時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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爪書簡の意味

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クロスノスは、私を見つめると、

「カミュンは、必ず帰ってきます。
あなたは、彼の最愛の女性だから。」

と、言うの。
私はそれを聞いて、顔が熱くなってしまった。

クロスノスはその様子に首を傾げて笑うと、

「それに、私がかけた爪書簡の魔法ですけど。
あなたのように、薬指で、薄い桃色に爪が塗られる場合は、『愛』を意味します。
これが相手も、同じ指で同じ色の場合は、『運命のつがい』を意味します。
この魔法は術者の意図ではなく、結んだ者同士の魂の結びつきを反映するのです。」

と、言った。
そ、そんなに強い意味なの?
思わずまじまじと、薬指を見つめる。

「古い魔法だから、知ってる人も少ないけど・・・。
滅多にその色は、互いに同じ位置に出ないのよ。」

と、レティシアも言ってくれる。

そ、それであの夜、カミュンは積極的だったんだ。
私が告白する前から、気持ちがわかってたんだ。

「ず、ずるい、自分ばっかり!」

思わず口に出す私を、二人はキョトンとした目で見る。

「ご、ごめんなさい。
なんでもない。」

私は慌てて誤魔化す。
そういえば、クロスノスとカミュンは中指の爪が藍色だったな。

「薬指が、あ、『愛』なら、クロスノスとカミュンは・・・。」

と、私が尋ねると、

「無二の親友ですね。」

と、クロスノスがにっこり笑う。

「幼い頃から、支え合ってきたし、彼には私にないものがあります。
私は、彼のように深く他人は愛せません。
彼を見ていると、自分はここまでプルッポムリンを愛してはこなかったと、思い知ります。」

「クロスノス・・・。」

その言った瞬間、私の右手の内側に短冊が届いた。

ハッとして見ると、薄い桃色の短冊だった。
クロスノスもレティシアも、驚いて私を取り囲む。

「なんて書いてあるの?」

レティシアが聞いてくる。

「え、えっと・・・。」

恥ずかしくて俯いてしまう。
もたもたしていると、また同じ色で一枚届いた。

クロスノスがふっと笑って、

「おやおや、熱烈な愛の言葉でも綴られてたんですか?
・・・どうやら、無事に抜け出したようですね。」

と、言う。

私はこくんと頷いた。

「と、とにかくこっちに来る、て。」

言いながら、顔を手で覆う。
恥ずかしくて、これ以上言えない。
その様子を見て、レティシアとクロスノスが二人で、微笑んでくれた。

「そうだ、リタ。
もし、カミュンとその・・・初夜を迎える時はね、ちゃんとこの指を重ねるのよ。」

と言って、レティシアが少し顔を赤くしながら、私を上目遣いで見る。

クロスノスがそれを聞いて頷き、

「そうそう。
『初夜の誓い』を古代語で語り合って、絆をより深く結ぶのです。
どちらが先でも構いませんが、一人が『イ・アトル』と言えば、もう一人が『イ・シト・ルヒテ』と答えるのです。」

と、教えてくれた。

「どう言う意味?」

と、聞くと、

「意味は『最愛の者と魂を繋げ合う』と、『共に渇きを癒し合う』の二つの意味を持ちます。
古代では、運命のつがいの婚姻の儀によく使われていたそうですよ。
私とプルッポムリンも、式を挙げた時にお互い言い合いました。
あなたたちもどうぞ。」

と、言われて驚いた。

「え!
クロスノスたちも運命のつがいなの?」

私が聞くと、

「プルッポムリンが怖がって、爪書簡の魔法を嫌がるのでわかりません。
でも、彼女は絶対そうだと言い張って、無理矢理誓わされました。
まあ、私はこだわりないので、それは受け入れました。」

クロスノスが肩を窄めてそう答える。

・・・この二人の関係もよくわからないけど、おしどり夫婦なのは間違いないな。

カミュンと初夜を迎える・・・か。
え!?
なんとなく聞いてたけど、つまりこの間の続き、てこと!?

ふ、二人とも、なんで平然とそんな話が出来るの?
わ、私が意識しすぎなの!?

会話の意味を理解するのが遅くて、今頃になって恥ずかしくなってきた。

顔を真っ赤にして、俯いてしまう。

「さて、もうすぐ一時間です、リタ。
この薬を飲んでください。
さっき、カミュンの複製体に絞められた傷に効きます。
あ、魔王様の指導は厳しいですよ。
戻ってきたカミュンに、その力を身につけた姿をお披露目するためにも、しっかりやりましょう。」

と、言って薬を渡してきた。

私は慌てて姿勢を正し、薬を受け取って飲む。
顔を両手で叩いて、気持ちを切り替えないと。

そんな中、レティシアが何かに気づいて外を伺った。

「リタ、魔王が来たよ。
いよいよね。」

と、彼女は言う。

私は気を引き締めて頷いた。

い、いよいよだ。
体は大分いい。
クロスノスの薬のおかげで、もう痛くないし。
妖精界の時より馴染みが早い。

クロスノスとレティシアが裂け目から出て、代わりに魔王が入ってきた。

「先程のテイムダルは、偽物だったそうだな。
殺されかけたと聞いた。」

と開口一番に魔王に言われて、

「はい。」

と、答えた。

「まったく、どうなっているのか。
ま、おおよそ検討はつく。
アシェリエルがやたらと、ここに来たがったからな。」

魔王は裂け目の入り口を振り返って、肩をすくめてみせた。

「アシェリエルが?
彼は何か言ってましたか?」

と、私が尋ねると、

「状況を詳しく知りたがっていたな。
くくく、これは何かあるな。」

と、言う。

アシェリエルとティルリッチが共犯なら、カミュンは、驚いただろうな。

私が黙っていると、魔王は軽く頭を下げてきた。

「それより、淀みの侵入経路発見は感謝する。
既に各世界の、信用あるものにのみ情報を公開して、レティシアの祖父が開発した『対淀み』装置も、埋設済みだ。
淀みは我らが引き受ける。
お前はハーティフを頼む。」

彼はそう言うと、恐縮する私を立たせて、腕輪を外してくれた。

「では、始める。
これまでに、何度か時の精霊の力を発動したそうだな。」

それに対して、私はこれまでのことを伝える。

「ふむ、厳密に言うと、それはお前が使ったというより、時の精霊の核自身が生存の確率を上げるために判断して発動しているようだ。
それではダメだ。」

と、言って魔王は目の前に、画像を映し出す。
画像には、精霊と術者が映っている。

「魔法の仕組みは、術者がまず身の内にある魔力や霊力を使って精霊と繋がり、使用する魔法の詠唱を使ってその力を己に引き込み、対象に放つ。
これは、わかるな?」

「はい。」

「ここで注意しないといけないことは、集中力を切らさないこと。」

「はい。」

「人狼は魔力を持たない種族。
任意に時の精霊の力を使うには、黒竜に変わる必要がある。」

難しそう・・・とは思うけど、やらないと。

「はい。」

魔王は頷くと、少し緊張した顔で、

「あの時、黒竜へはどうやって変わったのだ?」

と、聞かれたので、カミュンたちを助けるために必死になったと答えた。
魔王は、少し考えると、

「黒竜は額に『カオスの眼』と呼ばれる第三の眼を持つ。
おそらく鍵は、その眼を開けるかどうかだ。」

と、言われた。

確かにあの時、頭痛がして、思わず眼を閉じたけど、何故か外の景色がはっきり見えたんだった。

「そうだと思います。」

と、答えると、

「変身は我らもやるが、同じ要領かはわからぬ。
我らの変わり方は、希望する姿を強く思い浮かべることだ。
鳥であれば飛ぶ姿を、馬であればその姿で駆ける姿を浮かべる。」

と言われる。

「す、姿ですか・・・。」

私は自分の姿を見てないからな、と思っていると、

「これだ。」

と、魔王がその時の私の姿を、目の前に映し出す。

「えええ!?」

私は絶句した。
な、何、この恐ろしい竜!

こ、こんなに大きい。
まるで蛇のように長い胴体、光を通さない漆黒の体。
目が三つもあって、すくみ上がりそう。
片手に、確かに何か光り輝くものを、握っている。
これは、時の精霊?
でも・・・。

「こ、怖い・・・。」

「自分の姿に怯えるんじゃない。」

「そんなこと言われても・・・。」

「この竜から人に戻る時は、人の姿を浮かべることだ。
とにかく荒ぶる魂を、自分で鎮めること。
いいな。」

「はい・・・。」

「さあ、慣れるためには繰り返すしかない。
秘宝の『鎮めの玉』と、『荒ぶり玉』を私が持っている。
いざと言う時はこれで何とかする。
やれ、リタ。」

魔王は有無を言わせず、顎をしゃくった。

え、えっと・・・。

「なんだ?」

「一度外へ出てください。
その・・・服が。」

「あぁ、なるほど。
ならば外に一旦でるから、その間に狼に変われ。
狼から竜体へ、竜体から狼へと変わる。
こうすれば心配ない。」

「わかりました。」

私は魔王が外に出るのを確認すると、素早く服を脱いでクシャミをした。

狼へと姿が変わり、魔王に声をかける。

戻ってきた魔王は、片手を上げて、

「では、始め。」

と、言った。












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