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六章
ネプォンの妨害
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テレクサンドラのフリをしたテデュッセアは、涼しい顔で受け流している。
「ケルヴィン殿下をお探しですか? ネプォン王」
「ここに来ているはずです。お引き渡し願いたい」
「知りませんわ。いないものを引き渡すことはできません」
「奴は、我が国の相談役を乱暴した疑いもあるのです」
「相談役とは、大魔導士イルハート・ブルのことですか?」
「そうです。昨夜、顔にたくさん傷を負い、おまけに一糸纏わぬ姿で逃げてきたのです」
「まぁ……」
イルハートの奴、俺にかけた拘束の魔法を破られかけて、その反動が顔にきていたからな。
露天風呂から変身して逃げる時は、確かに何も着ていなかったはずだ。
だが、ネプォンのところに逃げてきた……?
俺の知る彼女なら、むしろそんな姿は見られたくないと隠れるはずだが。
ネプォンは、語気を強めてテデュッセアを見た。
「イルハートは、私の大切な女性なのです。親友であり、戦友でもある。そんな人を傷つけられて、黙ってはいられません」
「ネプォン王、何を言われても、ここにケルヴィンなる人はおりません。どうぞお引き取りを」
「隠すとためになりませんよ? 私の直属の護衛兵を、神殿の外に待機させました。いつでも、突入できます」
「もし、いなかったら?」
テデュッセアは、ネプォンを真正面から見据える。
二人が睨み合う中、暗黒騎士ヴォルディバが、首と肩を回しながら進み出て来た。
「あー、かったりぃなぁ! おう、巫女のねーちゃん、この中にケルヴィン殿下たちが入って行ったのを俺の部下が見てんだ。下手な嘘はやめときな!!」
「!!」
「よせ、ヴォルディバ、彼女たちを怖がらせるな」
「でもよぉ、ネプォン。いや、陛下。どっかに、隠してるのは事実だぜ? まさか……その長いドレスの中とか? ウヒヒヒ、羨ましいぜ!」
暗黒騎士ヴォルディバの下品な笑いに、彼女たちは不快な表情をする。
あいつ、ああいうところがあるんだよな。
嫌な奴だ、あれで女性に好かれると思ってる節があるし。
暗黒騎士ヴォルディバが、手揉みしながら彼女たちに近づき始める。
「先ずは、そのドレスをめくらせてもらおうか?」
「待て、ヴォルディバ」
「んだよ、陛下。邪魔すんなって。美人が二人いるんだから、仲良く分けようや」
「俺たちの目的を忘れるな。先ずは捜索だ」
「ち、ケルヴィン殿下なんぞ、ほっとけよ。どうせ、魔王が復活するなんてデマを信じてうろついてるだけじゃねーか」
「イルハートに手を出した以上、容赦はしない」
「イルハートねぇ。あいつも、このごろ変だよな。怒りっぽくなったというか。なんか、焦ってるよな」
「焦る?」
「早くあいつを手に入れないと、とかなんとか、ぶつぶつ言ってたぜ? あ、欲求不満か。だから、ケルヴィン殿下のところに行ったのかも」
「んなわけあるか! ……けど、確かに最近は、寝室でも上の空だった。まさか、本当にケルヴィンに惚れてるのか……?」
「かもしれないぜ? だから、奴の行くところに、コソコソ先回りしたりするんだ。んで、とうとう奴に襲われた……と」
「俺の女だぞ!!」
「はいはい、噛みつくなよ。とりあえず、捜索開始だ!!」
暗黒騎士ヴォルディバの部下が、あちこち捜索し始める。
けれど、どこにも見当たらず、いないと報告するのが聞こえた。
「どうやら、いらっしゃならないみたいですね。どう始末をつけるおつもり?」
テデュッセアが、ネプォンを睨みつけて低い声で凄んだ。
「ふん、奴のそばには、かつての大魔導士候補だった、ティトがいる。目眩しの術でも使ってるかもしれません」
ネプォンも負けない。奴の勘が働いてるんだ。面倒だな……。
「テレクサンドラ、私の勘がここ離れるなと告げるのです」
ネプォンはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。
厄介なことになったぞ。
ネプォンは、静々と近づいていく。
「しばらく、月の神殿に滞在させてください。そうだな……せめて明日まで。」
「明日!?」
「明日の夜までに、奴らが現れなければ、引き揚げましょう」
よりによって、明日。
「ネプォン王、それはあまりに……」
「テレクサンドラ、逃亡犯を匿えば、例えあなたでも罪に問われる。我が国に連行させていただきますよ?」
「!!」
「この神殿の中の他の巫女たちには、手を出しません。あなたが、従うならば」
「……わかりました。でも、テデュッセアは……妹は太陽神殿の巫女。関係ありませんので、彼女は帰します」
テデュッセアは、テレクサンドラの背を押して出るように促す。
テレクサンドラが、ヴォルディバの横を通り抜けようとした時、奴の顔が間近に見えた。
体が小さくなっている分、その表情がまざまざとわかる。
「嫌らしい顔」
フィオが、思わず嫌悪感を浮かべて、小さな声を漏らす。
確かに。
これは、テレクサンドラに手を出す気満々の顔だ。
奴は無遠慮に顔を近づけてきて、テレクサンドラの匂いを嗅ぐような仕草をしてくる。
「最低野郎だな。な、ギルバート」
「本当ですねぇ、ケルヴィン殿下」
「鼻毛まで伸ばしたままとは。こやつはモテんじゃろ?」
ケルヴィン殿下や、聖騎士ギルバート、魔導士ティトも、好き勝手に呟いていた。
テレクサンドラは、ヴォルディバを完全無視して、通り抜けようとする。
「おおっとぉ! あんたは、俺がいただくんだぜ?」
暗黒騎士ヴォルディバが、テレクサンドラの腕を掴んだ。
「離しなさい! ガルズンアース国の兵士は、女性に乱暴するのが当たり前なのですか? ネプォン王」
テデュッセアがすぐに駆け寄り、暗黒騎士ヴォルディバの腕を振り払って睨みつける。
彼女は、芯が強いというか、気が強い女性なんだな。
彼等相手に、一歩も引かない。
ケルヴィン殿下が、惚れ惚れするような表情で、テデュッセアに見惚れている。
完全にまいってるみたいだな。
そこへ、ネプォンがやって来て、暗黒騎士ヴォルディバの肩に手を置いた。
「失礼、ヴォルディバ、お前は陣営に戻ってろ」
「あんだよ? 陛下。こんなにいい女が揃ってんのに、俺だけお預けかぁ?」
「命令だ。街でナンパでもして、他をあたれ」
「ち!」
暗黒騎士ヴォルディバは去っていく。
テデュッセアは、外までテレクサンドラを見送って、神殿の中に戻っていった。
テレクサンドラは、外にとめてあった馬車に乗り込むと、ほぅ、と、息を吐く。
「……テデュッセアが、心配だ」
ケルヴィン殿下が、呟いた。
「大丈夫です、ケルヴィン殿下」
「テレクサンドラ?」
「テデュッセアは、太陽神殿の巫女。いざとなれば、神通力で己の身を守れます。ましてやここは、ポリュンオス。この地で私たちを傷つけることはできない」
「テレクサンドラ……」
「魔王は、世界中に関わりのある重要事項。確実に倒さねば、未来はありません」
「ええ」
「太陽神殿に、ご案内します。行きましょう」
「ケルヴィン殿下をお探しですか? ネプォン王」
「ここに来ているはずです。お引き渡し願いたい」
「知りませんわ。いないものを引き渡すことはできません」
「奴は、我が国の相談役を乱暴した疑いもあるのです」
「相談役とは、大魔導士イルハート・ブルのことですか?」
「そうです。昨夜、顔にたくさん傷を負い、おまけに一糸纏わぬ姿で逃げてきたのです」
「まぁ……」
イルハートの奴、俺にかけた拘束の魔法を破られかけて、その反動が顔にきていたからな。
露天風呂から変身して逃げる時は、確かに何も着ていなかったはずだ。
だが、ネプォンのところに逃げてきた……?
俺の知る彼女なら、むしろそんな姿は見られたくないと隠れるはずだが。
ネプォンは、語気を強めてテデュッセアを見た。
「イルハートは、私の大切な女性なのです。親友であり、戦友でもある。そんな人を傷つけられて、黙ってはいられません」
「ネプォン王、何を言われても、ここにケルヴィンなる人はおりません。どうぞお引き取りを」
「隠すとためになりませんよ? 私の直属の護衛兵を、神殿の外に待機させました。いつでも、突入できます」
「もし、いなかったら?」
テデュッセアは、ネプォンを真正面から見据える。
二人が睨み合う中、暗黒騎士ヴォルディバが、首と肩を回しながら進み出て来た。
「あー、かったりぃなぁ! おう、巫女のねーちゃん、この中にケルヴィン殿下たちが入って行ったのを俺の部下が見てんだ。下手な嘘はやめときな!!」
「!!」
「よせ、ヴォルディバ、彼女たちを怖がらせるな」
「でもよぉ、ネプォン。いや、陛下。どっかに、隠してるのは事実だぜ? まさか……その長いドレスの中とか? ウヒヒヒ、羨ましいぜ!」
暗黒騎士ヴォルディバの下品な笑いに、彼女たちは不快な表情をする。
あいつ、ああいうところがあるんだよな。
嫌な奴だ、あれで女性に好かれると思ってる節があるし。
暗黒騎士ヴォルディバが、手揉みしながら彼女たちに近づき始める。
「先ずは、そのドレスをめくらせてもらおうか?」
「待て、ヴォルディバ」
「んだよ、陛下。邪魔すんなって。美人が二人いるんだから、仲良く分けようや」
「俺たちの目的を忘れるな。先ずは捜索だ」
「ち、ケルヴィン殿下なんぞ、ほっとけよ。どうせ、魔王が復活するなんてデマを信じてうろついてるだけじゃねーか」
「イルハートに手を出した以上、容赦はしない」
「イルハートねぇ。あいつも、このごろ変だよな。怒りっぽくなったというか。なんか、焦ってるよな」
「焦る?」
「早くあいつを手に入れないと、とかなんとか、ぶつぶつ言ってたぜ? あ、欲求不満か。だから、ケルヴィン殿下のところに行ったのかも」
「んなわけあるか! ……けど、確かに最近は、寝室でも上の空だった。まさか、本当にケルヴィンに惚れてるのか……?」
「かもしれないぜ? だから、奴の行くところに、コソコソ先回りしたりするんだ。んで、とうとう奴に襲われた……と」
「俺の女だぞ!!」
「はいはい、噛みつくなよ。とりあえず、捜索開始だ!!」
暗黒騎士ヴォルディバの部下が、あちこち捜索し始める。
けれど、どこにも見当たらず、いないと報告するのが聞こえた。
「どうやら、いらっしゃならないみたいですね。どう始末をつけるおつもり?」
テデュッセアが、ネプォンを睨みつけて低い声で凄んだ。
「ふん、奴のそばには、かつての大魔導士候補だった、ティトがいる。目眩しの術でも使ってるかもしれません」
ネプォンも負けない。奴の勘が働いてるんだ。面倒だな……。
「テレクサンドラ、私の勘がここ離れるなと告げるのです」
ネプォンはそう言って、不敵な笑みを浮かべた。
厄介なことになったぞ。
ネプォンは、静々と近づいていく。
「しばらく、月の神殿に滞在させてください。そうだな……せめて明日まで。」
「明日!?」
「明日の夜までに、奴らが現れなければ、引き揚げましょう」
よりによって、明日。
「ネプォン王、それはあまりに……」
「テレクサンドラ、逃亡犯を匿えば、例えあなたでも罪に問われる。我が国に連行させていただきますよ?」
「!!」
「この神殿の中の他の巫女たちには、手を出しません。あなたが、従うならば」
「……わかりました。でも、テデュッセアは……妹は太陽神殿の巫女。関係ありませんので、彼女は帰します」
テデュッセアは、テレクサンドラの背を押して出るように促す。
テレクサンドラが、ヴォルディバの横を通り抜けようとした時、奴の顔が間近に見えた。
体が小さくなっている分、その表情がまざまざとわかる。
「嫌らしい顔」
フィオが、思わず嫌悪感を浮かべて、小さな声を漏らす。
確かに。
これは、テレクサンドラに手を出す気満々の顔だ。
奴は無遠慮に顔を近づけてきて、テレクサンドラの匂いを嗅ぐような仕草をしてくる。
「最低野郎だな。な、ギルバート」
「本当ですねぇ、ケルヴィン殿下」
「鼻毛まで伸ばしたままとは。こやつはモテんじゃろ?」
ケルヴィン殿下や、聖騎士ギルバート、魔導士ティトも、好き勝手に呟いていた。
テレクサンドラは、ヴォルディバを完全無視して、通り抜けようとする。
「おおっとぉ! あんたは、俺がいただくんだぜ?」
暗黒騎士ヴォルディバが、テレクサンドラの腕を掴んだ。
「離しなさい! ガルズンアース国の兵士は、女性に乱暴するのが当たり前なのですか? ネプォン王」
テデュッセアがすぐに駆け寄り、暗黒騎士ヴォルディバの腕を振り払って睨みつける。
彼女は、芯が強いというか、気が強い女性なんだな。
彼等相手に、一歩も引かない。
ケルヴィン殿下が、惚れ惚れするような表情で、テデュッセアに見惚れている。
完全にまいってるみたいだな。
そこへ、ネプォンがやって来て、暗黒騎士ヴォルディバの肩に手を置いた。
「失礼、ヴォルディバ、お前は陣営に戻ってろ」
「あんだよ? 陛下。こんなにいい女が揃ってんのに、俺だけお預けかぁ?」
「命令だ。街でナンパでもして、他をあたれ」
「ち!」
暗黒騎士ヴォルディバは去っていく。
テデュッセアは、外までテレクサンドラを見送って、神殿の中に戻っていった。
テレクサンドラは、外にとめてあった馬車に乗り込むと、ほぅ、と、息を吐く。
「……テデュッセアが、心配だ」
ケルヴィン殿下が、呟いた。
「大丈夫です、ケルヴィン殿下」
「テレクサンドラ?」
「テデュッセアは、太陽神殿の巫女。いざとなれば、神通力で己の身を守れます。ましてやここは、ポリュンオス。この地で私たちを傷つけることはできない」
「テレクサンドラ……」
「魔王は、世界中に関わりのある重要事項。確実に倒さねば、未来はありません」
「ええ」
「太陽神殿に、ご案内します。行きましょう」
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