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四章
ゾンビダラボッチを倒す条件
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宿屋への道すがら、白薙様からゾンビダラボッチの正体について説明があった。
「あやつは、怨念を含んだ墓土を鎧にしておる。何をしようと、外側からでは、中にある本体を倒せぬ」
「だから、シャーリーの聖属性の魔法でも倒せなかったのですね」
「大聖女といえど、外側からは無理じゃ。墓土を浄化して、その中にいる奴の本体を叩かねば」
「浄化するとは、どうすれば?」
俺がそう聞くと、白薙様はピタリと動きを止めた。……まずいことを聞いたのか?
沈黙の後、白薙様は重い口を開いた。
「伝承によると、奴を上回る霊力を持ったものを、体内に送り込むといいそうじゃ。簡単に言うと、生贄」
「!!」
「高い霊力を持つ、神官か巫女を食わせてやればいい。その血肉が奴に張り付く墓土の怨念を鎮め、浄化すると言われておる」
「そんな……生贄以外の方法はないんですか?」
「高位の巫女や、神官の血肉以上の浄化力を持つものを奴に食わせられるか?」
「……レアアイテムで何か……」
「どこに?」
「……」
「完全浄化するには、全身が喰われねばならぬ。我はな、我が身を差し出すつもりだ」
「え!」
「これも何かの縁。我を食ったゾンビダラボッチが、本体を現した時、お前たちが討ち取っておくれ」
「……あなたが犠牲に?」
聖騎士ギルバートが言うと、白薙様はふっと笑う。
「我は十分に生きた」
魔導士ティトがそれを聞いて、悲しそうな顔をした。
「いやはや。同年代に目の前で言われると、身に染みるのう。若者を犠牲にするわけにはいかぬが、年寄りの命が軽いわけではないからな」
「おう、我にはたった一つの重い命よ。自分の死は、それは怖い。何年生きていても、関係なくな」
「当たり前じゃ。」
そりゃそうだ。それに、白薙様を慕う人たちも悲しむ。俺も、じっちゃんが死んだら悲しむもの。
本当に、他に方法がないのだろうか。
俺の力で、奴自身の攻撃を跳ね返させても、奴は再生していた。
目から出る高熱ビームも、奴を滅ぼすまでにはならなかった。
他の能力ならなんとかなるか?
いや、結局浄化するまではうまくいかない気がする。
現状わかっているのは、ゾンビダラボッチより高い霊力をもつものの血肉が、本体を暴き出す鍵。
全身に高い霊力が巡った体だからこそ、効果があるのかもしれない。
高い……霊力……強い……浄化力……それなら。
「霊泉の水を飲ませるというのは?」
俺は提案してみた。魔導士ティトが、体調を崩して鼻血を出すほど影響の大きい、霊泉の水。
白薙様は、呆気に取られた顔で俺を見ている。
ダメかな。
「霊泉の水かえ? 霊泉は、汲み出すことができぬ水ぞ。あの場所に、ゾンビダラボッチは大きすぎて入らぬしな」
「汲み出せない水?」
「そう。霊力の源が、水の形をとっているだけのものぞ。外に出れば消えてしまう。どうやって持ち出すのじゃ」
そういえば、霊泉に濡れた体は、外に出る頃には乾ききっていたな。
俺は自分の弓矢を前に取り出して、じっと見る。これに染み込ませても、ダメか。
「なら、聖櫃は?」
俺は白薙様を見た。
彼女は、目を丸くする。
「聖櫃か!!」
「そうです。聖櫃いっぱいの霊泉の水なら、人間一人分の体重に匹敵する。そして、浄化力は桁違い」
「聖櫃は思いつかなんだ。あれは国の神器である、あの砂時計が入っていたと言われるもの。どちらも人外の力が生み出したものだ!」
「それなら、可能性があります。聖櫃ごと、ゾンビダラボッチに食わせれば、確実に体内に取り込める」
「だ、だが、聖櫃をそのように使ったことはない。許可もいるし、何より……本当に汲み出せるかは、わからぬぞ」
「白薙様が、犠牲になるよりはいい」
「アーチロビン……」
「試してみましょう! 聖櫃ならここにある。犠牲は、全ての手を尽くした後の最後の手段!」
みんなが頷いてくれた、その時だ。
白薙様がハッと顔を上げて、村の入り口を見た。
「敵の侵入じゃ!!」
「!!」
俺たちも思わず彼女を見る。
白薙様が腕を一振りすると、村の鐘がカーン、カーン! と打ち鳴らされた。
村のあちこちで、子どもたちが呼び戻され、みんな家の中に閉じ籠る。
俺たちは、敵を探し始めた。
どこだ……どこだ!?
「───来るぞ!」
魔導士ティトが、ロッドを構えて前方を睨む。
人影だ。
……あれは……。
「あら、馬鹿弓使いじゃないの。それにケルヴィン殿下まで」
シャーリー!!
俺たちは驚いて彼女を見た。
なぜ、ここにきた!?
今は正気のようだが、いつ変わるかわからない。それに、なぜ服が血だらけなんだ。
誰の血だよ、それ。
「お前、なぜ。神官たちと一緒に国に帰ったんじゃないのか」
俺が弓を構えて、いつでも打てるようにすると、シャーリーは笑い出した。
「あははは! あんなレベルの低い神官たちに、私が止められるわけがない。霊力だって、私が上なのよ?」
「そりゃ、そうだろうが。まさか、その服の血……」
「さあ? 私にもわかんないの。気がついたらこうなってたわ」
「!!」
「それより、なんであんたここにいるの? 封印されてたはずよ」
「……」
「はあぁ、イルハートの奴の秘密、てこれかぁ。こそこそ誰かに会ってると、ネプォンが愚痴ってたもんねぇ」
「……」
「クスクス、何、あんた、イルハートとできてんての? ネプォンが知ったら、半殺しよ?」
「違う」
「でしようね。あんたみたいなヘタレに、イルハートが靡くわけない」
「何しにきたんだ?」
「手ぶらじゃ国に帰れないじゃない? ゾンビダラボッチをやっつけて、ネプォンにみせつけてやるの。あいつの悔しがる顔が見たい」
「それで?」
「倒すには、霊力の高い巫女か神官の血肉がいる、てね。初めて会った時、ユバロン司祭が言ってたの。戯言だと思って聞き流したけど」
「それがどうして、ここにくる理由に?」
「……ここにいるんでしょ? クリムティナ・フィオ・グライア神官」
「あやつは、怨念を含んだ墓土を鎧にしておる。何をしようと、外側からでは、中にある本体を倒せぬ」
「だから、シャーリーの聖属性の魔法でも倒せなかったのですね」
「大聖女といえど、外側からは無理じゃ。墓土を浄化して、その中にいる奴の本体を叩かねば」
「浄化するとは、どうすれば?」
俺がそう聞くと、白薙様はピタリと動きを止めた。……まずいことを聞いたのか?
沈黙の後、白薙様は重い口を開いた。
「伝承によると、奴を上回る霊力を持ったものを、体内に送り込むといいそうじゃ。簡単に言うと、生贄」
「!!」
「高い霊力を持つ、神官か巫女を食わせてやればいい。その血肉が奴に張り付く墓土の怨念を鎮め、浄化すると言われておる」
「そんな……生贄以外の方法はないんですか?」
「高位の巫女や、神官の血肉以上の浄化力を持つものを奴に食わせられるか?」
「……レアアイテムで何か……」
「どこに?」
「……」
「完全浄化するには、全身が喰われねばならぬ。我はな、我が身を差し出すつもりだ」
「え!」
「これも何かの縁。我を食ったゾンビダラボッチが、本体を現した時、お前たちが討ち取っておくれ」
「……あなたが犠牲に?」
聖騎士ギルバートが言うと、白薙様はふっと笑う。
「我は十分に生きた」
魔導士ティトがそれを聞いて、悲しそうな顔をした。
「いやはや。同年代に目の前で言われると、身に染みるのう。若者を犠牲にするわけにはいかぬが、年寄りの命が軽いわけではないからな」
「おう、我にはたった一つの重い命よ。自分の死は、それは怖い。何年生きていても、関係なくな」
「当たり前じゃ。」
そりゃそうだ。それに、白薙様を慕う人たちも悲しむ。俺も、じっちゃんが死んだら悲しむもの。
本当に、他に方法がないのだろうか。
俺の力で、奴自身の攻撃を跳ね返させても、奴は再生していた。
目から出る高熱ビームも、奴を滅ぼすまでにはならなかった。
他の能力ならなんとかなるか?
いや、結局浄化するまではうまくいかない気がする。
現状わかっているのは、ゾンビダラボッチより高い霊力をもつものの血肉が、本体を暴き出す鍵。
全身に高い霊力が巡った体だからこそ、効果があるのかもしれない。
高い……霊力……強い……浄化力……それなら。
「霊泉の水を飲ませるというのは?」
俺は提案してみた。魔導士ティトが、体調を崩して鼻血を出すほど影響の大きい、霊泉の水。
白薙様は、呆気に取られた顔で俺を見ている。
ダメかな。
「霊泉の水かえ? 霊泉は、汲み出すことができぬ水ぞ。あの場所に、ゾンビダラボッチは大きすぎて入らぬしな」
「汲み出せない水?」
「そう。霊力の源が、水の形をとっているだけのものぞ。外に出れば消えてしまう。どうやって持ち出すのじゃ」
そういえば、霊泉に濡れた体は、外に出る頃には乾ききっていたな。
俺は自分の弓矢を前に取り出して、じっと見る。これに染み込ませても、ダメか。
「なら、聖櫃は?」
俺は白薙様を見た。
彼女は、目を丸くする。
「聖櫃か!!」
「そうです。聖櫃いっぱいの霊泉の水なら、人間一人分の体重に匹敵する。そして、浄化力は桁違い」
「聖櫃は思いつかなんだ。あれは国の神器である、あの砂時計が入っていたと言われるもの。どちらも人外の力が生み出したものだ!」
「それなら、可能性があります。聖櫃ごと、ゾンビダラボッチに食わせれば、確実に体内に取り込める」
「だ、だが、聖櫃をそのように使ったことはない。許可もいるし、何より……本当に汲み出せるかは、わからぬぞ」
「白薙様が、犠牲になるよりはいい」
「アーチロビン……」
「試してみましょう! 聖櫃ならここにある。犠牲は、全ての手を尽くした後の最後の手段!」
みんなが頷いてくれた、その時だ。
白薙様がハッと顔を上げて、村の入り口を見た。
「敵の侵入じゃ!!」
「!!」
俺たちも思わず彼女を見る。
白薙様が腕を一振りすると、村の鐘がカーン、カーン! と打ち鳴らされた。
村のあちこちで、子どもたちが呼び戻され、みんな家の中に閉じ籠る。
俺たちは、敵を探し始めた。
どこだ……どこだ!?
「───来るぞ!」
魔導士ティトが、ロッドを構えて前方を睨む。
人影だ。
……あれは……。
「あら、馬鹿弓使いじゃないの。それにケルヴィン殿下まで」
シャーリー!!
俺たちは驚いて彼女を見た。
なぜ、ここにきた!?
今は正気のようだが、いつ変わるかわからない。それに、なぜ服が血だらけなんだ。
誰の血だよ、それ。
「お前、なぜ。神官たちと一緒に国に帰ったんじゃないのか」
俺が弓を構えて、いつでも打てるようにすると、シャーリーは笑い出した。
「あははは! あんなレベルの低い神官たちに、私が止められるわけがない。霊力だって、私が上なのよ?」
「そりゃ、そうだろうが。まさか、その服の血……」
「さあ? 私にもわかんないの。気がついたらこうなってたわ」
「!!」
「それより、なんであんたここにいるの? 封印されてたはずよ」
「……」
「はあぁ、イルハートの奴の秘密、てこれかぁ。こそこそ誰かに会ってると、ネプォンが愚痴ってたもんねぇ」
「……」
「クスクス、何、あんた、イルハートとできてんての? ネプォンが知ったら、半殺しよ?」
「違う」
「でしようね。あんたみたいなヘタレに、イルハートが靡くわけない」
「何しにきたんだ?」
「手ぶらじゃ国に帰れないじゃない? ゾンビダラボッチをやっつけて、ネプォンにみせつけてやるの。あいつの悔しがる顔が見たい」
「それで?」
「倒すには、霊力の高い巫女か神官の血肉がいる、てね。初めて会った時、ユバロン司祭が言ってたの。戯言だと思って聞き流したけど」
「それがどうして、ここにくる理由に?」
「……ここにいるんでしょ? クリムティナ・フィオ・グライア神官」
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