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ダグラス神官様に打ち明けて
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ダグラス神官様は、何度も祭壇に礼拝する。
「かつては、これで救われる民が多くなると思っていた。本当にすまない、ランヴァルト」
ダグラス神官様は、ランヴァルトに深々と頭を下げた。
ランヴァルトは、静かに目を閉じて開くと、ダグラス神官様の手を握る。
「あなたは、俺を鍛え導いてくれた恩人でもあります。姉の遺髪も、あなたが持ち帰ってきてくれた。今後も力を貸してください」
彼の言葉に、ダグラス神官様は目を潤ませて頷いた。
フェレミスは、ぽりぽりと頭を掻くと、ぼやくように話し出す。
「元々純血たちが、“しもべ”の管理を徹底できていれば、ディミトリを改造する話になんからならずにすんだんだよな。あまりにも無関心すぎんだよ」
ランヴァルトもフェレミスの意見に、同意した。
「その通りだ。おまけに純血たちは、“しもべ”たちを亡くしても、また人間から狩集めればいいと、彼らの生存も気にしない」
私はフェレミスと、ランヴァルトの言葉に返す言葉がない。
ダグラス神官様も、眉間に指を当ててため息をつくように話す。
「特にここ十年、“しもべ”の暴走や純血の狩りも甚だしくなっている。もはや被害が、新種か、“しもべ”か、純血たちなのかすら、わからなくなってきているくらいだ」
オークの洞窟でそんな話を聞いたわ……。
「私の……バドンシュタイン家ではね……」
私が話し出すと、みんな注目する。
「バドンシュタイン家では、マティという名前のドラゴンが一頭いるの。あの子からはたくさん血が取れるから、定期的に採取、貯蔵して、それを昼間に“しもべ”たちに与えていたわ」
ランヴァルトが、驚いたように組んでいた腕を解くと、顎を撫でた。
「ドラゴンの? すごいな。“しもべ”たちは飲めたのか?」
「えぇ。あと、人間の血肉と同じ味がする魔の果実『コ・ウリモ・マンドラゴ』も、お養父様が旅先から持ち帰ってた。我が家のヴァンお養父様は、“しもべ”の不必要な狩りを嫌うから、こうやって対策してたの」
私とランヴァルトが話していると、フェレミスも参加して来る。
「ドラゴンの生き血とは、贅沢だなぁ。それにコ・ウリモ・マンドラゴ?純血の吐息で育つと言われるほど、生育が難しいやつじゃん」
「そうね。お養父様は、ドラゴンの使役やコ・ウリモ・マンドラゴの栽培を広めようとしていたけれど、みんな面倒がってなかなか定着しないの」
俯く私の頭を、ランヴァルトは優しくポンポンと軽く撫でる。
「シルヴィアが最初から人間に協力的なのも、そんな家で育ったおかげかもな」
私が赤くなっていると、ダグラス神官様が近づいてきた。
「シルヴィアよ。ディミトリと君の関係を教えてくれないか?」
「え……」
「ランヴァルトは噛まれ、フェレミスも怪我を負っている。唯一無傷なのは、君だけだ」
私が戸惑って見つめると、彼は私の両手を握る。
「奴の強さは私がよく知っている。純血といえど、無傷はありえないんだ。頼む、シルヴィア」
私はそう言われて、ランヴァルトとフェレミスを見た。
二人とも頷くので、正直に話すことにする。
全てを聞き終えたダグラス神官様は、驚愕の眼差しで私を見た。
「おぉ……! こんな奇跡が? あのディミトリから生き残り、人間のまま牙の移植にも適合したと? 拒絶反応もないのか?」
「はい。大きなシルヴィアの犠牲で私は助かり、ヴァンお養父様によってこの牙が移植されました。拒絶反応はありません」
「シルヴィア……ディミトリが異様に執着していたな」
「はい……彼女のためにも、この牙の力でディミトリを倒したい。あと一歩だったんです」
本当にあと一歩だった。
次に対峙した時は、もっと難しくなっているかもしれない。
「それに……さっきディミトリに言われたんです。私の首から下は別人の体のようだ、と」
そう、この言葉も心に刺さったまま離れない。血の色が違うだけで、顔に負った傷も同じように治る。別人なんて……そんなの。
「えー? 別人の? ちょっと見せてみ……」
明るく言うフェレミスの言葉を、ランヴァルトが肘鉄を当てて黙らせる。
ダグラス神官様に私の牙を見せると、ダグラス神官様は驚いて何度も見ていた。
「こんな奥に牙があるとはな」
「はい」
「歯茎を噛んで、赤い血を飲み込み、力の発動に繋がるなどと初めて聞いた。牙の分泌液と自分の血が混じることが、鍵になっているのかもしれん。まるで……」
「え?」
「いや、なに。もし仮に牙と首から下の体が、本当にヴァレンティカのものだとしたら、まるで彼女に血を捧げて、その代償として力を使っているように感じるのだ」
「えぇ……!?」
「いや、あくまで私の推論だ。ヴァレンティカは、遥か昔に、首を斬られて死んでいるはずだからな。これは、法王様のお知恵を借りるべきかもしれん」
「法王様の……?」
法王様、てまさか……それに何故詳しいの?
「かつては、これで救われる民が多くなると思っていた。本当にすまない、ランヴァルト」
ダグラス神官様は、ランヴァルトに深々と頭を下げた。
ランヴァルトは、静かに目を閉じて開くと、ダグラス神官様の手を握る。
「あなたは、俺を鍛え導いてくれた恩人でもあります。姉の遺髪も、あなたが持ち帰ってきてくれた。今後も力を貸してください」
彼の言葉に、ダグラス神官様は目を潤ませて頷いた。
フェレミスは、ぽりぽりと頭を掻くと、ぼやくように話し出す。
「元々純血たちが、“しもべ”の管理を徹底できていれば、ディミトリを改造する話になんからならずにすんだんだよな。あまりにも無関心すぎんだよ」
ランヴァルトもフェレミスの意見に、同意した。
「その通りだ。おまけに純血たちは、“しもべ”たちを亡くしても、また人間から狩集めればいいと、彼らの生存も気にしない」
私はフェレミスと、ランヴァルトの言葉に返す言葉がない。
ダグラス神官様も、眉間に指を当ててため息をつくように話す。
「特にここ十年、“しもべ”の暴走や純血の狩りも甚だしくなっている。もはや被害が、新種か、“しもべ”か、純血たちなのかすら、わからなくなってきているくらいだ」
オークの洞窟でそんな話を聞いたわ……。
「私の……バドンシュタイン家ではね……」
私が話し出すと、みんな注目する。
「バドンシュタイン家では、マティという名前のドラゴンが一頭いるの。あの子からはたくさん血が取れるから、定期的に採取、貯蔵して、それを昼間に“しもべ”たちに与えていたわ」
ランヴァルトが、驚いたように組んでいた腕を解くと、顎を撫でた。
「ドラゴンの? すごいな。“しもべ”たちは飲めたのか?」
「えぇ。あと、人間の血肉と同じ味がする魔の果実『コ・ウリモ・マンドラゴ』も、お養父様が旅先から持ち帰ってた。我が家のヴァンお養父様は、“しもべ”の不必要な狩りを嫌うから、こうやって対策してたの」
私とランヴァルトが話していると、フェレミスも参加して来る。
「ドラゴンの生き血とは、贅沢だなぁ。それにコ・ウリモ・マンドラゴ?純血の吐息で育つと言われるほど、生育が難しいやつじゃん」
「そうね。お養父様は、ドラゴンの使役やコ・ウリモ・マンドラゴの栽培を広めようとしていたけれど、みんな面倒がってなかなか定着しないの」
俯く私の頭を、ランヴァルトは優しくポンポンと軽く撫でる。
「シルヴィアが最初から人間に協力的なのも、そんな家で育ったおかげかもな」
私が赤くなっていると、ダグラス神官様が近づいてきた。
「シルヴィアよ。ディミトリと君の関係を教えてくれないか?」
「え……」
「ランヴァルトは噛まれ、フェレミスも怪我を負っている。唯一無傷なのは、君だけだ」
私が戸惑って見つめると、彼は私の両手を握る。
「奴の強さは私がよく知っている。純血といえど、無傷はありえないんだ。頼む、シルヴィア」
私はそう言われて、ランヴァルトとフェレミスを見た。
二人とも頷くので、正直に話すことにする。
全てを聞き終えたダグラス神官様は、驚愕の眼差しで私を見た。
「おぉ……! こんな奇跡が? あのディミトリから生き残り、人間のまま牙の移植にも適合したと? 拒絶反応もないのか?」
「はい。大きなシルヴィアの犠牲で私は助かり、ヴァンお養父様によってこの牙が移植されました。拒絶反応はありません」
「シルヴィア……ディミトリが異様に執着していたな」
「はい……彼女のためにも、この牙の力でディミトリを倒したい。あと一歩だったんです」
本当にあと一歩だった。
次に対峙した時は、もっと難しくなっているかもしれない。
「それに……さっきディミトリに言われたんです。私の首から下は別人の体のようだ、と」
そう、この言葉も心に刺さったまま離れない。血の色が違うだけで、顔に負った傷も同じように治る。別人なんて……そんなの。
「えー? 別人の? ちょっと見せてみ……」
明るく言うフェレミスの言葉を、ランヴァルトが肘鉄を当てて黙らせる。
ダグラス神官様に私の牙を見せると、ダグラス神官様は驚いて何度も見ていた。
「こんな奥に牙があるとはな」
「はい」
「歯茎を噛んで、赤い血を飲み込み、力の発動に繋がるなどと初めて聞いた。牙の分泌液と自分の血が混じることが、鍵になっているのかもしれん。まるで……」
「え?」
「いや、なに。もし仮に牙と首から下の体が、本当にヴァレンティカのものだとしたら、まるで彼女に血を捧げて、その代償として力を使っているように感じるのだ」
「えぇ……!?」
「いや、あくまで私の推論だ。ヴァレンティカは、遥か昔に、首を斬られて死んでいるはずだからな。これは、法王様のお知恵を借りるべきかもしれん」
「法王様の……?」
法王様、てまさか……それに何故詳しいの?
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