女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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番外編

※ランヴァルト視点 集合

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翌日、俺たちはハンナと一緒にギルドへと向かった。

「おぅ、ウィンスロット。なんか面白そうな手配書がきてるぜ。」

知り合いのハンターたちが、張り出された手配書の前で、わいわいと話し合っている。

だろうな。

まがたにへ、救出を依頼する手配書。

「報奨金もでかいなぁ。無傷で誘拐された2人を救出したら、さらに倍出す、てよ!」

「妖婆相手に、無傷で救出だぁ?無理無理。」

「下手するとこっちが石にされちまう。」

「毒を受けるかもしれないしな。」

「それよりも、『邪眼』を持っていけ、が問題だぜ。どこにあるんだよ。」

そこへ、ハンナがその手配書にバン!と手を置いた。

「私がやるよ。シルヴィアを指名する。ウィンスロットと、クルスも一緒。他のみんなもどうだい?」

その声に、他のハンターも数人、手を上げた。

俺はシルヴィアに昨夜聞いた、彼女の力で飛び級した連中を残らず呼ぶ。

数にして、30人前後。十分だ。

「お前らも来いよ。妖婆の待つまがたには、ランクAやSなら、ちょうどいい難易度だ。手を貸してくれ。」

奴らは動揺している。

イバリンがいないからだ。

でも、シルヴィアがいるのを見て、おずおすと手を上げた。

俺はシルヴィアをそばに呼んで、みんなの前に立たせる。

彼女も、ここではっきり言わないとな。

「私は、みんなと協力はします。でも、これまでのように、私以外は何もしなくてもいいわけではありません。」

シルヴィアの声が、ギルドに響き渡る。
動揺して後ずさる者、顔を見合わせる者、頷く者、様々な反応が広がった。

「ひ・・・つまり、トラップは?」

その中の1人が、おずおずと質問する。

「スカウトが確認して、みんなで回避しましょう。」

シルヴィアが答える。

「んなの、当たり前じゃん。」

この街のハンターが、何言ってるんだといった調子で声を上げる。

「て、敵との戦闘は?」

また、別のハンターが質問する。こいつは、レイモンドじゃないか。

「もちろん、みんなで。時と場合で戦力を振り分けることはあっても、全員参加です。」

シルヴィアがはっきり告げると、レイモンドたちは、震えだした。

「なぁ、なんでそんな質問するんだ?お前ら、飛び級した逸材のハンターたちなんだろ?トラップだの、戦闘だの、今更聞くことか?」

地元のハンターたちが、首を傾げてレイモンドたちを見ている。

本当に今更だ。
シルヴィアに任せきりだから、こうなる。

腑抜けた奴ばかりかと思っていたら、数人のハンターたちが進み出てきた。

「シルヴィアさん。俺も行きます。俺、子供の出産に間に合ったし、昇格できたのも機会を作ってもらえたからだし。」

「私も、行く。偉そうな連中の下働きばかりだったけれど、あなたが戦闘で隙を作ってくれたおかげで、沢山戦えたの。周囲を見返してやれた。」

「私も。前は私たちの代わりに、毒の霧をかぶってくれて・・・あの時はごめんなさい。イバリンは、不死身だからほっとけと言ってたけど、仲間に向けて言う言葉じゃないわ。」

次々と彼女に優しい言葉がかけられる。
シルヴィアは、フッと微笑んで首を横に振った。

「いいえ。あなたたちは、他の人たちと違って何度も前に出て、できることをしようとしてくれた。元々実力があったのに、埋もれていただけですよ。」

と、シルヴィアが言ったのを聞いて、俺もホッとした。数は3人だけだけれど、本物もいたんだな。

俺たちは、揃って受付の窓口へと行く。もちろん、ジェシカは通さない。

「はい、受付終わりました。お気をつけて。」

別の受付嬢が、受付を終える隣で、ジェシカがジッと見つめてくる。

俺は彼女の方を見た。

彼女もイバリンに操られたのか、もしくは・・・。

ジェシカは、すぐに目を逸らしたけれど、ゾロゾロとみんなが立ち去った後に、声をかけてきた。

「ウィンスロット。どうして、吸血鬼が恋人なの?」

思わず、シルヴィアも振り向く。
以前ジェシカに告白された時、俺はディミトリへの憎しみに燃えていたから、自他共に認める吸血鬼嫌いだった。

不思議に思うのは無理もない。
俺自身が、一番驚いているくらいだから。

「シルヴィアだったから。」

俺はストレートに答えた。

「吸血鬼という種族の前に、シルヴィアという女性を、俺は好きになった。それだけだ。」

「彼女のせいで、あなたまで人ならざる者になったと聞くわ。ほとんど体が人狼化したんでしょ?」

「そうだ。でも、別に彼女のせいじゃない。
彼女は、俺を助けてくれた。」

「え・・・。」

かたきしもべにならずに済んだのも、そのかたきが倒れたのも、俺が姉さんを失った悲しみに区切りがつけられたのも、彼女のおかげだ。」

「嘘!!私、認めないから!あなたは、騙されてるのよ。吸血鬼は相手を魅了する、催淫効果を持つというもの!きっと、解呪すれば、私のところへ戻ってくるはず!」

と、ジェシカは叫んだ。
おいおい、俺はジェシカの告白をちゃんとお断りしていた。

付き合ってもいなかったのに、これじゃシルヴィアが寝取ったかのようじゃないか。

そばにいるシルヴィアも、動揺したように片手で服の胸の辺りを掴んでいる。

不安にさせてしまったか。
まずいな。

俺は、ジェシカにキッパリと言うことにした。

「俺は元神官だ。俺に吸血鬼の誘惑は効かない。それに、俺たちは付き合ってもいなかっただろ。」

「!!・・・じゃ、じゃ、本気なの?イバリンは、あなたが魅了されているだけで、シルヴィアさえ離れれば、正気に戻る・・・て。」

「俺はずっと正気だ。」

「嘘・・・嘘・・・イバリン・・・話が違・・・う。私・・・なんのため・・・に。」

ジェシカが、床に座り込んだ。
同僚の女性が、慌てて彼女の元へやってくる。

「イバリンたちを助けたら、色々聞かせてもらうからな、ジェシカ。」

俺はそう言うと、シルヴィアの肩を抱いて、ギルドの外へ出た。

シルヴィアが、時々ジェシカの方を振り返る。
その様子を見ていたハンナが、近づいてきた。

「シルヴィア、やめな。気の毒とか思えば、ジェシカがみじめになる。」

「ハンナ、でも・・・。」

「シルヴィア、あのね。これは、ジェシカの片想いだったんだよ。それでも、彼女自身が忘れていくしかないんだ。」

「ハンナ・・・。」

「私だって、片想いを忘れるのに必死さ。前のパーティーの代表者は、私の恋人だったんだ。」

「!」

「でも、そう思ってたのは私だけだった。相手は、私のことなんか、なんとも思っていなかったんだよ。苦しかったし、今も苦しい。」

「そんな・・・。」

「ある日相手の彼女から、ごめんなさいと言われた。その時私は屈辱しか感じなかった。優越感で謝られても嬉しくない。」

「優越感。」

「そうさ。それに、謝罪されたら許さないといけないだろ?苦しい時に、他人を許す余裕なんか無い。ただでさえ苦しいのに、さらに苦行なんて冗談じゃない。」

「許されて安心するのは、ハンナじゃないものね。」

「そうさ。私は苦しいだけ。相手は楽になるだけ。メリットがなさすぎて、器の小さい私には無理。だから、あんたはむしろ胸を張って、ウィンスロットの隣を歩きな。」

「堂々としろ、てことね。」

「あぁ。それにジェシカが操られていなかったんだとしたら、責任を問われる立場になるかもしれない。色恋に構う暇はなくなるよ、きっと。」

「・・・。」

「ドタバタ目の前のことに取り組んでいたら、他の道を見つけたり、新しい出会いがあったりするものさ。私もそうやって乗り越えてる最中。」

ハンナは、シルヴィアの頭をクシャクシャ撫でた。

ハンナがそんな目に遭っていたなんて、全然気づかなかったな。

そう考えていると、彼女は俺の胸をバシッと叩いた。

「いっ・・・!!」

肺に響くほど痛い。思わず息が出来なくて咳き込む。

「ゲホ!ゴホ!」

「女泣かせのウィンスロット!シルヴィアまで泣かせたら、承知しないからね!!」

「ゲホ!俺は・・・別に・・・。」

「ジェシカを惑わせた罪は重いよ。フェレミスといい、あんたといい、何人女を泣かせる気なんだよ!」

「ゴホ、ゴホ!俺はジェシカとは、付き合ってないんだぞ!?」

「惚れさせた罪があるの!」

無茶苦茶な話だ。
俺はそんなつもりはないのに。
ハンナは、俺に前の恋人を重ねてないか?

「怖ーい。やっぱりハンナは、怒らせるべきじゃねーな。・・・て、え?」

遠目に見ていたフェレミスが、ハンナに見つかって引きずられていく。

「あぁ、もう!今回の討伐が終わったら、あんたが私の相手をしな!いいね、フェレミス!!」

「えぇ!?」

「決めた!しばらくは、あんたで傷を埋めるよ!つべこべ言わずに、おいで!!」

ハンナ・・・完全に、自分とジェシカをシンクロさせてるな。

俺たちは、ハンナに連れていかるフェレミスの後を追って、妖婆の待つまがたにへと向かった。



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