女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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懲りない奴ら 

※キャロン視点  子猫ちゃんではなく女豹

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グフフ・・・そうだった・・・!!
法王府の屋根を一撃で吹き飛ばしたのは、彼女だった!!

おまけに、ディミトリや妖婆を倒したメンバーの1人。

彼女が私たちに牙を剥かないことをいいことに、どこか安全で無力な存在だと舐めていた。

子猫ちゃんだと思っていたが、とんでもない。
彼女は女豹だ。

爪を隠した女豹なのだ・・・!!

「グフ、イ、イバリン・・・。」

逃げよう、と、言おうとした時、ランヴァルトの胸に顔を埋めていた彼女が、パッと顔を上げた。

「ランヴァルト、フェレミス、ありがとう。もういいの。子供の居場所を突き止めるまで、様子を見ていただけだから。」

その明るい声が、余計に恐ろしくなってくる。
今日は、彼女の体を好きにできると思ったのに、やめといた方がよさそうだ。

だが、イバリンは諦めきれない表情を滲ませる。

・・・グフ、わかる!
私たちが折れるなんて、屈辱だからな!!

「フハン・・・くらえ!!」

イバリンが、起き上がって液体の入った大きな瓶をシルヴィアに投げつけた。

パーン!

シルヴィアとランヴァルトが避けたので、壁に当たって中の液体が飛び散る。

「・・・!?人の血!!」

シルヴィアがすぐに鼻と口を塞ぐ。
大量の血の匂いに、思わず私まで酔いそうになった。

「フハン!!あぁぁぁ、かぐわしい匂いだ!!
ははは!酔え、酔ってしまえ!!お前はアレルギーがあるのだったな!仲間を襲って、お前も苦しむがいい!!」

イバリンが、酔いながら牙を剥き、ランヴァルトに向かって突進した。

ば、バカはよせ!!

その男は・・・!!

バッチーン。

イバリンは、シルヴィアの張る見えない壁に阻まれて、ズルズルとずり落ちていった。

「・・・馬鹿か、お前は。」

ランヴァルトは呆れながら、目を細めて見ている。

グフフ、それにしてもいい匂いだ。
吸血鬼が血を吸いたいわけだな。

私は、近くにいるフェレミスの首筋を舐めるように見た。

イバリンも、立ち上がって再びランヴァルトを狙う。

「シャー!!」

一咬み・・・せめて一撃だけでも!!

吸血鬼化しているので、当然身軽。高速移動もできる。

このスピードについてこれるわけ・・・!

「舐めるなよ!!」

ランヴァルトの片目がサッと光って、シルヴィアと離れると、イバリンの攻撃を避ける。

避けられた勢いで床に転げたイバリンは、そのまま押さえつけられた。

私はフェレミスに飛びかかったが、あっさり同じ高速移動で回り込まれて、壁に向かって叩きつけられる。

「グフー!」

「フハー!」

2人とものされてしまった。
な、なんて強さだ、こいつら・・・。

ケファノンのギルドの巨頭2人を相手に、あっという間に敗北した。

武器も使わずに素手でやられるなんて。

「もう、俺らこれで飯をくってんのよ?新人吸血鬼にやられるほど、弱くないでーす。」

フェレミスがパンパンと手を叩いて、肩をすくめた。

イバリンは、往生際悪くシルヴィアを睨みつけている。

「フハン!そこの吸血鬼!!やっぱりお前は、守られてばかりの弱い女だ。さっきから能力ばかり使いやがって!!」

おお、イバリン!よく言った!!

そうだ、そうだ。

「・・・さっき高速移動使った奴が言うか?」

ランヴァルトが、呆れた顔で私たちを見る。

うるさい!!私たちが勝つために使う手段は、なんでもまかり通る!!

だが、お前らが勝つのは、たとえ素手だろうと、卑怯で汚くて、無効なのだ!!

「フハハハ!!正面から自分の力だけでは戦えない、ヘタレ女が!!」

イバリンが、大声で吠えた。

グフ!そうだ!言えー!!

「ランヴァルト、フェレミス。」

シルヴィアが、深呼吸して2人に話しかける。

「・・・わかった。」

「やっちゃえ、シルヴィア。」

ランヴァルトとフェレミスは、大人しく我々を解放した。

グフフ、ばーかーめ!!
これがクソ真面目な奴の欠点だ。

能力さえ封じてしまえば、ただの女。
腕力も我々が遥かに上回る。

みすみす有利な立場を、正々堂々という言葉に惑わされて捨てるんだからなぁ。

今度こそ、こいつらの前で、ひん剥いてやる!!

イバリンと2人で、呼吸を荒くしながら一斉に飛びかかった。

もちろん、怪力と高速移動で。

卑怯?勝ったものが正義なのだ。

鋭い拳で、まずは気絶させてや・・・!

バキ!!

「グフ。」
「フハ。」

シルヴィアが、ひょいと避けて、我々は互いの拳を顔にめり込ませていた。

鼻血がお互いの鼻から噴き出す。

「グフ!卑怯者!よ、よ、避ける奴があるか!」

「フハ!汚いぞ!正々堂々と正面からきやがれ!!」

シルヴィアは、それを聞いて『ふふ』と、笑った。

「こいつ!!」

掴もうとした手首がかわされ、背中をドン!と押されて壁に激突する。

「きゅう~。」

伸びた私を見て、イバリンがいきり立ち、シルヴィアの首を後ろから締め上げた。

グフフ、ヘッドロックか・・・ふふ、そのまま酸欠で気を失うがいい。

「フハハハ!捕まえたぞ!吸血鬼!!へへ、いい髪の香りだなぁ。さて、どうしてや・・・。」

ドス!!

シルヴィアの片足が跳ね上がって、イバリンの鼻を強打した。

すかさず肘鉄がみぞおちに入り、イバリンがよろめいたところを、同じく壁に向かって突き飛ばされて、私と同じように床に伸びる。

「ギェ・・・。」

グフ!な、な、なんなんだ。た、体術もちゃんと会得していたのか・・・!

「お見事。」

「シルヴィア、格好いい!!」

ランヴァルトとフェレミスが拍手をして、シルヴィアとハイタッチする。

「私、いつも2人と組み手して鍛えてるもの。能力にばかり頼るなと、あなたに言われてたしね。」

シルヴィアは、イバリンに近寄っていく。

イバリンは、起き上がって私の方に逃げてきた。

「あなたのおかげよ。」

そのセリフは、あのイシュポラを思い出させる。

「あなたのおかげで、あなたみたいに元々の腕力差を考慮しないで、同じ土台で戦わないと無意味と言ってくるような人にも、対抗できるようになれた。」

「ひ・・・ひぃ!」

「今日はお友達も連れてきたから、親睦を深められるわ。」

「フハン、と、友達?」

シルヴィアはにっこり笑うと、外に出る扉を開けて、

「モーガン、連れてきてー!」

と、叫んだ。まさか・・・まさか!!
扉を開けて入ってきたのは・・・。

「邪眼を盗んだ奴らはここかえ?」

妖婆だった!!




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