女吸血鬼ー異端のシルヴィア

たからかた

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番外編

※ランヴァルト視点 妖婆

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「言っとくが、ハンターは基本的に個人事業主だからな。」

と、言って、俺はイバリンを見た。
ハンターは、誰と組もうが自由だ。
組む相手の了承さえあれば。
はっきり断言してやる。

俺はさらにたたけた。

「弱いハンターは、強いハンターと組んで、生還率を上げる。つまり、ヘタレならヘタレじゃない奴と組めばいい。パーティーは、会社じゃねーからな。いつだって解散できる。」

そして、奴とシルヴィアの間に体を入れる。

シルヴィアの罪悪感や、責任感に訴えるような言い方を故意にするこいつは、それ以外に彼女を留める手段がない。

なぜなら。

「シルヴィアとの間に金銭の授受はない。何の契約もしてない。居合わせただけのあんたに、シルヴィアの責任云々を語る資格はない。」

「フハ・・・。」

「むしろシルヴィアがいないと困るのは、あんたなんだろ?彼女の力があるから、ハンターから最後は六割なんて金が取れる。」

「く・・・!」

「ハンターとは金銭のやり取りがあるということは、契約書を交わしたんだろ?それにシルヴィアの名前が書いてあるのか?」

「な・・・そ!」

「もし、そうなら、彼女との間にも契約書がないとおかしい。もしなければ、お前は彼女にわるハンターを見つけないと、金は取れないぜ?」

「フハ・・・は・・・。」

「契約不履行なら、違約金を出さないといけなくなるしな。」

「フハハ!彼女の指名は、もう何年も先まで埋まるぞ!?」

「!」

「前もって、どんな討伐が来るか私は知れる立場にある。指名だって手配書が張り出される前に、することが・・・。」

イバリンが言いかけた時、フェレミスが笑い出した。

「くは!やりやがったな。」

「フハ?」

イバリンもポカンとしている。

俺は、内心ニヤリと笑い、凄みを効かせて声を低める。

「それは一番の禁じ手だ。前もって手配書の内容を知った者は、他のハンターたちの一番の敵になる。」

イバリンは、よくわからないという顔をする。

魔物の討伐依頼の手配書は、ギルドが前日にまとめたものを、翌日の朝一番に壁に一斉に貼り出す。

誰だって、割のいい依頼を取りたいものだ。

だが公平性を損なわないよう、みんな貼り出す時間まで内容を知らない。

もし、不正な手段で前もって情報を入手しようものなら、ハンターとしてやっていけなくなる。

ハンター免許取り消しと、恐ろしい制裁が待っているからだ。

俺は一歩、また一歩イバリンに近づく。

「出し抜きあいも処世術の一つだ。だが、バレた途端にほうむられるいわゆる『BAN』は、どこの業界にも存在するんだぜ。」

「フハ・・・な・・・な、お、俺は、ハンターじゃない・・・ぞ?コ、コンサルタン・・・ト。」

イバリンが、腰を抜かして床に座り込んだ。
足が震えて、膝が小刻みに揺れているのがわかる。

ことの重大さを理解した証拠だ。

フェレミスも、イバリンのそばに腰を下ろして、奴の背中をポンポンと叩く。

「怖い人怒らせたねぇ。ま、例えあんたがハンターじゃなくても、制裁の対象よ?だって、あんたが引率したハンターは、みんなあんたが教えた、て言うぜ?」

それを聞いて、イバリンの鼻から鼻水が、ザー!と垂れる。

完全にビビったな。

ふと、振り向くと、シルヴィアが怯えた目をして俺たちを見ていた。

彼女まで、怖がらせたかな・・・。

「シルヴィア。」

彼女に話しかけようとしたその時、シルヴィアが何かに気づいて、片手で口をおさえた。

まさか・・・牙が前に来たのか!?
敵か!?

彼女は、素早く手を前に突き出した。

次の瞬間、

ガッシャァァァァァン!!

いきなり、寝室の窓が派手に割れる。
俺たちは、シルヴィアが張る見えない壁のおかげで、ガラスの破片は当たらなかった。

でも、シルヴィアが手を引っ込めた途端、植物のつるのようなものが、室内に入ってくる。

「フハハン!!た、助けてくれぇ!!」

イバリンの腰につるのようなものが巻き付き、彼は窓の外へと連れ去られていった。

慌てて俺たちが窓から覗くと、庭にイバリンを捕らえる妖婆の姿が見える。

邪眼を探しに来たか!?

「グフフ!?どうした!イバリン!!」

騒動を聞きつけた、キャロン元法王補佐官が、召使いと一緒に部屋に駆け込んでくる。

俺たちを見て一瞬驚くが、すぐに割れた窓の外を覗いて、大声をあげた。

「グフ!!イバリン、イバリーン!!!おい、お前たち、すぐに助けろ!!いいか、傷一つつけるんじゃ・・・。」

と、言いながら、彼の体も再び入ってきた蔓に持ち上げられて、イバリンと同じところにり出される。

「グフー!」
「フハー!!」

おいおい・・・。

イバリンは、妖婆に怯えながら隣のキャロン元法王補佐官を見る。

「フハハーン!叔父さん!!叔父さんは、高位の神官だったではありませんか!!こんな魔物、祓ってくださいよ!!」

「グフ!?無理を言うんじゃない。魔物を祓うのは、エクソシストだ!」

「フハ、し、しかし、高位の神官の祝詞は、魔物に効くでしょ!?」

「グフ・・・い、いと慈悲深き、地母神チーダ、天空の神ラーソよ・・・え、えと、それから・・・。」

バシィ!!

妖婆が持っていた鞭を振って、二人の足元を叩く。

あれは全然祝詞が効いてない。
しっかりしてくれよ。
あんたは、法王府の高位の神官だったんだぜ?

元神官の俺より祝詞の効き目が低い、て、どういうことなんだよ。

妖婆は、前髪で目を隠した白髪の頭を振って、大きな口で、二人を脅している。

「邪眼を、返せぇぇ!私たちの目を返すのだぁぁ!!」

妖婆の背中が割れて、中から沢山の蛇が生えてくる。

「フハー!!」
「グフー!!」

キャロン元法王補佐官と、イバリンは恐怖に震えて抱き合っている。

ほっとけば食われちまう。

妖婆は俺たちを見上げて、警戒するように身を屈めた。

妖婆は邪眼を手にして覗くことで、外の世界を見ることができる。

つまり、今は音や熱や気配を元に動いているはずだ。

邪眼の気配も感じているようだが、モーガンが咥えているために、いまいち所在が掴めずにいると見た。

「邪眼を持って、禍つ谷へ来い!!
この2人の命と引き換えだ!!」

妖婆はそう叫ぶと、イバリンとキャロン元法王補佐官を抱えて消えていった。

「あららら。2人まとめて連れてったな。」

フェレミスが頭を掻いて呟く。

邪眼をそばに置きすぎて、あの2人は邪眼の気でもまとっているのかもしれない。

彼らの召使いが、ワタワタと慌てて、

「どうか・・・どうか、ご主人様をお助けください!!」

と、叫んだ。

日が落ちてきて、もうすぐ夜になる。
禍つ谷は、夜間は危険だ。昼間に行かないと。

俺は召使いたちを見回して、

「すぐにギルドに届けを出してください。ただし、討伐ではなく救出にしないと。」

と、言った。
まったく、あの2人め。世話の焼ける男どもだ。



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