上 下
30 / 96
三章

ゾンビダラボッチの来襲

しおりを挟む
この国の司祭は、大聖殿にいるらしい。

観光案内のパンフレットによると、百年前トゥンカル・ミズ国は暴君がいて、国民が長く苦しめられた歴史があるそうだ。

多くの国民が犠牲になり、その墓土の中から生まれたのが、ゾンビダラボッチ。

「ゾンビダラボッチは、国民の怨念が作り出した、とも言われている」

ケルヴィン殿下が、道々歩きながら説明してくれる。

「怨念……て、ゾンビダラボッチは魔族なのでしょう?」

おそるおそる質問するフィオ。
彼女は今、「忍者」と呼ばれるジョブに扮している。頭に被る布が、耳をうまく隠してくれるからだ。

尻尾は腰に巻きつけて、帯のようにして誤魔化している。

「アンデッド系の魔族じゃの。じゃが、犠牲者の埋まる墓地の中から出てきたから、まるで怨念を背負っているように見えるのじゃろう」

魔導士ティトが、杖をつきながら肩をすくめる。

アンデッド系か。聖属性の力を持つフィオが、奴にとっては一番脅威になるだろうな。

「いやー、それにしてもこの国はいいですね。半人半馬族もたくさんいるから、馬に化ける必要がありませんよ」

聖騎士ギルバートは、ニコニコして周りを見回している。

はは、確かに。
でも、馬に化けた彼を見たかったな。

やがて、大聖殿が見えてきた。

む? あれは……。
大聖殿の入り口に、馬車が停めてある。

「大聖女専用の馬車です! シャーリー様がいるんだわ……」

フィオが、小声でみんなに告げる。
おっと、シャーリーが来ているなんてな。

ネプォンもいるかもしれない。
鉢合わせは、まずいな。

出直そうか……そう思った時だ。

ズズーーーーン!!

ものすごい地鳴りがして、異様な気配が接近してくる。これは……!?

すぐに大聖殿の中から、法衣に身を包んだ、半人半馬の男性が飛び出してきた。

聖騎士ギルバートと同じ種族?
法衣を着てるということは、この人は司祭?

「みんな!! 大聖殿の中へ!!」

と、慌てふためきながら叫ぶ。

なんだ!? 何が起きた?

俺たちが走り出そうとしていると、背後から巨大な影が、山が盛り上がるように高くなっていく。

地面から、何か湧いて出たのか?

俺の肩に乗ったオウムのフェイルノが、空を見上げて悲鳴をあげた。

「ギャー! デカイ!! オバケェー!!」

お化けだ?
俺も思わず見上げると、巨大なゾンビが街を見下ろしていた。

大きい! まさか、これがゾンビダラボッチ!?

まるで土の塊。
それが第一印象だった。

俺は反射的に弓矢を構えて、地面に向かって放つ。

矢を打ち込んだところから、敵の力の流れに干渉する力場が広がり、ゾンビダラボッチを包んでいった。

矢が刺さった地面が、いつものようにカッと光るのと、ゾンビダラボッチの目が光るのが、ほぼ同時。

まさか……これは戦闘開始直後に、自動的に発動されるという、『瀕死波動』か? 相手の体力の九割を削いでしまう固有スキル。

間に合うか!?

……。

ゾンビダラボッチは、街中を見回すばかりで、何もできずにいる。

……ほ。
ほとんど僅差だった。

俺がほっとしていると、奴は稲妻の光を全身に纏い始めた。二度目の攻撃は、雷の魔法を放とうとしているな。

常に全体攻撃中なら、俺も対象に入ってる。これなら、ずっと止められる。

プスンと音を立てて、稲妻が消えていった。
二度目も攻撃抑止の効果で、発動できずにいる。

三度目……奴自身の攻撃が跳ね返る。

そう思っていると、踏み潰そうと思ったのか、ゾンビダラボッチは片足を大きく上げた。

人々の悲鳴が響き渡る中、足が振り下ろされる前に、ゾンビダラボッチがグシャ! と、潰れる。

土が崩れるように、ゾンビダラボッチは地面に落ちていった。

三度目の踏み潰しのダメージが、跳ね返ったな。

絶対反転の効果は、絶大だ。

ついに、やったか?

その時、大聖殿から笑いながら出て来る神官がいた。

シャーリーだ。

豪華な法衣に身を包み、これでもかといわんばかりの装飾具をつけている。
あいつ、大聖女の品位を落としていないか?

「ほほほ! ごらんなさい。この国の神器などなくても、私が来ただけで、ゾンビダラボッチは倒れたのです」

彼女そんなことを言っている。
そして、怯える街中の人の前で両手を広げて、語りかけた。

「皆様、どうかご安心を。私は大聖女シャーリー。ゾンビダラボッチは、アンデッドの魔物。聖属性の魔法の最高峰にいる私に、敵うべくもありません」

なんて言ってる。お前が何をしたんだ?
俺の心の中のツッコミをよそに、人々はシャーリーに感謝して拝み始めた。

終わったのだろうか……ゾンビダラボッチは、肉体が消滅せずに、潰れた土の塊のようになったままそこにある。

「いえ、ゾンビダラボッチは倒れていない!」

俺の隣で、フィオがゾンビダラボッチを見つめて叫んだ。

何!? まだ、体力が余っているのか?

そう思っていると、ゾンビダラボッチは再び起き上がる。

それを見た人々は、悲鳴をあげた。

「大聖女様、お助けを!!」

「奴を倒してください!!」

口々に、彼女に懇願の声があがる。
シャーリーは一瞬、戸惑いの表情を見せたが、サッと切り替えて祈りの書を開いた。

「我らの女神、ルパティ・テラ。我が敵を打ち滅ぼすため、その矛を貸し与えたまえ、ホーンス・リラー!!」

直後、空から雲を割って、光り輝く巨大な矛がゾンビダラボッチに襲いかかる。

シャーリーの一撃必殺技だ。
これを耐え切れたアンデッドは、見たことがない。

見た目が派手なことも手伝って、あちこちから賛美の声があがった。

「大聖女様!」

「大聖女様ぁ!!」

みんな彼女に跪き、手を合わせている。
でも、彼女の隣で法衣を着た半人半馬の男は、険しい表情を崩さない。

なぜ、そんな顔を?

周りの賞賛に気をよくしたシャーリーは、満面の笑みでそれに応えようとした。

その時だ。

「ヴガァァァァー!!」

ゾンビダラボッチが吠えた。
そのまま刺さった矛を引き抜いて、握りつぶしてしまう。

「な……!!」

「そんな!!」

見ていた人々が、驚きの声をあげた。
シャーリーの聖属性の魔法が、効かないなんて!!

シャーリーは、もう一度同じ呪文を詠唱したけど、結果は同じ。

「そ、そんな馬鹿な!」

彼女は、戸惑いながら祈りの書のページをめくって、より強力な魔法を探している。

いや、ダメだ。

何かが、攻撃という攻撃を吸収して、ダメージにならない。

奴自身の攻撃さえ、意味をなしてない。

考えろ……考えるんだ!!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...