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対時

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シモーヌ?

私は、初めて聞く女性の名前に驚いた。
誰なの?その人もディミトリの犠牲者かしら。

それに、ディミトリの狙いがこの世の支配なんて。

アリシアは、キッとした目でイァーゴの方を見て、近くに落ちていた置物を投げつけた。

「最愛の女ですって!?シルヴィアが?」

イァーゴは、飛んできた置物を片手で受け止めて、呆れたように肩をすくめた。

「イシュポラみたいな顔すんなよ。」

「私に婚約者を奪われるような、格下の女に、この私が負けたって言うの!?」

「誰が誰に惚れるかなんざ、テメェの尺度で測れるもんか。ずっとそばにいるイシュポラですら、奴の心を変えられないんだかんな。」

「あんな、僕風情しもべふぜいの女だからよ!!」

「は!じゃ、まあ、せいぜい頑張れ。」

アリシアは、足元の椅子を乱暴に蹴ると、

「もう・・・ない、ないわよ、指輪なんて!まさか、シルヴィアたちが先に来て奪ったんじゃないの?」

と、叫んだ。
イァーゴは、辺りを見回して、

「おっと、そういやイシュポラが言ってたな。小さなシルヴィアは透明化できると。そうなると、ここにいるのかもしれんな。」

と、言ってアリシアのそばに寄ると、彼女を羽交い締めにして、大声をあげた。

「おい!小さなシルヴィア、聞いてるかぁ?指輪を持ってるなら出てこいよ。さもなくば、こいつをこの場で引き裂くぞ?」

!?
そんな!!

アリシアも驚いたように、イァーゴを見ている。

「な、何を言うのよ?そ、そんな勝手なこと、ディミトリが許すわけ・・・。」

震える声で話すアリシアの片袖を、イァーゴは乱暴に掴んでそのまま引き裂いた。

ビリリリ!

「キャァァァ!!」

アリシアの悲鳴が響く。イァーゴは片袖をポイッと放り出すと、今度は彼女の腕を掴んだ。

「脅しと思うなよ?次は腕だ。不死身だから死にはしないが、腕、足ともいでいく。さあ、小さなシルヴィア、同族を見捨てるか?」

「いや・・・いや・・・!シルヴィア・・・助けて・・・助けて!怖い!痛いのは嫌ぁ!!」

「アリシア!!」

私は思わず叫んでしまった。

イァーゴが、ニヤリと笑ってアリシアの首を掴むと、挑発するように声をかけてくる。

「出てこいよ、小さなシルヴィア。10年ぶりの再会だ。」

「・・・すみません。ごめんなさい、みんな。」

私はランヴァルトたちに謝った。
罠の可能性も高いのに、声を出してしまった。

「気にしなくていい。我々がいる。」

ダグラス神官様はそう言って、ランヴァルトやフェレミスも、『あぁ。』『大丈夫だよ。』と応えてくれた。

私は深呼吸して、彼らと繋いだ手を離して実体化する。

イァーゴは、私を見て覗き込むように、前屈まえかがみになった。

「ほぉ、これはこれは。その面差おもざしは確かに『小さなシルヴィア』。ディミトリが会いたがってたぜ?」

「私は会いたくなんかないわ。アリシアを解放して、ここから出て行って。」

「そうはいかねぇよ。指輪を寄越よこしな。こっちには、法王という人質がいることを忘れんなよ。」

「法王様はどこ?」

「石化したまま、ベルアニにいるディミトリのそばに置いてるぜ。奴には『ベルアニ奇譚』に載ってるとかいう、天の扉を開く呪文を唱えてもらわなきゃならねーからな。」

「天の扉を開く呪文?」

「あぁ。ヴァレンティカが世界樹の元へ行けたのは、天の扉を開く呪文を知っていたからだ。」

「ディミトリは、世界樹まで狙ってるの!?」

「真祖の力を取り込み、最後は神の力を取り込んでこの世の支配をする。ありきたりな話だが、奴は本気だ。」

「完全に狂ってるわ。
あんな奴が、この世を支配するだなんて!!」

「そぉかなぁ?俺は待ち遠しいぜ?さぁ、指輪を寄越しな。」

アリシアの首が締め上げられて、彼女は苦しそうに呻く。

私は素早く奥歯を噛んで血を飲むと、片手をかざしてイァーゴに向かって突き飛ばすように指を突き出した。

「おおっとぉ!」

イァーゴは、アリシアを離して天井に飛び上がる。

イァーゴを仕留め損ねた私の遠隔攻撃は、後ろの壁に四つの穴を開けていた。

やっぱり、早い!!

「あっぶねー。お前が手を動かしたら、とにかく避けろとディミトリに聞いといてよかったぜ。」

イァーゴは、ヘラヘラ笑いながら、天井から私に向かって突進してきた。

「一緒に来てもらうぞ!小さなシルヴィア!」

「させるか!!」

あっという間に間近にきたイァーゴの顔を、ランヴァルトが鋭い蹴りを入れて遠ざける。

「ぐわ!」

イァーゴは、そのまま壁にめり込むようにして激突した。

「大丈夫?怖かったねー。」

フェレミスが、アリシアの背中を撫でながら、助け起こしている。

私は壁にめり込んだイァーゴの方に向かって、素早く奥歯を噛んで血を飲むと、手をかざして押さえ込んだ。

「うお!?なんだ・・・これは。か、体が全然動かせねぇ!」

イァーゴがジタバタしている間に、私はアリシアを振り向いた。

彼女は、しおらしくフェレミスの胸にもたれかかって、か弱い女の子アピールをしている。

「ありがとう・・・ございます。」

「いやいやー、いーのいーの。ねぇ、アリシアちゃんは今、彼氏いたりする?」

フェレミスは、相変わらずの調子で口説いていた。

「アリシア、大丈夫?」

私が声をかけると、一瞬ジロッとすごい顔で彼女に睨まれる。

・・・やっぱり本音はそっちよね。

でも、ランヴァルトがそばにやってきて、

「ディミトリは来てないのか?」

と、尋ねるとサッと顔を変えて甘えるように上目遣いをした。

「えぇ、私たちだけなの。他の仲間は、砂嵐でフードを取られてみんな灰になってしまったわ。あなたも、素敵なお顔ね、お名前は?」

・・・なんて言ってる。
フェレミスはそんな彼女を見て、やっぱり可愛いと喜んでいた。

「アリシアちゃん、俺とお付き合いしない?」

「どうしようかしら。あなたもいいけど、こっちのお兄さんも捨てがたいの。」

「奴が来ないのはおかしい。ダグラス神官様、俺は外を見てこようかと思います。」

「あ、待って、お兄さん!」

「アリシアちゃん、行かないでぇ。」

そんな彼らの様子を見ながら、ダグラス神官様は冷静に懐から針を取り出して、イァーゴに近づいていく。

でも、ふと立ち止まり、ダグラス神官様が緊張した顔で振り向くと、

「奴だ!!」

と、叫んだ。

「うわ!」
「ぐわ!!」

すぐにランヴァルトとフェレミスが壁に向かって叩きつけられ、ダグラス神官様はディミトリに羽交締めにされている。

「ディミトリ!!」

私が叫ぶと、目の前で彼はダグラス神官様に咬み付いた。

「うわぁぁぁぁ!!」

ダグラス神官様の悲鳴が上がり、懐から指輪の入った箱が落ちてくる。

ディミトリはサッと箱を取ると、私に向かって片目を閉じ、ダグラス神官様を放り出した。

「年配にしてはいい血をしてるな、ダグラス。」

と言って、ダグラス神官様の血で濡れた口で、軽く私に投げキッスすると、アリシアを抱えて高速移動で部屋から出ていった。

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