛そうに俺を見る。
「また、お前にさせるのか」
「アーチロビンばかり、連戦だね」
「ワシらも、行きたいのぅ」
「私も行きたい! ティトに小さくしてもらって、くっついて行けないかしら?」
口々に騒ぐ中、フィオがテレクサンドラに向き合った。
テレクサンドラは、フィオを見て首を傾げる。
「あなたは、孤族ですね」
「はい」
「獣形になれますか?」
「もちろん」
「人の形に戻らなければ、通れるかもしれません」
「!」
ケルヴィン殿下と聖騎士ギルバートが、それを聞いてテレクサンドラに詰め寄った。
「な、なら、我々も変身できればいいのか?」
「何かの動物になればいい、と?」
「お、落ち着いてください。白狐は、魂が精霊に近い存在なので、異世界へ通る時も大きな道を開く必要がないのです」
「あ、そう……」
二人が意気消沈する。気持ちは嬉しいけど、こっちで待っていてもらわないと。
「こちらへ戻るにも、帰還を強く望む者がいた方が、帰りやすいのではないか? テレクサンドラ」
魔導士ティトが、彼女を見て確認する。
帰還を望む、か。
「はい、その通りです。絆の力は、異世界から引き戻す力となります」
と、テレクサンドラは答えてくれた。
決まりだな。
行くのは俺と、狐の形に変身したフィオ。
留まるのは、ケルヴィン殿下と、聖騎士ギルバートと、魔導士ティト。
「イク! フェイルノモ、イク!!」
フェイルノが、肩に乗ったまま騒ぐ。
「テレクサンドラ、フェイルノは?」
俺が尋ねると、テレクサンドラは、大丈夫と頷いた。フェイルノも一緒だな。
「お前たちの帰還に支障がないように、こっちで踏ん張ってやるわい。イルハートの奴が来てないのも、気になるからな」
魔導士ティトの言葉に、俺も納得だ。これまで何かと行く先々に現れていたのに、今回は来ていない。
顔の怪我といっても、あいつならすぐ治してきそうなのに。
「テデュッセアに伺いましたが、大魔導士イルハートが、アーチロビンに色仕掛けをして撃退されたとか」
テレクサンドラは、俺をなんともいえない表情で見る。
色仕掛け……ケルヴィン殿下、そんなことまで話したのかよ。
俺が目を細めて彼を見ると、ケルヴィン殿下が気まずそうに笑った。
「いや、すまん。テデュッセアに枕元で聞かれて、つい話してしまった」
「ケルヴィン殿下こそ、色仕掛けにかかってたわけじゃないですか! おまけに、俺が一晩中寝ずの番をしてる時に、自分は何してるんです!?」
「本当にすまん」
まったく!! 俺はフィオと、結局あれから進展がなかったのに!
テレクサンドラは、その様子にクスッと笑って俺を見た。
「大魔導士イルハートを退けるなんて、常人にはできません。ましてや、魔王復活が近づく今となっては、尚更です」
……ん? どういうことだ?
「テレクサンドラ? 魔王復活と、イルハートに何か関係が?」
「実は、私たちの曽祖母が、かつての大魔導士だったのです」
「えぇ!?」
魔導士ティトが、ハッとなって彼女を見る。
「もしや、先代の大魔導士ヒルダ様か?」
「えぇ、ヒルダ・レヴァンツァは、曽祖母です。本当は、あなたに継承させたがっていましたよ、魔導士ティト」
「……」
「それはさておき、曽祖母が教えてくれたことがあるのです。大魔導士が背負う暗い運命を」
「なんと!? な、なんじゃそれは!!」
「魔王が新たに生まれるのではなく、先代の転生による復活を果たした時、魔王の一部となる運命……です」
「!!」
「膨大な魔力を供給するために、体内に取り込まれ、永遠に吸い上げられ続けるとか。その代わり、魔王復活に合わせて魔力も高まるそうですよ」
「魔王の魔力供給源になるのか……」
「はい。死ぬこともできなくなり、助かるには魔王を倒すしかない。アーチロビン……あなたに彼女が付き纏うのは、あなたなら可能性があるからでしょう」
「魔王を倒す可能性?」
「ええ。助かるために、彼女も捨て身なのです」
彼女がそう言った時だ。
ガタン!
大きな音を立てて、祭壇の装置が動き出す。
太陽のモチーフの後ろにある月のモチーフに、ゆっくり影がかかり始めた。
「あぁ!!」
「ど、どうしました?テレクサンドラ」
「あ、明日の夜の月食の予告です。それもいきなり」
「月食が、何か?」
「月食だと、月の力が弱まって、異世界への道が塞がれてしまうのです!」
「ええ!?」
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