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それぞれの日常へ

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その後、私たちはお養父とう様が呼び寄せたマティに乗って、法王様とエクソシスト長官を法王府へ送り、ラピタル国へと帰ったの。

養父とう様は、私たちを降ろすと、自分の館へと帰っていく。

さよなら、お養父とう様。
ありがとう。

私はモーガンと、ランヴァルトと、フェレミスと一緒に、ランヴァルトのアジトへと戻った。

少し休んだら、また頑張るわ・・・。

あれから、時が経った。

フェレミスったら、もう元の恋人たちとヨリを戻しちゃったの。

大きな仕事をした後は、リュデオン国にも行って、定期的にシェリーとシンシアにも会ってる。

そして、もちろんナンパは忘れない。

そのうち、ご飯はランヴァルトの方が美味しいと言って、彼女を連れ込んでお泊まりしちゃうようになったの。

確かに、ランヴァルトの作る料理は美味しい。

でも、フェレミスの彼女は美人ばかり。ランヴァルトが、誘惑されそうで怖い。私はいつも彼の部屋に鍵をかけちゃう。

当のランヴァルトは、“どうでもいい”と、言って彼女たちを相手にしないんだけれど、私がアワアワしながらランヴァルトを隠そうとするのが、嬉しいんだって。

人の気も知らないで!
ぷぅ!と頬を膨らませたら、ランヴァルトに可愛いと言われて、逆に彼の部屋に一緒に閉じ込められる始末。

ラ、ランヴァルトのスイッチが、いきなり入るから困ってしまう。

フェレミスも、彼は永久にシルヴィア専用スイッチしか入らない、とか言ってからかうのよね・・・。

も、もう、知らない!!

ダグラス神官様は、ディミトリの一件を解決したから、法王府に戻れる許可が出たんだけれど、相変わらず祈りの家の神官を勤めてる。

時々、パトリシアとも会ってるみたい。

キャロン法王補佐官は、法王府を追放。パテズ評議員長は、賢者の会を除名。

アリシアとシングヘルトは、やっぱり別れたそうなの。

なんとなく、わかってた。

特にアリシアは向こう数百年、『コ・ウリモ・マンドラゴ』栽培に従事する羽目になったんだとか。

シングヘルトは、戻ってきたアリシアとやり直す気らしいけど、怪しいものね。

できるものなら、すればいい。
もう、関係ないもの。

ランヴァルトは、大きなシルヴィアの仇がいなくなったから、最初はしばらく意気消沈してた。

本人は隠してるつもりでも、私にはわかる。

「無理しないで。」

私は彼に言った。彼は驚いていたけれど、私は構わず彼の顔を両手で包んで、そばに寄せる。

「私も、大きなシルヴィアが大好きだったから。今までは、怒りと喪失感をディミトリのせいにすることで埋めていたのに、いなくなったんだもんね。」

「・・・あぁ。」

「じゃ、清々すがすがしく前を向こう!・・・なんて、簡単にはいかないもの。」

「そうだな。」

「無理に、区切りをつけなくてもいいから。大きなシルヴィアはいなくなったけれど、私がいる。彼女のわりはとてもつとまらないけれど、ずっとそばにいるから・・・ランヴァルト。」

「違う。」

「え?」

「シルヴィアは、姉さんのわりなんかじゃない。俺は君に出会った時から、本当はもう救われていたんじゃないかと思う。」

「ランヴァルト・・・。」

「シルヴィアに出会って、俺の心は軽くなった。ただ、俺はずっと復讐を胸に生きてきたから、こんな穏やかな気持ちで、毎日を過ごすのは久しぶりで。」

「えぇ。」

「それで戸惑ってる。幸せすぎて怖い。喪失を経験しているだけに、いつまで続くのかと時々不安になる。」

「ん・・・怖くなるよね。また失ったら、耐えられるか、て。」

「あぁ。」

「不死身同士でも、首が落とされたら死ぬしね。」

「あぁ・・・。」

「じゃ、約束してあげる。私は先に死ぬことはありません。」

「え!?」

「どうやって?は、なし。あなたが、あの夜誓ってくれたように、私も誓うだけ。首だけになっても、またくっつけてやるわ。」

「ぷ!」

「なんで、笑うの!?」

「いや、ごめん。そうくるかと思ってさ。」

「それくらいの気概をもってる、てことよ。」

「わかってるけど・・・くくく!」

「もぅ、お仕置きします!」

「ごめん!ごめん・・・て!!」

「許さない!朝まで謝らせるんだから!」

「クス。いいよ・・・おいで、シルヴィア。」

ランヴァルトが両腕を広げる。
え?謝る・・・のよね?

やがて夜が明けて、朝の光が差し込んできた。

寝台が軋んで、起き上がろうとする私を、彼は再び腕の中に閉じ込めてくる。

本当に朝まで謝らせちゃった・・・というか、逆にたくさん耳元で、甘くて素敵な声で謝られ続けて、私が根負けしてしまった。

今、思い出しても、赤面するくらい恥ずかしい。本当に元神官なの?彼。

でもその日から、ランヴァルトは少しずついつもの彼に戻っていった。

どうやったの?と、フェレミスに聞かれるけれど、言えるわけがない。

げ、元気になったなら、それでいいよね!

魔物の動向も落ち着いてきて、他のみんなも、いつもの調子で過ごせるようになってきた。

しもべたちも、前ほど暴走しなくなって、吸血鬼の被害も年に数えるほどになってるの。

しもべに対する純血の扱いは・・・少しずつ変わってきてると聞くわ。

養父とう様も、急に全ては変わらないていうの。

そうよね。

考え方ほど、変わるのが難しいものはないもの。時間がかかるのは、仕方ない。

でも、変化してきていることが大事。
大切な一歩。踏み出せてきてるなら、望みがある。

「シルヴィア。」

隣に立つランヴァルトに呼ばれて、私は慌てて彼の方を向く。

「何?ランヴァルト。」

「姉さんへの、報告は終わった?」

「えぇ。今日は大きなシルヴィアのお墓に連れてきてくれて、ありがとう。」

木漏れ日のさす丘の上の墓地にある、大きなシルヴィアのお墓。

これまでのこと、彼女に話してたの。

「ちょうど、フェレミスも来た。」

ランヴァルトに言われて振り向くと、フェレミスが片手を上げてやってくる。

顔中に、キスマークと引っ掻き傷がある。
・・・また、何かあったのね・・・。

「フェレミス、顔、大丈夫?」

私が心配して聞くと、フェレミスはおどけて、

「いやぁ、彼女の中で、誰が一番好きかを、決めなくちゃいけなくなってさぁ。テキトーに答えてたら、いつの間にか彼女同士で情報交換されてて、さっきまでフルボッコにされてたの。」

なんて言う。ランヴァルトが呆れた顔をして、

「それで、その傷を利用して、別の女性をナンパしたら、うまくいって恋人になれた、てことか。」

と言うと、フェレミスはニヤリと笑った。

「さっすがぁ、お前、自分のことは全然わかってねぇニブチンのくせに、俺のことはよくわかるんだなぁ。あったりー。」

「一言余計だ!」

「きゃー!シルヴィア、助けて!ランヴァルトちゃんが怖いのぉ。」

2人は私を真ん中にして、くるくる追いかけっこしてる。

もう、1日1回はこんなふうにふざけるんだから。

「2人とも。大きなシルヴィアのお墓の前よ。」

私が言うと、2人はピタッと止まって、大きなシルヴィアのお墓にお祈りを捧げた。

彼女が、クスクスと笑ってるような気がする。
大きなシルヴィア、これからも見守っていて。

お祈りを終えたランヴァルトが、私の方を見て片手を上げる。

「シルヴィア、フェレミス。今日の相手は、ランクSのガーゴイルだ。いけるか?」

「えぇ、大丈夫。」

「俺らなら、軽い、て。」

私たちは拳を合わせた。

「ホーホゥ!」

フクロウのモーガンも、参加するように私たちの合わせた拳の上に乗ってくる。

「ふふ。モーガンも仲間だもんね。」

「チーム名決めようぜ、な、ランヴァルト、シルヴィア。」

「いらないと思うけどな、フェレミス。」

「決めようよぉ、ランヴァルトちゃん。ついでにこう、決めポーズもさ。ほら、こういうカッコいいやつ・・・。」

「じゃ、今日の仕事で一番貢献した人が、決める、ていうのどう?」

「おぉ!」

「それな。」

「じゃ、お先に。」

「あ、シルヴィア!1人で行くなって!」

「シルヴィア、待ってぇ。」

「あ、そうだ。シルヴィア、牙はどう?」

ランヴァルトに言われて、思わず口の中を舌で触る。

「ん・・・うん、今は前に来てるよ。」

私の牙は、普段は元の最奥、戦闘が近くなると前に来るようになった。

「敵が近いんだな。」

「そうね。油断せずに行きましょう。」

「本当に助かるよね~。俺らよりも早く気配を感知するから、先手をとられることがないもん。」

「よし、馬車に乗ろう!」

「ホーホウ!」

私たちは、わいわい言いながら馬車に乗り、目的地へと向かう。

私たちはいいチーム。
どんな相手にも、きっと勝てる。

いってきます!



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~


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※この物語はフィクションです。表現や人物、団体、学説などは作者の創作によるものです。

次から番外編が始まります。

第一弾は、視点がシルヴィアの恋人、ランヴァルトに変わります。本編のその後の話をお楽しみください。

第二弾は、キャロン元法王補佐官に視点が変わり、ざまぁ要素が入ってきます。シルヴィアへの復讐を企てる彼らの間抜けぶりに、主人公たちはどうでるのか、読んでいただけたらと思います。
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