時の精霊に選ばれし者〜人狼リタは使命があります!

たからかた

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呪いの牙はどこにある

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ガルンティス、レティシア、アシェリエルによる、『透かし身』の魔法の詠唱が始まった。

「水の精霊よ・・・濁りのない清らかな水面の如くこの身を透かし給え。
パ・シスカ・ミ・ラントス!」

詠唱が終わると、私を咥える姫の体が透けていく。

「す、凄い。
こんなに広範囲に一度に広がるなんて!」

「俺様も初めてだ。
こんなに一度に透けるのは。」

「これが漆黒の狼の力か・・・!!」

三人ともそれぞれ感嘆の声を上げている。

姫の全身の筋肉、血管、神経、骨格様々なものが、輪郭を残して透明になっていった。

「風の精霊よ、疾く走り我が探索を助け、この眼に写し給え。
マナ・イ・コア!」

カミュンと、クロスノスが、同じ呪文を詠唱して、全身を探索してるみたい。

「おい、どうだ?
何か見えるか?」

ガルンティスが、声をかける。

「何も見えない。
尾の方には来てないようだ。」

アシェリエルが返事している。

「クロスノス!
何か胴体を跳ね回ってるぞ!!」

と、カミュンが叫ぶ。

私からは何も見えない。
探している牙かしら。

「こ、これは・・・!!」

クロスノスの焦った声が聞こえる。
何?
どうしたの?

「牙の形をしていますが、これは生きています。
尻尾がついているので、これで推進力を得てるんです。
すごい・・・!生きた牙!
欲しい!!」

クロスノスは、興奮したような声で喜んでいる。
・・・この人は、こういうものが好きで堪らないんだ。

「クロスノス!
こんな時に、その好奇心はしまっておけ!!
早く取り出すぞ!」

カミュンが、クロスノスを叱りつけている。

「あ、あぁ、すみません。
私としたことが。
何にでも興味があるので。
それにしても凄い速さで跳ね回ってます。
これが様々な血管や臓器の中に入り込み、暴れているのかもしれません。」

「特定の場所に追い込めるの!?
早くしないとリタがいつ潰されるか、わからないわよ!」

レティシアも必死に叫ぶ。

すると、

「ゔぁぁぁぁぁぁぁー!!」

クタヴィジャ姫がのたうち始めた。

「見ろ!
クロスノス!!
血管を抜けて、臓器に入り込みやがった!」

「く・・・!
心臓ですか!!
仕方ありません。
リタ!!」

クロスノスが私に声をかける。

「止めてください!」

私はクタヴィジャ姫の舌の中で、必死に足を踏ん張ると、止まれと念じた。

「あぁぁぁぁ・・・く、苦しい・・・。
あぁぁぁぁあぁー!!!」

姫が苦しみ出した。
舌が私を転がして、上手く留まることができない。

「止まれ!止まれー!!」

私も必死だ。

でも、なかなか止まらない。
やっぱりまだ何か足りない!

目の前に、透き通った大きな姫の牙の輪郭が見える。

痛そう・・・そう思った時、

「ぐぇっ・・・あががが・・・!!」

姫が痙攣し始めて、私は姫の舌に追いやられ、牙の真下に頭が滑り出てしまった。

いけない!!

そう思った時、真上から牙が振り下ろされてくるのが見えた。

いやぁぁぁ!
止まれぇぇぇぇー!!

私は恐怖で声も出せず、心の中で叫んだ。
反射的に伸ばした前足で、何とか牙を受け止めようとする。
重い衝撃を前足が感じた瞬間、

「・・・・。」

姫が沈黙した。

「クロスノス!
止まったぞ!!」

カミュンが叫ぶ。

「私が取り出します!
カミュン、牙を摘出したら、すぐに光の御手で傷を治してください!!」

と、クロスノスが応えている。

私からは何も見えない。

ただ、目の前に迫った姫の牙と、傷ついた前足が見える。

牙が掠っただけなのに、出血してる。
こ、こんなの、ノアム元理事長の鞭に比べたら平気!!

「リタ!
大丈夫?」

レティシアの声が聞こえる。

「は、はい。
あの、牙はどうなりました?」

「クロスノスが、今心臓を切り開こうとしてるわ。
・・・あ、開いた。
アシェリエル、手伝ってあげて!」

と、レティシアが話している。

「頭も、もういいなー。
リター?
お前はど・・・。」

ガルンティスが姫の頭から降りてきて、私が彼女の牙に噛み潰される寸前の状態を見つけた。

「お、おい!
リタ!!
お前大丈夫なのか!?
その血はなんだ!!」

と、ガルンティスが叫ぶ。

「なんだと!?」

カミュンの声がして、すぐに私の近くに降りてくる。
そして私を見つけると、みるみる表情が変わっていった。

怒ってる。
こ、怖い・・・。
前足の痛さも忘れてしまうくらい。
ガルンティスもカミュンを見て、思わず後ろに下がっていく。

「カ、カミュン!
光の御手は!?」

私が慌てて言うと、カミュンはもう両手の剣を抜いていた。

「アシェリエル!
そっちの光の御手を頼む!」

と、叫ぶや否や、私の前足が触れていた牙を剣で粉々に斬ってしまった。

そして私を抱えると、姫の口の中から出してくれる。

「リタ、待ってろ。
すぐ治すから!」

そう言いながら、カミュンは私を抱えたまま傷ついた私の前足を握りしめ、

「光の精霊よ。
その御手によって傷を癒やし、血、肉、骨、皮、あるべき姿に戻したまえ。
ユチェラ・セ・ピュアラ。」

と、唱えた。

カミュンの手が光り、前足が温かくなって傷の痛みが消えていく。

「あ、ありがとう。
カミュン。」

私が言うと、カミュンは辛そうな顔で見つめてきた。

どうしてそんな顔するの?
わ、私はこのくらい平気。

痛みには慣れてるの。

そう言いたいのに言えない。
カミュンの方が怪我をしたかのように、苦しそうだから。

「リタ、痛い時は痛いと言ってくれ!!
でないと、助けたくても、これでは間に合わなくなる!!」

・・・聞いたことのない、必死なカミュンの声。

「へ、平気よ。
だ、だって、み、みんなやるべきことしている時に、私だけそういうのは・・・。」

私も、声を詰まらせながら言う。

「それは、自分の身をちゃんと守れた上で言える言葉だ!!
無理して平気なんて言うな!
手遅れになる方が、よっぽどよくないだろ?
自分をもっと大切にしろよ!」

カミュンは真剣な顔のまま、私を叱った。

「ごめんなさい・・・。」

耳を後ろに倒して謝る。
彼のあまりにも真剣な目に、私も目を逸らせずに見つめてしまう。

叱られているのに、嬉しく感じる自分がいた。
だめ、勘違いしてはだめ。

必死に自分に言い聞かせる。

私は無力だから、彼に心配されているだけなのに。
仲間が無理して傷つけば、私も怒ると思う。

誰にでもすること。
期待しないの。

期待すれば辛いのは・・・自分。
クロスノスの言葉の意味はよくわからないけど、カミュンとティルリッチが決して軽くない関係にあるのはわかるのだから。

それなのに・・・。

どれくらいそうしていたのか。

「あのー・・・。」

ふと、声が聞こえてきて顔を上げる。

いつの間にか、クロスノスたちが私たちの周りに集まって来ていた。

現実に引き戻されて、急に恥ずかしくなる。
危なかった。
狼の姿のままでよかったわ。

「と、取り込んでいるところすまんが、無事に牙は取れたからな。」

アシェリエルが咳払いをして、すまなそうに声をかけてきた。

「リタ、怪我をさせてしまってすみません。
無事に牙はこの中にあります。」

と、クロスノスが容器を持ち上げて見せる。

「もう!
二人きりにしてあげましょう。
気が利かないんだから!」

レティシアは、みんなを向こうへ押しやろうとする。

その時、

「う・・・あーぁぁぁぁ。」

と、声を上げて、クタヴィジャ姫が動き出した。

やがて全身が光り輝き、みるみる小さくなっていく。

それに呼応するかのように、城全体も光に包まれて、気がつくと先程とは全く違う美しい玉座の間が広がっていた。




















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