上 下
43 / 96
四章

フィオの帰還

しおりを挟む
シャーリーは、穴が開くかと思うほど、ネプォンを見る。

「はあ? あんた、それを言うために一緒に来たわけ?」

ネプォンは、涼しい顔で彼女を見返した。
その顔に迷いもない。

「お前さ、お付きの神官を襲ってるんだぞ? 王として、帰国を許すわけにはいかねぇよ」

俺はその言葉で、彼女の服についた血が、やはりお付きの神官たちのものであると確信した。

シャーリーは、ギッと睨んで大魔導士イルハートを見る。

「……あんたも同じ意見?」

「んー? ネプォンが、そうだと言うならそうじゃなぁい?」

「この女狐! あんたたち、おかしいわよ!? 私が魔王来襲の夢を見たと、教えた時から!」

「ふふふ」

「ネプォン。魔王が復活したって、あんたがまた倒せばいいだけの話じゃない! 天に選ばれた勇者として、神剣も持ってるでしょ!」

と、シャーリーに言われたネプォンは、心なしが表情が曇っていた。なんだ? なぜそんな顔をする?

「魔王は、復活なんてしない」

ネプォンは、暗い目でシャーリーを馬車から引き摺り落とした。

「痛っ……! ネプォン!!」

「魔王は倒した。もう、関わることはない」

「あんた、何言ってんの!? 誤魔化したところで、魔王は自分を倒した私たちを覚えているのよ!? いずれ───」

「魔王は復活するものか。俺が生きている限り」

ネプォンは、結界の近くにシャーリーを突き飛ばそうとした。

咄嗟にシャーリーが、ネプォンにしがみつこうとして、奴の帯剣していた神剣の柄を握る。

「これがあるんだから、怖がることなんてないじゃない!!」

そう叫ぶシャーリーを、ネプォンは振り払う。

その瞬間、シャキン!! と音がした。

───え?

神剣が抜けた?
勇者だけしか、抜くことができないといわれる剣が───あれ!?

剣が……剣の刃が!!

「見たな」

ネプォンが、さらに暗い目をしてシャーリーから神剣を奪い返すと、彼女を結界内に突き飛ばす。

「きゃあー!!」

結界内に入った彼女は、一瞬で見えなくなった。

そして奴は、俺の方にも剣先を向ける。

俺は、まじまじとその刃を見つめた。
───嘘だろ?
神剣が、錆びてる!!

ネプォンは、虚な瞳で俺の喉元に剣を突きつけてきた。

「俺のせいじゃねぇ」

俺は奴の剣を避けるように、少しずつ後ろに下がる。

何かあったな、こいつ。神器を錆びらせた英雄なんて、聞いたことがない。

魔王との間に、一体何があった!?

ネプォンは、結界の中に俺を押し込むように踏み込んでくる。

「あんたとシャーリーだけじゃ、どのみちゾンビダラボッチにやられる」

「……」

「『助けてください』と、おねだりしてみるか? 俺が飽きるまでは、命があるぜ?」

ここで、媚びると思うか? クソ野郎。
俺は奴を睨んだ。

「いや」

「けっ! 最後まで可愛くねぇ女!! イルハートみたいにならねぇと、長生きできねえぞ!!」

ネプォンの恫喝をよそに、俺はチラリと大魔導士イルハートを見る。彼女は薄く微笑んで、見ているだけ。

あの時も、今も。
こいつは、澄ました顔で他人事のように見ているだけ。

そして、助けて欲しい時だけ、色っぽくねだってくるわけだ。

相手が男なら。

遠くから、白狐のフィオが心配そうに俺を見ている。

いつでも、助けに駆けつける、そんな雰囲気を醸しだして。

そして、フィオの後ろには、なんとケルヴィン殿下たちまできていた。

頭に木屑や葉っぱをつけて、肩で息をしている。大急ぎで、来てくれたんだ。

そう……ピンチになれば、あっさり仲間を見捨てるネプォンたちと違う。

俺は仲間達を信じて、ネプォンを睨みつけた。
かつて、憧れたその人。

でも、所詮上っ面だけの勇者と、寄せ集めの仲間たちだった。

俺は声を低めて、ネプォンに告げる。

「あんたがいなくても……」

「あん?」

「あんたがいなくても、ゾンビダラボッチは倒せる!!」

「!?」

「あんたの時代は終わった!」

「こ、こいつ!!」

俺は後ろに下がり、結界の中に自分から入る。
結界の向こうからは、ネプォンたちが見えた。

逆に奴からは見えないはずだ。

ネプォンは荒れに荒れて、その辺の草木に、神剣を叩きつけている。

その時わかった。神剣は斬れ味まで落ちている。いや、何も斬れないようになっていた。

逆に小石を跳ね飛ばして、自分の顔に当ててしまい、ネプォンはまた鼻血を吹いている。

「いてぇ! ちくしょう!! 誰か……誰か治せ! いてぇんだよ!!」

大魔導士イルハートが、呆れた表情で奴を見ていた。

「神官を二人とも失ったのよ? 大人しく、鼻血が止まるまで待てばぁ?」

「なんだとぉ!?」

「怒ると、余計出るわよぉ」

「く……! こい! イルハート」

「あん、なによぉ」

「お前で気分直しだ!」

「やだぁ、鼻血止めてからにしてよぉ!」

「そのうち、止まる!」

ネプォンは、イルハートを馬車に放り込むと、上からのしかかろうとした。

「いや! 最低のマナーも守れないなんて!!」

大魔導士イルハートは、足でネプォンの顔を蹴り上げ、馬車からそのまま落とした。

「グエ!」

ネプォンの情けない声。
続いて、大魔導士イルハートは、馬車を魔法で動かして、来た道を引き返していく。

「止まれぇ! 止まってくれ、イルハート!!」

ネプォンは、フラフラしながら追いかけていった。

アホらしい。

「バーカ、バーカ」

オウムのフェイルノが、喋りながら上着の中から出て来ると、俺の肩にとまる。

「まったくだな」

俺も呆れていると、結界の中にフィオたちが入ってきた。

「フィオ!!」

俺が呼ぶと、フィオは白狐の姿から人の姿へと戻る。

俺も、元の姿に戻った。

「アーチロビン!!」

飛び込んで来るフィオを、しっかり抱き止める。フィオだ、フィオ、フィオ!!

「……フィオ!」

思わず声が掠れた。
夢じゃない。彼女はここにいるんだ!

「ガー、フィオ、オカエリナサイ」

「ただいま、アーチロビン、ただいま、フェイルノ」

フィオも、嬉しそうだ。
体で感じる確かな温もりに、泣きたくなるほどの喜びが込み上げてくる。

みんなも周りを取り囲んで、温かい言葉をかけてくれた。

「よかったのぉ」

魔導士ティトが、またハンカチで目頭を押さえている。

「あれから、フィオはすぐに目覚めたんだよ? 白狐の姿で飛び出して来て、最初は誰だかわからなかった」

聖騎士ギルバートが、ニコニコしながら教えてくれる。

「それからが、早いの何の。白狐の俊足でユバロン司祭から聖櫃の許可をもらって来て、ティトの魔法で俺たちと聖櫃を小さくしてさ」

ケルヴィン殿下が、頭についた葉っぱを落として笑った。

小さくして? まさか、みんなフィオに乗って来たのか?

「ということは?」

「そうだ、アーチロビン。霊泉の水は聖櫃で汲み出せた。それから小さくなって、フィオに乗ってここまで来たんだ」

ケルヴィン殿下は、力強く応えてくれた。
うまくいったんだ。

俺が腕の中のフィオを見ると、フィオは顔を上気させて笑っている。

「すごい……な……フィオ」

あれ? いつも通り話してるのに、唇が震える。
おかしいな、上手く喋れない。
フィオはそんな俺の顔を両手で包む。

「あなたに、早く会いたくて」

彼女が眩しい。胸もいっぱいだ。

「く……は……」

呼吸すら、止まりそう。
フィオが、心配そうな顔をする。

「大丈夫? アーチロビン」

「ん……んん! ごめ……俺……上手く話せ……なくて」

「いいの! いいのよ……」

フィオの目も、潤んできた。

しっかりしろ、俺!!

心が暴れて、枯れることを知らない湧き水のように、感情が溢れてくる。

これじゃ、言葉が少しも追いつかない。
それでも、伝えたい───。

「フィ……オ」

「ええ」

「また……会え……た。俺……俺は……」

それ以上言葉が出てこず、彼女を思いっきり抱きしめる。

俺の腕の中で、冷たくなっていったあの時のことを思い出して、さらに力を入れた。

「ア、アーチロビン、苦しい……」

フィオの声がして、俺は慌てて腕を緩める。

「ごめん!」

「ふふ、いいの……いいの。ありがとう」

「フィオ」

彼女と見つめ合っていると、自然と顔が近づいた。

「ガー、チュウスル? チュウ?」

オウムのフェイルノが、横からまた言い出す。

「もう、お前は───」

「アトガイイヨ」

「な、なんだよ、珍しいな」

いつもなら、煽るくせに。

「ソコニイルモン」

「何が?」

「テキ」

「!!」

ゾンビダラボッチが、森の奥からぬっと出てきた。

結界内は、大聖殿前で俺の力場に捉えた場所とはまた違う。

新たに、仕掛ける必要があるな。

深呼吸してフィオを見ると、彼女も力強く頷いた。

俺たちは離れて、ゾンビダラボッチに向き合う。

俺はすぐに矢を地面に打ち込み、力場が発生してゾンビダラボッチを包んだ。

さあ、ここからだ!!


~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

読んでくださってありがとうございました。
お気に召したら、お気に入り登録してくださるとうれしいです♫ とても励みになります。

現在、ファンタジー小説大賞開催中です。ぜひ投票お願いします。


※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...