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操り人形

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「ダグラス神官様!!みんな!!」

私はイァーゴを抑えた手を緩めないようにしながら、声をかけた。

「あっ・・・くそ!!」
「いててて。」

フェレミスとランヴァルトが、頭や背中を押さえながら這い出してくる。

私はそれを見ながらダグラス神官様に近寄ると、ダグラス神官様の首は噛みつかれるというより、食い破られていた。

出血がひどい!このままじゃ、死んでしまう!!

「こっちは任せろ!」

フェレミスが言うので、私はイァーゴの押さえを解くと、ダグラス神官様の治療を始めた。

死んじゃいけません!!

奥歯を噛んで血を飲み、まずは傷口の修復、それから、彼の口の中に傷をつけて、私の血を流し込んだ。

「ダグラス神官様!!」

ランヴァルトが、必死に声をかけている。

目の前でダグラス神官様は苦しみ出すと、ランヴァルトと同じように、全身の皮膚が黒ずんで脱皮のように剥がれていった。

「く・・・!はぁはぁ、奴は?」

ダグラス神官様は、全身に汗をびっしょりかきながら起き上がる。

「アリシアを抱えて、出ていきました・・・。」

そう答える私たちの目の前に、フェレミスに投げ飛ばされたイァーゴが、叩きつけられてくる。

ダグラス神官様は、すかさず針を取り出して、イァーゴの首にずぶっと刺した。

「な、な、何しやがった!?体が・・・力が抜ける!」

焦るイァーゴに、ダグラス神官様は彼の襟元を掴んで引き寄せる。

「ディミトリはどこへ向かった!?」

「知るわけねーだろ?指輪が示す、真祖の棺の場所にむかったんだろうさ!!」

「お前たちの死を奴が感知できるなら、お前たちもディミトリの居場所を察知できるはずだ。」

「そうだとしても。言うと思うか?」

「いいや。」

ダグラス神官様は、二本目の針を刺した。

イァーゴは白目を剥いて、痙攣したかと思うと、起き上がって歩き始める。

「行こう、奴の元へと案内させる。」

ダグラス神官様は、問答無用の雰囲気で立ち上がると、イァーゴの後ろをついていった。

私たちも慌てて後を追う。

イァーゴは、祭壇のある部屋を抜けると、いつの間にか壁にポッカリ穴の開いたトンネルを指し示した。

足元の床には、魔法陣が描かれている。

「・・・転送の魔法陣!」

ダグラス神官様は、緊張の眼差しで魔法陣を指でなぞった。

魔法陣は目の前で、薄くなっていく。
このままじゃ、消えちゃう!

「とにかく、行こう!」

私たちは全員で中に踏み込む。
どうか・・・間に合って!!

目の前が光に包まれて、ようやく目を開けると、知らない場所に来ていた。

恐ろしく寒くて、暗いところ。

「ここは・・・?あ!」

思わず奥歯の牙がズキッと痛んだ。
心臓の鼓動が奥歯から聞こえるかのように、ドクンドクンと脈を打ってる。

「どうした?シルヴィア。」

ランヴァルトが、覗き込んでくるので、思わず我慢して首を横に振る。

「なんでもない。」

・・・ここはどこなんだろう。
通路は一本道で、奥から青白い光が見える。

でも・・・。

「すごい瘴気だ・・・。ここはベルアニのどこかだ。」

ダグラス神官様は、額に汗の粒を光らせながら、辺りを見回している。

ベルアニの?
私はドキドキしながら、ランヴァルトやフェレミスを見た。

「ここでモタモタしていても、仕方がありません。進みましょう。」

ランヴァルトがそう言って、私を見ると、

「シルヴィアはここにいてくれ。」

と、言った。

「え?」

「あの日記にあっただろ?この先は、ヴァレンティカの首もある可能性が高い。君に、もしものことがあったら大変だ。真祖の封印も、解けてしまうかもしれない。」

「で、でも!」

「君はまだ、能力を二つ以上同時に使えない。混戦になった時に危ないから。」

そ、それはそうだけど、離れたら二度と会えなくなるかもしれない。

「少し離れたところにいるわ。私の力は、肉眼で捉えられるところなら届くもの。私だってみんなの仲間よ!一緒に行く!」

私はそう言って、一番後ろからついて行くことにした。

通路を歩き進んでいると、奥からガキーン、ガキーンと音が聞こえ出した。

・・・?
誰かいるの?

私たちが足早に駆けていくと、広い空間に出てきた。そこには、床に倒れて気絶しているアリシアと、巨大な生き物が見えている。

!?あれは、あの姿は!!

私の肩に止まっていたフクロウのモーガンも、その生き物の正体がわかって、嬉しそうに鳴いた。

「ホーホゥ!!」

「マティ!!」

私が叫ぶと、ドラゴンのマティがチラッとこちらを振り向いた。

でも、すぐに前を向いて、大量の火を吐いている。

「マティ?マティて、シルヴィアの家で飼われていると言っていたドラゴンのマティ?」

フェレミスが、走りながら振り向いて聞くので、私は頷いた。

「えぇ!マティがいるということは、この先には!!」

ヴァンお養父様が・・・いる!!

マティの頭を飛び越えて、二つの人影が躍り出てきた。

ディミトリと、ディミトリの繰り出す技を見事に弾き返すヴァンお養父様の姿だった。

ディミトリは珍しく肩で息をしながら、ヴァンお養父様と戦っている。

「こんな・・・強い純血がいたとはな。私の主人がギュラドラ公ではなく、お前ならよかったのにな!!」

「10年前のあの日、やはりお前は見つけ出して滅ぼすべきだった。私が遅れたばかりに・・・救えたのはあの子一人だけだった。」

ヴァンお養父様が、ステッキごとディミトリの胸に拳を当てて、ディミトリは壁まで吹き飛ばされる。

「すげっ・・・!」

「あのディミトリを吹き飛ばすなんて!」

フェレミスとランヴァルトは、驚愕の眼差しで見つめていた。

「お養父様!!」

私が声をかけると、ヴァンお養父様は、ハッとして私を見た。

「来るな!シルヴィア!!」

ヴァンお養父様はそう言うと、壁を跳ねながら戻ってきたディミトリと再び交戦し始める。

ダグラス神官様は、二人の戦いの様子を見ながら、アリシアの首に手を当てて、彼女の手から指輪を抜き取った。

扉は?

マティの体が浮き上がって、ディミトリの頭の上から大量の炎を吹き付け始めたので、扉の様子がはっきり見えた。

・・・開いてる!

扉の奥には、沢山の棺が置かれていて、一番奥の一段高いところに、一際豪華な棺があった。

あれが・・・王の棺?
そして、その王の棺の上には、そっと置かれた人の頭が見える。

誰・・・?
気がつくと、足を一歩踏み出していた。

一歩、また一歩、自然と足が近づこうとしてしまう。
同時に牙が疼いて、首が熱を持ち始めた。

「シルヴィア?」

ランヴァルトが、声をかけてくるけど、足が止まらない。

ディミトリとお養父様が戦っている真ん中を、スタスタと歩き続け、驚く二人を両手が勝手に動いて、触れずに後ろに吹き飛ばした。

「ホゥ!ホーホゥ!!」

モーガンも、必死に私の髪を引っ張るけれど、体が止まらない。

「いや・・・!何?これ、体が・・・勝手に!!」

首から何か熱いものが流れ始め、それが自分の血だと理解するのに、時間がかかった。

いつもの透明な血じゃない。赤い血・・・。首から上の血の色・・・。

「シルヴィア!!シルヴィアー!!」

フェレミスもランヴァルトも、ダグラス神官様も止めてくれようとしたけれど、みんな同じように吹き飛ばしてしまう。

自分の上着が真っ赤に染まり、袖口から手をつたって床に血の滴が落ちていった。

次第に、目の前が真っ白になっていくの。

気がつくと、目の前に知らない女性の首があり、それはまるで生きているかのように、艶やかな肌をしていた。

目をしっかり閉じていて、口が少しだけ開いている。
その口の中に、牙はなかった。

「ヴァレンティカ・・・?」

私の掠れた声が、喉から漏れてくる。

血塗られた手が自然と持ち上がり、私の血がポタポタと滴り落ちて、彼女の少し開いた口の中に、流れ落ちていった。

私は操られるように、両手で彼女の首を持ち上げる。

すると、彼女の瞳がゆっくり開き始めた。

「・・・た・・・ヴィア・・・。」

微かに誰かの声が聞こえて、意識が闇に沈んでいく。

ランヴァルト・・・。
必死に彼の名前を呼んだけれど、声になったかどうかはわからなかった。

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