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沈まぬ太陽の地、パイア砂漠
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「あ、暑い・・・。」
私は砂漠の太陽を見上げて、汗を拭った。
ここは、パイア砂漠。
真祖に生贄を捧げていた『ルミカラ教』の信者たちが、追放された場所。
私たちは法王府の命令を受けて、パイア砂漠の真ん中にある神殿に向かっていた。
近くの街でラクダを借りて、ずっと歩き続けてる。
強い日差しとそれから・・・。
「ラクダを止めなさい。降りて身を低く。
砂嵐が来る。」
ダグラス神官様の声に、みんなが揃ってラクダを降りて身を寄せ合い、砂避けの布を被ると轟音と共に砂嵐がきた。
フクロウのモーガンも、不安そうに私の胸に抱かれたまま見上げてくる。
「大丈夫よ、モーガン。砂嵐なんか・・・。」
ビュォォォ!!
すごい音!
「この辺りの砂嵐は、不定期に何度も訪れる。慎重に進まないと、危険なのだよ。」
ダグラス神官様は、冷静な低い声で教えてくれる。
「おまけにここは、一日中太陽が沈まない砂漠なんだ。ディミトリでも、簡単じゃないはずだ。」
と、話すランヴァルトが、私に水筒を差し出しながら、説明してくれた。
「暑さと、この砂嵐。どんなにフードを深く被っていても、砂嵐の風で引き剥がされて、すぐにギラつく太陽の下にさらされるわけだなぁ。」
フェレミスが、髪についた砂を払い落としながら、砂嵐の音に耳を傾けている。
さっきから、ずっとこんな感じで進んでるの。
少し行っては、砂嵐がくるたびに立ち止まって過ぎ去るのを待つ。
高速移動も提案したんだけれど、砂の上では速度が落ちるし、流砂に気づかずに踏み込む危険があるから、歩こうということになったんだ。
ようやく砂嵐の音が止んで、砂避けの布地を取ると、私たちが乗ってきたラクダも、立ち上がって体についた砂を振り落とした。
モーガンも、辺りを見回しながら私の肩に乗ってくる。
「行きましょう。」
そう言ってラクダにまたがると、すぐに太陽が顔を出して、容赦なく照り付けてきた。
暑い・・・こんなところに追放されたルミカラ教のみんなは、生きていられなかったんじゃないのかな・・・。
前を歩くダグラス神官様は、望遠鏡で前方を確認して、私たちを振り向く。
「見えたぞ。」
その言葉に、私たちは同じ方向を見た。
「あれが・・・。」
砂漠の中に小さなオアシスが見えてきて、その中に異様に目立つ建物がある。
あれが、ルミカラ教の神殿。
真祖の棺の場所を示す、指輪があるかもしれないところ。
神殿が近くなってくると、砂の中に埋もれるようにローブのような布地が散らばっている。
ランヴァルトが素早くラクダを降りて、布地を引っ張り出した。
すると、砂に混じって沢山の灰がザザー!と溢れて、牙が二つ転がり落ちてくる。
ダグラス神官様がそれを見て、
「吸血鬼が炭化してる。ディミトリの配下の新種たちも来たのだろう。だが、砂嵐にローブを剥がされて、辿り着く前に力尽きたようだな。」
と、言った。
新種といっても、真上に来た太陽の前に無事ではいられない。
でも、これではっきりした。
ディミトリたちも、ここを目指したんだ。
私たちは必死で神殿に辿り着き、ラクダを降りると、彼らを放す。
この子たちは、鞍を外すと自分達で帰れるようにしつけられてるんだって。
無事に帰りついてね。
そして、建物を見上げる。
ここが、ルミカラ教の信者が建てたという神殿・・・。
「ディミトリもいるのでしょうか。」
私が聞くと、ダグラス神官様は首を傾げた。
「どうかな・・・。ディミトリの肉体は、おそらくこの太陽も耐えられるだろうが。気配がしないのだ。」
うーん。イシュポラは、キャロン法王補佐官からもらった守護のペンダントで気配を消していたわ。
はっきりしないけど、こういう時は・・・。
私は奥歯を噛んで血を飲むと、みんなと手を繋いで透明化した。
ディミトリでさえ、こうなった私たちを見つけられない。
初めての透明化に、フェレミスが大喜びして飛び上がっていた。
「すっげー!まるで空気だぜ。これなら、砂嵐も関係なく進めたじゃんよぉ。」
「時間や距離がわからなかったから、使わなかったの。ずっと手を繋いで歩くのも、大変でしょう?」
私はそう言いながら、オアシスの中に建てられた、ルミカラ教の神殿の中に入っていった。
神殿の中には地下に降りる階段があり、先も見えないほど真っ暗。
でも、吸血鬼の私に暗闇は関係ない。
「私が先導するわ。」
みんなの手を引いて、ゆっくり降りていく。
長く誰も来ていなかったのか、砂嵐によって吹き込んだ砂が、雪のように階段にびっしり積もっていた。
足跡もない。
ディミトリも、来てないのかもしれない。
やがて階段の下まで辿り着いた。
「・・・ダグラス神官様、ディミトリの気配はしますか?」
私が聞くと、ダグラス神官様はすぐに答えてくれた。
「いや、ない。足跡もないなら、おそらくディミトリはまだだろう。奴は純血の力を使えても、変身はできなかったからな。」
私は、それを聞いて透明化を解くと、松明に火をつけた。
目の前の壁には、何か文字が書かれている。
「えっと・・・『来たれ、真祖を解放せし者よ。憎きヴァレンティカの封印を打ち破れ』と書いてある。」
私は声に出して読み上げた。
ヴァレンティカの封印?
真祖を封印したのは、彼女なの?
ヴァレンティカは、真祖たちの最初の子供たちの一人。
なぜ封印を?真祖は彼女にとって同族の仲間、でしょう?
「真祖が姿を見せなくなったのは、やはりヴァレンティカが封印していたからのか。人間の血を吸わない彼女は、真祖と敵対したのだろうか。」
ダグラス神官様は、感心したように言う。
「吸血鬼同士で争ったと?信じられませんね。」
と、言ってランヴァルトが、私から受け取った松明を、ダグラス神官様に渡す。
「明かりは、お前が持たなくていいのか?ランヴァルト。」
「なくても見えますから。」
そんなダグラス神官様とのやりとりに、フェレミスがほー、と感心したように彼らを見ていた。
ランヴァルトも、暗闇でも目がきくんだ。
人間なのにすごいわ。
ダグラス神官様が松明をかざすと、奥に向かって続いている廊下が見える。
一本道みたい。とりあえず進もう。
みんなでゆっくり進んでいくと、廊下を挟む両側の壁に、ポツポツとドアが見えてくる。
中は小部屋になっていて、床には白骨化した骸が転がっていた。
「ここで亡くなった、ルミカラ教の信者たちだな。」
ダグラス神官様は、骸に弔いの言葉をかけていく。
他の小部屋も同じような感じ。
その中の一つに、机に向かったままの骸があった。
「日記を書いてたんだ。」
骸の手の下には書きかけの日記がある。
ボロボロになっていて、ほとんど読めない。
途切れ途切れに読める文字があって、目を凝らして読むと、
『ジャックの奴、裏切りやがったな!ヴァレンティカの首を刎ねたのは、真祖を封印するためだったなんて。』
と、書いてあった。
『ジャック』?この人が、ヴァレンティカの首を刎ねたの?
ランヴァルトの家にあった巻物には、理由は不明とかいてあったのに。
本当は、真祖を封印するために、彼女は首を落とされたんだ・・・。
思わず日記の続きを読む。
『王の指輪は祭壇にあるが、ヴァレンティカの体を戻さぬ限り、真祖は眠りから目覚めず、天の扉も開けない。ジャックの奴は、牙をあの純血に渡したに違いない。あの忌々しい・・・!』
日記はそこで終わっていた。
王の指輪はここにあるのね。
それに、ヴァレンティカの首を刎ねたというジャック。まさか・・・この人はヴァレンティカの恋人じゃないよね?
私は砂漠の太陽を見上げて、汗を拭った。
ここは、パイア砂漠。
真祖に生贄を捧げていた『ルミカラ教』の信者たちが、追放された場所。
私たちは法王府の命令を受けて、パイア砂漠の真ん中にある神殿に向かっていた。
近くの街でラクダを借りて、ずっと歩き続けてる。
強い日差しとそれから・・・。
「ラクダを止めなさい。降りて身を低く。
砂嵐が来る。」
ダグラス神官様の声に、みんなが揃ってラクダを降りて身を寄せ合い、砂避けの布を被ると轟音と共に砂嵐がきた。
フクロウのモーガンも、不安そうに私の胸に抱かれたまま見上げてくる。
「大丈夫よ、モーガン。砂嵐なんか・・・。」
ビュォォォ!!
すごい音!
「この辺りの砂嵐は、不定期に何度も訪れる。慎重に進まないと、危険なのだよ。」
ダグラス神官様は、冷静な低い声で教えてくれる。
「おまけにここは、一日中太陽が沈まない砂漠なんだ。ディミトリでも、簡単じゃないはずだ。」
と、話すランヴァルトが、私に水筒を差し出しながら、説明してくれた。
「暑さと、この砂嵐。どんなにフードを深く被っていても、砂嵐の風で引き剥がされて、すぐにギラつく太陽の下にさらされるわけだなぁ。」
フェレミスが、髪についた砂を払い落としながら、砂嵐の音に耳を傾けている。
さっきから、ずっとこんな感じで進んでるの。
少し行っては、砂嵐がくるたびに立ち止まって過ぎ去るのを待つ。
高速移動も提案したんだけれど、砂の上では速度が落ちるし、流砂に気づかずに踏み込む危険があるから、歩こうということになったんだ。
ようやく砂嵐の音が止んで、砂避けの布地を取ると、私たちが乗ってきたラクダも、立ち上がって体についた砂を振り落とした。
モーガンも、辺りを見回しながら私の肩に乗ってくる。
「行きましょう。」
そう言ってラクダにまたがると、すぐに太陽が顔を出して、容赦なく照り付けてきた。
暑い・・・こんなところに追放されたルミカラ教のみんなは、生きていられなかったんじゃないのかな・・・。
前を歩くダグラス神官様は、望遠鏡で前方を確認して、私たちを振り向く。
「見えたぞ。」
その言葉に、私たちは同じ方向を見た。
「あれが・・・。」
砂漠の中に小さなオアシスが見えてきて、その中に異様に目立つ建物がある。
あれが、ルミカラ教の神殿。
真祖の棺の場所を示す、指輪があるかもしれないところ。
神殿が近くなってくると、砂の中に埋もれるようにローブのような布地が散らばっている。
ランヴァルトが素早くラクダを降りて、布地を引っ張り出した。
すると、砂に混じって沢山の灰がザザー!と溢れて、牙が二つ転がり落ちてくる。
ダグラス神官様がそれを見て、
「吸血鬼が炭化してる。ディミトリの配下の新種たちも来たのだろう。だが、砂嵐にローブを剥がされて、辿り着く前に力尽きたようだな。」
と、言った。
新種といっても、真上に来た太陽の前に無事ではいられない。
でも、これではっきりした。
ディミトリたちも、ここを目指したんだ。
私たちは必死で神殿に辿り着き、ラクダを降りると、彼らを放す。
この子たちは、鞍を外すと自分達で帰れるようにしつけられてるんだって。
無事に帰りついてね。
そして、建物を見上げる。
ここが、ルミカラ教の信者が建てたという神殿・・・。
「ディミトリもいるのでしょうか。」
私が聞くと、ダグラス神官様は首を傾げた。
「どうかな・・・。ディミトリの肉体は、おそらくこの太陽も耐えられるだろうが。気配がしないのだ。」
うーん。イシュポラは、キャロン法王補佐官からもらった守護のペンダントで気配を消していたわ。
はっきりしないけど、こういう時は・・・。
私は奥歯を噛んで血を飲むと、みんなと手を繋いで透明化した。
ディミトリでさえ、こうなった私たちを見つけられない。
初めての透明化に、フェレミスが大喜びして飛び上がっていた。
「すっげー!まるで空気だぜ。これなら、砂嵐も関係なく進めたじゃんよぉ。」
「時間や距離がわからなかったから、使わなかったの。ずっと手を繋いで歩くのも、大変でしょう?」
私はそう言いながら、オアシスの中に建てられた、ルミカラ教の神殿の中に入っていった。
神殿の中には地下に降りる階段があり、先も見えないほど真っ暗。
でも、吸血鬼の私に暗闇は関係ない。
「私が先導するわ。」
みんなの手を引いて、ゆっくり降りていく。
長く誰も来ていなかったのか、砂嵐によって吹き込んだ砂が、雪のように階段にびっしり積もっていた。
足跡もない。
ディミトリも、来てないのかもしれない。
やがて階段の下まで辿り着いた。
「・・・ダグラス神官様、ディミトリの気配はしますか?」
私が聞くと、ダグラス神官様はすぐに答えてくれた。
「いや、ない。足跡もないなら、おそらくディミトリはまだだろう。奴は純血の力を使えても、変身はできなかったからな。」
私は、それを聞いて透明化を解くと、松明に火をつけた。
目の前の壁には、何か文字が書かれている。
「えっと・・・『来たれ、真祖を解放せし者よ。憎きヴァレンティカの封印を打ち破れ』と書いてある。」
私は声に出して読み上げた。
ヴァレンティカの封印?
真祖を封印したのは、彼女なの?
ヴァレンティカは、真祖たちの最初の子供たちの一人。
なぜ封印を?真祖は彼女にとって同族の仲間、でしょう?
「真祖が姿を見せなくなったのは、やはりヴァレンティカが封印していたからのか。人間の血を吸わない彼女は、真祖と敵対したのだろうか。」
ダグラス神官様は、感心したように言う。
「吸血鬼同士で争ったと?信じられませんね。」
と、言ってランヴァルトが、私から受け取った松明を、ダグラス神官様に渡す。
「明かりは、お前が持たなくていいのか?ランヴァルト。」
「なくても見えますから。」
そんなダグラス神官様とのやりとりに、フェレミスがほー、と感心したように彼らを見ていた。
ランヴァルトも、暗闇でも目がきくんだ。
人間なのにすごいわ。
ダグラス神官様が松明をかざすと、奥に向かって続いている廊下が見える。
一本道みたい。とりあえず進もう。
みんなでゆっくり進んでいくと、廊下を挟む両側の壁に、ポツポツとドアが見えてくる。
中は小部屋になっていて、床には白骨化した骸が転がっていた。
「ここで亡くなった、ルミカラ教の信者たちだな。」
ダグラス神官様は、骸に弔いの言葉をかけていく。
他の小部屋も同じような感じ。
その中の一つに、机に向かったままの骸があった。
「日記を書いてたんだ。」
骸の手の下には書きかけの日記がある。
ボロボロになっていて、ほとんど読めない。
途切れ途切れに読める文字があって、目を凝らして読むと、
『ジャックの奴、裏切りやがったな!ヴァレンティカの首を刎ねたのは、真祖を封印するためだったなんて。』
と、書いてあった。
『ジャック』?この人が、ヴァレンティカの首を刎ねたの?
ランヴァルトの家にあった巻物には、理由は不明とかいてあったのに。
本当は、真祖を封印するために、彼女は首を落とされたんだ・・・。
思わず日記の続きを読む。
『王の指輪は祭壇にあるが、ヴァレンティカの体を戻さぬ限り、真祖は眠りから目覚めず、天の扉も開けない。ジャックの奴は、牙をあの純血に渡したに違いない。あの忌々しい・・・!』
日記はそこで終わっていた。
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