時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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悪意ある囁き

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遠くでカミュンの声が聞こえていた。
その声を頼りにもがいて、暗闇から這い出すように目を覚ますと、私は見知らぬ部屋にいた。

「え・・・ここ、どこ?」

起きあがろうとして、腕に重さを感じる。
ジャラジャラと鎖の音が聞こえて、腕を見るとレティシアと初めて会った時に、彼女がつけられていた腕輪にそっくりのものが付けられていた。
着ている服も変わってる。

「な、何これ。
わ、私どうしたんだろ。」

あたりを見回すと、牢屋の中にいるのだということは、わかった。

どうしてこんな・・・?
あ、カミュンとティルリッチは?

私は変身して、それから・・・?

遠くから足音が聞こえてきた。
何やら話し声も聞こえてくる。

「カミュン様!
天王様の命令ですぞ!
会ってはいけません!」

「どいてくれ。
俺は天王様にこれだけは従えない。
鍵を開けてくれ。」

私は驚いた。
この声はカミュンだ!
無事だったんだ・・・。

胸を撫で下ろしていると、牢屋の入り口に人影が見えた。
ガチャリと鍵が開く音がして、誰か近づいてくる。

「カミュン?」

私が聞くと、人影が頷いた。

「あぁ、そうだ。」

「無事だったのね!」

「もちろん。
リタのおかげだよ。」

そう言うと近づいてくる。
気のせい?
雰囲気が少し違う。

「こんなことされて、ひでぇな。
リタが黒竜に変わったのはハーティフのせいなのにさ。」

そう言うと私の腕輪を指さす。

「・・・私、何かしたの?」

怖くなって尋ねる。

「あぁ・・・黒竜に変身して巨人を倒したまではよかったんだが、リタは自我を失って暴れたんだよ。
妖精たちも、城も、クロスノスたちもみんなリタが・・・。」

そ、そんな嘘!!
でも、私、覚えてない。

「初めての変身だ。
仕方ないさ。
こんな結果になって残念だ。」

カミュンは私を抱き締めてくる。
私は頭が真っ白で、まともに判断が出来ずにいた。

「他の奴らはリタを処刑しろと騒いでる。
俺と逃げよう。」

カミュンは耳元で囁いてくる。

「カミュン、でも・・・。」

「リタは素晴らしい力を示したんだ。
もしかしたら、歴代の黒竜を超えるかもしれない。
それに時の精霊の核を、宝珠のようにしっかり握っていたよ。
君はちゃんとやるべきことをしてるんだ。」

時の精霊の核を!?
私は自分の手を見るけど、もちろんそんなものは握ってない。

「人に戻る時に、身の内に隠れてしまうんだ。
今は見えないよ。
でも、もうリタの中の黒竜は自分の尾を咥えていない。
いつでも、リタが望めばあの姿に変われるんだ。」

カミュンはそんなことを言う。
私は・・・私はもう嫌。
この力のせいでみんなを失ったのに!!

「カミュン・・・!
私は!!」

カミュンを振り解こうとすると、彼は腕の力を強めてくる。

「リタ・・・君にはもう俺しかいない。
外は君を恐れ、仲間を倒された怨嗟の声が溢れている。」

「そんな・・・私は・・・そんなつもりでは・・・。」

再び思考が停止する。
縋れるのは、もう目の前の彼しかいない。

「外の連中のことなんか、忘れてしまえ。
これからは、ずっと俺がそばにいる。」

「・・・?
カミュン?
あなたは、ティルリッチが好きなのでしょ?」

「ティルリッチなんかどうでもいい。
俺が望むのはお前だ。」

え・・・。

そう思った時、ヒュ!と風を切る音が聞こえて、私を抱きしめていたカミュンが、手を離して後ろに飛び退いた。

直後、彼がいたところに剣が振り下ろされて、見慣れた背中が目の前に立つ。

「カミュン!?」

驚いていると、もう一人のカミュンがニヤリと笑って、額に流れる血を片手で拭くのが彼の肩越しに見えた。

「避けたのに皮一枚切り裂くか・・・さすがは天界で名の知られた剣士だな。
だが・・・。」

カミュンの姿が白いローブを羽織った、見知らぬ女性に変わっていく。

「だ、誰?」

私は震えながら見つめた。

その白いローブの女性は、切られた場所に大きな角が生えて、体が変形し始める。

「私は、攻撃を受ければ受けただけ強くなる。
くくく・・・。」

と、言ってさっきよりも速いスピードで、カミュンに襲いかかってきた。

カミュンは素早く受け流して、今度は斬らずに重い蹴りを放つ。

彼女は後ろにひっくり返ったけど、起き上がった時は、蹴られた場所に鎧のような外郭を纏っていた。

「カミュン、攻撃は逆効果です!」

聞き慣れた声が聞こえて、思わず顔をあげる。
そこに、クロスノスたちが立っているのが見えた。

「みんな・・・!!」

と、私が言うと、

「もう少しだったのにな。」

と、体を変形させたその女性が言った。
カミュンは、私を背中に庇ったまま、剣を構えている。

「テイムダル、その女はハーティフの化身だ。」

クロスノスたちの後ろから、一人の男性が現れた。
その一人は銀髪で金色の瞳を持ち、白く光り輝く羽を何枚も背中に生やした男性だった。
頭に王冠を被っている。

「やはり、黒竜を狙ってきたか。」

さらに見知らぬ男性がやってくる。

緋色の髪に、ダークブルーの瞳を持ち、背中にはガルンティスのような蝙蝠の羽、肩には鋭い牙を生やした口がついている。
この人も頭に王冠があった。

「所詮はトカゲの尾に過ぎぬ。
捕らえたところで大した情報は持たないだろうが、本体と無縁でもない。」

最後に現れたのは、レティシアと同じ瞳をした、灰色の髪の女性。
背中には孔雀の羽のように、扇状に広がる不思議な羽が生えている。
頭にはやっぱり王冠がある。

な、何、みんなこの人たち、王様?

「ぞろぞろと三族の王がお出ましとはな。
黒竜の一撃を止めたところは流石だが、リタがあのまま次の攻撃を繰り出していたら、間違いなくお前らはここにはいない。
所詮即位して数年程度の、若い王ばかりで心許ないこと。
そんな脆弱な力で、黒竜を使いこなせるとでも?」

ハーティフの化身は、挑発するように笑う。
三族の王・・・天王、魔王、冥王なのね。

「リタは道具じゃない!」

カミュンが、噛み付くように言う。

「お前はそうでも、他の連中はどうかな。
私に対抗できる唯一の武器として、時の精霊の核を握る命綱として、便利に機能して用が済んだら最後は闇の商人によって毛皮を金に換金される。
そういう運命だと、ちゃんと説明しているのか?」

ハーティフの言葉に、私はみんなを見回す。

「なんてこと言うのよ!
私たちはそんなことさせないわ!」

「そうです。
先人がそうだからと、みくびらないていただきたい!」

「リタは大事な仲間だ。
都合のいい存在なんかじゃない!」

と、レティシアやクロスノス、カミュンは叫んだ。

「リタの力は諸刃の剣だ。
散々尽くした先代のアムを、当時は何故誰も救わなかった?
あからさまな人間の罠に、みすみすかけさせたのは、神や精霊たちの摂理?
いや違う、恐れたからだ。
その力が自分たちに向くことを。
だから用が済めば毛皮として、他者の役に立つ運命に押し出したのだ。」

ハーティフは、カミュンの後ろにいる私を見つめる。

「リタ。
お前は所詮道具として使い捨てられる。
孤独に生きるか、人間の手にかかって毛皮となるか。
そんな未来しかないのだ。」

私は彼女の言葉に恐怖しながらも、その血の気の失せた顔を見つめる。

「私と来い。
そんなことにならぬ未来を、私が作ってやる。」

まるで毒のような言葉。
でも・・・。
その目は見下した目。
見慣れた侮蔑の目。

「あなたも同じよ。」

私はそう言うと、拒絶するように首を横に振って、

「あなたの目は、私を靴磨きの道具として見てきたノアム元理事長と同じ目をしてる。」

と、言った

「懸命だな。」

天王の声が聞こえて、ハーティフの足元に魔法陣が広がっていった。
稲妻が走って、ハーティフの化身の体が小さくなっていく。

「は!捕らえた対象の魔力で封印する魔法陣か、考えたな。
だが、化身は私だけではないのだ。
私を捕らえたところで、何も変わらぬぞ!!」

その言葉を残し、ハーティフの化身は小さな筒のような魔導器の中に入っていった。

緊張が解けて、私は倒れるように膝から崩れていきそうになる。

カミュンがすぐに振り向いて、支えるように私を抱き締めた。

「教えて・・・。
本当は何が起きたの?」

と、私が言うと、カミュンは頷く。

「ちゃんと言うよ。
落ち着いて聞いてくれ。」

そんな会話を交わす私たちの周りを、王やクロスノスたちが取り囲んだ。










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