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突然の告白

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ランヴァルトの言葉に、私は身動きできずにいた。え、と。えええ、と。

思考がグルグル回るだけで、少しも落ち着かない。

彼は私がここにいないみたいに話すけど、聞いてますよ?

フェレミスも、私をチラッと見て、苦笑いする。

「つまり、お前は彼女に惚れてるんだろ?惚れた女に執着するのは、普通だ。お前は普通の恋をしてるんだよ。」

フェレミス、いきなり何!?
惚れてる?ランヴァルトが、私に?
嘘・・・嘘、うそよ、そんな・・・!!

思わず両手で赤くなる顔を包む。
ランヴァルトは、全く私を見ずにフェレミスだけを見て話し続ける。

「俺が吸血鬼に恋を・・・?」

「こら、ランヴァルト。惚れたら種族なんか、関係あるかよ。俺が人間と吸血鬼の混血児、ダンピールだってこと、忘れたか?」

「俺が・・・姉さんを殺した種族を愛するなんて・・・。」

「シルヴィアは微妙だろ。元人間だし。」

「そうか・・・そうだな。」

「そうそう。種族的に俺の方が近いという理由で、彼女を奪おうとしたら、お前どうする。」

「即、ねじ切る。」

「やだ、こわぁーい。」

フェレミスがふざけて顔を両手で覆う。
ランヴァルトは、自分の胸に手を当てて、悩ましい顔をした。

「フェレミス、俺はシルヴィアが・・・他の男と結ばれるなんて・・・想像するだけでも苦しい。」

「それが恋だ。本気のな。」

「恋にしては生々しい感情だ。彼女が欲しい。でも、彼女を傷つけたくない。大切に慈しみたいとも思う。どっちが俺の本音だ?わからないんだ。」

「あぁー、男にはありがちだよな。わかるわかる。経験から言えば両方。分離不可だ。」

「・・・だよな。ちくしょう、今の俺は、あのキャロンと何も変わらない。」

「お前はあの好色野郎とは違う。お前はそれだけ彼女を、もう愛してるんだよ。あとは、シルヴィアが受け入れてくれるか、だな。」

「・・・わからない。彼女の気持ちは知らないから。」

「そりゃお前が面と向かって、告白しないからだ。ま、どうせお前は、背中をおさねぇとずっと思わせぶりなだけの朴念仁だから、この際手を貸してやらぁ。」

「何をする気だよ。」

「クスクス。ランヴァルトさん、彼女の目の前だ、てこと完全に忘れてるだろ。」

ランヴァルトが、はっとして私を見た。

「シルヴィア!?まさか・・・聞いて?」

そ、それはだって当たり前よ。目の前でペラペラ言うんだもの。

「ち、違うんだ。俺は、俺は、た、大切だと・・・思って・・・。」

ランヴァルトの顔が赤くなっていく。私は見ていられなくなって、俯いてしまった。

これは、告白されてるの?私・・・。

心臓が飛び出しそうなほど、ドキドキしてる。
ランヴァルト・・・私・・・。

顔を上げた時には、彼はいなかった。
あ、あれ?

フェレミスが、頭を掻いて私に近寄ってくる。

「お部屋にこもっちゃいました。ふふ、あいつの本音を先に聞いて、戸惑ってない?」

「あんな風に見ていたなんて・・・。」

「もちろん、嫌ならはっきりお断りしていい。自分の身も心も、ゆだねる気がないなら、容赦するな。生殺しが一番残酷だ。」

「フェレミス・・・。」

「それに、シルヴィア。」

「え?」

「人間との恋は辛いよ?君は不死身。奴はどうしても先に寿命がくる。俺の両親もそれが辛くて、母親が死んだ時、父親も自ら首を落として死んだ。君も、そうするの?」

考えなかった、そんなこと・・・。
でも、あり得ることなんだ。

「その時にならないと、わからないわ。」

「ごもっとも。まあ、あとは両想いのお二人が決めること。このままお友達で終わるもよし、恋人同士になるもよし。」

そうね・・・て、ええ!?
あ、え?

「わ、私はランヴァルトのこと、何も言って・・・!」

「ちっちっ。どっかの朴念仁と違って、俺は場数を踏んでんの。本当にランヴァルトをなんとも思ってないなら、セクハラまがいのことされた途端、嫌悪感が態度にでるはずだ。現に俺のキスをさけるだろ。」

「そ、それは。」

確かにフェレミスには、ランヴァルトほど接近されると嫌で離れてしまう。

「いーの、いーの。それが普通なんだよ。ランヴァルトと違って、君は俺にとって恋愛対象外。俺には本命の恋人が他にいるもの。」

「え!」

「ふふん、そりゃセフレになってくれるなら大歓迎。ただし、俺にとっての君はそこまでだ。だから、そんな扱いする俺に、容赦なんかいらない。」

フェレミスは、ニコニコ笑って手を振る。なんだかんだ言って、この人も優しい。
姑息な人は善人ぶって、ここまで言わないと思う。

でも・・・私・・・。

「でも、私はきっとダメ。」

「ん?なんで?」

「婚約者がいたけど、3回も捨てられたし・・・」

「捨てるような相手と結ばれなくて、よかったじゃない。」

「辛かったし、悔しくて、恥ずかしい思いをしたのよ?お養父とう様たちにまで、恥をかかせたし。」

「嫌な思いをしたねぇ。でもさ、ランヴァルトは、君を捨てた連中とは違うよ?そもそも、あいつろくに彼女いなかったもん。」

「ろくに・・・でも、いたんでしょ?」

「そりゃ、あんだけの美形に女性が寄ってこないわけないでしょ。」

「・・・。」

「でも、今はフリー。ディミトリへの復讐が先走るあいつに、みんな離れていっちゃうの。そんなあいつが、こんなになるなんて俺の方がびっくりよ?」

「・・・。」

「他には?」

「大きなシルヴィアが、許さないと思う。」

「・・・彼女が君をかばって犠牲になったから?」

私はフェレミスの言葉にうなずいた。
だって、そうでしょう?

フェレミスが頭をポリポリ掻く。

「俺ならさぁ。」

「え?」

「俺なら助けた相手が、俺の身内を好きになってくれたら嬉しいぜ?」

「嫌とか思わない?自分達ばっかり、なに幸せになってるの?て・・・。」

「んなケチな発想しかしない奴が、他人を命懸けで助けると思う?」

「ケ、ケチ?」

「もし、そうなら、大きなシルヴィアは自分一人で逃げるか、君を囮にして助かろうとしたはずだ。」

「わ、私は子供だったから・・・。」

「あのね、命かかってる時にそんなこと関係ないの。可哀想とは思っても、みんな自分の命が大事だから。」

「・・・。」

「そんな時に立ち上がって、君を助けた彼女は、本物の心優しく勇敢な人だったんだよ。そんな人は、君が自分の弟と幸せになることをこばんだりしない。」

「・・・。」

「むしろ、助けたことを負い目にして、自ら不幸になる方がよっぽど嫌だよ。そんなことのために、助けたんじゃない、てね。」

そうなの・・・かな。

フェレミスは笑って外套がいとうを羽織った。

「大きなシルヴィアのことを思うんなら、あいつと思いっきり幸せになればいい。彼女の魂が少しでも安らげるようにさ。」

「・・・ありがとう、フェレミス。」

「いえいえ、ほら、お礼のキスは?濃厚なやつでいいよ?」

「しません。」

「はい、かしこまりました。じゃ、俺は今から本命の彼女のところに行ってくる。朝帰りする、て、ランヴァルトに言っといて。」

「わかった。フェレミス、あなたの本命の恋人は幸せよね。そんなにあなたに愛されて。」

「どうかな。俺は生来浮気者だから。彼女だけのものにはなりたくない、てのが本音。でも、彼女は俺だけのものであってほしい。」

「わがままね。」

「でしょ。」

フェレミスは、手を振って出ていった。
私は、食卓の上で首を傾げているモーガンを撫でて、ランヴァルトの部屋を見ながら自分の部屋に戻る。

大きなシルヴィアの肖像画が、黙って私を見ていた。

私は肖像画に近寄ると、そっと手を触れて額をつける。

「大きなシルヴィア・・・私ドキドキしてるの。嬉しいの、ランヴァルトの気持ち。私も・・・きっと彼が好き。あなたは、許してくれる?」

いつか、フェレミスが言ったように、彼が先に歳をとって、寿命で亡くなったとしたら・・・いえ、その前にまたディミトリに命を奪われそうになるかもしれない。

他の魔物に襲われることもある。

彼を失いたくない・・・だけど。
私は奥歯の自分の牙を、舌で触ってため息をつく。

これは使えない。しもべにしてしまえば、一緒にいられるけれど、私は他人の血が飲めない。

「大きなシルヴィア・・・それでも、彼が好きなの。走り出したこの気持ちは、きっともう止められない・・・。」

元婚約者たちのことも、好きだった。でも、今思うとそれは、彼らと一緒になれば、やっと純血の一員として、胸が張れる気がしてたから。

『純血らしく』
『吸血鬼らしく』

ただでさえ血を飲めない私は、それに囚われていて。

ランヴァルトたちに対しても、最初はハンターらしくと思っていた。

『気に入られないと』

と、頑なに思い込んでた。
でも、いつの間にか、そんなことも気にしなくなっていて。

いつもの私を、当たり前のように許される今が、とても愛おしくて。

そして、ランヴァルトの存在が、私の胸を暖めてくれる。

「ランヴァルト・・・私も好きよ。」

私の初めての告白は、肖像画の大きなシルヴィアだけが聞いていた。



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