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油断大敵

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かつて、ベルアニがあった土地と、広大な砂漠を挟んで隣接するリュデオン国。砂漠といっても、パイア砂漠とはまた違う、普通の砂漠らしいんだけど、とにかく広いらしい。

だから、瘴気しょうきあふれるベルアニがあっても、影響を受けないんだとか。

この国は私たちが在籍していたラピタル国より、ずっと遠いところにある。

「わ、私どれくらい気絶してたの?」

港に降りながら、ランヴァルトたちに尋ねる。
話していないと、震えが戻ってきそう。
気がつくと、膝もガクガクと震えていた。

まだ、怖いんだ・・・私。情けない。

「今日で4日目。無理もないよ。とりあえず、宿を取ろう。ゆっくり歩こうな、シルヴィア。」

と言って、ランヴァルトは私の手を引きながら街に入る。
怖がっているのを、気遣きづかってくれてるんだ。

彼の手はこんなに温かい。
でも、温もりを感じているこの手は・・・本当に私の手なの?

ランヴァルトとフェレミスは、私をかさないように気をつかいながら、宿屋の看板を見つけた。

フェレミスが、宿屋のドアを開けて、

「どうぞ、お姫様。」

と、言って通してくれる。
元気づけようと、してくれてるのね。
いつかは、私が彼にお返ししないと。

「ありがとう、フェレミス。」

「いいえー。」

フェレミスは片目をパチっと閉じて、受付に向かう。

「すいませーん。」
「おや、いらっしゃいませ。」

人の良さそうな宿屋の主人が、挨拶をしてくれたので、ランヴァルトは彼に話しかけた。

「部屋を3部屋と、あと、ベルアニへと向かう最短距離を教えてください。」

そう聞いた宿屋の主人は、少し顔をこわばらせて、応えてくれる。

「ベルアニ・・・ですか、最短距離で行きたければグリフィンの背に乗るのが一番です。しかし、今日と明日はやめておいたほうがいい。」

「何故です?」

「風向きが悪くて、ベルアニの瘴気が砂漠に届くから、グリフィンが迷うんです。だからって、歩くのはもっとダメですよ。せめてオアシスまではグリフィンで行かないと、何日かかるか。」

「そうですか・・・わかりました。」

「それで、部屋のことですが、申し訳ありません。ニ部屋しかあいてません。」

宿屋の主人にそう言われて、フェレミスがさりげなく私の肩に手を回してくる。

「仕方ない。シルヴィアと俺で同じ部屋に・・・。」

「させるかっての。」

すかさずランヴァルトが、さっとその手を払った。

彼は、二部屋分の鍵を宿屋の主人から受け取り、私の手を引いて部屋の前まで連れてくる。

「あとから、ダグラス神官様も来る。フェレミス、お前が同室な。」

「なーんで、そうなるんだよ!?」

「シルヴィアに、他の男は近寄らせない。」

「じゃ、何か。お前は彼女と同室かぁ!?」

「いや、俺は野宿する。見張りをしないとな。」

ランヴァルトはそう言いながら、私に宿屋の部屋の鍵を一つ渡す。

受け取ろうとしたのに、手が震えて鍵を落としてしまった。

「ご、ごめんなさい!」

「いいよ、俺が拾う。」

ランヴァルトは、そっと鍵を拾って私の手に乗せてくれた。

・・・あなたは、そばにいてくれないの?
そんな弱気なことを、言いそうになる。

私たちの様子を見て、フェレミスがはぁーとため息をついた。

「お前さ・・・変なところで、ストイックというかなんというか。ベタベタと彼女を独占する割に、こういう時は一線引くよな。」

ランヴァルトは、片眉を上げてフェレミスを睨む。

「また、妙な言いがかりをつけてきたな。」

「わかんねーんだもん?あの日といい、今日といい、彼女を奪える機会にさっと距離を置くし。見張りなんて俺にさせて、彼女と仲良く過ごしてもいいんだぞ?」

「・・・できるか、そんなこと。」

ランヴァルトは、顔を赤くしながら行ってしまった。

その様子に、フェレミスが肩をすくめて私の方に振り向いてくる。

「はぁ、シルヴィア。もう、君からあいつを奪いにいかない?」

「えぇ!?」

「あいつは、シルヴィアの気持ちを掴みかねてるから、手を出さないんだよ。一方的な片想いだと思い込んでるんだ。」

「手をだすなんて・・・!ラ、ランヴァルトはそんな人じゃ・・・。」

それを聞いたフェレミスが、ニヤッと笑う。

「んー?散々抱きしめられたり、キスされたり、迫られたのはどなた?」

「な・・・!あ、あれは、わ、私を気遣きづかって!!社交辞令・・・!」

「俺が同じことしたら嫌でしょ。」

「・・・そ、それは。」

「あれは君を気遣きづかうことを建前にした、無自覚のアプローチなの。両想いだとわかったら、そりゃもう、すぐ抱こうとするぜ?あいつ、こんなに誰かにれたことねーもん。」

「営みのこと・・・?」

「お上品に言えばね。ふふ、嬉しい?」

「そんな、はしたないこと、思ってない!」

「ちっちっ。誤魔化ごまかさないの。」

「やめてよ!それに・・・私・・・この体は・・・私のものじゃ・・・。」

私はカッとなって、両手で顔を覆う。
いつまたヴァレンティカに奪われるか、わからないのに・・・。

フェレミスは、ふっとため息をついて、私の頭を軽く撫でた。

「この体はシルヴィアのだよ。」

「だけど・・・。」

「あの場で奪われなかったのが、いい証拠だと思うけど?」

「そうなんだけど、なんだか・・・他人の身体のように感じてしまうの。」

私の首から赤い血が大量に流れた時も、体が私の首から上の血を拒絶しているように感じた。

ヴァレンティカに近づく、自分の足を止められなかった。

自分の体なのに、自信が持てない・・・。

フェレミスは、んー、とうなる。

「だったらさ、なおのことランヴァルトと仲良くしちゃえば?どーせ、ベルアニにはすぐには行けないしさ。」

「どうしてあなたは、話をすぐそっちにもっていこうとするのよ。」

「シルヴィアが自分の体に自信を取り戻す、1番手っ取り早い方法だと思うからさ。思いっきり愛し合えばいいじゃん。」

「そんなことをしたって・・・!」

「自信を取り戻して、ヴァレンティカに負けたくない、て、戦おう、て思えるかもよ?」

「え・・・?」

「そーれーにぃ。」

フェレミスが、顔を近づけてきて、顔を覆う私の両手をゆっくり引きがした。

「シルヴィアだって、状況が変われば、受け身ばかりでいられないかもよ?」

「え?」

「例えばライバルが現れるとか。」

ライバルが!?
恋敵こいがたきのこと?

フェレミスはニヤッと笑ってうなずく。

「あいつ容姿はイケメンだし、清潔感もある。元神職で騎士団に勧誘されるくらい礼儀作法もきちんとしてる。この街の女性たちがほうっておくと思う?」



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