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劣勢

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ディミトリは私に壁に叩きつけられても、平然として戻ってくる。

「愛してる、小さなシルヴィア。この愛を支配と思うなら、思うといい。」

「!?」

「お前を取り込めば、私の愛は完成する。」

ディミトリが、高速で動いて目の前に現れた。

私は奥歯を噛んで血を飲み、片手の指を槍のように突き出して、遠隔で再び後ろに吹き飛ばし、ディミトリを壁に縫い付ける。

「ぐふ!」

仕留めた!?
・・・え。

ディミトリは、胸とお腹に穴を開けたまま、前に動いてこようとする。

「欲しいものは手に入れる。諦めればどうなるか、ただ境遇を受け入れればどうなるか・・・。支配階級にどう扱われるか・・・。嫌というほど経験したからな。」

この人・・・!
足が自然と震えてくる。

ディミトリは歯をガチガチ鳴らすと、前屈みになって歩こうとする。

「もはや、誰にも蹂躙などさせるか。私が神を超えて頂点に立ち、永遠不滅の支配者になる。」

「あなたが支配者なんて、笑わせないで!神様の力まで狙うなんて!!」

「まさに、幼い頃のお前が予見した通りになっだろう?」

「え!?」

「初対面の時から、お前は私の身の内に巣食う野望に気づいた存在だ。路上で歌っていた頃、『神様より強くなりたいの?』と、私に聞いたのを覚えているか。」

「!!」

えっ・・・。
私、そんなことを言った・・・?
覚えていない。

「大きなシルヴィアも、私のそんな野望に気づいた存在だった。あのダグラスですら、従順に振る舞う私に騙されていたのに。」

「あ、あなたが、私たちに執着した理由はそれなの?」

「十分な理由だ。私にとっては。それに・・・。」

「?」

「お前たちの信じる神は、一度は人類全て滅ぼす予定だったのだぞ。」

「!!」

「かつて、神罰によって吸血鬼に変えられた真祖たちは、人間を滅ぼすことも厭わない思考だった。なぜか?かつて人間だったものに、人間を滅ぼさせる、ここまでが神罰だったからだ。」

「あなたの推測でしょ!?」

「もちろん。だが、ヴァレンティカが封印しなければ、純血は滅ぼされ人間は全滅。真祖もまた滅んで、人という種族がいない世界がくるはずだったのだ。」

「・・・神様が・・・そんな。」

「ベルアニ奇譚が禁書扱いされたのは、天の扉を開く呪文がのっているだけでなく、一度人は神に見放されたことが、知られてしまうからだ。」

「・・・。」

「ヴァレンティカという、異質な吸血鬼が誕生したことで、人も吸血鬼も存続できた。だが、いつまた神の気が変わるかわからんぞ?」

「だから、その前にあなたが神様になろうというの!?」

「ふふふ、そう思ってくれてもいい。」

なんてやつ。

私がチラッとお養父とう様の方を見ると、お養父とう様は法王様を抱えて、この部屋の外へと走り出ていた。

ほ・・・まずは、法王様は無事ね。

あとは、お養父とう様が戻ってきたら・・・。

そう思っていると、ディミトリの背中から無数の触手が飛び出してきて、天井を大きく抉った。

「あ!!」

ガラガラガラ!!スズーン!!

あっという間に、通路に瓦礫が積もって法王様たちが見えなくなる。

こんな力を持ってたの!?
初めて見た!

「ははは!やっと二人っきりになれた。お前を気にしてモタモタとしていたから、辟易していたぞ。」

ディミトリはそう言って、触手を私に伸ばしてくる。

私は思わず奥歯を噛み締めて、透明化した。
触手は私を掴めずに空を切る。

「ほほぅ、能力の同時使用もできるのか。」

ディミトリは、笑いながら触手を引っ込める。

「シルヴィア!シルヴィアー!!」

養父とう様が瓦礫の向こうから、叫んでいた。

養父とう様!!

私は、法王府の崩れた屋根も、力で修復できた。
治癒の力を応用して、同じように・・・!

奥歯を噛み締めて血を飲み、瓦礫の修復を試みる。

「甘い、甘い。」

ディミトリが鼻で笑って、修復するそばから触手を伸ばして壊してしまう。

何度やっても、崩されるスピードと修復を相殺することができない。

養父とう様たちは、瓦礫の向こうから動けずにいた。

「シルヴィア!?これはどういうことですか!?ヴァン伯爵!」

ランヴァルトの声も聞こえる。
そこにいるのね!?

「これじゃベルアニ奇譚が読めない。呪文を唱えられないんじゃ、天の扉は開かないぞ!?ディミトリ!!」

と、叫ぶフェレミスもいる。
みんな・・・みんな!!

一人、ディミトリだけが、不気味な笑みを浮かべている。

「呪文を知るものが、ここにいるじゃないか。」

彼の視線が、床に落ちたヴァレンティカの首に注がれる。

「まさか・・・あなたの狙いは最初から・・・!」

「そうだ。お前1人がここに来たのなら、法王にそのまま呪文を唱えさせるつもりだった。だが、余計な外野が一緒だったからな。ま、結末は同じなのだが。」

ディミトリは、ゆっくり体を前に進ませてくる。
どうして!?私の力は、彼の体を貫いているのに!?

これも真祖の力、なの?

「シルヴィア!透明化してるなら、そのまま瓦礫を抜けてこい!体はすり抜けるはずだ!」

ランヴァルトが叫ぶ。
そうよ、このまま・・・!

「どうかな。」

ディミトリが再び触手を背中から伸ばして、ヴァレンティカの首を拾うと、瓦礫の前に置いた。

彼が、ヴァレンティカの首を持ったことで、彼を貫いていた私の力が弾き返される。

あ・・・そんな!
私は瓦礫に走り寄ろうとして、透明化まで解けかけた。

「お前の力が、これほどヴァレンティカの影響を受けるということは、やはりお前は彼女の牙を移植した存在だな。」

「く!!」

「牙は本来の持ち主に逆らえない。そして、お前は彼女の体と牙を補完するためのスペア。」

「違う・・・違う、違う!!」

「時がきたようだな、小さなシルヴィア。」

ディミトリは、再び触手を伸ばしてヴァレンティカの首をつまみ上げる。

私は慌てて距離を取って、透明化した。
ディミトリは、面白そうに笑い始める。

「くくく、どこかな?あの日の人間狩りを思い出すな。お前は大きなシルヴィアに手を引かれて、誰よりも上手く逃げていた。」

ディミトリは、私の攻撃で開いた胸とお腹の傷を治しながら、辺りを見回した。

「ふふ、小さなシルヴィア、お前の表情を眺めながら、ゆっくり首を斬ってやる。」

「いや!!」

「お前と結ばれてから斬るつもりだったが、外野がうるさいからな。まぁ、お前の首は私がもらう。永遠に一つになって、もう離れない。」

どうしよう、どうしよう、どうしよう!!

予知夢の時と状況を変えたのに、結果は夢の中の私と同じようになりつつある。

このままじゃ、いつか捕まって首をすげ替えられてしまう。

このまま適当な壁をすり抜けて、外に出る?

黙り込んだ私に、ディミトリが腕を組んでニヤリと笑った。

「壁抜けしようと、考えているならやめておけ。この神殿は、所定の出入り口以外から出られぬように、霊的な結界がはってある。」

「!!」

「ベルアニ奇譚にちゃんと書いてあった。
法王に一通り読ませてから、来たからな。」

と、ディミトリは言った。
イシュポラと争って裂けたベルアニ奇譚。

大半は彼女が持ち去ったから、仕方ないけれど。

ディミトリは、静かな声で挑むように話す。

「さぁ、どうする?小さなシルヴィア。」


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